高橋一生さん主演の「岸辺露伴は動かない」の新作が12月27日から3夜連続で総合テレビにて放送されます。荒木飛呂彦さんのコミック「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズから派生した「岸辺露伴は動かない」シリーズは、相手を“本”にして生い立ちや秘密を読み、指示を書き込むことができる“ヘブンズ・ドアー”という特殊能力を持った漫画家・岸辺露伴(高橋一生)が、奇怪な事件や不可思議な現象に立ち向かう物語。その演出を手掛けた渡辺一貴さんから、第2部のこだわりや各回の見どころを伺いました!

「ジョジョ~」や「岸辺露伴~」のもうひとつの魅力“会話劇”や“心理劇”の側面を伝えたい
――第2部の第4話から第6話の放送を控えて、どんなお気持ちですか?
「撮影を終えて仕上げの編集をしていた時は、毎日ドキドキしながら作業していました」
――「ジョジョ~」はアニメ化もされている人気作品です。あらためまして、前回、実写化する上で不安は?
「不安はあったといえばありましたし、なかったといえばなかったです(笑)。全くなかったといえばうそになりますが、こういうチャンスをいただいたので、まずは僕たちの今思っているものを吐き出すしかないと…。原作を最大限リスペクトしながら、個性的で面白いものを作ろうという気持ちでした。怖いもの知らず、だったかもしれません(笑)」
――実写だからこそできたことはありますか?
「漫画はコマとコマの間で時間や動きが飛んでいて、それが面白いところではあるのですが、ドラマや映像は、その間で何が起きているのかを芝居で組み立てていく。その隙間を膨らませて増幅させるという作業がとても楽しかったです。原作のコマとコマの間の部分はどうなっているんだろうと探求していくのはスリリングでした」

――なるほど! それは興味深い話です。では、「岸辺露伴~」の魅力を伝えるために特に意識したことはあるのでしょうか?
「『ジョジョ~』や『岸辺露伴~』は唯一無二のビジュアルや動き、間の取り方などが面白いのですが、一方で、言葉のやりとりやセリフのチョイスが文学的だなと感じていました。CGバリバリのアクションではなく、会話劇や心理劇として成り立つ世界なので、もし自分が映像化させてもらえるなら、そういうアプローチで取り組みたいと思っていたんです。だから、制作が決まった時に、セリフの応酬、腹の探り合い、言葉の駆け引きが中心のエピソードを選ばせていただきました。露伴の魅力を伝えるには、露伴対誰かの二人芝居という形の濃密な空間が良いのではと考えたんです」
高橋一生さんがひらめいたことを僕がどう拾い上げるか…本番では緊張感がありました
――あらためて、高橋さんを起用した理由を教えてください。
「4年前の大河ドラマ『おんな城主直虎』の時にガッツリご一緒させていただいたことがきっかけです。大河ドラマが終わった後、大好きな『ジョジョ~』や『岸辺露伴~』を読んでいた時に、『あれっ? 岸辺露伴って、一生さんでは!』と思ったんです。以前から映像化したい野望はあったのですが、具体化するとは全く思っていなくて。でも、露伴が一生さんそのものに見えてきて、『もしかして一生さんだったらいけるんじゃないか』と。その後、一生さんも『岸辺露伴~』が大好きだということが分かって、『これはやるしかないね』という話になり、そこからプロジェクトが始まりました」
――その後、高橋さんとどのように一緒に作り上げていったのでしょうか?
「この作品は衣装も細部までこだわっていて、ほかのドラマより衣装の打ち合わせが多かったので、その合間に作品の話をしていたら、いつの間にか一生さんとの間では、ある共通認識ができていたんです。だから、現場では芝居に関する細かいことはほとんど話さず、雑談ばかりしていました(笑)。ただ本番では、一生さんがひらめいたことを僕がどう拾い上げるかという緊張感がありましたね。一生さんの演技には『ここで力点を入れてきたのか』とか、タイミングをずらして入ってくる面白さというものがあって、それは今回も随所に出てきます」

――実写ドラマの大きな特徴として、露伴と京香のバディものとしての面白さがあります。
「昨年の第1弾の時に、脚本の小林さんから京香をバディにしたら面白いんじゃないでしょうかという提案をいただいて始まったペアです。荒木先生が作る物語は、圧倒的な恐怖だけではなく、どこかユーモアがあって、両方のバランスが素晴らしいので、そのエッセンスを残したかったんです。ユーモアの部分を京香がかなり引き受けてくれていて、息抜きにもなる一方、実は大事なことを言っていることもあるんです」
――今回、二人の関係性で変化している部分があれば教えてください。
「前回より二人のバディ感は増していて、掛け合いが熟成しています。相手の言葉が終わった瞬間に次がポンポン出る感じで、テンポがよく息が合っている。耳に心地の良い時間が流れていて、すごく良い雰囲気です」
第6話「六壁坂」では、内田理央さんに難しい役どころを体当たりで演じていただきました
――ここからは各話の見どころを伺いたいです。まずは第4話「ザ・ラン」について。
「『ザ・ラン』は、露伴と橋本陽馬(笠松将)がランニングマシーンで走って勝負するのですが、走っている時の息づかいや歩幅、スピードなどのディテールが見どころです。ランニングマシーンならではの一定の速度で走っていくうちに、だんだん変な世界に入っていく、秩序のあるところがぐにゅぐにゅと壊れていく面白さが出ればいいなと思っています」
――トランスしていくような感覚でしょうか。
「そうですね。一定の単純作業をしていくと、どこかに連れて行かれるような、違う世界に行っちゃうような気分になることがあるじゃないですか。そういう時に人は何か変わっていくのかもしれない。そういうところをちょっとだけ意識しています」

――陽馬役の笠松将さんも世界観にすごくハマっているように見えます!
「以前、笠松さんの主演映画を拝見した時に、すごく雰囲気のある方だと思いました。その後、別のドラマでムキムキの裸を披露されていて、『あ、この人だ』と(笑)。最初の陽馬と、肉体的に鍛えられた陽馬と、両方のイメージを兼ね備えられていたのでお願いしました」
――第5話「背中の正面」は背中を見せない奇妙な動きを、お二人がどう表現されるか、原作のファンの皆さんも楽しみにしていると思います。
「第2話の『くしゃがら』というエピソードが、一生さんと志士十五役の森山未來さんのガチな二人芝居だったのですが、今回は一生さんと乙雅三役の市川猿之助さんのガチな二人芝居という、新たなお芝居合戦が繰り広げられていきます。猿之助さんは、テレビドラマや映像の世界だと『半沢直樹』(TBS系)などの、シャープでこわもての腹黒い悪役というパブリックイメージがありますが、本業の歌舞伎の世界では女形も多い。女性としての所作が本当に奇麗なんです。猿之助さんが演じる、主人公の女性が殺されて怨霊になる『かさね』という演目を拝見した時に、乙のような動きをしている瞬間があって、これは『もう猿之助さんしかいない』とお願いしました」

――この「背中の正面」だけ「ジョジョ~」本編のエピソードを「岸辺露伴~」の世界に移し替えていますね。
「『岸辺露伴~』のコンセプト自体、心理劇が凝縮されたものなので、基本は『岸辺露伴~』からピックアップしているのですが、本編にも一対一の駆け引きや言葉のやりとりをする物語があるため、第2部を制作するにあたり、自然な流れで『チープ・トリック』(「ジョジョ~」本編でのエピソードタイトル)のお話を盛り込んだというのが経緯です。本編には本編の流れがあり、それを無理やり持ってくることは避けたかったので、今回の3つの話の流れの中にうまくエピソードの特色が組み込めるように、小林さんたちと相談しながら進めました」
――そして、第6話「六壁坂」はどうでしょうか?
「大郷楠宝子(内田理央)という女性が、恋人をある事故で失うのですが、その事故に対処する楠宝子の混乱と決断が一番の見どころです。内田さんには、20代前半と30代後半の楠宝子を体当たりでやっていただきました。それぞれの年代で扮装も変わるのですが、切り替えはその都度話しながらやっていました。内田さんが『ジョジョ~』が大好きだという話を聞いていて、それが頭の片隅にありながら『六壁坂』の原作を読んでいた時に、『内田さんに演じてもらったら面白いんじゃないか』と思い付いたんです。内田さんは前作に出られなかったことが悔しかったと言っていましたね(笑)」


効果音や音楽のタイミングをちょっとだけ“ズラ”して“ほんの少しの違和感”が出ると面白いかなと
――CGも使われているシーンがあるようですが、その作業は大変でしたか??
「実はCGを使っているシーンはそんなに多くないんです。この作品に関しては、音楽のタイミングやSEの効果音にこだわって作っているので、そこにはたっぷり時間をかけました」
――具体的にはどんな工夫をされたのでしょうか?
「今作全体の編集や音楽というポストプロダクション(撮影後の作業の総称)の作業の中で意識しているのは、“気持ち良くならないこと”。シーンによって、この場面は感情移入できるのでじっくり見せたいとか、ここはキレよくパンパンといく展開にしたいなど、それぞれ方向性がありますが、そこを若干“ズラ”して、“ちょっと気持ち悪い感じ”にしています。3フレームだけ早く音楽を終えたり、逆にちょっと延ばしたり…。効果音も『ここから効果音があると気持ち良いだろうな』というところから、ちょっとだけ“ズラ”しているんです。ズラし過ぎない、ほんの少しの違和感が出ると面白いんじゃないか、と考えて作業しています」

――音楽といえば、前作からの菊地成孔さんの音楽の、“狂気とエレガンス”さが、素晴らしいと感じています。今シーズンで新しい曲はあるのでしょうか?
「新作はいっぱいあります」
――前作のメインテーマ「大空位時代」とは、また異なる雰囲気の曲なのでしょうか?
「そうですね。前回の世界観を踏襲したものもありつつ、前回と比べると、今回は少し怪談風味というか、ホラー風味が強いので、それを強調する雰囲気のものができました」
――楽しみです!!
皆さんの支持がいただけたら、ずっと作っていきたい。今後の野望は…秘密です(笑)!
――第1話から第3話を拝見した時にも思ったのですが、露伴以外の“スタンド”が出てこないですよね。第5話も原作に登場するスタンド「チープ・トリック」を妖怪に変えていらっしゃいますが、それは本編とは独立した世界観をあえて意識して作られているのでしょうか?
「意識しているというより、そう作るべきだと思っています。『岸辺露伴~』の原作自体が少し『ジョジョ~』の本編の時間軸や物語軸からずれていて、その辺りは荒木先生もある程度、自由に描かれているのではないかと想像しています。ドラマの中で露伴だけ“スタンド”を持っていると、神様のような存在になってしまい、ドラマにならないんですよね。この物語は、我々の生きている世界と近い世界で起こった出来事として『もしかしたらこういう話もありえるんじゃないか』と感じてほしくて。見終えた方が自分の身にも起こるんじゃないかと想像して、ちょっと寝るのが怖くなるような、現在と続いている世界にしたいなという思いがあるので、そういう意味でも“スタンド”という概念は使っていないんです」
――なるほど。怪談風味というのはそういうところなんですね。では、今後の野望があったら教えていただけますか?
「できればずっと作っていきたいのですが、こればかりは皆様のご支持がないと作れないので、まずは今作をしっかりと完成させたいです」

――やはり、映像化したいエピソードが、まだまだあるんですね?
「そうですね。ありますけど、秘密です!」
――(笑)、分かりました! 次はどのエピソードが映像化されるのかを妄想しながら、楽しみにしています。最後に一つだけお伺いしたいのですが、渡辺さんご自身もとても「ジョジョ~」がお好きだということで、好きなスタンドを伺えたらと…。
「なんだろう? 僕は料理ができないのでトニオのスタンドが、トニオ・トラサルディーでしたっけ」
――イタリア料理店「トラサルディー」のシェフですね!
「トニオのスタンドの…『パール・ジャム』だ! それがほしいかな」
――いいですね✨ 「トラサルディー」の料理、一度食べてみたいです。ありがとうございました!
「パール・ジャム」とは?
「ジョジョの奇妙な冒険」第4部に登場する、杜王町にあるイタリア料理店「トラサルディー」のシェフであるトニオ・トラサルディーが持つスタンド(特殊能力)。パール・ジャムを使って調理した料理を食べると、体の不調が瞬く間に回復する。客を攻撃するのではなく、料理で客を幸せにすることがトニオの生きがい。(ジャンプコミックス第33巻に登場。ちなみに岸辺露伴が初めて登場するエピソード「漫画家のうちへ遊びに行こう」は第34、35巻収録)
Profile
渡辺一貴(わたなべ かずたか)
1969年生まれ。1991年NHK入局。主な演出作品は「監査法人」、「リミット~刑事の現場2」、「龍馬伝」、「平清盛」、「お葬式で会いましょう」、「まれ」、「おんな城主直虎」、「浮世の画家」、「70才、初めて産みますセブンティウイザン。」など。

「岸辺露伴は動かない」
12月27日 第4話「ザ・ラン」
12月28日 第5話「背中の正面」
12月29日 第6話「六壁坂」
NHK総合
午後10:00~10:49
12月30日
NHK BS4K
午後7:30~9:57(第4~6話一挙放送)
※NHK+でも配信あり
取材・文 NHK担当K記者、
みやけとしろう(編集部)
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