高橋一生インタビュー「露伴と一緒に異世界に入りませんか」

2021/12/14 05:05

高橋一生さん主演「岸辺露伴は動かない」の新作が、12月27日よりNHKで放送。放送を前に、続編への思いや、新作の見どころを伺いました!

荒木飛呂彦さんのコミック「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズから派生したドラマ「岸辺露伴は動かない」シリーズ。このドラマは、相手を本にして生い立ちや秘密を読み、指示を書き込むことができる“ヘブンズ・ドアー”という特殊能力を持った漫画家・岸辺露伴(高橋一生)が、奇怪な事件や不可思議な現象に立ち向かう姿を描いた物語です。

年をまたいで同じ役を演じるのは稀、充実した時間を過ごせました

――昨年、「次があったらいいな」とおっしゃっていましたが、その次がやって来ました。率直な今の感想をお願いします!

「準備から数えると、丸1年。年をまたいで同じ役を演じることは、なかなか経験できないことなので、充実した時間を過ごせました。ずっと岸辺露伴という人間から離れないでいられることに『幸福な時間だな』と。さまざまなところで『良かった』という声を聞きましたが、浮かれられない感じはありました。もちろん、うれしいという気持ちはあったのですが、粛々とお芝居をしていきたいなと。そういう喜びは表面上、見えなかったかもしれないけれど、心の中では静かに盛り上がっていたんです。また、前回とほぼ変わらないスタッフの方々が参加してくださっていたので、やりやすく、とても幸せな時間でした」


――前回、一生さんが露伴のことを“露伴ちゃん”と呼ばれていたことに、原作愛を感じたという声が多く寄せられました。今作を演じたことで、改めて“露伴ちゃん”に対する思いは深まりましたか?

「まさか“露伴ちゃん”というワードから、愛を感じてくださるとは思っていなくて、それが愛として伝わったことは単純に驚きではありました。うれしくもあり、不思議な感覚です。普段お芝居をする時は、自分のなかにあるものを出力して外に出していくのですが、今回は露伴という人間を知っていく過程をじっくり用意していただいたからか、入力も出力も同時にできていました。彼を通じてさまざまな体験をすることができ、とても充実した時間を過ごせました」

――前作では、世界観に合った菊地成孔さんの音楽を作品完成後に聞かれたのではと思います。今作はその音楽を聞いた上で演技をされたかと思いますが、音楽が演技に与える影響はあるのでしょうか?

「前回、第2話『くしゃがら』の撮影をしている時に音楽を菊地さんにお願いしていると伺って、その撮影の帰り道に、菊地さんの音楽を聞きながら帰りました。菊地さんの音楽はこれまでも『ペペ・トルメント・アスカラール』などの作品を聞いていたので、そういう世界観で行くんだなと想像が膨らみました。音楽は非常に重要なファクターなので、すぐにその世界観を共有できたことはとても良かったです。今回、菊地さんがコメントされた露伴のテーマタイトル『大空位時代』というのも僕はとても好きで、役を演じる上で、非常に血肉になるワードだなと感じました」

怪異はあくまでも怪異だけど、その裏には人間の怖さが眠っている

――今回、撮影に入る時に第1話~第3話を経て意識したことや、自身に課した課題はありましたか?

「第3話が終わった後も露伴が人間として活動していた感じを出したかったので、露伴の生活の息吹を感じられるよう意識していました。また、第1、2、3話を経ての露伴ではありますが、第4、5、6話から見ても、第1、2、3話を違和感なく見られるようにできたらとも思っていました。僕がそれをできたのは、美術部の方々をはじめ、すべての撮影スタッフの皆さんのおかげです。1年も開いてしまうと、同じセットが用意できないことも多いなか、今回露伴邸の中のデザインがほとんど変わっていなかったんです。すぐに露伴として生活できて、それはお芝居をする上でとても助かりました。皆さんが露伴を生かし続けてくれていた、ありがたい現場でした」


――一生さんが思う、第4話から第6話までの見どころを伺いたいです。まずは、笠松将さんが演じる橋本陽馬と露伴がランニングマシーンで対決をすることになる第4話「ザ・ラン」。

「第4話はとにかく走ります。笠松さんが体力もあって身体も相当鍛えている方で、説得力があったので、お芝居のしがいがありました。『岸辺露伴は動かない』というタイトルに反してアクティブに動きまくります。これまで精神的に戦うことが多かった露伴ですが、物理的に肉体を使って戦うのは、第4話が初めてなので、そこを見ていただきたいです」

――では、市川猿之助さんが絶対に背中を見せない男・乙雅三を演じる第5話「背中の正面」はいかがでしょうか?

「猿之助さんがとても面白くてとても怖い回です。第5話は『ジョジョの奇妙な冒険』本編のエピソードを『岸辺露伴は動かない』の世界に移し替えているのですが、脚本の小林さんがどれだけ『ジョジョ~』と『岸辺露伴~』を読み込んでいるのかがはっきり見えてくるエピソードです。また、猿之助さんとのお芝居が非常に演劇的で、中には一連で撮影して一発でOKになったところもあり、いい意味で緊張した状態で演じていたので、切迫した感じや露伴が猿之助さん演じる怪異と生き生きと対決している様子が伝わると思います」

――そして、第6話「六壁坂」。妖怪伝説の謎を追う露伴が内田理央さん演じる大郷楠宝子と出会うことで、驚がくの真実を知ることになりますよね。

「第6話には、小林さんが第4話『ザ・ラン』と第5話『背中の正面』の怪異を“六壁坂の怪異”として一つにまとめています。僕個人としては、“六”壁坂なのに、まだ3つしか怪異が出ていないことに、なんとなく感じるものがあります。そして、内田さんが演じられている大郷楠宝子という人物が、『六壁坂』の世界観全体を総括するキャラクターになっています。これは前作の第1、2、3話にも共通するのですが、大きく分けて第1部(第1、2、3話)、第2部(第4、5、6話)構成として考えると、第3話の 『D.N.A』 と第6話の『六壁坂』は、人間的な怖さに迫っているなと。怪異はあくまでも怪異ではあるのですが、その裏には人間の怖さが眠っていて。それは『D.N.A』でも静かに怖いなと思っていたことだったんです。3つ目のエピソードは必ずそういった形になっているところに、小林さんの作劇のセンスを感じていました」

――露伴は飯豊まりえさん演じる泉京香といいコンビに見えます。印象的なやり取りがあったら教えてください。

「印象的なやり取りは…ないですね(笑)。第1、2、3話から第4、5、6話にかけて、まるで時間がたっていないような…。第3話の後も露伴と泉くんは漫画家と編集者という関係性で、ああだこうだやっていたんだろうなと感じることができたので。飯豊さんの明るい人柄も相まって、すぐにそういう感覚になれました」

普段は演じ終えると自然と役が抜けるけれど、露伴は抜けなかった

――露伴を通じていろんな体験ができているとおっしゃっていましたが、それはどんな体験ですか?

「お芝居は、役を通してさまざまなことを疑似体験していくわけですが、露伴は、おおよそ日常では体験できないようなことを経験します。例えば『くしゃがら』を見つけた時には、何か分からないものに対して『これはもしかしたらこういうことかもしれない』とひとりでしゃべっているんですが、顔が本になっている男に対して、恐れおののいているという状況になるわけです。第1話『富豪村』では、マナーの試験を課す一究(柴崎楓雅)と対決している時に、マナーを間違えた代償として右腕が動かなくなってしまうのですが、はたから見ると子どもと口げんかをしているようにしか見えない。ふと我に返ると、それらはとても不思議な体験で、この作品だからこその経験だったので、自分の中に強く残っています。さらにいえば、人の心や記憶を本にして“読める”ことが一番の体験なのかもしれません。しかも書き込める能力があって。今までやらせていただいた作品の中では、そういう特殊能力を持っている人間はいなかったので、僕にとっては鮮烈でした」


――1年間、ずっと露伴が自分の中にいたというのはどんな感覚なのでしょうか?

「演じた役は自然と抜けていくんです。所作などが少しずつ薄れていくことに、寂しく感じる瞬間もありますが、こと露伴においてはそういうものが抜けなかったんです。それは、きっと続編が作られるであろうという感覚があったことに加え、今までにない体験ができていたので、鮮烈に残っていたんだと思います。まさか自分が高校生の時から好きだったキャラクターを、自分の内側に落とし込んでいく作業ができるとは思っていなかったので、いつもより離れなかったという感じでした。僕が離れたくなかっただけなのかもしれませんが、離れなかった感じはありました。ですので、お芝居で苦労した部分は全くなかったです」

――「大空位時代」についてもう少し具体的に教えてください。また、次回があってほしいという願いも込めて、もし第3部があったら何をしたいですか?

「大空位というのは王位などを受け継ぐ時に全く空白の政権の時代のことを指すのですが、そこに露伴はいると。常に大空位でなくても彼の中では空位時代であることが、役を演じていく上で感じられる部分ではあったんです。『菊地さんはそういうふうに感じてくださっていたんだ』という喜びがありました。露伴が孤高であり、独自であるということを感じてくださっていたことは演じる上で参考になりましたし、役を演じる上での肉付けの一つになったような気がしています。次があったら…どういう物語が来るかにもよりますが、露伴という存在がブレないでいたいです」

怖いもの見たさでのぞき込んで、現実とは違う世界の面白さを感じてもらえたら

――前回で「岸辺露伴は動かない」や「ジョジョの奇妙な冒険」を初めて知ってファンになった方が多かったように思いますが、一方で、すごく評判が良くて見たいけれど、敷居が高いと尻込みしている方もまだいらっしゃるそうです。そんな方に向けて、そっと背中を押していただけますか?

「世の中には不思議なことがたくさんあります。例えば、いつもは真っすぐ進む道を、右に曲がった瞬間に変わってしまう世界が隣り合わせで存在しているんじゃないかと僕は思っていて。ただ、『岸辺露伴は動かない』を見てくださると、その路地を曲がれるんです。露伴や泉くんと一緒に‟怖面白い感じ”をのぞけるのは楽しいことなんじゃないかなと思います」


――怖さを楽しむということでしょうか。

「なぜ人間は暗闇が怖いのか、なぜ見えない背中が怖いのか、なぜこの言葉が頭の中に入ってしまうと怖いのか…。これらは日本以外にはあまりない恐怖の質だと思うんです。今回も出てくる黄泉比良坂(よもつひらさか)は、神話の時代からある、振り返ってはいけない場所。千年以上も前から恐怖の対象としてそういうものが存在しているということは、人間の根源に近い恐怖なのではないかと感じます」


――そんな恐怖に露伴は興味を持つと…。

「そういう恐怖に露伴独自の感覚で向かっていって、動いていく。実際、露伴は受け身なんです。ただ、どうしたって露伴のもとに奇妙な出来事が舞い込んできてしまう。その時点では動いていないんですけれど、好奇心のスイッチが入ってしまうと動き出す。そういうところに引き寄せられて、真っすぐ進むべき路地を右に曲がったり、左に曲がったり、あるいは引き返してしまう。そんな疑似体験ができるのは、この作品の醍醐味の一つ。怖いもの見たさでのぞき込んで、現実とは違う世界に入るという面白さを感じていただけるのではないでしょうか」

――まさに“怪談”のような世界ですね…。

「遠野物語に、ある家の中に入って、家にあったものを持っていくと、そちらの住人になってしまう『迷い家』という話が出てきますが、願わくば、この作品がそうなってほしいなと思います。この作品を見てしまうと戻れなくなってしまうというような。奇妙な人間と奇妙な世界観が絡み合った時に、日常とは違うけれど、もしかしたら隣り合わせの世界なのかもしれないと思わせてくれるところが、僕は非常に魅力的に感じています。今回の第5話の『背中の正面』というタイトルは、荒木先生から実際いただいているタイトルで、先生も賛同してくださる何かがあったのだろうと想像しています。そういう意味で、敵の『スタンド』を『妖怪』に置き換える、日本の怪異的なものに近づけていったことも、面白い改変の仕方だったと思います」



■Profile
高橋一生(たかはし いっせい)

1980年12月9日生まれ。東京都出身。ドラマ、映画、舞台など幅広く活躍。2022年1月10日スタートのよるドラ「恋せぬふたり」(NHK総合)、2022年春放送予定の「雪国 -SNOW COUNTRY-」(BSプレミアム・BS4K)に主演する。

「岸辺露伴は動かない」放送情報

NHK総合
12/27(火)~12/29(木)後10:00~
※NHK BS4K 12/30(金)後7:30~(一挙放送)

【放送ラインアップ】
12/27(火)「ザ・ラン」
12/28(水)「背中の正面」
12/29(木)「六壁坂」

【再放送】
NHK総合
12/24(土)深0:21~(一挙放送)
深0:21~1:10 「富豪村」
深1:12~2:01 「くしゃがら」
深2:03~2:52 「D.N.A」

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