冬注目の作家さんを深掘りする「推しの作家さま」。今回ご紹介するのは、間もなく最終回を迎える「ボーイフレンド降臨!」(テレビ朝日)の脚本家・田辺茂範さんです。
ジャニーズ子犬系男子×田辺脚本は、ヒットの法則
田辺さんといえば、なんと言ってもNHK名古屋放送局制作の「トクサツガガガ」(2019年)が鮮烈でしたね。ストーリー上で重要なポイントとなる「エマージェイソン」や「ジュウショウワン」といった特撮ヒーロー番組のパートを、実際に東映と組んで作っちゃったというのが画期的で、確実に原作コミックを超えていました(これは脚本の範疇に収まりませんが)。
その後は、TBS系の火曜10時「火曜ドラマ」枠で「オー!マイ・ボス!恋は別冊で」(2021年)を手掛けました。主人公・奈未役に「火曜ドラマ」のシンボル的存在である上白石萌音さんを起用して、王道お仕事ドラマとして主人公の成長をきちんと描きながら、胸キュン要素を存分に盛り込んだ展開は、まさにお見事。玉森裕太さん演じる潤之助の思わず抱きしめたくなるフワフワっぷりもさることながら、絵に書いたようなカッコ良さの中にどこかとぼけた味が漂う間宮祥太朗さんの中沢先輩がまた良くて…。このドラマで、一躍ラブコメの名手としての名を知らしめたと言ってもよいでしょう。
続く、「俺の可愛いはもうすぐ消費期限!?」(2022年)は、自らの“可愛さ”を武器に特段大きな苦労をせず、ずっと受け身で生きてきた30歳目前の男性を主人公にした異色のラブコメディー。何より、主演の山田涼介さんが主人公・康介のキャラクターにドンピシャで。ジャニーズが主演を務める「オシドラサタデー」 枠での放送でしたから、山田さんへの当て書きだったのかもしれませんが、彼以外のキャスティングは考えられないほどのハマり役でしたね。
山田さん、当時のインタビューで「こんなド直球のラブコメは初めてです」って言っていましたけど、これはこれで結構変化球なラブコメでした。近年は、個性的で能動的な女性が主人公になることが多く、待っているだけの女の子ってあまり描かれませんよね。逆に言えば、“ガツガツ来ない受け身な男子”が相対的に増えているということになります。このドラマは、そんな令和ラブコメの特徴の一つである“受け身男子”の苦悩(?)をいち早く活写したトリッキーな傑作でした。芳根京子さん演じる和泉も一ひねりあるしね。カジュアルでありつつ深い、とても面白いドラマでした。
ありがちなバトルはさせず、共闘で視聴者の共感を誘うテクニック
そして、現在放送中の「ボーイフレンド降臨!」には、その「俺の可愛いはもうすぐ消費期限!?」のスタッフが多く関わっています。今回も視点にひねりがあって、桜井ユキさんと田中みな実さん演じる35歳の女性2人の生き方と関係性への共感がベースにあります。突然降臨した一回りも年下の“子犬系イケメン”アサヒくん(高橋海人)を頂点とした、かしこ(桜井)と渉(田中)の三角関係の物語ではあるのですが、この三角関係、どう見ても奪い合いのバトルではなく、共闘といった趣きです。渉の恋人・要(三宅健)の存在や、アサヒくんの過去のフィアンセだというエマ(片岡凜)の登場など、トライアングルをめぐるドタバタラブコメに持ち込めそうな要素がたくさんあるのに、不思議とそうはなりません。
高校時代親友だった、かしこと渉は、アサヒくんの降臨によって10数年ぶりに再会します。アサヒくんとの出会いとトキメキで、それぞれの人生に光が差し込み、同時に疎遠だった2人の関係にも変化が訪れます。思わずキュンとする胸の高鳴りは、仕事やキャリアの岐路に立つ2人に勇気を与え、背中を押します。誰かを愛しく思うことはなんて素晴らしいことなんだろう! 力強いメッセージは、多くの視聴者の心に届くでしょう。
何より印象に残るのは、かしこと渉という対照的な30代女性に対してこのドラマが持つ、絶対的な肯定とエールです。「私なんか…」とすぐに夢を諦めてしまう癖がついている、かしこへの優しい視線はもちろんですが、かしこ目線で描かれている以上、敵役にならざるを得ない渉に対する愛ある描写には(演じる田中みな実さんの功績もありますが)、やはり脚本の力を感じます。田辺さんの視線の温かさと同時に、徹底的に女性に寄り添う製作陣の覚悟が感じられます(プロデューサーが全員女性だからでしょうか )。そう、みんな一生懸命生きているんだもんね。
そしてドラマの中心ですべてを照らす、まさに朝日のような存在であるアサヒくんを演じる髙橋海人さんの魅力的なことと言ったらありません。記憶喪失ゆえに(?)無垢な笑顔を振りまく天真爛漫さは、まさに無双状態。髙橋さんも相当振り切って演じていて、ファンタジー感いっぱいの王子さまキャラに徹しています。性格も優しいしね。お姉さまたちがメロメロになるのも無理ないですよね。彼のキャラが輝くほどに、かしこと渉のリアリティーが際立ち、同時に2人の未来が明るく照らされる。髙橋さんの個性を十二分に発揮した見事な座長ぶりだったと言えます。
ジャニーズ子犬系男子出演のオリジナルドラマでヒットの続く田辺さんですが、希望を言えば、別のジャンルのオリジナルコメディーも見てみたいですね。枠の違いや、視聴者の年齢・属性に合わせて自在に書き分けられる田辺さんの力が本格的に覚醒するのはまだこれからという気がします。
同時に、「ボーイフレンド降臨!」の結末も気になるところ。かしこと渉のどちらを選ぶのかもさることながら、記憶を取り戻したアサヒくん=漆畑澄人(うるしばた・すみと)がどのような選択をするのか? かしこと渉の未来も気になるし。最後まで注目しましょう。
「ボーイフレンド降臨!」放送情報
テレビ朝日
毎週土曜 後11:00~
「推しの作家さま」関連おすすめ記事
文/武内朗