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TVガイドみんなドラマ編集部
2022.1.27
✑推しの作家さま#6 岡田惠和さん
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ドラマになくてはならないのが、ドラマの作家さん。編集部では、日頃からドラマ作家をウオッチしている編集者・武内さんに、今旬で輝いている“推し”の作家さんを語っていただきます。ドラマのセリフに寄り添う共感ポイントがまたひとつ見つけられますように!

推しの作家さま 第6回は「岡田惠和」さん

 今回の「推しの作家さま」は、現在TBS火曜10時に放送中のドラマ「ファイトソング」を手がけている岡田惠和さんです。

    
 岡田惠和さんといえば、大石静さん、坂元裕二さん、野島伸司さん、北川悦吏子さんなどとともに、90年代のドラマ黄金時代を初期から支え、その後30年以上に渡って日本のテレビドラマの保守本流を担ってきた脚本家です。ドラマ好きの方ならきっと覚えているドラマがあるでしょう。アラフォーの方なら「若者のすべて」とか「イグアナの娘」とか「ビーチボーイズ」とか。30歳前後の方なら「バンビ~ノ!」とか「最後から二番目の恋」とか「泣くな、はらちゃん」とか。最近だと「この世界の片隅に」とかね。あと「ちゅらさん」や「ひよっこ」などの朝ドラも岡田さんの作品です。原作ものも、オリジナルも自在にこなし、岡田ワールドとも言うべき独特の世界観を見せてくれる方です。

 岡田脚本の最大の特徴は、ドラマ世界を生きる人々の「日常」を切り取る丁寧さです。岡田さんの作品は(近年は特に)市井の人々の穏やかな日々を描くドラマが多いですが、そうじゃない場合でも(SFでも、時代劇でも、シャツにカエルが張り付いていても)そこで生きる人々にはその世界での日常が必ずあるわけで。それを丁寧にトレースするデリケートで優しい目線。その細やかさこそが岡田作品の魅力です。なので、ほんのちょっとしか出てこない登場人物にもなんとなく親近感を抱かせてくれる。よく「岡田作品にはいい人しか出てこない」と言われたりしますが、それは一見悪い印象を与えそうなキャラクターでも、そう感じさせない描き方をしているからです。短い描写でそれを成立させる手腕の確かさは並大抵ではありません。

    
 放送中の「ファイトソング」でも、決して品行方正な善人ばかりではありませんが、登場人物のすべてがどことなく愛らしい。芦田さん(間宮祥太朗)の元バンド仲間・薫くん(東啓介)なんて、やってることは結構エゲツないのになんかカワイイもんね。岡田さんらしいと思います。

     
 たとえば、よくドラマの解説文なんかに「ひょんなことから付き合うことになった」なんて書いてありますよね。確かに実生活でもひょんなことから、としか言いようがないことがあります(3話の反省会でも、私たち十分“ひょん”ですね、って言ってましたね)。でも本当はドラマの中でこそ、ああ私この人好きだ!と心が動く瞬間の、あのアクセルを踏み込むような感覚をきちんと味わいたくないですか?「ファイトソング」にはそれがあります。2話で清原果耶さん演じる花枝ちゃんが恋に一歩踏み出す、その瞬間のリアリティー。花枝ちゃんが自分の人生を自ら切り拓くその瞬間に立ち会えたことに、僕らは感動するのです。登場人物の心の動きに立ち会えるドラマには、近年なかなか出会えないですからね(好きになっちゃった同士の胸キュン!みたいなのは結構あるんだけど)。

    
 そして、岡田脚本のもう一つの魅力はその絶妙なセリフ回しです。とはいえそれはいわゆる「名言・パンチラインがビシバシ!」といった種類のものじゃありません。ある女優さんはかつて「岡田さんの脚本は『…』の数にも意味があるんですよね」と話していました。またある演出家は、岡田さんのホンの空間を読み違えないために役者さんと何度も話し合うんだと教えてくれました。一見なんてことのない受け答えにも、感情が宿ります。今回で言えば間宮祥太朗さん演じる芦田さんの「ああ」とか「うん」とか「そうだよね」とか、そういうセリフにどんな意味が込められているのか、そんなところに注目して欲しいですね。そしてそこに芦田さんのリアルをにじませるべく、俳優や演出家がどれだけのエネルギーを注いでいるかにも(不器用な芦田さんが内に秘めているあふれる思いが、きっと感じられるはずです)。

   
 もちろん普通に上手い!ってところもたくさんあるんですよ。「よく泣いたよね」「すいません」「全然泣かなかったよね」「すいません」みたいなやりとりとか。慎吾ちゃん=菊池風磨くんのナイスキャラとか。凛ちゃん=藤原さくらちゃんのいじらしさとか。いいところはたくさんあるんだけど、なによりたっぷり時間をかけて登場人物たちの心の動きをなぞるその丁寧さをこそ、レコメンドしたいのです。ドラマの今後がますます楽しみですね。花枝ちゃんの体のことも心配だけど。岡田さんのことだからきっとみんなを幸せにしてくれると思いたいな……。

「ファイトソング」TBS系 毎週火曜 後10:00~10:57

※文中作品
「若者のすべて」('94年・フジテレビ系) 主演・萩原聖人、木村拓哉
「イグアナの娘」('96年・テレビ朝日系) 主演・菅野美穂
「ビーチボーイズ」('97年・フジテレビ系) 主演・反町隆史、竹野内豊
「バンビ~ノ!」('07年・日本テレビ系) 主演・松本潤
「最後から二番目の恋」('12年・フジテレビ系) 主演・小泉今日子
「泣くな、はらちゃん」('13年・日本テレビ系) 主演・長瀬智也
「この世界の片隅に」('18年・TBS系) 主演・松本穂香、松坂桃李
「ちゅらさん」('01年・NHK総合) 主演・国仲涼子
「ひよっこ」('17年・NHK総合) 主演・ 有村架純

※向田邦子賞とは・故・向田邦子さんがテレビドラマの脚本家として、数々の作品を世に送り出し活躍してきた功績を讃え、現在のテレビ界を支える優秀な脚本作家に贈られる賞として、1982 年に制定されたものです。岡田惠和さんは、第20回(2001年度)に「ちゅらさん」で受賞されました。



文・武内朗
(TVガイド15代目編集長。毎年テレビ界を支える優秀な脚本家に贈られる賞・「向田邦子賞」運営に長く携わる。現在、TVガイドアーカイブチーム代表として書籍「テレビドラマオールタイムベスト100」、「プレイバックTVガイド」などを手掛ける。今回、ドラマファンの立場から脚本家の方々についておしゃべりをする趣向で当コラムを連載。)

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