推しの作家さま #4 奥寺佐渡子さん

2021/10/25 14:02

今期随一のラブサスペンスとして話題の、吉高由里子さん主演、松下洸平さん、井浦新さん共演「最愛」。本作を手掛ける奥寺佐渡子さんに注目します。

複雑に絡み合う事件、変わる愛情…深い描写で描く「最愛」

奥寺佐渡子さんといえば、最初は映画のイメージが強かった脚本家さん。国分太一さん主演の「しゃべれどもしゃべれども」や井上真央さん主演「八日目の蝉」などが鮮烈な印象を残しますが、多くの人が彼女の名前を記憶したのは、「時をかける少女」や「サマーウォーズ」など、一連の細田守監督作品の脚本家としてではないでしょうか。特に、筒井康隆の原作のエッセンスを見事に消化して新たな青春物語を紡いだ「時をかける少女」でのみずみずしい台詞の数々は、生きるエネルギーの息吹に満ち満ちていて、作品の大きな背骨となっていました。

そして、テレビドラマの世界では、なんと言っても2013年の「夜行観覧車」(’13年/TBS系)です(清水友佳子共同脚本)。新作「最愛」まで連なる、新井順子プロデューサー、塚原あゆ子監督とのコンビネーションはこの時点で既にスタートしています。「夜行観覧車」は、映像化されることの多い湊かなえさん原作ドラマの中でも白眉と言える傑作で、多くのファンを生み、ミステリードラマの新たな潮流を作った作品です。以降同じスタッフ陣で湊さん原作の「Nのために」(’14年/TBS系)、「リバース」(’17年/TBS系)も制作され、いずれも大きな支持を得ました。

もともと原作内に大きな仕掛けを内包している湊さんの作品ということで、映像化にはその仕掛けを最大限に生かす構成力が求められます。ですが、連続ドラマの場合、物語や登場人物をよりリアリティーある存在に描くために、さらに深い描写力が必要になります。彼女の場合、この肉付けのオリジナリティーがスゴい。原作では描かれていない心のひだの部分にも光を当てるところが、奥寺脚本の大きな魅力です。毎週目が離せない展開は、決して原作の力だけではありません。

原作のあるドラマを手掛けることの多かった奥寺さんですが、今回の「最愛」はオリジナル。過去の事件と現在の事件が複雑に絡み合っているところや、家族や仲間たちの愛憎が大きく関わっているところなど、湊さん三部作との類似性が意識されているのは間違いないでしょう。何より「人はいろいろな顔を持っている」という湊さん作品の根幹を貫くテーマがこの作品にも横たわっています。今まで原作があったことでネタバレにビクビクしていた人も今回は大丈夫。オリジナル作品ですから、あれこれ推理しながら最後まで楽しむことができそうです。

さらに今作はミステリーとしてのメインプロットに加え、企業ドラマや青春恋愛劇としての側面も併せ持っています。特に、松下さん演じる大ちゃんこと、宮崎刑事の顔が毎回悲しそうで切ない…。考えてみれば、過去に恋人同士だった二人が刑事と殺人事件の重要参考人として再会するというのならまだしも、梨央と大ちゃんの場合、恋人にすらなってなかったんだもの。願った再会がこんな形で訪れて…。一方、捜査を通して真相に近づく過程で、梨央と優の姉弟に何もしてあげられなかった自分の無力さに常に向き合うことにもなるわけです。踏切越しに叫んだ優への「逃げたって何も変わらないぞ」の一言は、自分へ向けた叫びでもあったでしょう。それと、宮崎刑事が毎回毎回よく走る。さすが元陸上部のエースです。

そして、やはりキーワードとなるのは、タイトルにもなっている「最愛」という言葉でしょう。過去の秘密というより、今後の展開の中で登場人物が選ぶ未来にこの言葉が関わってくる気がします。何しろ怪しい人物が目白押しなのですが、みな一様に悲しみも抱えています。個人的にはあっと驚くドンデン返しでなくてもいいので、登場人物たちのみんなの魂が安らぐような結末を期待したいですね。そして最終的に大ちゃんが救われるといいな、なんて思うのだけれど、多分そうはならないんだろうなぁ。

「最愛」放送情報

TBS
毎週金曜 後10:00~

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文/武内朗