推しの作家さま #11 西田征史さん

2022/08/01 09:09

「推しの作家さま」の第11回は、夏ドラマから注目! 「石子と羽男―そんなことで訴えます?―」(TBS)の西田征史さんです。

有村架純と中村倫也の絶妙な掛け合いの楽しさが、大きな魅力

多彩な分野で活躍する西田さんですが、かつてはお笑い芸人として活動してきたことでも知られます。今現在、私たちはそうした物語を紡ぐ才能にあふれる芸人さんが数多くいることを知っていますし、実際、芸人さんがドラマや映画の脚本を手掛けることは珍しくありません。でも西田さんが活動を始めた頃は、そんな経歴がまだ珍しい時代だったと言えるのかもしれません。 テレビドラマとしては、大野智さん主演の「魔王」や、やはり大野さんが主演した「怪物くん」と亀梨和也さん主演の「妖怪人間ベム」での、正直絶対不可能に思えたアニメ原案作品の実写化をものの見事に実現した手腕の確かさで頭角を現しました。

そんな 西田さんが一躍注目された作品といえば、なんと言っても2011年のアニメ「TIGER&BUNNY」でしょう。圧倒的な女子人気を誇るキャラクターたちの魅力、バディもの・ヒーローものとしてのストーリーの快感、そして特殊能力者・NEXTの設定や当時としては画期的だったプロダクトプレイスメントの導入など、オリジナリティーあふれる世界観がファンを釘付けにしました(待望の続編「TIGER&BUNNY2」がNetflixで独占配信中 )。また自ら執筆した小説「小野寺の弟・小野寺の姉」は、自身が脚本・演出を手掛ける形で舞台化および映画化もされています。

そして西田さんが現在、脚本を担当しているドラマが「石子と羽男―そんなことで訴えます?―」です。「最愛」や「MIU409」などを手掛けた新井順子プロデュース&塚原あゆ子チーフ演出によるリーガルエンターテインメント。といっても大きな事件を扱うのではなく、誰にでも起こりうる身の回りの事件を扱う個人の開業弁護士事務所、通称“マチベン”が舞台。東大卒のパラリーガル“石子”こと石田硝子役の有村架純さんと、高卒の天才弁護士“羽男”こと羽根岡佳男役の中村倫也さんのコンビネーションがとにかく素晴らしい。やいのやいの言いながらも、互いの武器を生かして協力してピンチを切り抜けていくというバディものの醍醐味が随所に感じられて、まさに西田さんの本領発揮といっていいでしょう。

実直で頭が固い“石子”でありながらも、正義感が強く、ついつい人情にもほだされる(ついでに事務所の屋上で酒盛りもしちゃう)王道ヒロイン・有村さんのズバ抜けた安定感もさることながら、理想の天才弁護士たるべく見た目のブラッシュアップは怠らないものの、どこかピントがずれていて常にフワッフワしている倫也 さんの浮遊感は“羽男”そのもの(いや、倫也さんそのもの!?) 。まさに十八番。ハマり役です。

こうしたいわゆるお仕事ドラマは大人数のチーム編成の妙で見せる作品が多いですが、このドラマは比較的登場人物も少なく、舞台が下町ということもあって多分にホームドラマのテイストもあるのがアクセントになっています。ここでいうホームドラマテイストというのは、家族のドラマが描かれているということだけではなく、人間関係を緊張感ベースで描いていないということです。「この先、誰が裏切るんだろう?」って身構えなくていい安心感があるというか。最近あんまりないでしょ、そういうドラマ(なーんて言ってて、さだまさしさん あたりが最終回でガラッと豹変したりしてね。新井&塚原チームは油断できません)。

西田さんには、脚本家であると同時にいわば“コンセプター”とでもいうべき側面がありますが、そんなところもこのドラマに反映しているように思います。各回のテーマを象徴的に表す冒頭のスケッチや、RADWIMPSの主題歌をバックにニュース画面で現実の動きを示すエンディングなど、コンセプチュアルな構成も目を引きます(これは演出チームとの共同作業かもしれませんけれども)。

そしてなにより石子と羽男が繰り広げる掛け合いの楽しさ。膨大なセリフがテンポよく決まる爽快感はドラマの大きな魅力です。特に2人のセリフがどんどんシンクロしていく各話のクライマックスは、有村さんと倫也さんの演技力も相まって言葉が力強く伝わるいいシーンになっています

石子、羽男、大庭…キャラクターへの底なしの愛情

今作は「そんなことで訴えるの?」と思うような、誰にも起こりうるトラブルを取り上げることで、本来万人を守るためにある法律をもっと身近なものとして考えてほしいというメッセージが根底にあり、また法廷ものでもあることから、情報量も多く専門用語もビシバシ登場しますが、正直驚くほどスムーズに頭に入ってきます。もちろん演出や演技の力もあるのでしょうが、やはり脚本の功績が大きいと思います。そして同時に、例えば第2回の石子と大庭(赤楚衛二)の相合傘シーンとか、第3話の石子と羽男が電話で話すカップ麺と缶ビールの場面 とか、キャラクターの素顔が垣間見えるシーンをあえてゆっくりと描く丁寧さは特筆すべきでしょう(「人にモノを頼むときは何て言うのかな〜」なんて真顔で言われたら、これはもう沼落ちするしかないでしょ)。西田さんの各キャラクターへの愛情が感じられます。

主人公2人のファッションや小道具も楽しいですよね。オン・オフの使い分けや、部屋のインテリアで2人のパブリックイメージとは違う意外な一面を示唆したり。特に倫也さん 演じる羽男の、軽佻浮薄な外面から時折のぞくナイーブな表情には母性本能をくすぐられちゃう。チーム全体が楽しんで取り組んでいるのが伝わってきます(ゲストも毎回豪華ですよね。特に第2回での木村佳乃さんの出演は「ひよっこ」ファンとしてはうれしかったな)。

現時点では石子も羽男もまだまだ秘密を抱えているようですし、2人のコンプレックスも完全には明らかになっていません。今後それらが明らかになることで、2人も関係も変わっていくのでしょうか。強そうに見える石子の意外な脆さを羽男が支える、というような展開もありそうですよね(だって名前が“硝子”だもの)。個人的には、大きな仕掛けで大団円を迎えるよりも、バディもののシリーズ作品として続編を期待したい気持ちが大きいんだけどな…。

「石子と羽男―そんなコトで訴えます?―」放送情報

TBS
毎週金曜 後10:00~

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文/武内朗