推しの作家さま #2 大森美香さん

2021/09/06 17:05

安定感のある脚本家の一人で、「不機嫌なジーン」(’05年/フジテレビ系)では、当時最年少で向田邦子賞を受賞した大森美香さんです。

吉沢亮、町田啓太…多くの男性俳優の代表作となる大森ドラマ

いよいよ明治編に突入したNHK大河ドラマ「青天を衝け」を手掛けています。初大河となる「青天を衝け」でも、渋沢栄一と徳川慶喜という対極のポジションにいる二人を通して変革の時代をダイナミックに描いています。

それにしても新章スタートとなる第26回は、脚本・演出とも圧巻でしたね。8分間に及ぶアヴァンタイトルは新章スタートの期待感に満ち満ちて迫力満点。家康の粋な口上、長七郎夢の中の遺言、講釈師のごとき篤太夫の名調子、そして妹の憤り、従兄の悔恨、父母の安堵、娘の得意顔、妻の満面の笑み、ラスト慶喜との邂逅(かいこう)に至るまでシッポまでアンコびっしり。まさに、ここからが本当に描きたかったことなんだ、という大森さんと制作陣の覚悟が感じられました。

いよいよ明治編に突入した、なんて簡単に書きましたが、そもそも時代が一瞬で「江戸時代」から「明治時代」に変わるなんてことはありません。当時の実感とすればおそらく江戸時代でも明治時代でもなかった曖昧な時代、言い方を変えれば、立場によって見え方が異なる混沌とした時代が数年間続いたはずです。時代の転換期はみんなそうだともいえますが、たった150年ほど前のことですからね。重みがあります。

「獅子の時代」(’80年)も「翔ぶが如く」(’90年)も「新選組!」(’04年)も「西郷どん」(’18年)も、幕末を描いた大河ドラマはどれもそんな混沌をそれぞれの視点で描いてきました。「青天を衝け」はこの複数の視点、それも同じ人でも立ち位置がどんどん変わっていくという難しい視点の変化が見事なリアリティーで描かれています。どの視点も絵空事ではなく、現代的なんですね。見ているこちら側と連続する空気感がある。素晴らしいと思います。

10年くらい前までは民放の連続ドラマも頻繁に手掛けていた大森さんですが、近年はNHK作品が多くなっています。そして大森美香さんといえば、2015年の連続テレビ小説「あさが来た」(’15年/NHK) を思い出すという方も多いでしょう。描かれている時代が今回の「青天を衝け」と重なり、渋沢栄一が劇中に登場していたことも話題になりました(「あさが来た」では三宅裕司さんが演じていました)。でもなんと言っても最も大きなトピックは、あの“五代さま”の再降臨です。ディーン・フジオカさんふんする五代友厚の登場は、イケメンショーケースとも言える歴代朝ドラ史上でも最大級のインパクトでした。「青天を衝け」でも五代友厚(才助)の登場は十分予想されたので、ディーン・フジオカさん再登板のニュースはファンを喜ばせました。

大石静さんや北川悦吏子さんなど人気の女性脚本家に共通する特徴でもありますが、大森美香作品でのイケメン出現率の高さには定評があります。出世作と言える「ランチの女王」(’02年/フジテレビ系)には、堤真一、江口洋介、妻夫木聡、山下智久、山田孝之と、その後20年以上テレビドラマを支え続ける俳優陣がズラリ。その後も松本潤、内野聖陽、永山絢斗、玉木宏など、多くの俳優が大森作品に複数出演し、それぞれの代表作となっています。「青天を衝け」でも吉沢亮さんはじめ多くの俳優陣が魅力を発揮していますが、中でも土方歳三役の町田啓太さんには注目が集まっています。19日(日)放送の第27回では箱館戦争がたっぷり描かれるようなので、楽しみにしましょう♪

「青天を衝け」放送情報

NHK総合
毎週日曜 後8:00~

「推しの作家さま」関連おすすめ記事

文/武内朗