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TVガイドみんなドラマ編集部
2022.6.1
推しの作家さま#10 吉田玲子さん
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ドラマ作家を日々ウオッチしている編集者・武内さんが、今旬で『推し』の作家を語るコラム。今回も新たな共感に出合えますように!

推しの作家さま 第10回は「吉田玲子さん」

  
 さあ今回の「推しの作家さま」。こちらも書く前からドキドキしています。現在NHKで放送中の「17才の帝国」の吉田玲子さんをご紹介しましょう。

 吉田玲子さんは、アニメの脚本家として30年近いキャリアを持つアニメ脚本の第一人者。「けいおん!」「君と僕。」「ガールズ&パンツァー」「たまこまーけっと」「弱虫ペダル」「のんのんびより」など多くの傑作テレビアニメのシリーズ構成を手掛けるほか、「デジモン・アドベンチャー ぼくらのウォーゲーム」や「猫の恩返し」「映画 聲の形」「リズと青い鳥」「若おかみは小学生!」など劇場アニメでも多くの名作を生んでいます。ここ数年でも「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」や「ブルーピリオド」「平家物語」などジャンルを飛び越えた活躍を見せている吉田玲子さんが、オリジナルの連続ドラマを書く! これはファンならずとも胸躍らさずにはいられないわけで。

   
 「17才の帝国」というタイトルだけでもうワクワクしますよね。このタイトルだけで今まで吉田さんが描いてきた作品世界と地続きであることがわかる(やっぱり「17歳」と「14歳」は特別な年齢ですもんね。アニメの世界では特に)。そして単純な「近未来SF」ではなく、「AI」「青春」「政治」「仕事」「幸福感」など多くのテーマが共存して進んでいく贅沢さも作品の密度の濃さにつながっています。一つ前の朝ドラ「カムカムエヴリバディ」('21年、NHK)の芳醇さを思い出させます。わずか5話しかないのに。

 吉田玲子さん起用の裏には、日本ドラマの海外への配信という課題があったようです。「AI」がメインテーマになっているのも、海外にドラマを発信するに当たり、海外市場で先行してイメージを確立しているジャパンアニメのモチーフを用いたかったという側面があります。つまり、吉田さんが起用された背景には、そうしたアニメと実写との融合という狙い以上の大きな効果が期待されていると思います。

 テレビドラマはその誕生当初から異ジャンルの才能を導入することで発展してきました。そういう意味では、吉田さんクラスの力のある作家がドラマを手掛けていなかったことの方が不思議です。難しいことではなかったはずなのに、今まで行われなかった。それが実現したということが重要なのです。今回、カンテレの佐野亜裕美プロデューサーの参加が話題ですが、今のテレビドラマはもっともっと局やジャンルの垣根を超える努力が必要なのかもしれません。

 
 ご覧になった方ならお分かりの通り「17才の帝国」のドラマとしての魅力、新鮮さは一目瞭然です。まずは、音楽、衣装、セットを含めた映像や音響のデザイン、世界観のクールな際立ち。202X年の日本という近未来が舞台ということで、シーンのベースは今の地方都市の風景そのものですが、それでもあらゆる場面が「UA(ウーア)」内のフィクショナルな世界として貫かれ、見事に成立しています。もちろんその中心にはクールさの象徴たる政治AI「ソロン」の3つの塔のイメージがあり、大きな効果を上げていますが(この塔は長崎県佐世保市・針尾送信所の針尾無線塔。実在しています)、この3つの塔や官邸の異形よりも、むしろ住居や食堂、学校、商店街など日常の生活空間の中にこそ、不穏さがただよう歪な世界観を感じます。この世界観のクールさこそがまさにジャパンアニメのイメージであり、吉田玲子脚本の持つ磁場の現れでしょう。

 
 そして、そんな吉田脚本の磁場が最も顕著に感じられるのが、真木亜蘭、茶川サチをはじめとする各キャラクターの“不透明感”です。平清志さん含めた閣僚側の若手たち、対立する大人たち、サチの家族たちなど登場人物の描かれ方が、なんといったらいいのか、初めはどこか二次元的というんでしょうか。とてもスリムに登場して、ストーリーを生きていく中で次第に立体的、多面的になっていくんですよね。こういう物語の場合、つい「それぞれのキャラクターの秘密が次第に明らかに!」みたいな言い方をしたくなるのですが、この作品の場合そういう言い回しが全然似合わない。回が進むにつれてキャラクターにだんだん色がついていく感じで、そのタッチはまさに吉田脚本によるものです。

  
 例えば、改革を力強く打ち出したり、理想の政治を高らかに謳う真木くんは(いささか乱暴ながら)凛々しく頼もしいけれど、「ここで僕たちの国づくりが始まるんだ」とユキ(今は亡き幼馴染)に話しかけたり、「僕はその子を救えなかった」と平さんに語る様子は、今にも壊れそうなほど繊細で脆く見えます。でも実はそんな二面性が、大人側にいる平さん(及び視聴者)にとっては逆に人間らしく感じられて安心できる。そこまで計算されてると思います(だって閣議とかでも、他の閣僚の意見の方がずっと過激で核心ついてますもんね。真木くんは主に聞いてるだけで)。

 加えて、それらを演じる神尾楓珠さん、山田杏奈さん、星野源さんら俳優さんたちの見事な演技。あくまでニュートラルな外見の上に、少ないセリフでエモーショナルな心の動きをスーッと乗せてくる。それぞれの俳優さんが脚本にあるメッセージを懸命に表現しているのが手に取るようにわかります。演出の丁寧さも光ります。

 「17才の帝国」がアニメ的に感じられるとしたら、まさにこうした描かれ方によるところが大きいでしょう。SFであるとか、AIがテーマであることとはあまり関係ない気がします(ソロンの声を緒方恵美さんがやっているところはちょっと興奮するけど。「2001年宇宙の旅」のHAL9000を思い出します)。むしろ「経済の日没(サンセット・ジャパン)」という用語とか、再開発をめぐる世代間対立などのリアルな課題は、極めてジャーナリスティックなドラマ的手法だと言えます。製作陣すべてが今までのやり方を疑いながら挑んでいるのでしょう。大切なことだと思います。

 
 でもホントにあと1回で終わっちゃうの? っていう感じですよね(できれば朝ドラにして半年やって欲しいくらいですが、さすがにそれは無理かな)。おそらく最後にセンターに立っているのは“17才でない”平さんだと思います。平さんを待つ運命、いや、平さんの出す結論こそが、サンセット・ジャパンの行く末を決めることになるのです(だって例えばこのドラマでは、「あの17才が〜」とか「17才に分かるのか」とか、「17才」が人称代名詞として繰り返し使われますよね。もちろん真木くんを指している言葉なのですが、真木くんもサチも永遠に17才ではあり得ません。とすれば最後に「17才の帝国」に残るのは、永遠の17才であるスノウだけということに……⁉)。

あらゆる予想を覆すはずの衝撃のラスト(おそらくは)を見逃さないように。大いに期待しましょう。

「17才の帝国」NHK総合  毎週土曜日 後10:00~10:45

  

  
  
文・武内朗
(TVガイド15代目編集長。毎年テレビ界を支える優秀な脚本家に贈られる賞・「向田邦子賞」運営に長く携わる。現在、TVガイドアーカイブチーム代表として書籍「テレビドラマオールタイムベスト100」、「プレイバックTVガイド」などを手掛ける。今回、ドラマファンの立場から脚本家の方々についておしゃべりをする趣向で当コラムを連載。)

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