今回は、「ドクターX」シリーズを2012年の第1シリーズから支えて来た脚本家・中園ミホさんを紹介します。
自立した凛々しい女性…中園ヒロインに共通する格好良さ
中園ミホさんは、坂元裕二さんや北川悦吏子さん、岡田惠和さんなどと並び、90年代以降の日本のテレビドラマを支え、牽引して来た脚本家のひとり。中山美穂がシングルマザーを演じた「For You」(’95年/フジテレビ系)、林真理子原作・石田ゆり子主演の「不機嫌な果実」(’97年/TBS系)など、女性主人公のドラマが記憶に残りますが、中園さんの名を一躍世にとどろかせたのが「やまとなでしこ」(’00年/フジテレビ系)でしょう。松嶋菜々子演じるヒロイン桜子が終始一貫主導権を握ったラブコメディーで、いわゆるボーイミーツガールものとは一線を画した非常に個性的なドラマでした。お金で男を見定める打算的な性格に描かれていながら不思議と憎めない桜子の可愛さ。スックと自立したその凛々しいシルエットは、その後の「anego」(’05年/日本テレビ系)、「ハケンの品格」(’07年/日本テレビ系)、「ナサケの女」(’10年/テレビ朝日系)など中園ヒロイン作に共通する“カッコよさ”の象徴でもあります。
そうした中園ヒロインの“カッコよさ”の集大成とも言えるのが2012年10月にスタートした「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」です(この年中園ミホさんは、この「ドクターX」と「はつ恋」(’12年/NHK総合ほか)の2作品で向田邦子賞を受賞しました)。その後シリーズ化され、まさに2010年代を代表するドラマシリーズとなりました。米倉涼子演じる大門未知子の持つスキルの高さとそれに対する自信、そして群れない、媚びないフリーランスとしての強さは、女性のみならず現代を生きるすべての人々の理想像かもしれません。
先ほどもお話ししましたが、「ドクターX」の新シリーズはコロナショックを体験した現在の日本が舞台です。進行中のコロナ禍をどう描くかは、いまドラマ制作に関わっている人々に共通の課題です。それも医療ドラマならばなおさらです。今回の「ドクターX」はそれに真っ向から挑んでいます。いや真っ向から挑むというより、当たり前のように現実の延長線上にドラマ世界が存在しているという感じ。人気ドラマとしてのエンターテインメントの枠組みを守りながら、根っこのところで嘘を感じさせないリアリティーはさすがというほかありません。俗に「リサーチの中園」と称される彼女のことですから、医療現場の現状の取材には抜かりがないことでしょうけれど、それをサラリと脚本化することがどれだけ難しいことか。見事な手腕だと思います。
これだけのヒット作を持ち、それがシリーズ化してしまったりすると、他の仕事をする余裕がなくなりそうですが、中園さんは「ドクターX」以降に、朝ドラ「花子とアン」(’14年/NHK)と大河ドラマ「西郷どん」(’18年/NHK)を手がけています。両作で見せた物語を推し進める推進力には中園脚本の新たな魅力も感じられました。今後も新たな時代を生き抜く女性像を描いていってほしいと期待がふくらみます。
「ドクターX~外科医・大門未知子~」放送情報
テレビ朝日
毎週木曜 後9:00~
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文/武内朗