推しの作家さま #12 森下佳子さん

2022/10/17 09:09

2022年10月秋ドラマから注目したオススメの作家さまは「ファーストペンギン!」(日本テレビ)の森下佳子さんです。

展開のスピーディーさと人物配置の巧みさが「ファーストペンギン!」

今回は、「世界の中心で、愛をさけぶ」(’04年/TBS系)、「白夜行」(’06年/TBS系)、「JIN-仁-」(’09年/TBS系)、「義母と娘のブルース」(’18年/TBS系) など数々の代表作を持ち、コンスタントにヒット作・話題作を送り出し続けている実力派脚本家の一人、森下佳子さんを紹介します。朝ドラ「ごちそうさん」(’12年/NHK) では、第32回向田邦子賞を受賞。2017年には大河ドラマ「おんな城主 直虎」(’17年/NHK)も執筆しました。現在は、奈緒さん主演の「ファーストペンギン!」が放送中です。

森下さんの脚本家としての資質は、野球のピッチャーに例えると分かりやすいです。すなわち「ストレートがズバ抜けて速い」。野球に限らず、日本では変化球や魔球の類がもてはやされることが多いですが、ピッチャーにとって何より大事な資質が地肩の強さにあることは間違いありません。森下さんは、このストレートど真ん中の球速がとにかくハンパないんです。

「ファーストペンギン!」でも、第1回冒頭、タイトル前の絵本によるファーストペンギンの用語説明から、ラストの奈緒ちゃんのシビレる超絶キレ演技まで、全く無駄がない。人間関係や制度等の細かな情報も実に分かりやすくて淀みがない。途中一切寄り道することなく、物語に一気に引きずり込む剛腕にはちょっと驚きました。

こういう正攻法が、簡単なようで実はいちばん難しいのです。ついついサブストーリーを挟んだり、小ネタを散りばめたりしたくなっちゃう。その方が楽だし、いまはそれを喜んでくれる視聴者も多いですからね。それでも脚本家には起承転結の原則を踏まえて伝えたい物語をまっすぐに伝えるための力が(当たり前ですが)絶対に必要です。一般に変化球が得意とされているような作家でも、第一線で活躍している人には必ずそれが備わっています(本当に当たり前ですけどね)。

これまで、私たちは森下さんの物語る力に何度も心を震わされてきました。「JIN-仁-」でも「天皇の料理番」(’15年/TBS系)でも「義母と娘のブルース」でも、何度見ても同じところで泣かされてねー。決して奇をてらった意外性ではなく、王道の物語が心に響く。だから何度見ても感動することができるんですね。得難い個性、得難い筆力だと思います。と言っても、森下さん実は変化球も得意なんですよね。「よるドラ」枠で放送され大胆なアプローチが話題を呼んだ「だから私は推しました」(’19年/NHK)や、映画「大河への道」などでは森下さんの変化球のキレが味わえます。来年1月からは、注目のコミック「大奥」(‘23年/NHK)の連続ドラマもNHKで控えています。

特に「ファーストペンギン!」に感じるのが、その展開のスピーディーさと人物配置の巧みさです。今回実話が元になっているということで、結末は一応決まっていますし、途中のストーリー展開もある程度予想がつきます。次はこうなるだろうと視聴者が先回りしてくるわけです。それを恐れて小手先で目くらましをするようなドラマも多い中、「ファーストペンギン!」は先回りしようと視聴者が身構える前にどんどん物語が転がって行っちゃう。目をそらす隙を与えないのです。そして(これが肝心なのですが)物語は視聴者がそうなってほしいと思う方向に進む。これが素晴らしい(視聴者の裏をかくことだけがドラマの注目度を上げる方法ではありません)。

奈緒の圧倒的な輝きとエネルギーはまさに森下ヒロインの集大成

例えば第2回で、次々降りかかってくる難題に和佳が心折れそうになるたび現れる救世主たちの頼もしいこと。助け船の出て来かたも絶妙で、流れを切らずにスッと出てくる(演出や演技の力もありますが、やはり脚本の力でしょう)。女性たちが連帯して男社会に挑むという裏テーマも、声高に語らずとも自然と立ち現れます。ファーストサマーウイカさんや志田未来さん、松本若葉さんなど、配役の妙も効果を上げています。

と言うかこのドラマ、キャスティングがとにかく魅力的ですよね。堤真一さんが片岡社長を演じていることの安心感は計り知れませんし、鈴木伸之さんの好青年ぶり、梅沢富美男さんのヒールっぷり、遠山俊也さんの腰巾着っぷり、吹越満さんと梶原善さんの助さん・格さんっぷり(ボヤッキーとトンヅラーかな)、そして近未来感溢れる渡辺大知さんの謎の黒幕っぷりと、適材適所の好配置。

そしてなんと言っても主演の奈緒さんの圧倒的な輝き。高校時代の後悔を推進力に変えて突っ走るエネルギッシュな姿はまさに森下ヒロインの集大成です。特に立ちはだかる困難を単に打破するだけではなく、取り入れて前進しようとする柔軟さ。現実を語り、夢を語り、自らも学び、解決策を導く。第1回の「ひょっとこ!」から「このタコ!」への啖呵も痛快でしたが、周囲の男たちを時にきびしく時にやさしく、言葉と行動で巻き込んでいくさまは感動的です。彼女の代表作となることは間違いないでしょう。

ドラマは始まったばかり。まだまだ困難は降りかかってくることでしょう。それを和佳と仲間たちがどう乗り越えて行くのか。今度は片岡社長ほかさんしの男たちの出番となるのかもしれません。これから何度も泣かされそうですが、最後まで和佳と仲間たちの冒険に伴走していきましょう。

「ファーストペンギン!」放送情報

日本テレビ
毎週水曜 後10:00~

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文/武内朗