推しの作家さま #17 水橋文美江さん

2023/03/13 08:08

毎回イチオシのドラマ作家が登場する「推しの作家さま」。今回は、日本テレビで月曜深夜に「すきすきワンワン!」が放送中の、水橋文美江さんです!

水橋脚本が伝える、登場人物を通して映す社会性、現代性

水橋文美江さんは、坂元裕二さんや野島伸司さんと同じく、「フジテレビ ヤングシナリオ大賞」がきっかけでデビューし、’90年代の初めから数多くのテレビドラマを手掛け、初期の「ヤングシナリオ大賞」の名前を高めました。その確かな技術と手腕には、定評があります。’90年代に「妹よ」(’94年、フジテレビ)や「いつかまた逢える」(’95年、フジテレビ)、「僕が僕であるために」(’97年、フジテレビ)などをヒットさせたほか、2000年代にも「光とともに…〜自閉症児を抱えて〜」(’04年、日本テレビ)、「神はサイコロを振らない~君を忘れない~」(’06年、日本テレビ)、「ホタルノヒカリ」シリーズ(’07年〜、日本テレビ)など、個性的な作品を連発。近年でも、「母になる」(’17年、日本テレビ)、「みかづき」(’19年、NHK)、「古見さんは、コミュ症です。」(’21年、NHK)などの意欲作を多数執筆しています。

朝ドラ「スカーレット」(’19年~、NHK)では、戸田恵梨香さんや松下洸平さん、黒島結菜さんの新たな魅力を掘り起こして話題となりました。また、「24時間テレビドラマスペシャル」(日本テレビ)を数多く手掛けていることでも知られ、’21年に放送された平野紫耀さん主演「生徒が人生をやり直せる学校」も、彼女の脚本です。こうしてみると、スケールが大きくてアクロバティックなドラマ展開より、日常生活に根ざしたリアルな感情表現の豊かさが印象に残る作品が多いです。

そんな水橋さんの脚本にあるのは何と言っても、登場人物たちを見つめる視線の温かさ。主人公たちは皆個性的で、自ら困難を抱え込んでいることも多いし、時には世間の良識に抗っても自分の信じる道を貫くことを選びます。「スカーレット」の主人公・喜美子の朝ドラヒロインらしからぬ激しい生き方が話題になったのも、記憶に新しいところです。それでも水橋さんの視線はいつも主人公に寄り添い、「私は主人公の味方だよ」と語り掛けている。「その優しさに元気付けられた」という方も多いのではないでしょうか(「すきすきワンワン!」でも、コタくんやてんへの柔らかなまなざしが、ドラマのそこここに感じられますよね)。

そしてもう一つの特徴は、こうした個人に焦点を当てたドラマを多く描きながらも、社会性、現代性を忘れないことです。それを象徴するのが、新型コロナウイルス流行後の世界をいち早く舞台にした「世界は3で出来ている」(’20年、フジテレビ)や「#リモラブ〜普通の恋は邪道〜」(’20年、日本テレビ)を発表したことでしょう。どちらも極めてパーソナルなテーマを扱いながら、コロナ禍で生きる不自由さと救いがリアルに描かれていました。正論を盾に振りかぶらない水橋さんの、本領発揮だったと言えます。

さまざまな愛の形が心地よく共存する「すきすきワンワン!」

そして、放送中の「すきすきワンワン!」でも、ファンタジー的な物語の枠組みの中に、’23年ならではのリアルを見事に活写しています。深夜ドラマならではの登場人物の少なさも効果的です。不動産屋の柿田さん(おいでやす小田)もいい味を出していますしね。さまざまな愛の形が自然と同居しているのも、非常に今らしい。

それにしても、コタくんとてんの微笑ましくも“胸アツ”な心の交流には、毎回心を打たれます。全体が一種のツンデレ構成になっていて、回が進むにつれて、コタくんのてんへの愛がダダ漏れになっていくところが面白いですよね。そして、浮所飛貴くんの愛らしいことと言ったら…。シッポをブンブン振っているのが目に見えるようです。よく子犬系男子なんて言いますが、今回はそもそも犬の役なんだものね。

さらに、岸優太くんの圧倒的な存在感は、このドラマの肝でしょう。独身ニートの自称ダメ男・炬太郎の現在進行形のリアリティーを支えているのは、まさに岸くんのさりげない名演技の賜物です。劇中では、あまり具体的なことは語られませんが、コタくんは、おそらく多くのつらさを乗り越えて生きてきたんだろうなということが、岸くんの演技から伝わってきます。「小学校5年生が俺のピークだったな」なんていうセリフもありましたが、生きづらさを抱えて生きる人々には刺さるセリフだったんじゃないでしょうか。一人きりだと思っていても、てんやエリザベス(松本まりか)、ダブルダメ太郎の光太郎くんなど、実は多くの人(犬? ネコ?)に愛されていたと気づいていく過程も感動的で…。「過去が今を救うことだってある」というエリーことエリザベスの言葉は、’23年ならではの希望の象徴のように思えます。

そんなドラマも、いよいよクライマックス。コタくんが次第に自分に自信を持ち始め、てんとの関係も微妙に変化してきました。ファンタジーとしての綺麗なエンディングが待っているのか、はたまた、あっと驚く展開が待っているのか。いずれにしても、心がホッと温かくなるような結末と、コタくんたちの新しい明日に期待したいところですね。
 

「すきすきワンワン!」放送情報

日本テレビ
毎週月曜 深0:59~

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文/武内朗