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TVガイドみんなドラマ編集部
2023.2.27
✒推しの作家さま #15 北川悦吏子さん
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冬ドラマがたくさんスタートしている今回の「推しの作家さま」では、放送中のTBS系火曜10時「夕暮れに、手をつなぐ」の北川悦吏子さんが、満を持しての登場です!

’90年代ヒットドラマの基盤を作った“恋愛ドラマの女王”、北川悦吏子さん

北川悦吏子さんは、’92年「素顔のままで」(フジテレビ)のヒットで一躍その名をとどろかせ、その後も「あすなろ白書」(’93年、フジテレビ)、「愛していると言ってくれ」(’95年、TBS)、「ロングバケーション」(’96年、フジテレビ)、「ビューティフルライフ」(’00年、TBS)、「オレンジデイズ」(’04年、TBS)など時代を代表するドラマを次々と手掛けた、まさに平成ドラマの黄金期を代表する脚本家です。彼女の存在が当時のドラマシーンに与えた影響は計り知れず、さらに彼女の作ったスタイルが、’90年代のヒットドラマのスタンダードになったと言っても差し支えないほどでした。テレビドラマ70年の歴史を語る上でも、欠かすことのできない重要な作家の一人です。

北川脚本の最も大きな魅力といえば、なんと言っても、そのライブ感あふれるセリフのダイナミズムです。時に激しく、時に切なく。生き生きと語られる言葉たちは、時代を正しく反映して、見るものの心に届きました。そんなセリフの掛け合いのリアリティーは、俳優たちの演技や演出にも影響を与え、最終的に日本のドラマ全体のテンポ感をも変えました。もちろんそれは時代の要請であり、北川さん一人がもたらした変化ではないにせよ、彼女の功績の大きさは疑うべくもありません。

天真爛漫な空豆は、120%の北川ヒロイン!

そしてもう一つ、北川さんの描くドラマの大きな特徴が、チャーミングでエネルギッシュなヒロインの存在です。女性の社会進出やバブル景気もあいまって、’90年代にはポジティブでパワフルな女性主人公が多く描かれましたが、北川さんの描く女性キャラクターの天真爛漫さというんでしょうか、ある意味恐れを知らない真っすぐさ、素直さは、非常に特徴的です。時に強引とも思える行動力で周囲を巻き込む一方、繊細で傷つきやすい一面もある。ハンデを抱えているケースも多いのですが、根っこのところに深い自己肯定感があって、自ら立ち直る強さも持っている。個性的であるがゆえに、見る人によって好き嫌いが分かれることがあるのも、北川ヒロインのポイントかもしれません。

「夕暮れに、手をつなぐ」でもそのキャラクターは健在です。というか、こんなにあからさまなのは久しぶりじゃないでしょうか。広瀬すずさん演じる浅葱空豆、もう120%の「北川ヒロイン」です。北川さんオリジナル(?)の九州弁も実に効果的で、見ていてちょっと嬉しくなっちゃいました。そして空豆の破天荒な渦に巻き込まれていく、永瀬廉さん演じる海野音の穏やかな佇まいもまた、往年の北川作品の香りを思い起こさせて、ファンを喜ばせてくれます。

そんな2人が偶然出会い、恋が始まる(たぶん。今のところまだケンカばっかりしているけど)。まさに絵に描いたようなボーイミーツガールストーリー。2人を取り巻くキャラクターも実に多彩で楽しい。[Alexandros]の川上洋平さんがいい味出しているし、櫻井海音さん、田辺桃子さん、伊原六花さん、松本若菜さん、まっすー(増田貴久さん)・だーりお(内田理央さん)のズビダバ、そして夏木マリさんとみんなみんなひとクセありそうだし。そこここでヤキモキさせてくれそうな、そんなところも実に楽しみです。
  
誤解してほしくないのは、往年の人気作を思い出させてくれることが重要なのではないということです。北川さんをはじめとする多くの脚本家や演出家、俳優たちによって生み出された’90年代の日本のテレビドラマのスタイルは、世界のどこにもない独特なもの。日本で独自の発展を遂げ、一時は世界では通用しないと言われながら、いまでは世界中で注目を集めている’70〜’80年代のシティポップと同じです。事実、「夕暮れに、手をつなぐ」で初めて北川さんのドラマを見た人でも、面白いと感じた人がたくさんいる。それは、いわば「北川スタイル」とでも言うべき枠組みの持つ強さです。しかも、これはどこかから借りてきた枠組みではない。スタイルを生み出した張本人による、純正オリジナルなのですから。

とはいえ、時は2023年。北川さんも、かつてのやり方をなぞるつもりはないでしょう。今作は、『北川悦吏子青春ラブストーリーの総決算』とも言われていますが、キャリアを重ねた北川さんが改めてこの世代の恋物語に向き合うからには、おそらく今の若者たちに対する強い思いが込められているはずです。

過去、現在、恋、夢…空豆と音の未来は⁉

一つはモノづくりについて。音楽がこのドラマの大きなポイントであることは間違いないですが、インターネットで世界と瞬時につながれる今だからこそ、音楽に限らず、自分が思いを込めて何かを作ること、真摯に何かを伝えようとすることが難しくなっている。北川さんの中には、そんな問題意識があるように思います。嵐の吹き荒れるネット空間に立ち向かい、それでも何かを生み出そうとする若者たちに向けた北川さんのメッセージがテーマの一つになってくるのではないでしょうか。永瀬さん演じる音が、さまざまな出会いの中で自分の夢にどう向かい合っていくのか。注目したいです。

そしてもちろん、空豆と音の人生の行方について。恋の行方ももちろん気になります。さまざまなライバルも登場しているしね。でも、例えば2人が結ばれてそれですべて全てハッピーエンドとは行かない気がします。2人が出会った意味や、2人の心のつながりは、もう少し長いスパンで語られるべき物語なのかもしれません。空豆と音の夢の行方や、過去と未来をつなぐ2人の人生の行方にまで影響を与えるような。年齢と経験を経た北川さんの到達した青春の答えを教えてくれるような…。そんな結末を期待したいですね。

2023年の今、30年のキャリアを経て新たに取り組む青春ラブストーリーだからこそ表現しうる北川さんのメッセージに耳を傾けましょう。今後の展開が楽しみです。
  
  
  
文/武内朗
TVガイド15代目編集長。毎年テレビ界を支える優秀な脚本家に贈られる賞「向田邦子賞」運営に長く携わる。現在、TVガイドアーカイブチーム代表として書籍「テレビドラマオールタイムベスト100」、「プレイバックTVガイド」などを手掛ける。今回、ドラマファンの立場から脚本家の方々についておしゃべりをする趣向で当コラムを連載。
  
※向田邦子賞とは、故・向田邦子さんがテレビドラマの脚本家として、数々の作品を世に送り出し活躍してきた功績を称え、現在のテレビ界を支える優秀な脚本作家に贈られる賞として、1982年に制定されたもの。

■放送情報
「夕暮れに、手をつなぐ」
TBS 毎週火曜 後10:00~

  

「’90年代ドラマを彩った推しの作家さま」

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