鷲尾P制作秘話トーク②「東京ロケへの情熱が都知事を動かした」

2022/05/30 17:05

絶賛放送・配信中の「TOKYO VICE」(WOWOWプライム)。困難極めた東京ロケについて、鷲尾賀代エグゼクティブプロデューサーにインタビュー。

――第1回から、その映像美とマイケル・マン監督のこだわりに度肝を抜かれました。

「マイケルが選んだ舞台で撮影した第1回で、作品の今後のトーンが決まることもあって、 こだわりは相当なものでした。決して妥協もしない、あきらめない監督なので、彼の要求に対して『無理だ』と言っても“どこまで努力した末の無理なのか”を逐一、聞いてきましたし。東京での撮影に一貫してこだわっていましたから、撮影にふさわしいロケーション地が、フィルムコミッションが充実している北九州にあったと聞いても、『「TOKYO VICE」だろ? 北九州じゃないでしょ?』って。で、その結果、ロケだけでなく、スタジオも東京に構えて最後まで撮影することになって。全体の9割を占める日本人スタッフたちが『もうマイケルとやりたくない』って言うくらい大変な撮影現場だったんですけど(笑)、いざ終わってみたら、みんな口々に『楽しかった。いい経験だった』と。私自身も“こだわりとか熱量って画面に出るんだ!”って唸りましたね」


――近年では『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』(2006年)、『ウルヴァリン:SAMURAI』(2013年)など”TOKYO”を舞台にした作品は多いですが、我々が知るリアルな“東京”を見たのは今作が初めてでした。

「“日本人が見ても違和感のない東京に見えるか”――。実は、今回共同制作をしているHBO Maxやアメリカ側のスタッフもですが、マイケル・マンが一番気にしていたんですよ。例えば舞台はバブルが終わった直後で、まだ“飲み”の文化が残っていた時代ですから、新人歓迎会とか飲み会とか、そういう『日本ならではのナイトライフを描きたい』と言っていて。そこを理解してくれているうれしさは日本人として当然ありましたし、なおかつマイケルは2カメ(別のアングルのカメラ2台)で撮影するんですけど、毎回どちらを使ってもいいくらい画(え)が美しい。これを見せられたらスタッフも納得せざるを得ないだろうなと思いました」
 
――東京は“世界で最も撮影が難しい都市”だと言われていますが、よく撮影許可が下りましたね。

「日本は、撮影誘致に関するルールがまったく整備されていないんです。誰か1人がOKしても、担当者の考え方やタイミングによって許可が下りたり下りなかったり、すべてが曖昧で。日本人でも理解できない手続きを海外のスタッフが理解できるわけがないじゃないですか? そんな状況の中、映画『TENET テネット』(2020年)でクリストファー・ノーラン監督に世界各国の撮影場所を準備した、すご腕のロケーション・スーパーバイザーのジャニス・ポーリーをマイケルが連れてきて、彼の提案で小池百合子都知事のもとに挨拶に行って。マイケルが小池さんに直談判したのは渋谷ロケでしたが、都知事が協力すると仰ってくださった様子がメディアで流れたことで、目に見えない部分で、その後のロケ地との交渉にも作用したのではと思います。交渉したジャニスの粘り強さにも感服しました」


――クランクインは2020年の3月。直後、新型コロナウイルスの影響で撮影の中断を余儀なくされ、およそ半年後の11月から撮影を再開、最終回を撮り終えたのは2021年の6月。コロナ禍の影響はいかがでしたか?

「例えば通りを一つ区切って撮影するとなったら、ハリウッドのやり方に従うと、出演者、エキストラ、さらにその周辺のお店の人たちも含めて、全員がPCR検査で2回陰性にならないとダメなんです。また、通りを貸し切って撮影するにあたり、ロケで使用したお店はもちろん周囲に対しても、営業補償をすべてこちら側でやって。コロナ禍での制作のルールブックがめちゃくちゃブ厚くて最初は驚きましたが、やってみたら素晴らしいシステムでした」

――ちなみに第1回のシーン、渋谷のスクランブル交差点ではマスクをしている人が数人しか映っていません。

「マスクをしていない数百人は全てエキストラです。ジェイクが勤める新聞社のシーンでも、300人くらいエキストラを雇って。本当に贅沢ですし、そういうところにもきっちりお金を掛けているのは、さすがハリウッドだと思いました。製作費に加えて、先ほども言った粘り強い交渉もあって、絶対に通行止めはできない渋谷の百軒店(ひゃっけんだな)をはじめ、新宿、六本木などの都心から赤羽、立川、東京近郊ほか、関東近県でのオール日本ロケが実現したんです」


――さまざまな障壁を越えて、令和の時代にまだ昭和の怪しい雰囲気が残る、渋谷道玄坂の百軒店や新宿、六本木など、都心部での撮影を敢行。看板やチラシなど1990年代の東京を再現した美術にも驚かされます。

「もちろん、“引き”の画では2000年代にできたビルが映ったりはしてますよ。でも、あまりに目立つものはCGで消して。“寄り”の街並みは日本の美術スタッフが、現存しなかった看板をいかにも90年代にありそうなものを再現したり。実在する缶コーヒーの缶も、90年代のデザインに作り替えたり。リアリティーに関しては“おかしいんじゃない?”っていうくらい(笑)、尋常じゃないこだわりを見せていました。またスタジオでの追加撮影では、赤羽のジェイクの部屋をはじめ、ロケで使ったセットをそのまま移築したり。日本人スタッフの再現力、技術力にはマイケルも驚いていました」

――そんな監督、スタッフの情熱とこだわりが詰まった本作。終盤を楽しみにしている視聴者、これからWOWOWオンデマンドで見るファンにひと言メッセージをお願いします。

「かれこれ全話30回以上、見ていると思うんですけど、最近やっと視聴者目線で見られるようになってきて。自画自賛じゃないですけど(笑)、何回見ても楽しめる、新たな発見がある作品だなと思ったんですね。それくらいマイケル・マンは隅から隅までこだわっているので、第1回からご覧になった人も、これから見る人も繰り返し楽しんでください。あと終盤は、警察内の内通者は誰なのか、ジェイクと片桐が並んで歩く第1回の冒頭にどうつながるのか――。いろんな意味で裏切る残り2話を、どうぞよろしくお願いします!」




■Profile
鷲尾賀代(わしお・かよ)

兵庫県出身。青山学院大学卒業後、新卒社員としてWOWOWに入社、営業部に配属された後映画部に異動。2011年に米・ロサンゼルス事務所を開所、代表駐在員として赴任。メジャースタジオを含む契約に従事し、3年目から制作にも携わる。2021年10月に日本に帰任、現在は事業部のチーフプロデューサーとして番組制作を担当。2021年3月にはバラエティ誌の「世界のエンターテイメント業界でインパクトを与えた女性」に選ばれ、10月には、ハリウッド・リポーター誌の「全世界のエンターテインメント業界で最もパワフルな女性20人」にも選出。

「TOKYO VICE」放送情報

WOWOWプライム
毎週日曜 後10:00~

山下智久ドラマ関連情報

  
撮影/蓮尾美智子 取材・文/橋本達典