鷲尾P制作秘話トーク➀「山下智久さんの世界への足がかりに」

2022/05/29 17:05

絶賛放送・配信中の「TOKYO VICE」(WOWOWプライム) 。制作秘話や日本人俳優について、鷲尾賀代エグゼクティブプロデューサーにインタビュー。

「ヒート」(1996年)、「マイアミ・バイス」(2006年)で知られるハリウッドの巨匠、マイケル・マン監督がオール日本ロケで撮影した本作。スティーヴン・スピルバーグ監督の映画「ウエスト・サイド・ストーリー」(2022年)で主役に抜擢されたアンセル・エルゴートを主演に迎え、日本からは渡辺謙、菊地凛子、伊藤英明、笠松将、山下智久ら豪華キャストが参加した、超一級のクライム・サスペンスです。

ドラマの舞台は1990年代の東京――。日本の大手新聞社に就職し、警察担当記者となったアメリカ人青年ジェイクが、特ダネを追いかけるうちに片桐刑事(渡辺)と出会い、忠告を受けながらも危険な闇社会へと入り込んでいく…というスリリングな展開の物語。火花散る、日米俳優陣の鬼気迫る演技が見どころの一つでもあります。
 
 
――東京の大学を卒業後、猛勉強の末に日本の大手新聞社で外国人記者となった主人公のアメリカ人青年・ジェイクを演じるのは、映画「ウエスト・サイド・ストーリー」で見事な歌声を披露したアンセル・エルゴートさん。冒頭から彼が話す流ちょうな日本語に驚かされました。

「アンセルは、とにかく日本語をがんばっていましたね。歌も上手いだけあって耳がいいのか、日本語の発音もとてもきれいで。撮影最終日には、私が英語で話しかけると、彼は日本語で返すくらい日本語をマスターしていました。『宣伝のタイミングでまた日本に戻って来てね…』と別れて。『記者会見は日本語でするから』というアンセルの言葉を冗談だと受け取っていたんですけど、再来日した際は、さらに上手になっていた。会見はもとより、インタビューもほぼほぼ日本語でこなしていました」


――日本語を発声するだけには留まらず、「意味を理解して、ちゃんとやりたい」と必死に勉強したそうですね。

「耳がいいことに加えて努力家なので、日本語のセリフを覚えるだけでなく、その意味をひとつひとつ理解しながら頭に入れていて。演技面でも、しょっちゅう監督のマイケルと打ち合わせをするなど、随所にストイックさを感じました。撮影が休みの日も英語を話せないスタッフをお茶に誘ったり、気さくな人柄もみんなから愛されていました」


――演じるジェイクも勉強家で行動力がありますが、アンセル本人もフットワークが軽くて。渡辺謙さんの山荘や伊藤英明さんのご実家にも行かれたと聞きます。

「謙さんの軽井沢のお家に遊びに行って、お正月は岐阜にある伊藤さんのご実家で過ごして『裸の付き合いをしました』、『馬が合いました』って(笑)。そういう日本人ならではの生活を経験して役に生かしたかったんだと思います。あと、ジェイクが暮らす4畳半くらいの部屋が(東京の)赤羽にある設定なのですが、『あそこに泊まりたい』って言い出したこともありましたね。本当にストイックだし、演技に関していい意味でどん欲な人なんだなと思いました」

――そして、第4回から登場した謎めいたカリスマホスト・アキラ役を演じているのは、山下智久さん。これまでにない役どころを怪演し、見る者に新鮮な驚きをもたらしていますが、撮影現場での様子はいかがでしたか?

「役者さん全般に言えることだと思うんですけど、悪役を演じるのはすごく楽しいそうで。特に山下さんは、これまでヒーロー的な役どころや好青年の役が多かったので、本当に毎日、楽しそうでした。あと、ご本人もインタビューで仰っていましたが、20代前半から海外へ出たいと思い、ずっとオーディションを受けてきて、落ち続けてきて。で、今回オーディションでこのアキラ役を勝ち取ったので、自分にとってすごく大事な役だ、と。今回もいつもと変わらず謙虚で控えめな印象でしたが、非常に熱量を感じましたね」


――山下さんとは、鷲尾さんがロサンゼルスに駐在していた時から面識があったそうですね?

「WOWOWがグラミー賞授賞式を中継する際、スペシャルゲストとしてご出演されたのがご縁で、一緒に事前取材などしていて。その時に、『1枚目のドアを破るのが難しいですよね』と話されていたのが印象的でした。ですから、ここまで日本で業績があって、なおかつ人気もあって、昔から海外志向の強い彼が、世界でより羽ばたくための助けになればいいなと。海外は出演履歴を重視するので、この作品がその足がかりのひとつになってくれたらうれしいなと、陰ながら応援しています」


――これからドラマ終盤にかけて、アキラがどうストーリーにからんでくるのか気になります。

「これまで主要キャストとのからみがなかったアキラですが、終盤は佐藤(笠松)と対峙します。このシーンは皆さんきっと、“あぁ…(溜息)”ってなるんじゃないでしょうか。ネタバレになるので多くは言えないですけど、とにかく普段見ることができない山下智久さんが見られることには間違いないです。ご本人も記者会見で仰っていましたが、本当クソだな、って思うはず(笑)。逆に言うと、それくらい素晴らしい演技でした」

――アキラと対じするヤクザの若きリーダー・佐藤を演じるのは、笠松将さん。彼の出演は製作陣にとって、うれしいサプライズとなったそうですね。

「(2011年から)私がアメリカに10年ほどいたこともあって、(2013年に俳優デビューした)笠松さんのことは存じ上げなかったのですが、一番の驚きは彼でした。撮影現場でも、みんなが『グレイト・サプライズ!』と称えていて。1話と最終話では存在感が全然違う。佐藤=笠松さんの存在感がここまで大きくなるとは想像しなかったですね。しかも笠松さん、撮影開始当初はまったく英語が話せなかったんです。でも、話せない人の発音じゃない。とても美しいんです。ということはアンセルのように、めちゃくちゃ耳がいいのか、陰で相当な努力をされたのか…。きっと、その両方だと思うんですけど、ともあれ彼の努力と醸し出す存在感には目を見張るものがありました。きちんと英語が話せるようになったら、世界に出ていける人だと思います」


――アンセルしかり、山下さんしかりですが、回を追うごとに、笠松さんもお芝居の“凄み”が増します。

「佐藤は若手としてヤクザの世界に入ってきて、最初は“慣れないな…”という様子が見て取れます。笠松さん自身も、撮影現場でそう感じていたんじゃないかなと思っているんですね。ハリウッドスターのアンセル・エルゴートがいて、渡辺謙がいて、目の前には巨匠・マイケル・マンがいて。そのマイケルが何度もオーディションをして、撮影直前にようやく佐藤役に決まって――。時間が少ない中、英語を覚え、必死で役を自分のものにしていく笠松さんの姿が佐藤と重なったんじゃないのかなと。かなり知名度がある役者さんもオーディションに参加する中、笠松さんのポテンシャルを見抜いたマイケルの目はさすがだと思います」

――本作で山下さん、笠松さんという20~30代の俳優が「1枚目のドア」を破ろうと奮闘していますが、海外事情をよく知る鷲尾さんの目から見て、今後、日本人の若手俳優が世界に出る可能性はどれくらいあるでしょう?

「今、世界はダイバーシティー(多様性)の時代になっていますから、大いに可能性はあると思います。それは山下さんや笠松さんのように表に出る人だけでなく、裏方の人も含めて。これまでは白人の男性にしか得られるチャンスがなかったところに、性別や人種に関係なく募集がかかっているので。スキルがないのは経験がないからであって、まずチャンスを与えなければ始めらない。そういう考え方に変わってきたということは、私にも言えることです(笑)。やる気と行動力さえあれば、誰にでもチャンスはあるのではないでしょうか」



■Profile
鷲尾賀代(わしお・かよ)

兵庫県出身。青山学院大学卒業後、新卒社員としてWOWOWに入社、営業部に配属された後映画部に異動。2011年に米・ロサンゼルス事務所を開所、代表駐在員として赴任。メジャースタジオを含む契約に従事し、3年目から制作にも携わる。2021年10月に日本に帰任、現在は事業部のチーフプロデューサーとして番組制作を担当。2021年3月にはバラエティ誌の「世界のエンターテイメント業界でインパクトを与えた女性」に選ばれ、10月には、ハリウッド・リポーター誌の「全世界のエンターテインメント業界で最もパワフルな女性20人」にも選出。

「TOKYO VICE」放送情報

WOWOWプライム
毎週日曜 後10:00~

山下智久ドラマ関連情報

  
撮影/蓮尾美智子 取材・文/橋本達典