ドラマ「群青領域」物語も折り返し地点。小松昌代制作統括に、物語の解説や今後の見どころ、本作が伝えたいことを語るインタビューの後編。
演奏シーンで見せた “プロの業”。想像を超える芝居で、無防備に体現してくれる
――シム・ウンギョンさんの演技は、もはや「演じている」とかではなく「体現」という言葉がふさわしい、ということなんですね!
「はい。彼女がものすごく考えてきているのか、その場で感じることなのかは分からないのですが、例えば、泣くにしても、ちゃんとストロークがあるんです。1話の場面で、陽樹にいろいろ言われたジュニが家に帰ってきて、テレビで流れる自分のニュースを見て、泣くんです。その場面で、ウンギョンさんは“涙が出るまで”をものすごく長くやったんです。それが面白くて、切れないんです。毎回いろいろ泣くんだけれども、そのたびに違うんですよね。それを見て、ジュニってきっとこういう人なんだなって、彼女に見せられている感じがものすごくある。だから、それはまさに最初の質問にあった、彼女が韓国人であるということは決してキャスティングのポイントではなかったんだけれども、もしかしたら思わぬ効果があったのかもしれないです。彼女自身も外国から日本にやってきて、違う言葉で、役者ということをずっと続けていますよね。そのあたりが重なるのかもしれません。ただ本当に、4話の弾けるか弾けないかという一直線のお話の時も、そこにものすごく繊細なお芝居で体現して、大きな起伏を持ってくる。そのことで最後の演奏に迫力が出てくるし、気づくことが、たくさんあります。話が飛んじゃうんですけど、4話の最後でジュニが演奏しますよね。あ、弾けたっていうことに多分最初はホッとするんだろうけど、慣れてきたとき、ちょっと笑うんですよ、弾きながら」
――鳥肌が立ちます!
「普通だったら一生懸命弾いていますっていう表情をするんでしょうけれど、彼女は一瞬笑うんです。あれはいわゆる“プロの業”みたいなものだと思うんですけど、そういう感情の動きを、こちらが想像しないような表情とか、体中でとても素直に、無防備に体現するので、そこに我々が引っ張られてというか、それが答えなんだな、って思いながらやっている感覚がすごくありますね」
互いに関わり合い分かり合うことで、新たなものが育っていく
――音楽の話題が出たところで、少し角度を変えまして。劇中のバンドIndigo AREAが演奏する曲にも込められているものがあるのでは、と予想しまして、1話で演奏する「OUT LANDER」の歌詞を頂いたんです(記事の末尾に掲載)。すると、“暗いところに落ちているけれども、あきらめずに戦うんだ”という、強い意志を描いた曲でした。この歌詞もまた、物語とシンクロしているのでしょうか?
「この『OUT LANDER』という曲は、絶頂期にあるindigo AREAの曲なんです。なので、領域を踏み越えて戦っていくんだぞって宣言しているような歌ですね。で、それがそうもいかなくなって、いろんなことが起こり、この物語が始まる。そういうスタート地点での曲です」
――絶頂期の曲であること、さらに歌詞の内容も考えると、ある意味、陽樹を象徴している曲ということでもあるのでしょうか?
「そうですね。結局、陽樹も、ものすごく不安を抱えているんです。1話で、インタビューに対してジュニのピアノのことを『俺の滑走路なんだ』って答えておきながら、本当はそれが無くても俺は飛んでいけるんだって、歌詞に似たようなことをジュニに浴びせるわけです。だけど、実はそれは裏返しで、その後も、ジュニを傷つけた自責ではなくて、ジュニの影が自分の中で強くなっていくことで苦しむんですよね。離れようと思ったのに、離れたことで逆に、ジュニから自由になれないんです」
――そのことを、恵(SUMIRE)にも指摘されていました。
「彼女は一番ブレないんです。Indigoのメンバーやジュニのほうが、いろいろ抱えて揺れますけれど、恵は揺れない人なので、悩める陽樹を見て、少しずつ気持ちが離れてきています。そんな陽樹が、どうやって立ち直っていくのか、最終的にジュニとどう向き合うのか。陽樹だけではなく、バンドメンバーもそうですね。レイジ(細田善彦)もいろいろあるんですけど、きちんと自立していくし、拓真(落合モトキ)も本当はずっとジュニが好きだったんだけど、そこから次のステップに向かいます。ヤナ(田中俊介)も生まれてくる子どものために頑張る。やりながら最近感じているのですが、みんな生まれ変わるわけじゃなくて、人ってそんなに強くないんだけれど、それぞれの中に本当は持っているものが、いろんな関係の中で目覚めていくんだろうなって思います」
――タイトルにもなっている“群青領域”。侵されたくない場所から物語が始まって、“青木荘”という外の優しい場所に傷ついた人々が集まってくる、という対比がとても印象的です。そこに込めた思いをお聞かせください。
「領域って、自分の心の中にある場所もあれば、そうじゃなくて、例えばジュニの場合だったら、音楽をやっている世界と普通の人として暮らす世界、というように、外にある自分が属している場所もありますよね。きっと皆さんそれぞれに、領域と世界があるだろうと思うんです。それを互いに踏み越えたり、守ったり。なので、領域というのは、この物語を見ている方たちが、ご自身に寄せてイメージしてくださることが一番だなと思っています。この番組は、こういう風に見てください、こういう物語なんです、っていうことをあまり誘導したり提示したりはせずに、とにかく、見てくださる方の感じ方に委ねたい。それをお互いに、認め合っていこうよ、大事にしていこうよ、という思いです」
――視聴者の皆さんも、同じ気持ちなのではないかと思います。
「作っている、現場にいる私もいろんな体験をしています。本当に、みんなの共鳴から何かが生まれるんだと。見てくださっている方もそうだと思うんです。やっている我々も。そういう関係性の中で、きっと感じるものが、どんどん生まれて、育ってくれたら良いなと、思います」
■Profile
小松昌代(こまつ・まさよ)
フリーで日本テレビやテレビ朝日でドラマ制作に携わった後、NHKエンタープライズでプロデューサーに。これまで連続テレビ小説「おひさま」(NHK総合ほか)、大河ドラマ「花燃ゆ」(NHK総合ほか)や「少年寅次郎」シリーズ(NHK総合ほか)で制作統括を担当。
「群青領域」放送情報
NHK総合
毎週金曜 後10:00~