3期目の岸辺露伴 演出・渡辺一貴の『ジョジョ』映像化の覚悟

2022/12/20 09:09

2022年末も「岸辺露伴は動かない」ドラマ版が放送。企画発案者で演出を手掛ける渡辺一貴さんに、今回の2作品と、主演・高橋一生さんの魅力について伺いました!

荒木飛呂彦さんの名作コミック『ジョジョの奇妙な冒険』から派生した『岸辺露伴は動かない』シリーズ。相手を本にして生い立ちや秘密を読み、指示を書き込むことができる“ヘブンズ・ドアー”という特殊能力(ギフト)を持った漫画家・岸辺露伴(高橋一生)が、奇妙な事件や不可思議な現象に立ち向かう物語のドラマ化第3期が、12月26日(月)、27日(火)に放送されます。

放送を前に、シリーズも3期目を数える中で渡辺監督が大事にしていることを伺いました。

シリーズが続くのは、1期のアプローチが間違っていなかった証明


――今回は『ホットサマー・マーサ』と『ジャンケン小僧』の2作を映像化したとのことですが、まずは、この2つを選んだ理由をお聞かせください。

「『ホットサマー・マーサ』は今年(2022年)の春に発表された新作なのですが、もし新作が出たら、ぜひ実写化させていただきたいという話はしていたんです。ですので、それが今回選んだ理由の一つです。それに『ホットサマー・マーサ』の題材自体も今までになく、とてもジャーナリスティックというか、メッセージ性があり、しかも、コロナ禍の現代を彷彿とさせるような世界観です。今まで我々が描いてきたドラマの世界は、現実と地続きというか、ちょっと離れた世界くらいの感じだったんですね。完全なフィクションの世界というよりは、もしかしたら存在するかもしれない世界という方向性で描いていたのですが、『ホットサマー・マーサ』はフィクションの世界のリアルが、我々の現実のほうに近づいてきた感があった。そこがすごく面白いなと思ったんです。コロナだけでなく、何か大きな災厄が起こってしまったときに人間が見せる滑稽さや愚かさ。そして、表現する側の極端な自主規制の問題や過剰なファン心理。そういった、すごく今日的なテーマがたくさん散りばめられているので、とてもやりがいのある話だなと思って選ばせていただきました」


――『ホットサマー・マーサ』で敵役として登場するイブを演じたのは古川琴音さんです。とても難しい役だったと思いますが、演出する中で感じた古川さんの魅力を教えてください。

「古川さん演じるイブは、僕らの中では“シリーズ最強の敵”と呼んでいます(笑)。これまでも露伴はいろいろと危険な目にあってきたんですけど、今回は命の危険にさらされるんですね。しかも、イブは何かに取りつかれているとか、不思議な力を持っているとかではなく、生身の人間。つまり、露伴をこれまでで一番追い詰めていくのが生身の人間だというところが、もしかしたらこのエピソードのキモなのかなという話もしていたんです。だから、イブが露伴に抱いている愛情と、その裏返しの嫉妬や、そこから出て来る狂気。そういったものがとても重要になってくるんですが、それを古川さんが本当に的確に、そしてさらに増幅させて表現してくださった。その結果、すごいイブになっていると思います」

――『ジャンケン小僧』のほうは、昨年も映像化したいとおっしゃっていましたよね。

「はい。前々からやってみたいと思っていた題材です。そもそも私自身が『ジョジョの奇妙な冒険』の世界を映像にしたいと思ったきっかけになったエピソードでもありましたから。だから、3期目で満を持してやらせていただいたという形です。たぶん今回の2つの話は両極端。かなりメッセージ性の強いものと、かなり娯楽性の強いものなんですが、だからこそ、それぞれ岸辺露伴の違った一面を見ていただけるんじゃないかと思っています」

高橋一生さんと最も細かく話をしながら撮影を進めた今期

――露伴を演じられている高橋一生さんとは、とても長いお付き合いになります。今回またご一緒してみて、さらに感じた一生さんの魅力や進化はありましたか?

「1期2期も、もちろん同じ岸辺露伴であり高橋一生さんであるんですけど、たぶん1期と2期では、見え方が違っていると思うんです。それは今回もきっと同じで、僕らはこのチームで積み重ねたものを3年目にどう出すかということを考えました。そして一生さんは一生さんで、この2年間いろいろなお仕事をする中で積み重ねてきたものを、露伴を通して更に上乗せして出してくださっている気がします。正直、僕としては、そんなに一昨年と変わったことをしているとは思っていないのですが、参考に一昨年の映像を見てみると、やはり見え方が違っていたり、表現の仕方がちょっと変わっていたりするんですね。それは我々にとっても発見だったりしますので、視聴者の方たちにも1期2期と見比べて、『こういうところが変わっているな』という具合に楽しんでいただけたらと思っています」

――渡辺さんからご覧になって、第1期、2期の露伴および一生さんとは、具体的にはどのような部分が変わっていると感じますか?

「荒木先生の言葉を借りると凄みが増したということでしょうか。先ほど『ホットサマー・マーサ』の話題でも言いましたが、今回のエピソードは2話とも露伴がかなり追い詰められていく話です。結構苦悩もしますし、命の危険にもさらされる。露伴はいつも自分から火の中に飛び込んで行っちゃう人なんですけど、今まで以上に自分の身を危険にさらしていくのが7話と8話だと思います。そういう意味で、謎に対する向き合い方が第三者的というより、その中にどっぷり入っていく向き合い方になっている。そこがもしかしたら今回の特徴なのかもしれないですし、そうやってダイレクトに敵と対峙していくところが、一生さん演じる露伴が凄みを増しているように見える理由なのかもしれないです」

原作で描かれるスタンドバトルを芝居に落とし込むのは、細かい調整の連続

――作品に入る際、渡辺さんと一生さんは、どのようなコミュニケーションを取っておられるのですか?

「実は、たぶん今回が一番作品のことに関して話をしたかもしれないです。まず『ホットサマー・マーサ』は時間が飛ぶ話でもありますし、すごく細かいところに細かいメッセージが入っていたりもするんですね。だから、それを読み解くのが楽しくもあり難しくもあって、シーンごとに一生さんと『ここはこういうことだよね』とディスカッションしながら進めていきました。『ジャンケン小僧』は、物語自体はジャンケンをする二人のバトルの話なので、とてもシンプル。ただ、原作の『ジョジョの奇妙な冒険』の世界線で描かれているスタンドバトルを、今回の『岸辺露伴は動かない』の映像の世界に落とし込むとき、微妙なアレンジを施していかなければならなかったんです。なので、そのあたりの塩梅も、細かく一生さんと話をしながら進めていきました」

――その“微妙なアレンジ”について、具体的に教えていただけますでしょうか。

「大きくは2つあって、ひとつは身体的な動きですね。『ジャンケン小僧』は漫画では最後に飛ぶんですけど、実際には人間は飛ばないので(笑)、そういうところはアレンジしています。僕自身もそうなんですけど、原作ファンの方は、そのコマが頭に焼き付いていて、それがどう再現されるのか? というのを待っているところがあるとは思うんです。でも、そこにこだわりすぎてしまうと、映像作品としては荒唐無稽になってしまう。だから、僕自身はコマ割りや画の力にはあまり引きずられないようにと考えています。とはいえ、やっぱりどこかで少し原作の表現を想像させたいとも思うので、その部分での本当に細かいすり合わせをして作っています。それだけに、もちろん一度見ていただくだけでも楽しめると思うんですけど、何度も何度も見ていただくと、一生さんが本当に細かい目の動きをしていることに気づくと思うんです。説明はしていないんですけど、実は、それには全部意味がある。そういうことも含めて、原作のストーリーの中で描かれていることを現実の人間の芝居に落とし込んでいくとき、どこまでそれを再現できるのか? 表現の中に入れていけるのか? ということは深くお話ししました」


――もうひとつは、どんなことだったんでしょう?

「もう一つはセリフですね。ジャンケン小僧と露伴のやりとりは、ずっと一対一の勝負なので、劇画調というか、二人芝居の感じがあるんです。でも、それをそのまま実写のセリフのやりとりにすると、実際の会話のリアリティからは浮いてしまうところが出てきてしまいます。だから、ちょっとした語尾の言い回しや、ちょっとした言葉の変更などで、そういった違和感が緩和され、自然に見ていただけるようにと、撮影現場で話しながら撮っていきました」

柊木さんとの出会いで、『ジャンケン小僧』を映像化する覚悟ができた

――相手のジャンケン小僧を演じているのは、柊木陽太さん。このエピソードは相手が子どもでも一切手加減をしないという、露伴らしさが表れた話でもあります。その分、一生さんと真っ向から対峙することになるジャンケン小僧役の役者さんを選ぶのは、大変だったのではないでしょうか?

「『ジャンケン小僧』をやると決まったとき、ジャンケン小僧役ができる方がいなかったらこの話はできないから、役者さんが見つからなかったらやめようという話はしていたんです。それでいろんな方とお会いしました。柊木くんは、すごくどっしりとしていて、僕よりも大人だなというような落ち着きを持っていたんです(笑)。原作の『ジャンケン小僧』は本当に“小僧”なので、少し印象が違うんですけど、柊木くんだったら、もしかしたらジワジワっとくる怖さみたいなところが出せるかなと思いましたし、そうなることで視聴者の皆さんに、リアルな捉え方をしてもらえるのかなと思ったんです。逆に言うと、いろんな方を見て来た中で、柊木くんしかいない!というような出会いだった。つまり、柊木くんに出会えたことで『ジャンケン小僧』をやろうという覚悟ができました」

支持していただいた1期の「初心」を忘れずに取り組んでいきます!

――そういったキャスティングの妙や、先ほどおっしゃっていた「『ジョジョの奇妙な冒険』の世界を『岸辺露伴は動かない』の映像に落とし込むときは微妙なアレンジが必要」という点も効果的に働いた結果、シリーズも3期を数え、まさに本編の『ジョジョの奇妙な冒険』のパラレルワールドのようなNHK版『岸辺露伴は動かない』の世界線が出来上がってきている印象があります。渡辺さんご自身は、そういったような手応えを感じていらっしゃいますか?

「この企画は本当に自分の妄想を形にさせていただいているような感じなので、演出家としては、すごく贅沢で幸せな進め方をさせていただいているんですね。それだけにあまり手応え的なものを考えたことはないんですが、僕たちが1期でやったことが良い反響をいただいたということは、自分たちのアプローチは間違っていなかったんだなという証明だとも思うんです。だから、それは2期も3期も変えてはいけないところだと思って、初心を忘れずにというか、最初にこの企画に取り組んだときの思いを忘れずにやろうというのは、我々チームの合言葉でもあります」

――『岸辺露伴は動かない』チームの中に、ある種の芯と言いますか、ブレずにやっていこうという思いがあるわけですね?

「そうですね。最初に1期のような世界観をやろうと考えた部分に関しては、1期も今期もブレていないです。ただ、やっぱりいろんな感想や反響をいただくので、そういった情報が入ってくると逆に僕たちがブレてしまう(笑)。だからブレないように、何か反響をいただいたときも『一昨年、僕たちは何を考えていたんだろう?』というところに立ち戻って、その課題に取り組むということをしています。そうやって『地に足をつけてやろうね!』という気持ちが、このチームの共通認識でもありますから!」

■プロフィール
渡辺一貴(わたなべ かずたか)

1969年生まれ。’91年NHK入局。主な演出作品は「監査法人」(’08年)、「リミット~刑事の現場2」(’09年)、「龍馬伝」(’10年)、「平清盛」(’12年)、「お葬式で会いましょう」(’14年)、「まれ」(’15年)、「おんな城主直虎」(’17年)、「浮世の画家」(’19年)、「70才、初めて産みますセブンティウイザン。」(’20年)など。

「岸辺露伴は動かない」放送情報

NHK総合
12/26(月)、12/27(火)後10:00~

【放送ラインアップ】
12/26(月)「ホットサマー・マーサ」
12/27(火)「ジャンケン小僧」

取材・文/髙橋栄理子

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