テレビ大阪開局40周年を記念した2本のドラマを担当するプロデューサーに制作秘話を聞く第2回。「ちょこっと京都に住んでみた。」制作のさらなる深層に迫ります。
木村文乃さん、近藤正臣さんも感極まったラストシーン
――最終回を終えました「ちょこっと京都に住んでみた。」。今回は小山さん(古舘寛治)や吉田くん(玉置玲央)が初登場して、前回のスペシャルよりもにぎやかに物語が進みましたが、やはりなんといっても、佳奈さん(木村文乃)と茂さん(近藤正臣)の心の交流が、一番の見どころだったと思います。
「はい。個人的には、最終回の落語を聞くシーンが印象深いです。茂さんが、ちょっと泣き笑いというのか、そういう表情を見せるんです。最終回の前半で、古くからの友人のお葬式帰りの茂さんと、親友の結婚式に出席した帰りの佳奈さんが、一緒にご飯を食べる場面があって、佳奈さんから『来週引っ越すことにした』と告げられます。その後、ピクニックなど残りの京都滞在を楽しむ姿があって、その中で小山さん、吉田くんとも一緒に銭湯に落語を聞きに行くんです。お葬式がテーマになっている『向こう付け』という上方落語で、本来は面白く笑える話なんですけど、それを聞きながら、茂さんにとっては泣き笑いというか。いよいよ佳奈さんともお別れというのも分かっていますし。あのシーンの茂さんの表情は印象深かったですね」
――最終回に近づくにつれ、茂さんが「当たり前のこと言うても、ええよ」と言ったり、佳奈さんとのやりとりも、より親密な空気になっていきました。演じている木村さんと近藤さんの距離感も縮まっていたのでしょうか?
「そうですね、これは私の主観なんですけども、今回の撮影を見ていて、お二人とも感じ入るところがあったんだろうなと思います。特にラストのお別れのシーンは、現場で見ていてグッときました。お二人も感極まっている印象を受けましたね。お互いとてもリスペクトし合っているし、大好きだと思うんです。そういう温度感が伝わってきましたし、これでいったんドラマが終わる、ということもあって、役に入られているシーンだとは思うんですけれども、おそらく、いろんな感情がお二人の脳裏を駆け巡ったであろうラストカットでした」
こだわりが詰まった映像とセリフも、ぜひ見返していただけたら
――振り返ると、第4回で結さんが言った「私はこの、どこから来るか分からへん寂しい気持ち、まんざら悪いことやないと思う」という言葉ですとか、それぞれの人物が「孤独」と向き合うことを表現した言葉など、今回も全編通して、すてきな言葉にあふれていました。
「おそらく、心に残るセリフはいくつか散りばめられていると思います。会話の中で、すごく深い言葉をさらっと口にしたりするので、パッと聞いただけだとそのまま通り過ぎてしまうかもしれません。でも、見ている方の心境、心情によって感じ方がいろいろ変わってくると思っていますので、ふと見たくなった時に見返していただけたら、ハッと気づく言葉もあるのでは、と。だからといって決して押し付けて、『こうだよ』っていうのではなくて、登場人物たちが、ぼそぼそっと話すその言葉が、響く人には響くんだろうなと思います」
――もうひとつ伺いたかったのが、映像がとても美しいことです。最初に見たときに、光と影のコントラストですとか、構図がピタッとはまっているような、絵画展に来ているような感覚を覚えました。
「監督、撮影監督たちがこだわっているところです。取材させていただくお店も含めて、『京都』という街がまとっている空気をどう伝えるか、というところで、画の切り取り方を相当吟味しています。真上の俯瞰から撮っている場面など、なかなか文学的というか、ドラマではあまり見ないカットなので、そういう部分に気づいていただけたら嬉しいです」
――しかも、街や風景をメインに美しい構図で切り取った、いわば「静」のカットと、お店の中で佳奈さんが動くような「動」のカットのメリハリも、すごく効いているように思いました。
「それは監督のなせる技です。『ちょこっと京都~』も『名建築で昼食を 大阪編』もドキュメンタリーパートがあって不確定要素が多いため、通常のドラマよりも編集作業が大変なんです。通常は尺読みされた台本通りに撮るので、編集段階は微調整で尺が収まることの方が多いんですけれども、この2作品においては『まだ何分オーバー…』という話をよく聞きます。その中でメリハリをつけるため『静』の部分を作るので、会話のキャッチボールであるドキュメンタリーパートを含めて、編集は非常に難度の高い作業になっているかと思います」
――ではカットされている会話も多いのでしょうか?
「めちゃくちゃ多いと思います(笑)。このやり取りも良いけど、きっちり映像と音楽だけで見せる部分も作りたい、だとするとここはカットするしかないか、というふうに、ブラッシュアップを重ねながら最終の完パケを目指していきます。『名建築~』前回シリーズの第4話、東京都庭園美術館の回では、そこに住まれていた皇族ご夫妻に思いを馳せるくだりで、美しい映像と音楽を使って、セリフ無しの1分くらいのシーンを作ったこともありました。ドラマとしてはかなり思い切った試みでしたので、いろいろ議論がありましたけれども、そういうものを経て、おそらく監督もスタッフも、映像を音楽で見せる『静』の部分と、動きのある『動』の部分でメリハリを付けていこうという流れになったのだと思います」
監督や脚本をはじめ、特別な能力を持ったスタッフたち
――そんな美しい映像を作られる監督の吉見拓真さんはどんな方なんでしょうか?
「海外の大作に携わった経歴もあり、非常に経験豊富な方です。この2作は、なかなか特殊な作品なので難しいはずです。そう思うと、ドキュメンタリー部分に関しては、おそらく吉見監督ならではの特殊な演出方法があると思います。そこは私たちにも分からない領域で。見ていると、撮影の前に何度も取材に行かれて、丁寧に現場の空気感を作ってから撮影に臨んでいらっしゃるようです。脚本の横幕智裕さんもしかり。横幕さんの取材はルポの取材に近いような気がします。ドラマの脚本づくりの能力はもちろんのこと、きっちり現地取材をされていて、それを本に生かす力もすごく高い方です」
――凄腕の作家集団という感じですね。ドラマを作っていく上で、制作者の方はかなり取材をされるものなのでしょうか?
「作品によりますが、この2作品は取材が命というところがあります。物語の流れに合わせて、どのお店でどういう会話をすれば違和感なく流れていくのかを細かく想定しますから。前回のインタビューで、ドキュメンタリーのパートは出演者にお任せな部分も多いと話しましたけれども、制作陣の緻密な取材による組み立てがベースにあってのことではあります。その上でさらに、想定を超えること、プラスアルファの何かが起こる瞬間があるのも面白いところです」
――映像の話に戻りますが、第4回の佳奈さんと結さんの再会のシーンについて、前回のインタビューで「セーヌ川のつもりで撮った」というお話をされていました。すてきな建築物も見えて、確かに美しい景色でしたね。
「ありがとうございます。大きく映っているレトロな建物は、大阪市中央公会堂です。あのあたりは中之島という地区で、古くて立派な図書館や、公会堂など築100年を超える歴史的建造物が残っていて、舟からの景色で一番美しいところを切り取ったような形です」
――舟の上で出されているお茶が、昔の特急列車で売られていたような容器で、かわいかったです。
「フォルムが良いですよね(笑)。あの遊覧船は、テレビ大阪の本社近くなのに私も存じ上げなかったんですが、ご夫婦で、もう十年以上も観光業として営まれていると聞いています」
――そういえば、テレビ大阪の本社ビルも、ちょこっと映っていたような?
「気付いてくれましたか! 今回、『京都』というテーマではあるのですが、テレビ大阪が開局40周年ということもあり、ドラマの中で何かしら大阪を絡めて作れないかという思いがありました。それで制作陣に相談しながら、リサーチしてもらい、『御舟かもめ』や『夜長堂』など、ちょっと面白い案件が出てきて大阪ロケパートを作ったという経緯があります。舟からの景色に一瞬、本社ビルが映るのと、実は佳奈さんが勤めている会社の大阪支社から出てくる場面のビルも、テレビ大阪なんです(笑)」
京都は奥が深いので、訪れるべきお店はまだまだあります
――それは気づきませんでした! さあ、いよいよ最後の質問です。今回は佳奈さんが、彼女なりの「孤独」との寄り添い方を得て、茂さんのもとを去っていきました。ラストの受け取め方は見た方によってさまざまと思いますが、今後、物語はどうなるのでしょう?
「これはお答えするのが難しい質問ですね(汗)。いったんすごく大きな区切りになっているのでしょうね。ラストは、前作よりも一緒に過ごしている時間が長いということもあり、感慨深いシーンになりました。人生を生きていく中で、佳奈さんが、何かしら壁にぶつかる場面はいろいろあるとは思うので、その時にひょっとしたらおじさんの顔を思い浮かべて、再び訪れることがあってもおかしくないかなとは思います。ですが、この先どうなっていくのかは、私たちでも分からないところです。作品が終わって、見てくださった皆さんの反応や、世の中の反響というものがあれば、そういう話が持たれる可能性があるのかもしれないですね」
――では、また物語の続きが見られるかもしれないと期待しております!
「個人的には、小山さん、吉田くんもキャラクターが良いので、二人が佳奈さんや茂さんとの関係に深く絡んだり、もうちょっと前に出るようなストーリーも作れるんだろうなという思いは、あるにはあります。新メンバーの古舘さん、玉置さんは、この世界観にもなじんでくださって、本当に味わい深い演技をされていましたし、気持ちとして、また続編ができるといいなという思いはあります。ちなみに、企画者の清水さんからは『京都は奥が深いので、訪れるべき店は、まだまだありますよ』という話を頂いております(笑)」
■お話を伺ったのは…
岡本宏毅(おかもと・こうき)
プロデューサー。’97年、テレビ大阪に入社。「きらきらアフロ」(’01年~)、「たかじんNOマネー」(’11~’15年)など多数のバラエティー番組の演出を担当。’18年よりドラマ制作に携わる。「抱かれたい12人の女たち」、「ちょこっと京都に住んでみた。」、「面白南極料理人」(すべて’19年)、「名建築で昼食を」(’20年)、「ホメられたい僕の妄想ごはん」(’21年)などの作品をプロデュース。また、現在、チーフプロデューサーを務める「イケメン共よ メシを喰え」が放送中(テレビ大阪 毎週土曜 深1:00~/BSテレ東 毎週土曜 深0:00~)。
「ちょこっと京都に住んでみた。」番組情報
テレビ大阪 毎週水曜 深0:00~
※テレビ東京 毎週水曜 深2:35~
「名建築で昼食を 大阪編」番組情報
テレビ大阪
8月17日(水)スタート 毎週水曜 深0:00~
※テレビ東京 毎週水曜 深2:35~