いよいよ最終選考の日が近づいてきた第42回向田邦子賞。ということで、今回は日頃、ドラマの取材や記事づくりに従事しているメンバーに集まってもらい、緊急座談会を開催、受賞者を勝手に大予想してみました。あなたの予想はいかがですか?
<第42回向田邦子賞候補者>
源 孝志「グレースの履歴」(NHK BSプレミアム)
金沢知樹「サンクチュアリ -聖域-」(Netflix)
兵藤るり「夜ドラ わたしの一番最悪なともだち」(NHK総合)
上田 誠「時をかけるな、恋人たち」(フジテレビ系=関西テレビ制作)
<座談会参加メンバー>
記者A:「週刊TVガイド」NHK担当(先輩)
記者B:「週刊TVガイド」NHK担当(後輩)
編集C:「週刊TVガイド」ドラマページ担当
編集D:「TVガイドみんなドラマ」担当
いよいよ決まる!第42回向田邦子賞
――ということで、向田邦子賞の最終選考会が目前に迫ったということで、勝手に大予想してもらおうと集まっていただきました。今日は忌憚のないところで、よろしくお願いします!
一同「よろしくお願いします」
――まずみなさん向田邦子賞にはどういうイメージがありますか。
記者A「そうですね、イメージ的には何か脚本家の方の登竜門のような感じで思っていたんですけど、昨年三谷幸喜さんが授賞して、ベテランの方が受賞することもあるんだなと」
――そうですよね、すごく喜んでいただけて。印象に残っている受賞者の方とかいますか?
A「バカリズムさんはちょっと珍しかったこともあって印象に残ってますね。あと、いま放送中の大河ドラマ『光る君へ』を書いている大石静さんとか」
編集C「でも脚本家の方のプロフィールを見ると向田邦子賞受賞というのが必ず入っているので、すごい賞なんだなあと思いますね。やっぱり外せないんだなって」
――うん、ありがたいね。脚本家の賞ってあまりないからかな。Bさんはどうですか? この中では最年少だけど、仕事に就く前に脚本家の名前って意識してました?
記者B「あまり意識はしてなかったですね。宮藤官九郎さんくらいでしょうか。だから“あのドラマの脚本家の新ドラマです!”みたいな宣伝のされ方をしているのを見て、ああ同じ人なんだってあらためて思ったりします」
ワクワクする人生ドラマ――源孝志「グレースの履歴」
――それでは本題に移りますが、今回の向田邦子賞、4人候補の方が上がっているので順番に話をしていこうと思います。今回候補のみなさん、とてもバラエティーに富んでいます。まず「グレースの履歴」の源孝志さんです。自作の小説を自らの脚本・演出でドラマ化しました。
C「私は本放送の時見ていて、もうめちゃくちゃ面白かったです。録れてなかったら暴れるくらい(笑)」
編集D「まあNHKは再放送してくれるから」
C「(笑)それくらい楽しみに見てました」
――どの辺がよかったですか?
C「まず映像がきれい。音楽も良かったな。全体がロードムービーで、その中でだんだん謎が解けていくっていう形式なんですよね。私、仕事がら先に台本読んでることが多いんですけど、予備知識があっても普通に楽しめるんです。小さな謎解きがあって、そのあとに大っきな秘密がある。あの車が実は…みたいなところとか、本当に楽しみで。ワクワクが止まらない感じでしたね」
D「冒頭のグレースに火を入れるシーンでもう持っていかれますもん。エンジン音がまた良くて」
C「車ピカピカでね」
――貴重なんですってね、あの左ハンドルの真っ赤なS8。実物が出てくるところが小説とは違うドラマの良さですよね。
D「実際にS8作った人のところに来ちゃう、宇崎竜童さんのね。巡り巡っていきついちゃうところも良かったですね」
A「私は制作統括の方に取材もしたんですが、親と子どもの絆をこんな風に書ける人は源さんしかいないとおっしゃっていました。今回でいえば主人公が生き別れになったお母さんと対面するシーン」
B「認知症になってるんですよね」
A「台本を読んでも泣けたし、映像を見ても泣けるシーンだったと。ここまで書ける人はそうはいないっておっしゃっていました」
――源さんは「京都人の密かな愉しみ」とか、歌舞伎のドラマ化とか、異色作が多かったところもあるので、今回は満を持しての候補というところです。
配信ドラマが初ノミネート――金沢知樹「サンクチュアリ-聖域-」
――続いて「サンクチュアリ-聖域-」の金沢知樹さんです。今回の中では、源さんの次に年長ということになります。Netflixドラマでのノミネートということでも注目されています。
A「これは見ていないです」
C「そうですね。Netflixのドラマは『TVガイド』にもあらすじを載せていないので」
B「でもすごく話題になっていましたよね」
D「迫力ありますよ。主人公が、最初はただの不良で出てくるんだけど、だんだんだんだんちゃんとした関取の体形になってくる。その感じがリアルなんです」
――時間をかけて撮っている感じがするよね。
D「主人公のライバルたちもそれぞれに歴史というか物語を背負っていて、それがいいんですよね。あとセットとかもすごくリアルなんですよ。土俵とか、国技館とか。それから表現の過激さも凄い。トイレのシーンとか、いわゆる“かわいがり”のシーンとかね」
――脚本を読んでいると、これは実際には行われていなくて都市伝説と言われています、とか書いてあって、それがまた面白い。
C「でも、子どものころにそういう話を聞いたこと、ありましたよね」
――実際には無いらしいです(笑)
D「舞台が相撲界ということで、テーマ的なこともあるし、さっきの役者さんたちの肉体改造とか、過激な描写とか、地上波のテレビでは難しいドラマですよね」
――金沢さんは、今回の「サンクチュアリ」も手掛けた江口カン監督とのコンビの「ガチ★星」という競輪がテーマの作品もあって、そこでも訓練の描写がすごくて評判になりました。あれはテレビ西日本の制作でしたから、地上波でやったんですよね。
A「映像で見た迫力がスゴイということですね」
D「でも脚本も結構映像的に書かれていて、候補になってしかるべきだと思います」
若い世代が吹かせる新しい風――兵藤るり「わたしの一番最悪なともだち」
――次に行きましょう。兵藤るりさんの「わたしの一番最悪なともだち」。NHKの夜ドラ枠の作品ですね。兵藤さんはまだ20代で今回の最年少。(最年長の)源さんとはかなり年齢差があります。
B「プロデューサーの方も今回初めてプロデューサーを務めたということでした」
C「スタッフもキャストも若い世代なんですね」
B「新しい風を吹かせるという意味では、すごくいいのかなと思います」
――Bさん、主人公と世代が近いですよね。どうでしたか? 共感した?
B「めっちゃ共感できるとかではないんですが、こういう人がとなりにいるかもしれないという感じはありましたね。すごく分かる!って没入するんじゃなくて、こういう人もいる、いろんな人がいる、だから私も大丈夫だよね、と思えるお守りみたいなドラマとプロデューサーの方もおっしゃっていて」
――若い世代ならではのセリフとかも感じられましたか?
B「そうですね。皆さんも言ってましたがト書きに書かれている心情とか、感情の揺れみたいなものがすごいなと」
――Bさん、就活は苦労しました?
B「大変でした。なかなか決まらなくて。だから、なんでうまくいかないんだろうとか、自分を変えようかとか、どう装ったらいいだろうとか、主人公みたいにいろいろ悩みましたね。でも…過ぎると忘れちゃうんですよ(笑)。だから忘れてたっていうか、忘れたいと思ってたところに、このドラマが刺さったというのはありました」
――そうか。思い出したくないもんね。
B「放送が8月で、就活がちょっと下火な時期なんですね。だから4月とかに再放送したいってプロデューサーさんもおっしゃっていました」
C「そうだよねー。親も結構大変だもん、子どもの就活」
D「いや大変ですよ! このドラマ、親はあんまり出てこないんでしたっけ?」
B「出てきます。悩んで実家に帰ったりするんだけど、親はうんまあ好きにすれば、っていうような感じで」
A「クリーニング屋さんがね」
D「そうか。別に影響与える存在がいるんだね」
――あと幼なじみの存在があるよね。ああいう感じ分かる?
B「私は幼なじみと敬語で話して、っていうのは無いかなあ…」
A「ただこのドラマ8週あるんですけど、就活は前半の4週で、5週目に3年後に飛ぶでしょ。そこで幼なじみと再会するっていうのがあるから」
D「そこがいいよね。就活だけのドラマじゃないのが面白い」
B「だから主人公のほたるは、就活ではいろいろうまくいかなかったけど、入社して生き生きと頑張ってるじゃないですか。ああそういう人もいるんだって思います。自分ではいろいろ悩んでても、周りの同僚からはハキハキしているように見えたりする。自分の評価だけじゃない、人からどう見られてるかは分からないんだなって、あらためて思います」
時間SFと恋物語の融合――上田誠「時をかけるな、恋人たち」
――4人目行きましょう。上田誠さん「時をかけるな、恋人たち」です。
C「これ好きでした。台本もすごい楽しくて」
D「僕も第1話からどストライクでしたね。これ上田さんが前にカンテレで書いた『魔法のリノベ』と同じプロデューサーさんなんですけれども、時間SFの天才である上田さんにラブ要素と時間SFの要素を組み合わせたものを、という企画がうまくハマった」
A「『魔法のリノベ』もけっこう恋愛要素ありましたよね」
D「そう、それで上田さんもできるかもって思ったみたい。得意ではなかったそうですけど(笑)」
――これ第1話から脚本に「ここは何話とリンク」とか書いてあるんだよね。最初から決めてあるんだ、って思って。
D「いや全部は決めてないんですって。スタッフがこんがらがらないように書いておくんですけど、最後までは決めてないそうです。脚本に『ここで顔を出す』っていうシーンを撮ってくれ、何話でリンクするからって書いてあっても、どういう理由で顔を出すかは決めてない」
――そうなの!
D「全部あとでつじつまを合わせてる(笑)。最初に全部決めちゃうとつまんなくなるらしいです」
――へえー。やっぱりつじつま合わせなんだね(笑)。
D「吉岡里帆ちゃん演じる廻の両親の出会いとか、幼少期のラブレターのやり取りとか、つじつま合わせのネタも本当に豊富で面白くて」
――上田さんはヨーロッパ企画という劇団の主宰をやっていて、関西ではかなり有名ですよね。「サマータイムマシン・ブルース」とか映画も有名だけど、とにかく全部時間テーマで(笑)。もうライフワークだよね。
D「やっぱりそこはさすがですよね。そこにラブストーリーの要素を入れたのがアイデアかな」
B「この30分枠って新しくできた枠ですよね」
D「そうだね。去年の4月にできたカンテレの『火ドラ★イレブン』っていう30分枠で。ラブ要素がテーマらしい」
C「そういう意味では、ほんと『時恋』は面白かったけど、私はこの枠の4月ドラマで放送した『ホスト相続しちゃいました』(中村允俊脚本、桜井ユキ主演)がすごく好きだったな。ほんと名作。中村さんをノミネートしてほしかった!」
D「えー(笑)」
ズバリ受賞者を大予想!
――ということで、4人の候補者について語ってきたところで予想に行きたいと思います。まずAさんいかがですか?
A「私は『グレースの履歴』の源孝志さんですね。ドラマの重厚感というか、満足感が違った気がします。人生を感じさせてくれるドラマだったし。作家としての力量としては一番じゃないかな、と」
C「私も『グレース』ですね。次どうなっていくんだろう、っていうのが毎回楽しみで。向田邦子賞には一番ふさわしいのかなって思います。夫婦や家族の絆も感じられたし」
――向田邦子さんのドラマも常にさまざまなかたちの家族を描いていましたよね。「グレースの履歴」、いいドラマでした。ひとつ言えば、ドラマって脚本寄りのドラマと演出寄りのドラマがあって、源さんは演出も兼ねていているのでそこをあまり分けて考えてない気はしましたね。「グレースの履歴」は、映像が魅力的なドラマでもあるからそのあたりも注目です。Bさんはどうでしょう?
B「わたしは兵藤るりさんの『わたしの一番最悪なともだち』が取るといいな、と。本当に若い人たちが集まって作ったドラマなので、それが評価されるのはいいなと思います」
――NHKの「夜ドラ」っていうのは若い世代に向けた題材が多いよね。
B「テーマはそうなんでしょうけど、ドラマのテンポとかは私たちの世代向きではない気がするんですよね」
――(笑)厳しいなー。そうか。でも40代くらいでもNHKにとっては若い世代なのかもしれない。
D「さっきの話じゃないけど、このドラマも就活期の子を持つ親の世代が、身につまされながら見てたりするかもしれないね」
――兵藤さんも十分チャンスあると思います。20代での受賞となればこれも画期的です。Dさんどうですか?
D「今回いい意味で候補者がバラけているというか、個性的な作品が多い中、一番バランスが取れているというか、票を集めそうなのは上田さんじゃないかと思うんですよね」
――おー。票読みしてきたね。
D「これからどんどんテレビで書いていくと思うので、今こそ上田さんが受賞するべきだと思います!」
――力強い(笑)。今回は、配信ドラマが初めてノミネートされたということも含め、どの候補者が受賞しても話題豊富で、今後のドラマ界にいい刺激になることと思います。受賞決定を楽しみに待つことにしましょう。今日は長時間ありがとうございました!
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司会/構成 武内朗