2023年度最も優れたドラマ脚本を手掛けた脚本家に贈られる「第42回向田邦子賞」の候補者4名が発表されました。そこで「TVガイドみんなドラマ」では、最終選考に先駆けて各候補者と作品について一気にご紹介します。気になるドラマが見つかったら、ぜひチェックしてみてください! 第4回は、「時をかけるな、恋人たち」の上田誠さんです。
京都で劇団を主宰するSFコメディーの第一人者
今回の候補者のひとりの源孝志さんは京都の立命館大学出身ですが、上田さんは同志社大学の出身。二条城近くの焼き菓子屋さんがご実家という京都生まれ京都育ちの劇作家です。大学在学中にスタートした劇団「ヨーロッパ企画」の主宰を務め、全本公演の脚本・演出を担当する一方、外部公演の脚本・演出もコンスタントにこなし、同時に映画やテレビドラマなど、映像作品の脚本家としても実績を残しています。原作ものの脚色も多く手掛けており、森見登美彦原作・湯浅政明監督で京都が舞台のテレビアニメ「四畳半神話体系」(’10年)のシリーズ構成は高く評価されました。同じ原作・監督によるアニメ映画「夜は短し歩けよ乙女」(’17年)の脚本も担当しています。
そして「京都」とともに上田コメディーに欠かせないのが「SF」要素。とりわけ強いこだわりを持っていると感じられるのが「時間SF」テーマです。出世作である「サマータイムマシン・ブルース」(演劇公演としては’01年初演、’05年には本広克之監督・永山瑛太主演により映画化)をはじめ、何度も繰り返しこのテーマの作品を手掛けています。とにかくこのテーマが好きで、愛し慈しんでいることが作品の端々から伝わってきます。近年ヨーロッパ企画制作により作られた上田さん脚本による劇場映画「ドロステのはてで僕ら」(’20年)、「リバー、流れないでよ」(’23年)もやっぱり時間SFものでした。
「時をかけるな、恋人たち」は十八番のタイムトラベルテーマ
そして今回対象となった「時をかけるな、恋人たち」も、タイトル通り上田さん十八番のタイムトラベルドラマです。令和の時代を生きるアートディレクター・常盤廻(吉岡里帆)が恋に破れて公園のベンチに身をゆだねていると、突然現れた未来から来たタイムパトロール隊員たちに、タイムパトロールに加わってくれと依頼されます。なんだかんだで未来人の隊員・井浦翔(永山瑛太)とともに違法タイムトラベラーを取り締まることになる廻ですが、実は2人はご法度である“時空を超えた恋”に落ちた元恋人同士で…。
自家薬籠中のタイムトラベルテーマに、実は苦手と語るラブストーリーの要素をふんだんに取り入れた“恋の超展廻”コメディー。前作「魔法のリノベ」(’22年)に続く岡光寛子プロデューサーとのコンビ作ですが、今作はひときわ明るく弾けたラブコメディーです。タイムトラベルの掟を破ってもなお惹かれあう恋人たちを応援する目線の優しさが印象に残ります。
最初はタイムパトロールをテーマにした1話完結ものとして企画されたということで、最終的に翔と廻のラブストーリーがメインとなったあとでも、各話に登場する恋人たちのエピソードが大きな存在感で描かれます。見ている側としては、散りばめられた伏線のかけらがどのように処理されるのかのほうについつい気を取られてしまうのですが、上田さんとしてはそちらの伏線回収には自信があるのでしょう。もう一つのテーマである“ラブ”の行方に力点を置いていたように思えます。
厳格なSFルールを軽々飛び越える恋人たちへのエール
時間ものに限らずSFには実は意外と厳格なルールが存在し、何でもありのファンタジーとは違います。途中楽しく見ていても、最後はほろ苦い結末になることが多いのはある意味SFルールの宿命でもあるのです。でもそんなルールの網をくるくるとすり抜けながら、あくまでポジティブに軽快に世界を物語ってくれる翔&廻のコンビの自由さにこそ、本作の魅力があります。
本来厳格であるはずのSFルールを限度いっぱいもてあそびながら、周到に張り巡らされたタイムパラドックスの結び目を解消すべく奮闘する2人の“恋の辻褄合わせ”がとにかく痛快。シニカルなまなざしと暖かな視線が無理なく共存し、未来への希望を感じさせてくれる。まさに最新型の知的エンターテインメント。こうしたドラマはよくあるようで、実はそんなにありません。
昨年の三谷幸喜さんに続く演劇界出身作家の授賞となるかにも注目ですが、SF作品での向田邦子賞受賞というのも画期的です。結果を楽しみに待ちましょう(ちなみに上田さんは’17年に「来てけつかるべき新世界」で岸田國士戯曲賞を受賞しています。もし向田邦子賞とのダブル受賞ということになれば、宮藤官九郎さん、岩井秀人さん、前田司郎さん、三谷幸喜さんに続く、5人目の快挙となります)。
■Profile
上田誠(うえだ・まこと)
1979年11月4日生まれ。京都府出身。’98年に劇団「ヨーロッパ企画」を立ち上げ、本公演の脚本・演出を担当。外部の舞台や、映画・テレビドラマの脚本、番組の企画構成も手がける。おもなテレビドラマ作品は、「あいつが上手で下手が僕で」(’21年/日本テレビ)、「リフォーマーズの杖」(’21~’23年/NHK Eテレ)など。’17年に舞台「きてけつかるべき新世界」で第61回岸田國士戯曲賞を受賞。
「時をかけるな、恋人たち」情報
2023年10月10日~12月19日放送(フジテレビ系=関西テレビ制作)
脚本:上田誠
監督:山岸聖太、山口淳太
出演:吉岡里帆、永山瑛太、伊藤万理華、西垣匠、田中真琴、夏子、石田剛太、じろう(シソンヌ) ほか
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構成・文/武内朗