堀切園健太郎監督インタビュー「お別れの場を大切にしたい」

2023/03/06 11:11

米倉涼子さん主演のドラマ「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」。Prime Videoでの世界同時配信を前に、本作の監督・堀切園健太郎さんを直撃!

異国の地で亡くなった人を遺族のもとへ送り届ける“国際霊柩送還士”たちの活躍を描いたヒューマンドラマ「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」。

国際霊柩送還士で、東京・羽田国際空港に事務所を構える「エンジェルハース」の社長・伊沢那美(米倉涼子)が、新入社員の高木凜子(松本穂香)ら個性豊かなメンバーと共に、故人の死に隠された秘密や、遺された人々の悲しみに向き合いながら、過酷な職務を遂行する姿を描いていきます。

この感動の物語を手掛けたのは、「外事警察」シリーズ(’09年NHKドラマ、’12年映画)など数多くの話題作を送り出してきた堀切園健太郎監督。本作に懸ける思いや、「外事警察」以来となる脚本家・古沢良太さんとのタッグについて、お話を伺いました。

カメラの外でも号泣する、米倉さんの柔軟なお芝居に感動

――タイトルにもある“国際霊柩送還士”。あまり聞き慣れない言葉かと思うのですが、どういった職業なのでしょうか。

「海外で亡くなった方のご遺体を母国へ搬送する業務を行う方々を、国際霊柩送還士と呼んでいます。ご遺体を日本に搬送するには、誰かの手が介在しなければなりません。その搬送に携わるのが、彼ら国際霊柩送還士の大きな任務。その仕事は葬儀社と似ている部分もありまして、現地に足を運んで現地の葬儀社や警察などと連携してご遺体の引き取りをすることもあるそうです。ただ、国によっては十分にエンバーミング(防腐処理)を施せない、施していないこともある。その場合は、日本到着後に羽田空港に構えている事務所(※)でご遺体をきれいに修復してから、ご遺族の指定する場所に運びます。反対に、日本で亡くなられた外国人を祖国に送還する業務も行うそうです」

※……ドラマ化にあたり、堀切園監督が、原作「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」のモデルとなった、エアハース・インターナショナル株式会社や、同社代表取締役社長・木村利惠さんに取材を実施。


――外国人の搬送にも携わっているのですか。

「はい。さらに、異国の地で大切な家族を亡くされた方は精神的なダメージが大きいため、ご遺族が現地でご遺体を確認される時や、日本に戻られた際の空港でのお出迎えなど、精神的なケアも行っています。僕たちが取材をしたエアハース・インターナショナル株式会社(以下エアハース)は、その道のパイオニアであり、『残されたご遺族のために、できることは全てやってあげたい』という気持ちで任務に就いていらっしゃるからこそだと思います」

――那美のモデルでもある、エアハースの木村利惠社長へも取材を重ねられたと思いますが、その中で印象的だったことは何でしょうか。

「ご遺体の損傷がとてもひどいこともあるそうです。特に海外で亡くなる場合は、突発的な事故や事件のことが多い。そういった損傷が激しいご遺体とも向き合わなくてはならないので、体力的な大変さだけではなく精神的な負荷も大きく、過酷な現場だと感じました。ですがその一方で、エアハースの皆さんは、ものすごく個性的でキャラクターが立っているのです。米倉さん演じる那美のキャラクターは決して過剰な演出ではなく、木村社長もユニークな方で、茶髪の派手な外見と人一倍包容力がある姉御タイプ(笑)。ご遺族に真摯に向き合うだけではなく、ご遺体にもまるで生きているかのように話し掛けられるのです。ご遺体との向き合い方に感銘を受けたと同時に、“国際霊柩送還士”に対するイメージとのギャップも大きかったですね。死を扱うテーマなので安易にコミカルには描けませんが、エアハースの皆さんにお会いしたことで、『幅の広いドラマとして作れるのではないか』と、可能性が広がりました」

――まさに那美は姉御肌で、今まで見たことのない“俳優・米倉涼子”でした。撮影に当たり、米倉さんとはどのようなお話をされましたか?

「『米倉さんのさらなる魅力を引き出したい』と、脚本の古沢(良太)さんと話をした内容をお伝えしたところ、米倉さんから『(これまでの作品とは異なり)今回は、声のキーを下げて低めにしようと思っています』と言われました。また、ヘアスタイルをこれまでで一番短くされたりもしていました。米倉さんは撮影現場の状況や相手によって、柔軟にお芝居を変えられていたり、突然トップギアで入って来るなど型にハマらないお芝居で、僕たちスタッフも魅了されました」

――特に、第1回の冒頭の那美は、インパクトが大きくて心をつかまれました。

「『撮影現場でこれほど泣いたことはない』と仰っていたように、繊細なシーンでは涙を流されていました。特に、ご自身が映ってない時でも号泣していて、涙が枯れるのではないかと心配になりました。素直で正直といいますか、相手の芝居を見ながらご自身もお芝居をされて、すごく素敵な方だと感じました」

――主人公は那美ですが、彼女が社長を務める「エンジェルハース」の新入社員・凜子(松本穂香)の目線も印象的で、凜子もある種の主人公のように感じました。このような演出には何か背景があるのでしょうか?

「国際霊柩送還士という新しいテーマをドラマ化するということは、視聴者の皆さんにとっても初めての体験です。だからこそ、新入社員である凜子の目を通じて、驚きなどさまざまな感情を皆さんにも感じてほしい、ということが一つ。もう一つは、ドラマの中でも描かれているのですが、凜子にとって母親は、乗り越えられない大きな壁となっています。その母に反抗して国際霊柩送還士になったと思ったら、今度は那美という大きな壁が現れる。那美を乗り越えることで、母との関係も前に進むかもしれない、と那美と母が重なって見えたらいいな、という思いがありました」

一つ一つどれもがドラマチックな死を、記号化させたくなかった

――これまでも、「ハゲタカ」(’07年、NHK)や「外事警察」など、リアリティーのあるドラマを作られてきましたが、国際霊柩送還士という実在の職業を描く上で大切にされたことは何ですか?

「第一に、嘘がないようにすることです。特に、視聴者にとって初めて見聞きする体験である場合、間違った情報で認識されてはいけません。でも一方では、ドラマとして面白くしなければならない。だからこそ、国際霊柩送還士のプロであるエアハースの皆さんには、たくさん相談をしました。特に今回は、ご遺体が死の現実そのものであるため、表現が非常に難しい。“いかなるご遺体にも向き合う過酷な任務”であることも描きたかったので、事前にメイクや造型物などを使ってご遺体用のカメラテストを行うなど試行錯誤を重ねましたし、映像で見せる加減についても慎重に話し合いました。一つ一つの死、どれもがドラマチックで異なるのに、描かれれば描かれるほど、死が文字や記号のように表現されることも多いので…」


――誰もが感情移入することである一方、描かれ方によっては記号と化してしまう、と。

「刑事ドラマなどで顕著ですが、ドラマの中の死は、記号のように流されて表現されることが多いと思います。今回は死が一つのテーマだったので、そこをいかに丁寧に描くかが大事なポイントだと考えていました。個人的な話ですが、ドラマの企画がスタートして2カ月後に母が突然他界しまして、その時に感じたこと発見したことなどもドラマに盛り込みました。細かな部分の表現が豊かになることで、記号化されないものとして感じてもらえるのではないかと思っています」

――その表現に欠かせないことの一つが、古沢良太さんの脚本。「外事警察」以来の再タッグは、いかがでしたか。

「配信のドラマを作る=世界に発信できる、ということですごくワクワクしたと同時に、古沢さんが真っ先に思い浮かびました。海外ドラマもよくご覧になっていますし、古沢さんご自身、海外作品への志向性が高い。また、今回のテーマを正面から描くとシリアス一直線になってしまいますが、多くの方に見てもらい、伝わってこそ意味があると思ったので、古沢さんのエンタメ性を取り入れたかったのです。加えて、古沢さんの描く人間には優しさが込められていますから、シリアスとエンタメのバランスも含めて彼しかいませんでした」


――まさに第3回では、舞台が韓国ということもあり、エンタメ性と話題性を感じました。

「視聴者が何を面白いと感じるのか、という感度と、人を描く力強さはさすが古沢さんです。今回は、ライターズルームといって複数の脚本家で描くことが企画の段階で決まっていたので、『全6話、異なるテイストにしましょう』と話していました。古沢さんが座長という立場でもあったため、かなり深い話もしました。『外事警察』から10年以上経っているので、お互いに『成長したな…』と思っているかもしれませんね(笑)」


――そんな古沢さんとの最強タッグが実現した今作を通して、堀切園監督が伝えたいことを教えてください。

「4年前にこの話を引き受けてから現在に至るまで、2つの大きな出来事がありました。一つは母の他界、もう一つは新型コロナウイルスの感染拡大。当たり前だった日常がコロナ禍で失われ、お別れの場=葬儀も行われない時期がありました。一方で、エアハースの木村社長は、『亡くなった方への敬意も大事だけど、その後も生きていかなければならないご遺族も大切。お別れの場で精一杯悲しむことが、ご遺族の後の人生に生きてくる』と、常に仰っています。だからこそ僕は、『お別れの場を大切にしたい』という思いを大事に、このドラマを作りました。故人を思うだけではなく、自分自身を振り返る時間でもあるので、お別れの場はとても大切な瞬間。だけどこの約3年間、それが十分にできず、人との繋がりや人を思いやることが希薄になってしまいました。ぜひ今作を見て、そういった繋がりを思い出していただけたらと思います」
  
  
  
■Profile
堀切園健太郎(ほりきりぞの・けんたろう)

演出家、映画監督。1970年4月6日生まれ、埼玉県出身。’94年、NHKに入局。’04年より1年間ハリウッドに留学し、映像制作を学ぶ。手掛けた作品に、「中学生日記」シリーズ、連続テレビ小説「ちゅらさん」(’01年)、土曜ドラマ「ハゲタカ」(’07年~)、大河ドラマ「篤姫」(’08年)、土曜ドラマ「外事警察」(’09年)、正月時代劇「幕末相棒伝」(’22年)など多数。そのほか、映画「外事警察 その男に騙されるな」(’12年)や、「がんばれ!TEAM NACS」(’21年、WOWOW)の演出も担当。今作が、Prime Videoオリジナル作品での初監督となる。

「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」作品情報

Prime Video
3/17(金)世界同時配信スタート
作品公式ページ

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