京都大阪が舞台のドラマ×ドキュメンタリー制作秘話④

2022/09/22 15:03

テレビ大阪開局40周年を記念してプロデューサーに制作秘話を聞く最終回! 「名建築で昼食を 大阪編」のウラ話を、台本を片手にたっぷり語ってくれました。

視点を変えてみると見え方が変わり、世界が広がるんだよ、と

――「名建築で昼食を 大阪編」が、ついに最終回の放送を終えました。「大阪編」では、藤さんだけでなく植草さんにも悩みがあり、それぞれに良い言葉を掛けてくれる周りの人がいて、ドラマパートもとても充実しているように感じました。

「誰にでもあることですが、何かしら起こる出来事に対して、自分の思い込みだけで考えるのではなくて、『視点を変えてみると、意外と見え方が違ってくる、世界が広がってくるんだよ』ということが、物語を通して我々が伝えたいテーマでした。それを、藤さんだけでなく、ちょっとした出来事ですけども、植草さんの話も加えて、重層的に描いた形です。最終回を迎えたところで、二人が大阪の滞在を経て、お互いに『ちょっとだけ成長したね』と言い合って終わる。ほのぼのとした二人の成長譚ですね」


――普遍的なテーマでしたので見ていて感情移入しやすかったです。

「植草さんの話はコミカルな流れで、かつ分かりやすい結末ではありましたね。話しかけて無視されたように思えたけど、実は単純にワイヤレスイヤホン付けていただけという(笑)。現代あるあるですよね」

――そうですね。また、最終回で藤さんが「大阪の見方が変わりました」と語っていましたが、名建築巡りパートもドラマパートとリンクするように描かれていたのがお見事でした。

「裏テーマと言いましょうか、大阪のステレオタイプなイメージとは真逆のことをやりたいという思いは、この作品を作る中で、ずっと制作チームの中でも考えてきたことでした。切り取り方次第では大阪にも洗練された部分がある。周年企画のこのドラマを通して大阪のイメージが上がったら、大阪に住まれている方への恩返しになるんじゃないか。私自身も大阪生まれ大阪育ちの身として、そんな思いもあって、いわゆるベタベタな部分は一切排除して、6話分にギュッと凝縮して作りました」

いかにも「千明らしい」出来事も起きますので、ご期待ください(笑)

 
――ではその中身について伺っていければと思います。ここから、放送を終えての「答え合わせ」をいくつかお願いしたいです。

「はい、分かりました!」


――ひとつ目です。放送開始直前の池田さんと田口さんの会見で、田口さんが「今回はエライザさんのアドリブのムチャブリを無視する技を身に着けた」と。さらに、「第1回でそういう部分が使われていた」とお話しされていたんです。それはどの場面だろうかと何度も見ていたら、リットン調査団の写真が飾られているのを見た場面で、藤さんが「どんな話をしたんでしょうね」と言ったのに対して、植草さんが「んー-」と頷きながら歩いていっちゃったんですよね。あそこじゃないかと思うんですが、どうなんでしょう?

「おそらくそうですね。『これは答えようがない』と思ったんじゃないですかね(笑)。確かにそういう場面は結構ありました。台本にないところを池田さんから振られて、返しの言葉もそこまで数多くは持っていらっしゃらなかったので、苦労されているなと思いながら見ていました」


――続きまして、第2回なんですが、公園で職務質問をしてきた警察官に「東京で会ったことありますか?」と急に言うセリフは台本にあった言葉ですか?

「あれはさすがにあったはずです! 基本は役者さんのパートは台本があるので(と手元に持っていた台本を確認し…)はい、ありますあります。公園といえば、あの『カワセミおじさん』も、勝手に決めつける感じが良い雰囲気でしたね(笑)」

――ですね(笑)。次で最後の質問です。第6回で、大阪市中央公会堂の上の階の手すりを見た藤さんが、植草さんに「覚えてませんか?」と。「さっき待ち合わせをした橋(の手すり)と同じ模様です」と言ったんですが、その時の植草さんのリアクションが、台本にはなさそうな返事だな、と思ったんです。

「たぶんそうだと思います」


――あの場面の少し前、待ち合わせの時に、藤さんの足元がちょっと強調されていたような気がしまして、なので、もしや台本にあった? とも思いました。

「いや、あれは私もアドリブだと思ったんです。トモロヲさん、困っているなぁ、と。『師匠に勝っちゃった』って言われていましたよね(笑)。池田さんのアドリブです」

――おお、池田さんすごいですね! ということは、アドリブのやり取りを入れるとなった編集段階で、直前の橋の場面をちょっと伏線として「効かせる」ように意識してやや強調された、ということはありますでしょうか?

「それはあると思います。そういう意味で言うとあそこは見ている方が見返したくなる場面ですよね。どうだったかな、って」


――見る側としても、そういう仕掛けがあるんだなと思うからこそ見逃さないように、緊張感を持って画面を食い入るように見るようになります。

「いや、その回では橋と階段の手すりのデザインが一緒という緩い伏線がありましたけど(笑)、我々としては、だいぶほのぼのとしたドラマのつもりなので(汗)、肩の力を抜いて見ていただけたら…」

監督、スタッフと池田さんのセッションで生まれた美しい映像

――分かりました(笑)。それでは次の話題に。第2回の生駒ビルで、CMに入る直前に、上から光が下りてくる場所で、椅子に座っている藤さんの姿が、ヨーロッパの画家が描いた絵画のように美しかったんです。ああいうシーンは今まで無かったような。第5回の神戸女学院のチャペルでも、最後に藤さんが壁際のベンチに座って、スカートをファサっときれいに広げるシーンに、ちょっと震えるほど感動してしまいました。あれは狙いなんでしょうか?

「あそこは美しかったですね! 実は私も計り知れないところが正直あります。おそらく監督が『ここでこう撮れば、絵画的な美しい画が撮れる』と狙ったカットです」

――あの衣装でさえも、チャペルでの所作がイメージにあって選んだのでは? と想像が膨らんでしまいます。

「衣装は建築に合わせて緻密に決めてはいるんですけど、さすがに事前に一つのシーンの所作の部分まで想像してはいませんから、たぶん撮影現場でしょうね。僕はロケハンには行ったんですけど、撮影は行けなかったので想像になりますが、リハーサルもやっていないかもしれませんので、池田さんご本人が、こういう衣装だからこんな風に所作としてやったら美しいんじゃないかということでやられたのではないかと。彼女は、そういう表現力が非常にある方です。言葉で語らずとも所作などで美しく、フォトジェニックに見せるという術(すべ)を持っていらっしゃるので、ああいうシーンは本当に池田さんが生きてきますよね。絵になる。ひょっとしたら、我々プロデューサー陣とのロケハンもあるんですけど、その後に監督と、カメラマン、撮影監督が下見をしている時に、そういう狙いの場所を決めている可能性もありますね。この場所で美しい映像を撮りましょうと決めておいて、現場で池田さんも含めてセッションしているのかもしれません。やっぱりなかなか思いつきでは撮れないカットではないかと思います」


――田口さんとのインタビューの中で池田さんが、神戸女学院の撮影でアドリブパートにおいて自由に動き回る時、カメラがうまく撮りやすいように誘導できたんじゃないか、と手ごたえを語っていらっしゃいました。ご自身も監督をされる方なので、チームで表現することへの感覚も鋭いのかもしれませんね。

「田口さんが、ずっと手探りでやってきたとおっしゃっていましたけれども、徐々にチームワークが熟成されたのかもしれないです」

――確かに田口さんが「手探り」だったとおっしゃっていたのは印象に残りました。田口さんにとって、植草さん役は役柄の種類的にハードルが高かったのでしょうか。

「そうですね。会見でもおっしゃっていましたが、田口さんには、建築模型士の役でもあるし、各回の名建築にも来たことのある設定ですので、アドリブの場面であっても、知っていないといけない、というハードルの高さがありましたよね。その辺りは大変だったと思います」


――一方の池田さんは、インタビューで「セカンドシーズンで師匠の植草さんをいじる関係になってきました」と、楽しそうにお話しされていました。

「池田さんは直前まで現場を見ずに入られて、ファーストインプレッションに近い形の思いを言葉にしていらっしゃるので、すごく自然で、それは、このドラマのひとつの持ち味です」


――そう思うと、このお二人だからこその独特の空気感が、見ていてとても心地よいのだなと感じます。

「最終的にはお二人とも楽しく過ごされていました。地方でのロケということもあって、開放的な気分にもなりますし、おそらく来たことのない場所だったと思いますし。感度の高いお二人なので、名建築にもすごく興味を持ってくださって、楽しんで撮影されている印象でした」

「古いビル」ではなく「美しくレトロな名建築」という視点で愛でる術

――では、「名建築で昼食を」シリーズのこれからを、可能な範囲でお話しいただけたら。

「そうですね、エリアを変えればずっと続けられるコンテンツだと思います。ぜひまだ訪れていないエリアを含めて、作っていきたいです」


――続編を、お待ちしています!

「それと共に、最近、私の勤めるテレビ大阪の東京支社の周りで、戦後などに建てられた、いわゆる名建築と言われるビルが解体されているんです。すぐ近くにある丹下健三さんの設計による旧電通本社ビルや、ちょっと前ですけど黒川紀章さん設計の中銀カプセルタワービルという個性的なビルも、解体されました」


――中銀カプセルタワービルというのは、個性的なビル特集でよく取り上げられていた四角いカプセルが積みあがったビルですね! ああいう個性のあるビルがなくなるのは確かに寂しいです。

「そうなんです。銀座の昔の街を彩った名建築が、この令和の時代に姿を消しているのは、やっぱりとても残念に思うんです。ですので、『名建築~』を作りながら芽生えた思いとして、こういう作品がきっかけになって、視聴者の皆さんをはじめいろんな方々が名建築に目を向けてくれて、古き良きものを後世に伝えていこう、繋げていこうというような機運が高まってくれたら、と思っています」


――名建築の文化的価値が、より高まると嬉しいですね。

「今回大阪を訪れてみて、農林会館ですとか船場ビルといった、いまだに利活用されている戦前の古いビルがあるんです。しかも、個性的で唯一無二な存在ですから、むしろ付加価値が付いている。ひょっとしたらテナントさんも殺到するような人気ビルなんじゃないかと思うんです。また、観光都市の京都では、残っている名建築の一部が、きちんと観光資源になることが証明されてもいます。見方が変われば価値も再評価されるはず。視聴者の皆さんには、このドラマを通して、古い建築物を、単純に『古いビル』ではなくて『美しくレトロな名建築』という視点で愛でる術を知っていただけたと思うので、ぜひこれからも番組ともども名建築を愛していただけたらと思います」
  

――ありがとうございます。それでは最後に、今回の制作秘話シリーズで、テレビ大阪さんのドラマ制作の歩みも振り返ってきたわけですが、40周年プロジェクトを経て、これからの展望があれば、教えてください!

「テレビ大阪としてドラマ作りをしていく上で、自分は1作目から作ってきているんですけれども、ブランディングの意味も込めて、これまでは作品性を重視して作ってきたところがあります。それは、出演者も含めて皆さまへ、ちゃんとこだわって作品を作っていますよ、というメッセージでもありました。そういう質へのこだわりはもちろん変わりませんが、今後は、より見える形で『バズる』ような、例えば『TVerで100万回再生するドラマづくり』といったテーマにも、挑戦したいなと思っています」




■お話を伺ったのは…
岡本宏毅(おかもと・こうき)

プロデューサー。’97年、テレビ大阪に入社。「きらきらアフロ」(’01年~)、「たかじんNOマネー」(’11~’15年)など多数のバラエティー番組の演出を担当。’18年よりドラマ制作に携わる。「抱かれたい12人の女たち」、「ちょこっと京都に住んでみた。」、「面白南極料理人」(すべて’19年)、「名建築で昼食を」(’20年)、「ホメられたい僕の妄想ごはん」(’21年)などの作品をプロデュース。また、現在、チーフプロデューサーを務める「イケメン共よ メシを喰え」が放送中(テレビ大阪 毎週土曜 深1:00~/BSテレ東 毎週土曜 深0:00~)。

「名建築で昼食を 大阪編」番組情報

テレビ大阪
8月17日(水)スタート 毎週水曜 深0:00~
※テレビ東京 毎週水曜 深2:35~

「ちょこっと京都に住んでみた。」番組情報

テレビ大阪 毎週水曜 深0:00~
※テレビ東京 毎週水曜 深2:35~