テレビ大阪が開局40周年を記念し、2本のドラマを放送。即興性を取り入れ独特の雰囲気が漂う2作のプロデューサー・岡本宏毅さんに、その舞台裏を直撃する第1弾!
工夫から生まれた「脚本×即興」。俳優の能力で絶妙のドキュメントが誕生
――2019年に「ちょこっと京都に住んでみた。」、2020年に「名建築で昼食を」と、同じスタッフが、即興を生かした2本の作品を制作し放送されました。それが今回、40周年記念のタイミングで、水曜深夜0時(テレビ東京は深夜2:35~)と、同じ放送枠で、しかもこの2作の新作が連続で放送されます。
「そもそもは、我々がドラマを作り始めたのが4年ぐらい前、2018年ぐらいからで、かなり後発ではあるんです。放送枠も深夜ドラマしかないような状況で毎クールでもない。これまでずっとドラマを作ってきている局さんに負けないためには、知恵を絞らなければということで、他局さんではやっていない手法の作品を作りたいと思っていました。その中で、ドラマの中にドキュメンタリーの要素を上手く入れ込んだ形で作れないか、という考えが生まれました。最初に作ったのは『ちょこっと京都~』の少し前、2019年の10月クールに、台本が一切ない即興芝居のみで構成した『抱かれたい12人の女たち』というドラマです。山本耕史さん主演で、バーテンダーをしているバーに夜な夜な女優陣がやって来て、バーテンダーを口説き落とすまでの会話劇という、すべて俳優同士の即興劇でやる企画でした。私はバラエティーの制作畑に長くいたので、お笑い番組など、即興性のある番組を数多く担当していたこともあり、ひょっとしたらドラマの要素として、あまりどこもやっていない新しく面白い要素じゃないかなと思い至ったんです」
――バラエティー畑からの転身があってこその発想、工夫ですね。
「それに加えて、ドラマは30分作るのに3~4日間、朝から晩まで撮影しなければなりません。それが即興芝居だと30分にあわせてほぼ実尺で撮れて、もし、撮ろうと思ったら1日に2本撮りもできる。すごく効率的に作れて、且つ、エッジを効かすこともできる。これはうちの局のリソース的にも合うんじゃないかという直感がありました。『ちょこっと京都~』、『名建築~』は全てが即興ではないんですけど、ハイブリッドのような形で、ドラマの中にちょっとドキュメンタリーの要素を入れて、どこまでがドラマでどこからがドキュメンタリーなのか分からない、虚実入り混じる不思議な雰囲気づくりを目指しました。また、お店紹介や建築紹介などの情報要素をドラマに持たせることで、普段ドラマに親しんでいない方にも見やすく、間口を広げられたらという意図もございます」
京都の町家暮らし経験者のコネクションで下りた、老舗の撮影許可
――その中で「ちょこっと京都~」はどのようにして生まれたのでしょう?
「『抱かれたい~』の次の企画を考えている時に、元々京都で町家暮らしを実際に経験されていた松竹撮影所のプロデューサーの清水啓太郎さんが提案してくれたのが『ちょこっと京都~』です。実際にそういう暮らしをされていた方だったので、説得力がありました。“京都の古い町家での暮らし”をカルチャーとしてドラマに組み込んで、その丁寧な暮らしぶりを見てもらうことで、いろいろ感じていただけるものもあるんじゃないかと」
――知る人ぞ知るというお店ばかりでは、撮影の交渉なども大変だったのではないでしょうか?
「松竹の清水さんがもともと住まれていたというところでのコネクションがおありなので、ひょっとしたら一見では取材できない店が多いかもしれませんが、そこを口説いていただいて撮影しているというのも、本作の売りの一つですね」
――前作では、井戸水を汲みに行ったり、欠けたお皿を金継ぎという修理をして使ったりする暮らしが描かれました。佳奈さん(木村文乃)の「仕事って、好きにならなきゃいけないんだと思っていました」という言葉に対して、骨董品店の方が「仕事なのでいろいろ考えることはあるけれど、仕事が嫌にならないようには努力して好きでいようとは思っています」と返したやりとりも、とっても胸に響きました。
「そうなんですよ! 金継ぎのお皿を取りに行った骨董品店の方の言葉は、本当に良かったですよね。鳥肌が立ちました。あれもやっぱり即興劇なんです。ただ、これはどこまで明かしていいか分かりませんが、ドラマの流れにすごくフィットした言葉だったので、どこまで監督が演出しているか分からないところで。ひょっとしたら、監督が事前に耳打ちしているのか、それもせずに、物語の展開を分かっている木村さんが、お店の方からそういうコメントを引き出すようなセリフを言っているのか、どちらなのか。そこの仕込みの部分の秘密は、無粋なので僕も聞かないようにしているんです(笑)。でも、あれは台本にはない流れでしたので、すごいことが起こったなと思いながら撮影現場で見ていました。実はあの店主には、今回も出演していただいています」
木村文乃さんのすごさは、即興で気が利いて、物語に沿った会話をリードできること
――そこをまさしく伺いたいなと思っていたのです! 台本がどこまで書かれていて、どこから現場に委ねてらっしゃるのか、監督さんはどこまで俳優さんやお店の方に委ねてらっしゃるのでしょうか?
「俳優の演じるパートは、台本があるのですが、こういうドラマなので、各俳優の皆さまにはある程度自由にやって大丈夫というのは、監督からはお伝えしています。なかなかないことだと思いますので、みなさん『え、良いんですか?』と(笑)。実はあまりに好きに演じられてしまうと、別のカットから画が繋がらないとか、いろいろ難しさもあるんですけど、それでもライブ感のほうを優先するという作品にはなっています。なので、俳優同士の場面でもある程度会話が進んでいくと、途中からアドリブが始まる瞬間があったりするんですね。そういう時は監督のカットが掛かるまで、延々アドリブが続きます。そこは見ものというか、今回は30分ドラマで時間が短いので、全部入っているわけではないですが、『あ、ここからアドリブだ』というようなシーンがいくつかあるので、そういう目線でも楽しんでいただけたらと思います」
――ちょっとジャズみたいだなと感じます。決まった楽譜から外れて即興になる瞬間に近いというか、「あれ、今のセリフはアドリブ?」と。この記事は2話が終わった後に公開するので、もし可能ならば、1話や2話で、どの場面、どの瞬間からがアドリブですよ、とヒントを頂けると嬉しいです!
「そうですね、お店の方とのやり取りはすべてアドリブです。『こんにちは』というやりとりがあって、後は全部もう木村文乃さんの独壇場。お店の方とも『初めまして』で、リハーサルもないので、まさにジャズのセッションが始まる感じで。お店の方も逆に緊張せずに、ナチュラルにお話ししてくださっているのが、ほかのドラマにはない味ですね。京都のお店なので、歴史の深い老舗も多いですし、取り上げているお店はとくに矜持をもってやってらっしゃるところが多いので、ご自身の言葉で生き生きとお話しをされるんです。通常、グルメドラマの撮影でも、流れをよく見せるために、実際の店舗は使ってもお店の方の役はご本人ではなく俳優が演じることが大半なんですけど、『名建築~』もふくめて私たちのドラマは、リアルな人のリアルな言葉で、台本も無しで自由にしゃべっていただきます。なので、そこは本当に我々もちょっと計り知れないというか、予定調和ではないので、現場で『すごいの来た!』みたいな唸る瞬間があります」
――ということは、俳優さんの技量も相当求められるのではないでしょうか?
「ちょっと特別な技能というか。その前にやった『抱かれたい~』もそうでしたけど、誰にでもできることではないですよね。木村文乃さんに至っては、それこそ仮に生放送のレポーターをやられても、優秀な方だと思います。即興で機転が利いて、どんどんお店の方のコメントを引き出す能力もありますし、且つ、物語の流れに沿ったコメントを引き出すためのワードで問いかけるんですね。物語にちゃんと乗せてくださるんです。そこは監督とやり取りしている部分もあると思いますけど、ある程度はご自身の力でされています。撮影は物語の順番に撮っていくわけではないんですけど、その回にちょうど合うように、こう来ているから次はこうっていう、流れをちゃんと見てくださっていて。これはかなり難しい、高度なことですね。それも、ほとんど撮り直しがなく、一発撮りで終わります。監督が粘って、良いコメントが出るまでカメラを回す、ということも無く。お店の方にもそんなに物語の意図は伝えていないと思うんですよね。だから、なかなかできないことだと思います」
新たな人物の加入で、ドラマチックな場面が増えたのも見どころ
――では今回の新シリーズならではの新しさ、挑戦などはありますか?
「新メンバーが加わりました。今回の裏テーマは『孤独』です。佳奈さんが結婚式に出席した時に感じた、にぎやかな空間ではあるんですけどふと感じた孤独。これは何なんだろうと。そのときに京都の茂さん(近藤正臣)の顔が浮かんで、大阪出張に際して再び京都に滞在する、という流れなんです。そこで今回は、茂さん(近藤正臣)だけでなく、同じように孤独に寄り添って楽しんでいる小山さん(古舘寛治)、吉田さん(玉置玲央)にも加わってもらって、彼らの感じる孤独との付き合い方、寄り添ってどう生きているのか、という姿を描いていきます」
――徳永えりさんもこれからご登場されます。
「4話の大阪での話ですね。今回テレビ大阪の40周年記念ドラマというのもありまして、一話だけ、大阪の回もあります。大阪に住んでいる昔からの親友・結さん(徳永)と再会するシーンで、大川を小さな屋形船でクルーズしながら二人で会話するという場面なんですが、そこも結構見ごたえがあると思います。佳奈さんは、親友が結婚を間近に控えていることに対する寂しさも抱えていて、それを直接ぶつけるんです。新たな人物が加わったことによって、そういった会話劇の中でドラマチックな『芝居場』という場面もいくつか出てきているので、前回よりもパワーアップしている要素と言えます。また、大川をクルーズする船からの景色は、僕の中ではセーヌ川のような思いでして(笑)。大阪も切り取り方によってはおしゃれに見えるんです! ライオン橋という橋が出てくるんですけど、そこだけ切り取ったらパリのポンヌフ橋に見えなくもないという(笑)」
後半は、佳奈と茂が互いに背中を押し合い前に進める温かい展開に
――最後に、物語の今後の見どころを伺ってインタビューの第1回目を締めたいと思います!
「2話までは、そこまで物語が動いていませんでしたが、3話以降は動き出しますので、注目していただきたいです。3話で吉田さんの職場を訪れるシーンでは、実際のデザイン事務所をお借りしました。昔のロンドンバスで行き先の表示に使っていた“ロール”のシートの生地が廃棄されるのを引き受けて、おしゃれなタイポグラフィーが印刷されたその布を使って、カバンなどを作られているんです。古いものを利活用するのは京都の暮らしと通じるかもしれないですね。そのカバンも映し出されるので、ぜひご注目ください」
――それから、茂さんの過去も明かされていくのでしょうか? フランスで女の人と住んでいたと、2話で明かされていましたが…
「そうですね、今回は、佳奈さんと親友の結さんの物語と、もうひとつ、茂さんは昔デザイナーをされていたんですが、その過去をめぐる物語が、解き明かされていきます。まだそこまで詳しくはお話しできないのですが、3話、4話と茂さんが佳奈さんの背中を押して、今度は佳奈さんが茂さんの背中を押すような、お互いに一歩前に進める流れがあって、最終回の6話を迎えるという展開になっていきます」
■お話を伺ったのは…
岡本宏毅(おかもと・こうき)
プロデューサー。’97年、テレビ大阪に入社。「きらきらアフロ」(’01年~)、「たかじんNOマネー」(’11~’15年)など多数のバラエティー番組の演出を担当。’18年よりドラマ制作に携わる。「抱かれたい12人の女たち」、「ちょこっと京都に住んでみた。」、「面白南極料理人」(すべて’19年)、「名建築で昼食を」(’20年)、「ホメられたい僕の妄想ごはん」(’21年)などの作品をプロデュース。また、現在、チーフプロデューサーを務める「イケメン共よ メシを喰え」が放送中(テレビ大阪 毎週土曜 深1:00~/BSテレ東 毎週土曜 深0:00~)。
「ちょこっと京都に住んでみた。」番組情報
テレビ大阪 毎週水曜 深0:00~
※テレビ東京 毎週水曜 深2:35~
「名建築で昼食を 大阪編」番組情報
テレビ大阪
8月17日(水)スタート 毎週水曜 深0:00~
※テレビ東京 毎週水曜 深2:35~