宮藤官九郎さんが脚本を務める正月時代劇「いちげき」。主演の百姓ウシ(丑五郎)を演じる染谷将太さんと、隣村の百姓イチ(市造)役の町田啓太さんにインタビュー。
幕末期の江戸を舞台に、薩摩藩が討幕目的で極秘に結成した御用盗に対抗するべく、主人公のウシ(染谷)、イチ(町田)たち農民が結成された特殊戦闘部隊「一撃必殺隊」の活躍を描きます。
共にある思いを抱えているウシを演じる染谷さん、イチを演じる町田さんに、作品や役への思いを伺いました。
“講談”が回収してくれるので、僕たちは自由に演じただけ(笑)
――はじめに、お正月の風物詩でもある『正月時代劇』のオファーを聞いた時の感想をお聞かせください。
染谷「素直にすごく嬉しかったです。座組を見せていただいた時に、『(自分の)出演に関係なく見たい!』と、純粋に思える作品だったため、声を掛けてもらえてすごく幸せでした」
町田「僕も嬉しかったですね。一風変わった時代劇ということで、挑戦心をくすぐられました。原作がある作品ですので、物語をご存知の方もいらっしゃると思いますが、ドラマならではの部分もありますので、楽しみにしていただきたいです。初共演の染谷くんはじめ、魅力的なキャストやスタッフの皆さんとご一緒できることに嬉しさと喜びを感じました」
――今作は、宮藤官九郎さんが脚本を務められます。演じながら、宮藤さん“らしさ”を感じた部分はありましたか?
染谷「笑いが絶えない撮影現場でした。一撃隊の一人が『イェーーイ!』と言うセリフには、かなり笑いました(笑)」
町田「『イェーーイ、侍!』(笑)は、時代劇では見ることができない部分だと思います。でも、その時代(江戸)でも感情の変化はあったと思うので、真剣なシーンやこうしたケロッとしたシーンが共存しながら面白くなっているのは、宮藤さんならではのストーリー展開なのかなと感じています」
――珍しいタイプの時代劇ではありますが、“時代劇”ということで所作や言葉遣いなど、苦労されたこと、発見などはありましたか?
染谷「“普段の時代劇”との違いはありますが、それ以上に『いちげき』という世界観を持つ時代劇だったため、最低限の所作以外はあまり気にしていませんでした。言葉遣いも宮藤さんオリジナルで、その時代になかったと思われる言葉も出てきます。気にしすぎないことを気にしていました(笑)」
町田「時代劇らしからぬ言葉遣いや行動が多くありますので、その分、皆さんもライトに見て楽しんでいただけるかな、と思います。今まで見たことのない時代劇ですね。あとは、講談といって語り(六代目 神田伯山)がありますので、新鮮な感覚を楽しみながら演じていました」
――そんな「いちげき」で演じられた、ウシ、イチは、どのようなキャラクターですか?
染谷「ウシは、動物的な勘を持っていて冷静なのですが、ものすごく天然。素直で恩着せがましくない性格なので、演じていて楽しかったです。器用ではないけれど、格好良くて正義感があふれている人物ですね」
町田「僕の演じる市造(イチ)は、人一倍武士への憧れがある一方で、武士を妬ましくも思っている。良い意味で“バカ”といいますか、感情をストレートに出すので、裏がなくてすごく面白かったです。だからこその、ウシとの関係性や対立する様も楽しく演じられました」
――そんなウシとイチは、松田龍平さん演じる島田幸之助役の下で成長していきます。松田さんとの共演、また、染谷さんと町田さんお互いの共演での印象をお聞かせください。
染谷「島田は面白くて魅力的な役なのですが、龍平さんがそれを淡々と演じているのがまた面白くて、いつも笑いをこらえていました(笑)。感動する場面もありましたし、共演させていただいたことで刺激をもらいました。町田さんは、隣にいてくれるだけで安心する存在でした。普段、撮影現場ではあまり演技や役について話すことが多くない方なのですが、町田さんとは気付いたら、『このシーンは、どうしようか』と会話をしていました。ぜひ、またご一緒したいと願っています」
町田「松田さんとは今回初共演で、オンとオフが全然変わらない印象でした。撮影現場では、常にいろいろなことを考えていらっしゃって、『次は、(松田さんが)どんな言葉を発するのだろう? どういうふうに動くのだろう?』と、思いながら楽しく過ごしていました。松田さんが島田を演じるからこそ、一撃隊のこの空気感が出ているのだろうな、と感じましたね。染谷くんとも初めてご一緒させてもらいましたが、『「いちげき」をどうしたら面白くできるのか』とずっと考えていらして、思いを僕たちにも共有してもらえたので、付いていくだけでした。笑いの絶えない撮影現場を作ってもらえてありがたかったですし、また共演できるように頑張らないといけないな、と」
――共演者というと少し異なるかもしれませんが、今作では、ナレーションではなく語り=講談として、六代目・神田伯山さんが出演されます。
染谷「神田さんの講談には説得力や力強さがあるため、『僕たちが何をしても、講談パートで回収してもらえるのではないか?(笑)』『場を散らかしてしまっても、講談を挟むことでシーンが成立するのでは?』と、講談に甘えて好き勝手に演じた部分があります(笑)。神田さんの講談こそ、この作品が締まるポイントなのだろう、と思っています」
町田「同じく、僕も自由に気にせず演じていました(笑)。講談が、物語をより面白くして、どんどん動かしてくれると思います。新たな見方で楽しんでもらえるのではないでしょうか」
「本当の自由とは?」「どう選択するか?」について考えるきっかけになった
――今、仰られたように、講談もその一つだと想像しますが、先ほどお二人が答えられた“新しい時代劇”“見たことのない時代劇”について、具体的なエピソードを教えていただけますか?
染谷「集められた農民で、“一撃必殺隊”という世には門外不出の特殊部隊を作り上げて戦っていく話なのですが、身分の違いがある中で権力と戦い、もがく生きざまを描くこと自体、僕にとっては新しいものだと感じました。だからと言ってすごく重い話になっているわけではなくコミカルに表現しているので、笑って見られると思います。一方で、キャラクター一人一人の思いが胸に響くところも、しっかりと描かれています」
町田「侍や武士をテーマにした作品では、どう生きるか、という格好良い生きざまを描くことが多いと思うのですが、今回の題材は農民。血筋や生まれで身分が決められている中で生き方を変えようとする部分が、すごく斬新だと感じました。大義名分を掲げるでもなく、自分たちがどう生きたいか、というところに焦点を当てているからこそ、皆さんも共感できる部分が多いのではないでしょうか」
――時代は違っても、現代に生きる私たちにも響くものがある、ということですね。
染谷「時代背景こそ異なりますが、『生きていく上での自由とは何だろう?』と、すごく考えさせられました。もちろん、当時(物語の舞台、江戸)よりも今のほうがはるかに自由だと思いますが、『本当の自由とは? 本当に価値があるものとは何だろう?』と、問われたような気がしました。実際、自由に生きているというものの、人それぞれで生きづらさも異なるかと思います。その中で、何を喜びや幸せと感じるのか、こういう思いを『いちげき』に出てくる人物が、いろんな形で表現しているので、それもまた感銘を受けました」
町田「世の中には、変えられるものと変えられないものがありますよね。変えられない物事に遭遇した時、どういう選択をするかによって、その後の生き方が変わってくると思います。どんな選択をして、どう生きるべきなのか、ということを僕も考えさせられました。何かについて思い巡らせてみたり、選択を迫られた時のことを考えるきっかけになったらいいですね」
――ありがとうございます。では最後に、視聴者へのメッセージをお願いいたします!
染谷「時代劇をあまり見たことのない方でも、気軽に触れることのできる作品だと思います。誰が見ても、お正月にふさわしく、笑って泣けてスッキリ爽快、明日が楽しみになる作品になっています。こんなに立ち回りが多い作品も珍しいと思いますので、ぜひ見ていただけたら嬉しいです」
町田「お正月に見ることで、『今年も一年、頑張っていこう!』と、エネルギーを感じられると思います。皆さんがどれだけこの作品を楽しんでもらえるのか、と僕も楽しみにしています」
■Profile
染谷将太(そめたに・しょうた)
1992年9月3日生まれ、東京都出身。’09年に、映画「パンドラの厘」で長編映画初主演を果たす。映画「ヒミズ」(’12年)では、第68回ヴェネツィア国際映画祭にて、マルチェロ・マストロヤンニ賞(最優秀新人賞)を、第36回日本アカデミー賞にて新人俳優賞を受賞。また、日中合作映画「空海-KU-KAI-美しき王妃の謎」(’16年)で主人公・空海を演じる。映画やドラマ、劇場アニメの声優など、幅広く活躍。
町田啓太(まちだ・けいた)
1990年7月4日生まれ、群馬県出身。近年の主な出演作に、ドラマ「西荻窪 三ツ星洋酒堂」(’21年、MBS)、「テッパチ!」(’22年、フジテレビ系)、映画「チェリまほ THE MOVIE~30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい~」(’22年)ほか。プレゼンターを務める教養番組「漫画家イエナガの複雑社会を超定義」(NHK総合、毎週金曜 後11:15~)が、レギュラー放送中。’22年12月配信開始予定のドラマ「今際の国のアリス シーズン2」(Netflix)にも出演している。Instagramもチェック。
正月時代劇「いちげき」放送情報
NHK総合
2023年1月3日(火)後9:00~
※NHK BS4Kでも同時放送
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衣装協力/サスクワァッチファブリックス、ビームスF(染谷将太)、BERLUTI(町田啓太)