山本博紀P×原作あいざわあつこが山下リオ主演作を語る

2023/01/31 06:06

めちゃコミックの人気漫画を映像化した「わたしの夫は―あの娘の恋人―」の山本博紀Pと原作あいさわあつこの対談が実現! 2次元と3次元を巡る物語や表現の神髄とは?

テレビ大阪が「真夜中ドラマ」枠で初めて挑む本格的な大人の恋愛ミステリーの放送スタートを前に、「『TVer』再生数で上位を狙いたい」と意気込む担当プロデューサー・山本博紀さんと、漫画の原作者・あいざわあつこさんの対談が実現!

あいざわさんが初めてドラマの撮影現場を訪問し、クライマックスシーンの撮影を見学した興奮そのままに、対談を実施。企画成立の経緯から、物語の見どころ、漫画と映像それぞれのクリエイターとしての話まで、たっぷりお届けします。

ドラマ化するならこの作品! 原作を読んで最初からグッと引き込まれた物語

――まずは、このドラマが生まれた経緯から伺わせてください。テレビ大阪では、「面白南極料理人」(’18年)や「イケメン共よ メシを喰え」(’22年)といった真夜中ドラマ枠の路線から、恋愛路線にグッとギアを入れてきた印象です。

山本「はい。ここまでドロドロした恋愛ドラマというのは、初めてだと思います。これまでは、わりと企画勝負というか、グルメと名建築ですとか、ご飯と妄想を組み合わせるとか、そういったパッケージで作ることが多かったんです。なので、がっつり12話の恋愛ドラマは作ったことがないなあという話は、ずっとしていました。それで『TVer』の再生数ランキングを見ていると、深夜ドラマはかなり踏み込んだ大人向けの恋愛モノが支持されているという印象が、ここ1、2年強かった。それならば、テレビ大阪でも一度チャレンジしてみようじゃないか!と。そのタイミングで『めちゃコミック』さんから、いくつかオススメの作品をご紹介いただいたという流れなんです」


――そこから「わたしの夫は―あの娘の恋人―」に。

山本「素敵な作品をいろいろご紹介いただいて拝見していった中で、この『わたしの夫は―あの娘の恋人―』が一番、最初からグッと引き込まれる作品でしたし、ドラマにも非常に向いているんじゃないかと思いました。なので、『これですよ!』とお願いしました。決め手はそこでしたね」


――あいざわさんは、この話を聞いたときはどうでした?

あいざわ「いやぁ、びっくりしました! 寝耳に水でした。内容的に、ドラマ化しやすいと言われている不倫モノなので、映像になったら嬉しいな、と思っていたことはあったんです。でも、まさかという感じでしたので、話を聞いて『本当に?』と(笑)」

――今日、ドラマの撮影現場を初めてご覧になられて、いかがでしたか?

あいざわ「素直に嬉しいです! 自分の想像していたキャラクターたちが3次元になると、こういう風に動いてこういう風にしゃべるんだと、拝見して楽しいなと思いました。私は原作の担当で、作画はツキシロギン先生が担当されているので、絵になった時のイメージはツキシロ先生の絵のイメージで頭の中で動かしていたんです。3次元の人間になったら、という想像はしていませんでしたので、予告動画を拝見したときに『突然動いてきた!』と感じてすごくびっくりしました」

山本「新鮮な感じですか? 世界観が違うよ!とか思わなかったですか?」

あいざわ「そんな風には全然思わなくて、動くとこうなるんだと感じました。なので、全員の動くところを見るのが楽しみです。質問なんですけど、演じられる俳優さんたちは、どのようにキャスティングしていくのでしょうか?」

山本「まずは原作を読ませていただいて、人物たちの性格や年齢、職業などのイメージに合う俳優さんをキャスティングしたいというのが第一です。あまりにもかけ離れて、原作のファンの方々が『なんでこの俳優さんなの?』と感じてしまうのも良くないですから。加えてキャラクターに合った演技、お芝居ができる方にオファーさせていただきました」

あいざわ「最初に決めたのは香織役ですか?」

山本「はい、主人公から。山下さんは年齢的にちょうど良くて、結婚して数年、アパレルに勤務しているという設定にもぴったりで、パリッとしていてカッコいい部分がある。でも深いところで悩みもあるという役柄を、すごく上手に演じていただけるだろうと、山下さんにお願いしました」

あいざわ「拓也や恭介、睦美についても教えていただけますか?」

山本「拓也は原作を読んだ印象だと素直というか、まっすぐでちょっと天然な部分がありました。なので、まっすぐなイメージの泉澤さんがハマるのでは、と。年齢も山下さんとの釣り合いが良く、もちろんお芝居の安心感もありますし、お願いしました。逆に恭介は、拓也とは対照的に少しミステリアスで、なぜか不思議な男の色気があります。そこに香織が惹かれていくという展開になるので、ミステリアス要素のある役者さんで、いま勢いがある方として佐伯さんが良いんじゃないかと、オファーさせていただきました。睦美はかわいいけれども、豹変するとちょっと危うい部分、愛に飢えている部分のある人物です。紺野さんは最近いろいろな役に挑戦されていることを知っていましたので、『チャレンジしてみませんか』とお声掛けしまして、『ぜひ』とお返事いただいた形ですね。すぐに原作を読んでくださって、『めちゃくちゃ面白い、ぜひやりたいです』と言ってくださいました」

誰にでも起こりうる、登場人物の誰かに共感できる物語にしたかった

あいざわ「私自身も漫画を描いていて、おっしゃっていただいたように、拓也はすごくまっすぐな人というイメージがあったんです。そのイメージにズレがなかったのが、すごく嬉しいです!」

山本「拓也は、うまく嘘がつけないんですよね」

あいざわ「なんというか、良い人。たぶん作中で一番良い人なんですね。不倫はするんですけど(笑)。普通の良い人なんですよ」

山本「監督陣や脚本家陣と話していたのは、今回4人とも罪を犯しているんだけど、その中では拓也がたぶん一番共感されやすいんじゃないかと」

あいざわ「だと思います」

山本「もしかしたら自分もあり得るかも、って思えるのは、男性からすると拓也だよねと。同じ職場の若い人に泣きつかれて、ホロリと、好きというわけでもないんだけど思わず…みたいな」

あいざわ「そこは、できるだけ生々しく書きました」

山本「一番リアルに世の中にも居そうなキャラクターが拓也なのかなと思います」


――あいざわさんは、この話の入り口として、拓也の、誰でもありそうな出来事から、という点は意識されたんですか?

あいざわ「そうですね、誰にでも起こりそうな、不倫。そのあと結局、香織も恭介と不倫してしまう。そこの展開がぶっ飛んでいるというか、された側同士って、現実にはあり得ないと思うんです。だからこそ入り口は、すごく生々しくしたくて。自分の旦那さんでもありそうだし、友達に相談されそうな範囲。誰かに共感できそうな範囲から始めたいというのはありました。拓也はすごく普通の男性だし、不倫しちゃった理由も、どこにでもありそうなきっかけにしました」


――確かにリアルですね(笑)。一方で友達が“裏アカ”に気づくというのは「そんなこと、本当にある?」と思いつつも新鮮です。

あいざわ「でも、不倫用の裏アカウントを作っている男性や女性って多いらしくて、それでバレちゃうというパターンはあるみたいですね。この作品を書き始めた当初、SNSで友達を探す機能に引っかかったのが夫の裏アカだった、というような怖い話を聞きました。この漫画のお話を頂いたのは3年前で、そのときに自分と遠くない主人公にしたかったんです。不倫という身近にあるテーマだからこそ余計に、誰かしらに共感できる物語にしたいという思いがありました。なので香織も睦美も、自分とそんなに変わらない主人公に。そうすると、必然的に拓也も自分の夫から遠くない人物像がリアルで良い、となっていきました。恭介も一見ミステリアスな人ですけど、一皮むくと、わりと人間らしい人なんです」

山本「SNSの裏アカを使っていてバレてしまうというのは、今っぽいですよね。夫婦がセックスレスというのも現代ならでは。おそらく一昔前だとそういう問題って顕在化していなかったと思います。このドラマをやるにあたって、データを調べてみたんですけれども、いま、セックスレスの夫婦の割合は、かなり高いんです。その数字はドラマの本編に出てきますので、ぜひ放送を楽しみにしていただければと思います」

あいざわ「すごく高いんですね」

山本「物語の冒頭が、そういうセックスレスの描写から入るんです。関係としては普通に円満なんだけど、実はセックスレスで、微妙に心の距離が離れていて、浮気のきっかけになる。実際のデータで割合が高いのであれば、この入り方に共感してくれる視聴者の方もいらっしゃるだろうと思っています」

リアルなセリフ回しなど、細かな工夫で紡ぐ “令和らしいドロドロ恋愛ドラマ”

――ではここから、2次元の漫画を3次元の映像に起こしていく作業の中でのお話を伺えたらと思います。

山本「まずひとつは、原作自体が完結していないので、連続ドラマとしてどう終わらせるかは課題でした。最終的には4人とも不倫という罪を犯しているんだから、たとえ不倫関係の2人が結ばれるにしても、不倫自体を良しとするような結末にはできないのかなとか、かといって元のさやに戻るというのはあり得るのかな、とか。原作ファンの方々のコメントも参考にさせていただきながら、着地点をどこにもっていくかという点は、かなり議論しました」

――ドラマ版の結末は、スタッフの皆さんで作り上げたんですね?

山本「はい。それをめちゃコミックさん側に『こういう展開にしたいんです』と相談して作りました。また、速いテンポでいろんなことが起こっていく展開にするために、原作で描かれている範囲を追い抜いた後半で、いくつか山を作らせていただきました。そこはドラマオリジナルの展開です。そのあたりも含めて結末までどうなるのか、楽しみにしていただけたらと思います」


――あいざわさんは、映像になると違う表現があるんだなと感じられた部分はありますか?

あいざわ「先ほどちょうど拝見したシーンで、香織と恭介が手を重ねていて、香織の手が上だったのを、途中で恭介が自分の手を上にしてのせるという場面があったんですね。そういう繊細なシーンって、漫画でも、もちろん描けるとは思うんですけど、結構コマ数を取るので、それよりは他のところを、となっちゃうと思いますから、ああいう繊細な演出を入れることができるのは素敵だなと思いました」


――さすがの観察眼です。では山本さんにも、映像ならではの表現に変えたところを伺えたら。

山本「物語自体はドロドロのダブル不倫モノなんですけど、昭和的な昼ドラテイストとは違う、現代の中で巻き起こるリアルな物語に見えるように、『いわば“令和版の昼ドラ”にしよう』というのは監督陣とも話をして、意識しています。具体的には、オープニングのタイトルバックはかなりスタイリッシュに仕上がっています。また、オープニング、エンディング、劇伴(場面に合わせて流れる音楽)など楽曲にもこだわました。でも本来、視聴者の皆さんが楽しみにしてくれる部分、例えば『ここで不倫がバレちゃうの??』というシーンもあると思うので、スタイリッシュになり過ぎないよう、ハラハラドキドキの要素は残しながらもベタに見せすぎない、というバランスを大事にしました」

あいざわ「1話を見るのが楽しみです。個人的には、香織がモノローグで、『セックスレス』を繰り返すところが1話の台本の中にあって、すごくリアルというか分かるなあと」

山本「ありがとうございます(笑)。何気ない日常を描いていく中で、心の声が漏れるんですよね」

あいざわ「『仕事は完璧、セックスレスだけど』『拓也のコーヒーおいしい、セックスレスだけど』って(笑)。一つ大きすぎる問題を抱えているとこうなっちゃうんだろうな、という典型というか。自分の中での皮肉じゃないですけど、仕事などがうまくいっていればいるほど、『こんなに完ぺきだけど、でも〇〇』って思っちゃうんでしょうね」

山本「そういう意味では、実際、現実の世界でそんな言葉を言うかな?というセリフが漫画やドラマでは逆に刺さったりすることがありますけれども、リアルじゃないセリフは極力減らしています。そこでもまた、”令和版”に仕上げていくところと、ドロドロ本来の見せ場はしっかり作るところ、両面のバランスはかなり意識しながら作ってきましたので、ぜひ出来上がりを見て感想をいただきたいなと思います」

あいざわ「劇伴にこだわったという部分についても、詳しく聞きたいです」

山本「今回はichikaさんという世界的に活動されているギタリストの方に劇伴をお願いしました。彼らしいギターの世界観もしっかり出しながら、ドラマらしく煽っていくところはストリングス(ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスの弦楽器)を入れて盛り上げる楽曲もあります。何度も打ち合わせをしながら、平穏な日常、不穏や疑い、緊張や恐怖など、いろんなシチュエーションに合う楽曲を作っていただきました。ichikaさんにお願いしたことで、劇伴にも”令和版”らしい特徴が出せているのではと思います」

あいざわ「音楽って、2次元の表現にはないものですので、楽しみです」

今作は“深夜のラブレター”じゃないけど、昼よりも夜に書きやすい(笑)

――あいざわさんは、原稿をお書きになっているときに物語に合わせた音楽のイメージが頭の中にあったりはしますか?

あいざわ「書くときにリピートしている曲はありますけれども、そのタイミングで聞いている曲という感じですね」


――自分のリズムに合う曲を流す?

あいざわ「というより、書く内容に合わせる感じです。例えば、すごく楽しいことや嬉しいことがあって、でもこれから仕事でめちゃくちゃ悲しいシーンを書かなきゃいけない、ということが時としてあるんですね。自分のプライベートは順調なんだけど、すごい落ちた話を書かなきゃいけない。そんな時は暗い曲を流したりします」

山本「気持ちを悲しいほうに持っていくという?」

あいざわ「そうです、切り替えるために。あと、昼じゃなくて夜に書くことも」

山本「時間帯もあるんですね!」

あいざわ「実はこの作品は、基本、夜に書くことが多いです。少なくともこのお話に関しては、“深夜のラブレター”じゃないですけど、昼間よりも夜のほうが書きやすい。恭介が香織に投げる言葉は顕著で、恭介ってちょっと変な人だけど、でもだからこそ、言っていることは、とてもストレートなんです。『好きだ』とか『ずっと一緒にいたい』とか。彼なりにアレンジはあるんですけど、わりとずっと、ストレートに香織を信頼して、香織のためになるように行動しています。そんなの、明るいうちだと書く方が照れてしまうというところがありまして(笑)。なので、夜のほうが書きやすい、感情が乗りやすいというのはあります」

あいざわ先生と人物のキャラクター像が一致していて安心しました(山本) 
楽しみしかないです! 皆さんも一緒に楽しみましょう(あいざわ)

――お話は尽きないのですが、最後に本日の対談の感想と、読者の方にメッセージをいただけますでしょうか。

山本「ドラマを今まさに撮っているんですが、今日あいざわ先生のお話を聞かせていただいて、キャラクターの方向性に大きなズレがなくて良かったなと。あらためてホッとしています。あとは、夜に執筆されているというお話を聞いて、驚きを感じるとともに、そういうことってあるんだなぁと。書き物をされる方は内容によって適している時間があって、筆が進む時間、セリフが出てくる時間があるというのがすごく新鮮でした。ドラマに関しては、いろいろなことをお話しできて、魅力を十分お伝えできたと思います。本当に素晴らしい原作をドラマ化させていただけて、12話通して最初から最後までノントップのストーリーになっていますので、期待してご覧ください!」

あいざわ「頂いた台本を拝見して、すごく大事に作ってくださっているなと感じました。原作をそのまま使っていただいている箇所もあれば、アレンジして素敵にしてくださっている箇所もあって、本当にありがとうございます。また、個人的に音楽がとても好きなので、劇伴の曲などもすごく楽しみだなぁと思っています。なので、今のところ楽しみしかないですね! 一視聴者として楽しみにしていますので、皆さん一緒に楽しんでいただけたらと思います」

■Profile
山本博紀(やまもと・ひろき)

2006年、テレビ大阪に入社。編成部、営業部、制作部を経て、’20年にコンテンツセンターへ。「THEフィッシング」「初耳怪談」などをプロデュース。現在はドラマ制作に携わる。これまでのプロデュース作品は「名建築で昼食を」(’20年)、「名建築で昼食をスペシャル 横浜編」(’21年)、「イケメン共よ メシを喰え」(’22年)。

あいざわあつこ(写真左)
シナリオディレクター。シナリオ制作会社トライファクション代表取締役。漫画原作だけでなく、アニメ、書籍、Webドラマ、ゲームなど幅広いジャンルでシナリオ制作を行う。主な漫画原作は「大正諸恋ノスタルジー~文豪と女たちの恋煩い~」(「めちゃコミック」掲載※完結)、「禁断の花魁 ~愛から生まれた復讐~」(「めちゃコミック」にて連載中)。

「わたしの夫は―あの娘の恋人―」放送情報

テレビ大阪
1/14日(土)スタート 毎週土曜 深夜1:00~
(BSテレ東 毎週土曜 深夜0:00~)
TVerで配信中