山下リオインタビュー「人生の節目に挑んだ試練の役に感謝」

2023/02/28 09:09

不倫に不倫をかぶせる濃厚な展開と、攻めた演出で巷を騒がせている「わたしの夫は―あの娘の恋人―」。体当たりで主人公を演じる山下リオさんにお話を伺いました!

ある日、夫の拓也(泉澤祐希)の“裏アカ”を見つけてしまった香織(山下リオ)は、不倫疑惑を追及し、不倫相手・睦美(紺野彩夏)の夫・恭介(佐伯大地)と出会う。だが恭介から“禁断の契約”を持ち掛けられたことから、香織の人生が思わぬ方向へ走り始める…。

息つく間もなく怒涛の展開が続く大人の恋愛ミステリーの主人公を、体当たりで演じている山下リオさんに、香織を演じるにあたっての思い、恭介役の佐伯さんとの“あのシーン”の撮影エピソードなどを語っていただきました!

アクションのシーンさながら、協力して作り上げたラブシーン

――「わたしの夫は-あの娘の恋人-」というタイトルだけでも刺激的な作品ですが、どのような意気込みで撮影に入られましたか?

「30歳というタイミングで、事務所を辞めてフリーランスになり、人生の中でも大きな節目を迎えることとなりました。そんな中、ドラマのオファーを頂けたことは純粋に嬉しかったです。主演であることや、過激な作品であることにも、驚きましたが、これも試練を頂いたというか(笑)。挑戦できる機会をくださったことが、本当にありがたくて。兎にも角にも、全力でやり切るしかないと思いました」


――自分の夫の不倫を知り、その相手の夫と自分も不倫をしてしまうというストーリーですが、どのように受け止めましたか?

「原作の漫画の印象は、不倫をテーマに描く中で、女性の妄想がかき立てられるような、非日常的な世界観が日常の中にミックスされていて、とにかくドキドキさせてくれる、エンターテイメントにあふれた作品だなと思いました。それが脚本になって、さらに衝撃的で、ジェットコースターのようにストーリーが展開されていくので、『え、次はどうなるの? その次は⁉』って、読み始めたら止まりませんでした(笑)。でもそれを自分が演じるわけですから、現場に入ったときにちゃんと感情が追いつくのか、とても不安でした。漫画っぽくするのか、リアルにしていくのか。今回は監督さんが5人いらっしゃるので、演出もそれぞれ違って、悪戦苦闘しましたが、リアルさと漫画っぽさが、話(回)によってテイストが変わったり、見せ方の面白さもあると思います。人間って、人の前では良く見せようとする部分があると思うんですが、本性がどんどん引きずり出されていく感じが魅力なんじゃないかなと思っています」

――第1回の冒頭からすごいラブシーンがありましたが、撮影は大変でしたか?

「2話で濃厚なラブシーンがあったんですけど、出来上がった映像を見て『ここまで写っているのか!』って、びっくりしました(笑)。『こんなに攻めているドラマ、最近あまり無かったような…』と。今回は1か月で12話を撮る過酷なスケジュールだったので、正直、疲労でラブシーンの撮影は、ほぼほぼ記憶がないんです。カメラチェックをする時間も無かったくらいなので、スタッフさん、役者さんを信じて『もうどうにでもなれ!』って(笑)。スタッフさん然り、(相手役の)佐伯さんもすごく優しくケアをしてくださったので、私も頑張れました」


――山下さんが演じた香織の思いが伝わってくる美しいシーンでした。

「私は、これまでキスシーンはたくさんありましたけど、ここまで過激なシーンは経験がありませんでした。佐伯さんも、そういうシーンの経験は全然なかったそうで、しかも佐伯さんはたしかクランクインの日だったんです! 朝から湯河原でデートを尾行するシーンをずっと撮っていたんですけど、夜が近づくにつれて『そろそろ来るな、来るな』と、だんだんソワソワはしていました(笑)。でも、最初の頃の香織と恭介も変な関係ですし、その緊張感が良い感じの距離感に映っていれば良いなと思いながら演じていました。恭介は一目ぼれに近かったかもしれませんが、香織としては恭介に惹かれていくきっかけとして、ラブシーンが必要だったので、彼らの本能的な部分を表現できたかなと思います。途中、八十島(美也子)監督からは『細かい動きはお互いのタイミングで』と言われたのが面白かったです(笑)。『なんて難しい注文を‼』とツッコミを入れながら、アクションのシーンさながら、協力して作り上げました」

――大人のドラマとしては、欠かせないシーンではありますよね。

「そうですよね。キャミソールを1枚着た状態というよりは、私も攻めた方が良いのかなと思っていたので。違和感なく入り込めるシーンになっていれば嬉しいです」

団結力で乗り切るための秘策、ウサギの絵の下手な人選手権!

――香織が恭介と出会い、自分の夫と恭介の妻を別れさせるために協力してほしいと頼むシーンで、恭介は交換条件として「自分とセックスすること」を提示しますが、ああいう男性はどう思いますか?

「その話、キャストみんなでしていたんですよ。『どうなの? この男、欲望の塊じゃない?』って、大不評でした。佐伯さんは『俺じゃないから、恭介だから‼』ってずっと言っていました(笑)」


――2組の夫婦のドロドロの関係が、「令和の昼ドラ」と言われる所以でもありますが、現場ではみなさん和気あいあいとされていたと伺っています。

「今回は12話分を順不同に撮っていったので、同じ日でも、心がくっついたり離れたりする変化の幅が大きくて、それが大変だったんです。だから、紺野(彩夏)さんは夫の浮気相手の役なので、仲良くなっていいのかな…とも思ったんですけど、ここは団結力で乗り切ろうと、いつも以上に役者同士でのコミュニケーションを取りました。スタッフさん同士も何度も一緒に撮影をしていたようで、みんな仲が良くて明るく現場を盛り上げてくださいました。このチームだったから乗り切れた、というのはすごく感じます」

――特に佐伯さんはとても明るい方ですね。制作発表での様子が役柄と全然違って驚きました。

「外国人かなっていうぐらいフランクな方です。でも最初は、スタッフさんとはすごく話しているのに、私には全然話しかけてくれなくて。『あれ? 嫌われているの?』と思っていましたが(笑)。結局、私に話しかけて良いか分からなかったと仰っていましたが、私は負けじと佐伯さんイジリを始めて、最後は仲良くなれたかなと思います」


――撮影現場ではどんな話題で盛り上がりましたか?

「現場にメモ帳が置いてあったので、みんなでウサギを描いて、“下手な人選手権”をしようよとか(笑)。もちろん恋愛話もいろいろしましたし、みなさん個性的で気さくな方たちなので、プライベートにも触れられるような、突っ込んだ話もしていましたね」


――面白い絵を描く“画伯”はいらっしゃいましたか?

「佐伯さんが“画伯”でした(笑)。もともと上手ではないと聞いていたんですが、佐伯さんって完璧に見えるじゃないですか。体も鍛えているし、背も高い。だから欠点を探していこうと思って、ちょっとイジワルしていました(笑)」

愛が強いほど、憎しみに転じた時が恐ろしい

――山下さんご自身は、不倫についてどう思われますか?

「当然してはいけないことだと思っています。でも本質的には恋愛でもあるのでは…と考えると、そこに善悪はないとも思えちゃうのは、多分、私が当事者じゃないからなんですよね。された側の人間になったら絶対そうとは思えません。でも、この作品を通して不倫についてたくさん考えましたが、結局正解は分かりませんでした」


――ではもしパートナーに不倫をされたら?

「私は結構感情が激しいタイプなので、爆発して、ブラックホールに送りこみます(笑)!」

――香織が自分の夫を尾行するのはどう思われました?

「探偵さんに頼むならまだしも、自分で尾行するってかなり強気というか。彼を愛しているから、何かの間違いだと思ってできることなのか、愛しているから地獄を見に行くのか。両極端な感情がすごいなと思います。愛って一番パワーが強いから、それが憎しみに転じたときは凄まじい。それこそが、こういった愛憎劇がどんどんこじれていく要因なんだなと思います。愛の強さって恐ろしい。私だったら…乗り込むのは、できないかもしれません」

絡めた指、重ねた手、触れるところからすべてが始まる

――格好良い女性として部下から慕われている香織は、仕事場ではあまり感情を出しませんが、そこは共感できますか?

「仕事場で感情を出さないところは共感しますが、私は結構ネガティブなので、香織のようにキラキラした人間とはかけ離れていると思います」


――全然そんな感じにはお見受けしないです。

「いやいや、全くですね。1話で部下に『かわいい』と褒められたスカーフを、『欲しい?』と言って真上に放り投げるというシーンがあったんですが、私的には香織の“絶対王者感”にドキドキして『本当に放り投げて良いんですか?』って佐藤(竜憲)監督に何度も聞いてしまいました。でも『ここは漫画みたいに面白くなるから、自信を持ってやってください』と仰られたので、本番で思い切って投げたところ、周りの役者の皆さんがスカーフを取り合うお芝居で盛り立ててくださったので、気持ち良く香織としてその場にいられました」
  

――タイトルバックの手を使ったダンスも素敵です。

「ありがとうございます。実は、当日までダンスがあるとは聞いていなかったんです。撮影中に、『次はハンドダンスを踊ります』と突然言われ、先生の動画を見せられたんですけど、最初は『何がどうなっているんですか?』みたいな反応でした(笑)」


――すごい! その場で覚えたんですね。

「私、ダンスが大の苦手なんですけれども、振り付けの先生のおかげで何とか無事に踊れるようになりました。タイトルバックを撮られた佐藤監督が、このドラマは手がテーマだと仰っていたんです。本編でも、たびたび結婚指輪と共に映るので、手にも感情が表れてくるのでは、と思います」


――ラブシーンで絡めた指をギュッと握る場面や、手を重ねることで愛情を表現しているシーンが印象的でした。

「日本人って、普段、公にそこまで触れ合うことがないから余計感じるんでしょうね。触れ方や手の握り方など、手にもさまざまな感情が見えてくる。手って大事なものだったんだなって、私もあらためて気付きました」

海外で心を解放する自分時間。妄想で人を好きになるのが楽しい

――山下さんご自身のことも伺いたいのですが、気持ちをリセットするために、よく一人旅に行かれるそうですね。

「私の理想は、実人生に影響なく演技ができる役者さんになることなんですが、実際にはお芝居に入ると役の気持ちを自分の時間にも引っ張ってしまうことが多くて。本当の自分の感情なのか、役の感情なのかが曖昧になってしまい、『本当の自分ってどこにあるんだろう?』と、つらくなったりすることがあるんです。そういう時は、自分のことを誰も知らない場所で、“自分”に戻る時間が必要なので、旅に出ます。特に海外に行くと、言葉も通じないし、意志をハッキリ伝えないと何もしてくれない。そういう過酷な状況が好きなんですよ。誰も私を知らないから 『え~!』とか、『わぁ~、楽しい~!』とか言って一人で騒いでいます。それを日本でやると『あいつどうした?』ってなっちゃいますけど(笑)」


――心が解放されますね。

「どこか人の視線を気にしている弱気な自分が嫌いなので、それを解放するためによく海外に行っています。友だちといると、友だちが楽しめているのかが気になって疲れちゃうので、いつも一人旅なんですけど、『行こう!』となったらバーっとチケットだけ取って、全然知らない場所に飛び込むのが好きです」

――旅先で印象に残ったエピソードはありますか?

「私、男女含めて人間を好きになるのが得意なんです。海外で友達を作ることもあるし、『ちょっといいな、この人』っていう相手を見つけるのも大好きです(笑)。実際恋愛に発展することなんて無いですが。フィリピンのセブ島に行ったとき、久々にスキューバダイビングをやったんです。フィリピンでダイビングをすると、“お姫様ダイブ”って言われるぐらいガイドさんが何でも全部やってくれるので、そのまま装備を着けてもらって、バーンと海に落とされたんです。そうしたら溺れそうになってしまって。その時、フィリピン人のバディ(一緒に潜る相棒、この時はガイドさん)が助けてくれて、『慣れてないから、手をつないで泳ぎましょう』って、一緒に海底に潜ったりして、すっごくドキドキしました」


――それは確かにドキドキしますね(笑)。

「その人とはその後、街で彼女と腕組みして歩いているところを目撃して『あら~』となったんですけれども(笑)。そんな風に自分で勝手に盛り上げて楽しむのがすごく好きですね」


――それも海の中で手をつないだことから始まりましたね。今回のドラマでも監督さんがこだわられた部分ということですが、やっぱり手をつなぐってすごいことですね。

「そう思います。中学時代、友達に彼氏ができて『好きな人とどこまでいったの? ABCで教えてよ!』みたいな話をしていた時も、最初のAは『手をつなぐ』だったことを思い出しました。ドラマの中でも、手が印象的に映っています。ストーリーが進むにつれ、次第にすごい展開になっていきますが、それぞれの相手と不倫してしまった4人の結末を、最後まで見届けていただけたら嬉しいです」

■Profile
山下リオ(やました・りお)

1992年10月10日生まれ。徳島県出身。柴咲コウに憧れ女優を目指す。2007年「Hana*chu→」でモデルとして活動するとともに「恋する日曜日 第3シリーズ」(BS-i)で女優デビュー。以来、多数のドラマ、映画に出演。近年の主な出演ドラマは「フルーツ宅急便」(’19年、テレビ東京)「RISKY」(’21年、MBS)、「全力!クリーナーズ」(’22年、ABCテレビ)など。現在、動画配信サービス・ディズニープラス「スター」にて配信中のオリジナルドラマ「ガン二バル」に出演中。3月17日公開の映画「零落」(原作・浅野にいお、監督・竹中直人。主演・斎藤工)に出演。

「わたしの夫は―あの娘の恋人―」放送情報

テレビ大阪
毎週土曜 深夜1:00~
(BSテレ東 毎週土曜 深夜0:00~)

  
もっと“ワタオト”ワールドを味わいたい人は…
原作は、電子書籍配信サイト「めちゃコミック」で人気連載中。ドラマとは違う展開も⁉


撮影/尾崎篤志 取材・文/幸野敦子