2023年4月からカンテレ・フジテレビ系列の毎週火曜日23時~23時30分に新設された「火ドラ★イレブン」で、現在、吉岡里帆主演の「時をかけるな、恋人たち」が放送中。
物事の「つじつま合わせ」が得意な、令和を生きるアートディレクター・常盤廻(吉岡)の前に、未来からやってきたタイムパトロール隊員・井浦翔(永山瑛太)が現れる。あれよと言う間にタイムパトロールの一員になった廻は、「つじつま合わせ」を発揮しミッションをクリアしていく一方で、かつて廻と恋人同士だったという翔に、「いずれ記憶が消される」と分かっていながらひかれていき…。
7話以降、恋の超展開を控える今作の制作秘話と今後の見どころを、岡光寛子プロデューサー(カンテレ)にうかがいました。
24分間に楽しさも苦しさも面白さも切なさもキュンも全部詰め込んだSFラブコメディー
――吉岡さんをはじめ、キャストが豪華で、しかも脚本がヨーロッパ企画の上田誠さん。これはものすごく力が入った作品なのではないかと思ったのですが、どのような経緯で企画がスタートしたのでしょうか。
「火ドラ★イレブンという枠のテーマが『ラブ』なんです。それはラブコメでもいいし、サスペンスにラブを掛け合わせるでも、ミステリーにラブを掛け合わせるでもいいのですが、とにかく『ラブ』が入った物語にするというお題があって。私はオリジナル脚本のドラマを作りたくて、最初に声をかけさせてもらったのが、『魔法のリノベ』(2022年/カンテレ・フジテレビ)でご一緒した脚本の上田誠さんでした。『上田さんの得意とする時間SFとラブを掛け合わせたときに、どういうドラマができるか一緒に考えてもらえませんか』というのが、企画の始まりです」
――「時間SF」と「ラブ」のハイブリッドというわけですね。
「はい。現代人と未来人の禁断の恋というのは、いわば『ロミオとジュリエット』。障害があればあるほど、恋が燃え上がるっていう、すごく大きな障壁のひとつですよね。吉岡さんとは、『健康で文化的な最低限度の生活』(18年/カンテレ・フジテレビ)というドラマでAPとして出会って、いつかプロデューサーになってご一緒したいと思っていました。ヨーロッパ企画と同じ京都出身、そして、聡明さがありながら芯の強さもあってコメディーもお上手。この企画は絶対に彼女に合うと思って、『一緒にやりませんか』とお声がけさせていただきました。瑛太さんは上田さんの脚本による映画『サマータイムマシン・ブルース』(05年)が映画初主演作品。そんなご縁もあって本企画に賛同してくださいました。本当に素敵なお二方が揃ってくださり、撮影前から胸が高鳴りました」
永山瑛太が‟勝負”を賭けた翔と廻の出会いのシーン
――吉岡さんと瑛太さんは初共演ということですが、瑛太さんが制作発表で「この作品は吉岡里帆と永山瑛太の代表作になります」と宣言されていました。
「お二方の作品に対する真摯な向き合い方が素晴らしいんです。初共演の方同士だと、共通の知人が誰かとか、どの辺でご飯を食べますかとか、そういう話から入って距離を縮めていくことが多いようなのですが、吉岡さんと瑛太さんは『このドラマがどうやったら面白くなるか』というディスカッションから始まったそうで。吉岡さんは『初共演だけど、おかげで作品に没入できて、役に入り込めたのがすごくありがたかった』とおっしゃっていました」
――それがあの出会いのシーンのインパクトにつながったんでしょうか。
「実は廻と翔の出会いのシーンは、瑛太さんにとってクランクインの1シーン目だったんです」
――あれが最初だったんですか!
「はい。瑛太さんは、衣装合わせより前から『あの出会いが僕はすべてだと思っているんです』と、我々とお互いにプレッシャーを掛け合うように話してらっしゃって。当日は瑛太さんの中でもいろんなことを考えて、たくさん引き出しを持ってきてくださいました。その中からいろいろ試して、現場のスタッフや吉岡さんの反応が良かったものを積み上げて、あのシーンになったんです。瑛太さんは、吉岡さんの反応や現場の空気が良い意味で変わったのを感じて、『あ、いける』と手ごたえを感じたとお話しされていました」
――まさに、その瞬間に翔のキャラクターが出来上がった。
「そうですね、未来人の役というのは、表現方法が無限にあると思うんです。1シーン目で、山岸聖太監督もまだ方向性を探っている中で『とりあえず、いろいろやろう』という中から、翔の人物像が出来上がっていった。そして吉岡さんも、すごく良い意味で瑛太さんの芝居に引っ張られて、彼女の良さが引き出されていったように思います」
瑛太の‟縦横無尽”な演技を受け止めるコメディエンヌ・吉岡里帆の凄み
――廻を演じている吉岡さんは、とてもチャーミングです。
「吉岡さんとは最初の企画段階からお話しをする中で、猪突猛進に一生懸命に頑張ってきた20代を経て、いろんな経験も積んで、酸いも甘いもかみ分けた強さやしなやかさがある、30歳を超えた今の年齢だからこそできる役をやりたいですねと話していて。5年前からお互いのことを知っていることもあり、まさに『今の私たちですよね』みたいなことを言い合いながら、役に反映させています」
――翔とのかけあいも息ぴったりで。
「なにより、彼女はコメディエンヌとしても素晴らしい方です。このドラマは、どこから飛んでくるか分からない翔からの球を、廻がキャッチャーとして受け止めているからこそ、成立しているコメディーだと思っています。彼女自身が関西人だからなのか、間の取り方とか、突っ込み方とか、すごくお上手なんですよね。元々お笑いが大好きな方なので、そのエッセンスもあり、コミカルな演技も、シリアスな演技も引き込まれる。主演の彼女が魅力的に見えたらいいなと愛情深く作ってきた役なので、『吉岡里帆さん最高!』って言われるのが、一番うれしいです」
かわいらしい近未来の世界観、時間SFの天才が張った伏線、コメディーで終わらせない‟記憶”というカギ
――タイムパトロールの基地や、隊員の衣装も、独特の世界観になっています。
「監督も含めて話をしていく中で、『レトロフューチャー』な世界観にしようというのが第一としてありました。本格的な近未来SFというよりは、可愛らしい世界観にしたいな、と。セットの中には、有線のコードがたくさんあるんです。未来なんだけど、Wi-Fiとか、いろいろ無線のものが発達しすぎて、逆にそういうものが信じられなくなった世界というのが、250年後の設定で、監督の狙いです。隊員の制服も、それぞれ、スタイリストさんの手作りで、キャラクターに合った色やサイズ感で、少しずつフォルムが違っていたりするんです。翔のサンダルスタイルにオレンジのネイルは、瑛太さんご本人からの提案でした。自由な発想で、キャストとスタッフが意見を出し合い、試行錯誤を重ねて世界観を作りあげていきました」
――「自由な発想」というところで、設定を作るのが、とても大変だったんじゃないかなと思ったんです。時空を超えて行ったり来たりする中で、それこそ「つじつま合わせ」が難しかったのではないでしょうか。
「上田さんが本当に、時間SFの天才なんです。私も好きではあったのですが、そこまで詳しくなかったので、上田さんを先生に、そもそもタイムトラベルとタイムリープ、タイムスリップでは、何が違うか? というところから勉強しました。今回はタイムトラベルなので、分かりやすく言うと『ドラえもん』ですね。タイムマシンに乗って、過去の自分にも出会うし、原始時代にも行ける。過去の時代に行けてしまうけど、過去を変えてしまうと、未来が変わってしまうから、それは絶対にしてはならない。この大きなルールが『航時法』として、物語の中心に据えられています。現代、未来を変えないようにパトロールして、記憶を消して、元に戻す。物語の絶対的なベースとなるルールですね」
――「記憶を消す」って、結構、怖いことのように思うのです。
「実は、各エピソードにおいて、記憶を消す部分にピークを持っていくのか、それとも、未来や過去へ続くトンネルのような『時空境界線』での別れにピークを持っていくのか、という議論があったんです。私は『時空境界線』の別れのシーンが、一番切ないんじゃないかって思っていたんですけど、監督から『実は記憶を消すことが、一番重たいミッションで、恋人たちを引き剥がすという苦しい仕事を、廻や翔が目の当たりにして、どう思うのかが大事なんだ』と言われて、私もハッとして。『記憶を消す』という重要かつ重たい仕事をするのがタイムパトロールなんだというところを、丁寧に描いていくことになりました」
――だからこそ、翔の「記憶を消した、でももう一度必ず」とか、廻の「好きになって、ゼロになって、また出会って恋に落ちて…辛いよ」といったセリフが効いて、泣けてきます。
「やはり、そこに切なさがありますよね。コメディーだと思って、ポップに見ていたら、最後、ズシンって持っていかれる…そういう作品になったのは『記憶』というものが、大きなキーになっているからだと思います」
――最後に来る切なさを、エンディングで主題歌の「I like you」(Chili Beans.)を聴きながら噛みしめられるのが、また良いんです。
「各回の登場人物たちの後の姿が見られます。独立したエンドロールを作ることは、最初から決めていたので、それも合わせた上で、Chili Beans.さんに台本も読んでもらい、素敵な楽曲を書き下ろしていただきました。記憶を消されて離れ離れになることは、とても切ないんだけど、その後の世界で2人がどうなっているか、きっと、視聴者の皆様も気になるところで。全部は見せられないけど、でも、それぞれの場所で、それぞれが幸せに暮らしていてほしいという願いも込めて、余韻が残るようなエンドロールを作りました。数カットなんですけど、その内容が実は、後々に伏線回収されたりします」
――そうなんですね! 伏線が多くて、キャストの皆さんもスタッフの皆さんも、把握するのが大変だったのではないですか?
「本編もエンドロールも含めて『あれ?』という伏線が多すぎるので、皆さんが気づいていないこともたくさんあると思います(笑)。台本には『(何話から)』と、つながっているシーンが分かるように書いてあるんですけど、それでも、瑛太さんも『上田さんの脚本はすごく難しい数学の教科書を読んで、めっちゃ面白いって思う感覚』と、おっしゃっていて、すごくよく分かる感覚だなと。『つじつま合わせ』っていうのが、このドラマにとって重要なのですが、実は、こことここのシーンがリンクしていて…みたいなことが多々あるので、1話を撮っているときに最終話も撮っていたりとか、後半を撮ってからもう1回戻って3話を撮るなどしていました」
翔と廻だけでなく、キャラクターみんなが“動き出す”恋の逃避行編。ハッピーエンドを望んで見ていただければ!
――さて、7話(11月21日放送)以降は、廻と翔、自分たちの恋の「つじつま合わせ」になっていくかと思うのですが、どんな展開になっていくのでしょうか。
「後半は、『恋の逃避行編』と呼んでいます。他人の恋のつじつま合わせをして、違反を取り締まっていたタイムパトロールの2人が、今度は、自分たちが時空を超えることになって、全く違うドラマかのような展開になっていきます。タイムトラベルものならではの、過去の自分たちに会って、自分たちで自分たちのつじつまも合わせていく…っていうところの面白さがすごくあると思うので、そこは注目して見てほしいです。また、これまで基地にいたメンバーや、広瀬(西垣匠)、梓(田中真琴)も、実は大胆な行動をしていたり、後半戦はいろいろと動きがあります。どのキャラクターにもちゃんと物語があるっていうのは、上田さんのキャラクターに対する愛情。最終回まで、それが続いていきます」
――後半の、タイムトラベルを何回もかぶせてくるような怒涛の展開は目を見張るものがあります。
「上田さんご自身も『集大成ぐらいの気持ちで』とおっしゃっていたので、おそらく、今までやってこられた経験を、全部詰め込んでくれたであろうと思います。各話の起承転結をつけながら2人の恋を走らせ、周りのキャラクターも生かしながら、つじつまも合わせ、24分の枠の中に楽しさも苦しさも面白さも切なさもキュンも、全部を凝縮して詰め込む力は上田さんのパワーですし、それを廻と翔の2人が引っ張ってくれていると思います」
――では最後に、視聴者の皆さんにひと言お願いします。
「いろいろ難しいことがありながら、描いているのは純愛だと思っていて。時空をかけていく中で、廻と翔の2人がどういうふうになっていくのか、皆さんに、ハッピーエンドを望みながら見守っていただけたらうれしいです。あと、8話(11月28日放送)が、大学時代の廻と翔の出会いのシーンなんです。SFコメディーならではの可愛らしいキスシーンもあって大人のキュンも散りばめられているんですけど、ただのキュンではなくて、前半に散りばめられていることが、具現化されていく回になっています。とてもお気に入りの回なので、ぜひ楽しみに見ていただきたいです」
Profile:岡光寛子(おかみつ・ひろこ)
1989年生まれ、広島県出身。2012年に関西テレビ入社。宣伝部、制作部を経て15年に東京制作部に異動。これまでのプロデュース作品に「ウソ婚」(23年)、「魔法のリノベ」(22年)、「アバランチ」(21年)、「姉ちゃんの恋人」(20年)、「TWO WEEKS」(19年)などがある。
「時をかけるな、恋人たち」番組情報
カンテレ・フジテレビ系
毎週火曜 後11:00~11:30
※TVer、FOD、U-NEXTで配信中
※番組公式サイト
取材/TVガイドみんなドラマ編集部
文/陰山ひとみ