人気番組「ヒューマングルメンタリー オモウマい店」などを手掛ける中京テレビ、初の連続ドラマ「スーパーのカゴの中身が気になる私」。7月22日(土)からの放送、配信を前に、本作でチーフプロデューサーを務める池田京平さんのインタビューを紹介します。
「ヒューマングルメンタリー オモウマい店」など“グルメ”をテーマにしたコンテンツの強さに定評のある同局が、開局54年目にして初めて制作した連続ドラマ「スーパーのカゴの中身が気になる私」。
「孤独のグルメ」(12年~/テレビ東京系)シリーズほか、“飯テロ”ドラマブームを生み出した共同テレビのクリエイティブチームとタッグを組んだ本作では、食のテーマパークともいえるスーパーマーケットを舞台に、食を生業とする人々の姿を温かな目線からつづります。
今回、池田京平CPに、初の連続ドラマ制作に臨む思いや、グルメに強い中京テレビならではのコンテンツ戦略、作品の見どころを伺いました。
配信サービス時代に合わせた中京テレビらしいドラマを作りたい!
――「スーパーのカゴの中身が気になる私」は、中京テレビが制作する初の連続ドラマですが、池田さんが連ドラ制作に挑むことになった経緯を教えてください。
「これまで放送局は、地上波で視聴率を獲得することを主眼にコンテンツを作ってきました。しかし、配信サービスなど視聴方法が多様化する中で、アニメやドラマなど繰り返しご覧いただけるようなコンテンツ(ストックコンテンツ)がビジネス上、ますます重要になってきました。配信サービスで全国はもちろん、作品によっては世界の方々にも見てもらえ、また、時代を超えて愛されるようなストックコンテンツを生み出そうと、中京テレビでは2022年夏にコンテンツ開発グループという新たな部署を立ち上げ、バラエティー番組や情報番組ではない分野の番組作りを始動させました。そして僕がそのドラマ部門を担当することになったんです」
――グルメ番組を数多く制作されてきた中京テレビですが、「スーパーのカゴの中身が気になる私」も、店員や客など食品スーパーに集う人々の物語です。
「ドラマ担当になって、改めて中京テレビのイメージをリサーチしたのですが、『オモウマい店』を代表格に、“グルメ”とお答えになる方が非常に多かったんです。今までバラエティーや情報番組を得意としてきた放送局で、ドラマ制作に関しては後発になりますので、何の方向性も定めずやみくもに作っても勝てない。『中京テレビならではのドラマのカラーとは一体何だろう?』と考えた時に、ジャンルを絞る必要があり、その一つの答えとしてグルメや食をテーマにした作品という考えに至りました。ドラマは地上波での視聴率も大切ですが、今やTVerやHuluなど配信サービスの再生回数で勝負するコンテンツになっています。配信サービスでは、視聴者は自分の自由な時間にコンテンツが楽しめます。NHKやキー局のドラマ、韓国ドラマなど強力なライバルが並ぶ中で、中京テレビのドラマをあえて選んでいただくために、最初に制作するのは局のイメージとしても定着しているグルメをテーマにしたドラマとなったわけです。その第1弾として今年3月に実験的に制作したのが4話ドラマの『君が、おにぎり好きだから。』で、それに続く初の連続ドラマとして挑戦したのが、今回の『スーパーのカゴの中身が気になる私』です」
――「オモウマ」のようなグルメ番組の成功事例が確立されているから、新たにドラマ制作に乗り出そうとする時に、グルメというキーワードが浮かび上がってきたのですね。
「配信サービスで人気のあるコンテンツって、大人の過激な恋愛などをテーマにした作品が多いですよね。連ドラを作る1本目だからこそ、そのようなドロドロした人間関係を描いた作品よりも、中京テレビが地上波の放送局として長年にわたり培ってきた、安心・安全な家族全員で見られるコンテンツ作りを大切にしたいと思いました。また、僕自身も『PS』などさまざまなグルメ番組を担当してきましたので、これまで食を生業にしている方々を大勢取材してきました。何の打算もなく、シンプルにピュアにお客様に喜んでもらいたいと仕事に取り組んでいる方々へのリスペクトを抱いていましたので、食の現場で楽しく懸命に働く人たちを作中で描きたいという思いがありました。今回の物語の舞台は料理店ではありませんが、スーパーマーケットという食のテーマパークです。食品を扱う人々の仕事場で物語が展開していく群像劇は、中京テレビらしさも感じられる、とてもよいテーマだと思います」
カゴの中身の謎解きを通して“人々のドラマ”を映します
――「孤独のグルメ」の制作で知られる共同テレビとタッグを組まれています。
「『孤独のグルメ』は、僕自身もともと好きな作品ですが、決して巨額の予算をかけているわけではないのに、DVDのセールスや配信サービスでの広がり方なども含めて大きな成功を収めているモンスターコンテンツです。以前からそのノウハウを勉強したいと考えていました。たまたま『孤独のグルメ』の立案者である共同テレビの吉見健士さんをご紹介していただく機会があり、その時吉見さんが持ってこられたのが、この『スーパーのカゴの中身が気になる私』の企画書だったんです」
――初めてその企画書に目を通された時、どんな印象でしたか?
「ただのグルメドラマではないところに引かれました。まず、とあるお客さんが“お値引き品ばかり購入している”などカゴの中身という謎があって、各話の最後に本当はこの人がどういう人で、なぜそのような買い物をするのかという正解が明かされる。ちょっとしたミステリーのような謎解き感覚は、見ていてワクワクしますし、物語に引き込まれます。吉見さんから企画をうかがって、ぜひ実現したいと思いました。実は吉見さんがこの企画を思いついたのは、竹中直人さんと食事をされていた時に、隣のテーブルから“スーパーの他の客のカゴの中身が気になる”という女性たちの話が漏れ聞こえてきたことが発端だったそうです。『オモウマ』の中京テレビなら、この企画は気に入ってくれるだろうと思っていたと後からうかがいました」
――作中の「スーパーのカゴの中に人生がある」という君枝(石田ひかり)のセリフは、本作のキーワードの一つだと思われますが、ドラマの核としてはスーパーで交錯する人間模様や、それぞれ事情を抱えて生きる人々の人生を見つめていくという点でしょうか。
「そこにドラマの面白さがあると思います。『オモウマ』もグルメ番組ではあるけれど、取材してみたらそこには恐ろしいほどの情熱を持った人たちがいた。グルメとドキュメンタリーを掛け合わせたことで、あのような番組が生まれたわけです。では、グルメとドラマを掛け合わせたらどうなるかと考えると、僕としては人間味を外せないし、大切にしたい。スーパーマーケットって客として買い物に行くとワクワクして楽しいし、とても日常的なあるあるネタもいっぱいある場所なんですが、お客さんにもそこで働いている人たちにも、一人一人にドラマがあると思うんです。今回の作品では、ただおいしいだけではない、笑いながらも最終的に“人間”が見えてくるものにできればと思います」
――人間を描きながら、本作はただの人情ドラマではありませんね。構図やカット割りなども凝っていて、主人公・雄三(戸塚純貴)の妄想がアニメで挿入されるなど、斬新な構成、演出が楽しいです。
「演出の佐々木豪監督は、サブカルっぽさとポップさの両方のセンスをお持ちです。脚本を一読しただけでは、ベタなコメディーになりそうなところを驚くほどポップな作品に仕上げていただいています。また、カメラマンの栗田東治郎さんもアイデアが豊富で、画作りも素晴らしく、日々撮影現場でその凄さを感じています。しかも妄想パートのアニメはアメコミ風なんです。マーベル作品に出演するという雄三の思いが、脳内で妄想をアメコミに変換しちゃうので。物語の縦軸では雄三と元恋人の由里子(新谷あやか)の関係などが描かれていきますが、随所にドラマとしては新しいアイデアが盛り込まれています」
座長の戸塚さんと石田さんのおかげで、現場は最高の雰囲気に
――主演の雄三役は、戸塚純貴さんです。
「戸塚さんの演技が昔から大好きで、以前から一緒に作品を作りたいと思っていました。戸塚さんには、良い意味で目の怖さがあるんです。福田雄一監督の一連の作品から『幸色のワンルーム』(18年/ABCテレビほか)での二面性を持つ不気味な教師役と、コメディーからシリアスまで異なる役柄でも常に強い印象が残っています。コメディーである今作の雄三役もアドリブをどんどん入れるなど、とても上手に演じられていますが、笑いが生まれる勘所をよく分かっているのだと思います。オードリーさんがラジオで、『だが、情熱はある』(23年/日本テレビ系)の漫才シーンでの戸塚さんの間を完ぺきだったと絶賛されていましたが、今回も店長役を演じているヨーロッパ企画の永野宗典さんとのやりとりが絶妙ですので、ぜひ注目してご覧ください」
――ベテランレジ係・君枝役の石田ひかりさんも、いい味を出されていますね。
「やっぱり石田さんが出てくることで、画が変わります。画面全体に落ち着きが生まれ、優しさや温かさも伝わってきます。『あすなろ白書』(93年/フジテレビ系)など僕ら世代が学生時代に見ていた数多くの大ヒット作のヒロインをされていた方なのに、誰に対しても構えることなくフランクに接してくださいます。ゲスト参加の俳優の方々も含め、アイデアを出し合うとても前向きな現場ですが、それは座長の戸塚さんと石田さんが作りだしている雰囲気だと感じています。僕としては初めての連続ドラマで最初は緊張感もあったのですが、キャストもスタッフも作品を良くしたい人たちが集まり、撮影に集中できる理想的な現場になっています」
――毎回登場するゲスト俳優も豪華な顔ぶれです。
「竹中直人さんから若い世代では最近注目の森田想さんや人気子役の浅田芭路ちゃんら、それぞれのイメージに沿ったキャスティングができていると思います。吉見さんの作品だということと、中京テレビ初の連続ドラマということで、多くの方々がゲスト出演を快諾してくれました。竹中さんは吉見さんが企画を思いついた場に一緒にいられたというご縁もあり、第2話で出ていただいたのですが、今思えば竹中さんのこちらの想像を超えてくるようなお芝居を機に現場の雰囲気も変わっていったと思います。竹中さんの脚本の枠には収まらないお芝居を演出陣がどのように編集するのか、僕も仕上がりを楽しみにしています。また、多彩なゲストと相対する戸塚さんの“受けの演技”の上手さも楽しみにしてください」
たくさん笑って最後にほろっとするドラマを楽しんでください!
――Saucy Dogの主題歌『夢みるスーパーマン』は、ドラマ本編とは切り離されたような主題歌も多い中、ドラマの内容が歌詞にストレートに投影されたド直球のロックで、すがすがしささえ感じました。
「僕自身音楽が大好きで、ドラマを盛り上げるうえで、本編の最後にかかる曲は重要だと思っていました。ただ、連続ドラマの経験がないだけに、ドラマ主題歌をどのように決めていくのかが分からないし、当然、音楽関係者から話も来ません(笑)。一から勉強でした。Saucy Dogはもともと注目していたバンドで、かつて音楽番組を担当していた時、彼らの名古屋のライブを見にいったりしていました。そのつながりから今回、主題歌を引き受けていただけました。『夢みるスーパーマン』は、スーパーで働いている男の子がスーパーマンになるというドラマそのままの歌で、すてきな楽曲を提供してもらえて本当にうれしいですね。ドラマ全盛期のように、主題歌が売れてドラマがヒットする、ドラマの人気が出ることでさらに曲も知られていくような相乗効果が生まれればと期待しています」
――最後に「スーパーのカゴの中身が気になる私」の見どころを改めて教えてください。
「“笑える”ということを大切にしたいと思っています。第1話を試写で見て、僕はシンプルに笑えたんですね。どのドラマにも本当に伝えたいことやメッセージがありますが、最初にまず楽しんでいただけることで、初めてその人にメッセージが届くと思っています。『スーパーのカゴの中身が気になる私』は、その入り口にしっかり笑える要素が散りばめられたエンターテインメントになっています。また、スーパーマーケットという身近な世界の出来事が描かれるので、登場人物の気持ちになって共感できる部分も多いのではないでしょうか。それが中京テレビらしさだと思います。配信もありますので、中京テレビ初めての連続ドラマを、全国の皆さまにもぜひお楽しみいただきたいです」
■Profile
池田京平(いけだ・きょうへい)
1996年中京テレビ入社。「PS」「アンデュ」「キャッチ!」の総合演出や、CPとして「前略、大とくさん」「オードリーさん、ぜひ会ってほしい人がいるんです。」「ROOMIC」ほか数多くのバラエティー、情報、音楽番組を手がける。また、ドラマでも開局50周年ドラマ「翔べ!工業高校マーチングバンド部」のCPを務める。2022年コンテンツ開発グループに異動、CPとして4話ドラマ「君が、おにぎり好きだから。」の制作に続き、初の連続ドラマ「スーパーのカゴの中身が気になる私」を制作。
「スーパーのカゴの中身が気になる私」放送情報
中京テレビ
7/22(土)スタート 毎週土曜 深0:55~
※TVer、Locipo、Hulu、U-NEXTで配信
※番組公式サイト
「週刊TVガイド」にて、池田京平CPのインタビュー掲載中!
発売中の「週刊TVガイド7月28日号」(小社刊)にて、池田CPのインタビューと番組特集記事も掲載中。
撮影/尾崎篤志 取材・文/桑原雄太