池井戸潤原作・名作&最新ドラマ制作秘話インタビュー②

2022/10/13 14:02

池井戸潤原作「シャイロックの子供たち」がWOWOWで連続ドラマ化。本作が池井戸作品プロデュース6作目となる、青木泰憲プロデューサーにインタビュー。

現金紛失事件と、その事件を追っていた銀行員の失踪――。2つの謎と行員たちの物語が交錯していく、緻密で濃密な極上のミステリーに挑んだ青木プロデューサーに制作秘話をお聞きしました。

手を出せずにいた難しい作品で、脚本作りも進まなかった

――2006年に書籍が刊行されて以来、長らく映像化は困難とされてきた「シャイロックの子供たち」に挑もうと思われたのは、いつごろでしょうか?

「原作を読んですぐ、ドラマにしてみたいと考えてはいました。とはいえ、これを連続ドラマにするのは難しいだろうな…と思って、しばらくの間、手が出せずにいたんです。そうした中、2020年に池井戸さん原作の『鉄の骨』をドラマ化させていただいて、自分の中で納得いくものができた。池井戸さんも喜んでくださったこともあり、次は『シャイロックの子供たち』に挑戦してみようというギアが入りました。『鉄の骨』の勢いを借りて、すぐさまドラマ化のお願いをしたんです」


――いざ、準備段階に。ご苦労も多かったと推察します。

「なかなか脚本作りが進みませんでした。もちろん、10編を10回に分けてそのままドラマにする、という方法もあるとは思います。けれども、この作品は各話ごとに主人公が違う。そうなると一冊をいっぺんに読める小説とは違って、連続ドラマの場合、続けて見ていただくことは難しい。10編からなる連作を整理したときにストーリーの縦軸をどうするか? 多くの登場人物がいる中で主役を誰にするのか? ラストをどう描くか? この3つのポイントをどうやってクリアするか、脚本家といろいろなプランを考えました」

ラストには池井戸作品らしい爽快さを

――思案された結果、物語の舞台となる東京第一銀行長原支店の、出世コースを外れた課長代理・西木雅博を主人公に据えました。

「西木は物語の途中で失踪しますが、時をさかのぼって『彼はなぜいなくなったのか』をお見せすれば、主役として成立すると考えました。失踪が連続ドラマの縦軸にもなるだろうと。ただ西木を主役にすると、西木はその後どうなるのか? 原作でも描かれていない結末をドラマで描くことが果たして許されるのか? という点が大きな課題となります。まさしく眠れない日々が続きましたね」


――西木が消えた理由とその意味付けが物語の肝になるため、お答えが難しいと思いますが、ラストに向けてどのようにストーリーが進んでいくか、ヒントを教えてください。

「ミステリーであるものの、最後はやっぱり池井戸さんの特徴である“爽快さ”がほしいと思い、その点を意識して作りました。また、支店の話でずっと進むので、画(え)変わりをする感じも強く出したかった。おおまかに言うと、そういうラストです。10人が作れば10通りの結末があると思いますが、楽しみにお待ちいただきたいですね」

主人公・西木役には、すんなりと井ノ原さんの顔が浮かんだ

――西木役には、WOWOWドラマ初出演となる井ノ原快彦さんをキャスティング。同世代の俳優がひしめく中で、決め手はどこだったのですか?

「部下からの信頼が厚い課長代理ということで、親しみやすい雰囲気の人がいい。迷いなく、すんなりと井ノ原さんの顔が浮かびましたね。かねてよりNHKの『あさイチ』を見ていて、自然な笑顔が素敵だなと思っていたこともあり、最初の印象を曲げずにオファーしました」

――西木の部下で、支店内の現金100万円紛失事件で濡れ衣を着せられてしまう真面目な行員・北川愛理役は西野七瀬さん。

「2009年の『連続ドラマW 空飛ぶタイヤ』から『連続ドラマW 鉄の骨』(2020年)まで池井戸さんのドラマを作らせていただいて、今回が6作目となるため、新鮮な方がいいなと考えて、西野さんにお願いしました」


――支店内で営業成績トップの滝野真役には加藤シゲアキさん。非常に難しく、重要な役ですね。

「加藤さんは以前、「連続ドラマW 夜がどれほど暗くても」(2020年)でお仕事をご一緒して、とても気持ちのいい方だなと感じていました。作家としても才能がありますし、とても信頼していました。支店のエースと目される、重要な役どころも上手に演じてくれるだろうと思いました」

人間ドラマを楽しみつつ、最後まで謎を追いかけてほしい

――公開された予告映像では、愛理にぬれぎぬを着せた真犯人を西木が追い始める様子が映し出されます。上司の理不尽な要求に対して声を荒らげ、何かを深く思い悩む西木の姿は、その先の不穏な展開を予感させますね。

「池井戸さん原作の中でもサスペンス、ミステリーの要素が強い作品だと思いますが、自分じゃなかったら、こういう作り方してないんじゃないかなという気がするんですね。“こういう”というところは、詳しくは言えないんですけれど、原作を読んだ人がこのドラマを見てどういう風に思うのか楽しみです」


――最後に、「シャイロックの子供たち」の見どころをお願いします。

「縦軸として、なぜ西木が失踪したのか紐解くドラマではありますが、各話各話を見るとその話ごとに、銀行内でのいろんな人間ドラマが1つずつ出てくる。西木の謎を追いながら、各話のメインとなる人の人間ドラマを楽しみつつ、最後まで見てもらえたらいいなと思います。果たしてどのような結末を迎えるのか、最後までお楽しみください」
  
  


■Profile
青木泰憲(あおき・やすのり)

1969年生まれ、神奈川県出身。1999年WOWOWに入社。ドラマ制作部でドラマWプロデュース業務を担当。主な作品は、井上由美子脚本の「パンドラ」シリーズ、髙村薫原作「マークスの山」「レディ・ジョーカー」、山崎豊子原作「沈まぬ太陽」「華麗なる一族」など。手掛けた池井戸潤原作作品は、「空飛ぶタイヤ」「下町ロケット」「株価暴落」「アキラとあきら」「鉄の骨」など。

「連続ドラマW シャイロックの子供たち」放送情報

WOWOWプライム
10/9(日)スタート 毎週日曜 後10:00~

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WOWOWオンデマンド
10/9(日)スタート 毎週日曜 後11:00~配信
※WOWOWオンデマンド「池井戸潤原作特集

 
取材・文/橋本達典