池井戸潤原作・名作&最新ドラマ制作秘話インタビュー①

2022/10/22 21:09

池井戸潤原作「シャイロックの子供たち」がWOWOWでドラマ化。これを記念して、WOWOWの池井戸作品を手掛けてきた青木泰憲さんにインタビュー。

WOWOWプライムでは「連続ドラマW シャイロックの子供たち」の放送・配信スタート(10月9日(日)後10:00~)にあわせて、2017年にドラマ化され話題を呼んだ池井戸作品、「連続ドラマW アキラとあきら」を10月5日(水)、6日(木)に一挙放送。
 
「アキラとあきら」で主人公の階堂彬と山崎瑛を演じたのは、向井理さんと斎藤工さん。境遇の異なる同じ名前を持つ2人が、運命に導かれるように同じ大手銀行に就職し、友情を深め合いながらそれぞれの人生を切り開いていく。
この見応えたっぷりの人間ドラマの魅力、そして池井戸作品の魅力についてお聞きしました。

書籍化せず寝かされていた作品を多くの人に知ってほしかった

――ドラマ版の「アキラとあきら」は、2006~2009年に月刊小説誌「問題小説」(徳間書店)で連載された作品を読んですぐ、青木さんから池井戸先生にドラマ化のオファーをされたそうですね。

「まだ書籍化されていなかったころ、雑誌に連載されていたものを読ませていただきました。素晴らしい作品と感じたので、『どうしてもドラマにしたい』と池井戸さんにお願いのメールをさせていただきました」


――原作はドラマ化がきっかけとなり、大幅に改稿されて書籍化されたとか。

「すごく苦労されて、書籍にされたと思います。何年も“寝かされていた作品”でしたので、私としてもせっかく発掘したからには面白いドラマにしたい。同時に本も売れて、多くの人にこの作品を知ってほしいと思いました」


――青木さんは、8月に公開された映画「アキラとあきら」もプロデュース。竹内涼真さんと横浜流星さんのダブル主演で、こちらも話題でしたね。

「ドラマ制作時は書籍が発売されていなかったことから、もう一度『アキラとあきら』を作ってみたいという思いがあったんです。というのも、連載では御曹司の彬に力点が置かれているのですが、書籍では実家が町工場の瑛にシフトしているんですね。ドラマ版は連載を元に制作したので、今度は主人公のバランスを入れ替えて映画にするのはどうだろうか、と考えました。自分としても思い入れが強い作品ですし、何よりご苦労をおかけした池井戸さんに喜んでいただきたいという思いで作りました」

丁寧な描写でキャラクターの深みが増すドラマ版ならではの魅力

――「半沢直樹」(TBS、2013年と2020年)や「連続ドラマW 下町ロケット」(2016年)にも通じる実社会に根差した人間ドラマでありながら、若きライバル同士が共闘する、池井戸作品では珍しい青春ものでもある本作。あらためて、ドラマならではの良さはどこだと思われますか?

「映画より放送時間が長いので、主人公2人の成長の過程が、じっくり見られるところでしょうか。ドラマ版では、2人の生い立ちや学生時代を丁寧に描いています。そうすることで、より一層キャラクターの深みが増していると感じています」


――全5回前後で放送されることの多い「連続ドラマW」の作品ですが、「アキラとあきら」は全9回で、バブル期からバブル崩壊後の激動の時代を丁寧に描いています。中でもお好きなシーンはどこでしょう?

「特に印象に残ってるのは、斎藤さん演じる瑛が手紙を読むシーンです(第4回)。あと、最終回で向井さんが涙するシーンも。それまでずっとクールだった彬が珍しく感情を露わにするこのシーンで、階堂家を背負ってきた彬の重圧を感じてもらえると思います」


――ドラマの中では銀行の融資の稟議など難しい題材も、エンターテインメントとして昇華しています。2人の上司である融資部長・羽根田(永島敏行)が社員を前に語る、「金は人のために貸せ。金のために金を貸したとき、バンカーはただの金貸しになる」というセリフが胸に響きました。

「永島さんは『連続ドラマW 沈まぬ太陽』(2016年)で演じられた支店長役がとてもよかったので、この作品でも出演をお願いしました。誠実で実直な役が非常に似合う俳優さんです。『アキラとあきら』でも物語を引き締めてくれましたね」


――このセリフは「シャイロックの子供たち」にも通じますね。

「池井戸作品の芯となる言葉の一つだと思いますね。『アキラとあきら』も『シャイロックの子供たち』も、人間ドラマの面はもちろん、銀行での細かい描写やちょっとしたセリフなど、いろんな角度から楽しんでいただきたいです」

主役でないキャラクターにも感情移入できるのが池井戸作品の魅力

――2009年放送の「連続ドラマW 空飛ぶタイヤ」を皮切りに、青木さんは池井戸作品を最も映像化されたプロデューサーです。ズバリ、池井戸作品の魅力はどんなところにあると思われますか?

「スーパースターのような人が出てくるわけではなく、社会で働く人たちがリアリティーを感じられるところではないでしょうか。どの人物の背景も丁寧に描かれているので、非常にリアルな立体感ある存在として感情移入できる。シンプルに言うと、そんな良質で重厚な人間ドラマが魅力だと思います」


――これまで手掛けた作品の中で、青木さんご自身が感情移入したキャラクターは誰ですか?

「パッと思いついたのは、『連続ドラマW 下町ロケット』で渡部篤郎さんが演じられた財前道生ですね。大企業で出世した非常に優秀な男が、下町の小さな工場の可能性を見抜く…周りに反対されても信念を貫くところがカッコよかった。WOWOWの視聴者はサラリーマン層が多いですから、夢を追う主人公の技術者・佃航平(三上博史)よりも、むしろ財前のほうが感情移入できると思い、原作のキャラクターを膨らませました」


――ほかにもドラマ化にあたって膨らませたキャラクターはいますか?

「『連続ドラマW 鉄の骨』(2020年)の池谷組常務・尾形総司(内野聖陽)もそうです。財前と、どことなく立ち位置が似ている。主役ではないキャラクターに、もしかしたら思い入れがあるかもしれません」


――TBSで放送された「下町ロケット」(2015年、2018年)では財前を吉川晃司さんが演じて、こちらも人気に。他局が手掛けた池井戸作品は気になるものですか?

「池井戸さんの作品が好きなので、どの作品もお客さんとして楽しんでいますよ。『鉄の骨』も映画化された『空飛ぶタイヤ』も見ましたし、とりわけ『半沢直樹』は好きでした」


――この先、また池井戸作品を映像化するならば、どの原作が気になりますか?

「『俺たちの箱根駅伝』(週刊文春)ほか連載も抱えていらっしゃいますし、またチャレンジしたいなと思います。他にも映像化を希望する制作者は多いと思うので、本当にできるかどうか、その意味でもチャレンジですね」



■Profile
青木泰憲(あおき・やすのり)

1969年生まれ、神奈川県出身。1999年WOWOWに入社。ドラマ制作部でドラマWプロデュース業務を担当。主な作品は、井上由美子脚本の「パンドラ」シリーズ、髙村薫原作「マークスの山」「レディ・ジョーカー」、山崎豊子原作「沈まぬ太陽」「華麗なる一族」など。手掛けた池井戸潤原作作品は、「空飛ぶタイヤ」「下町ロケット」「株価暴落」「アキラとあきら」「鉄の骨」など。

「連続ドラマW アキラとあきら」放送情報

WOWOWプライム
10/5(水)後3:00~(5回連続)
10/6(木)後3:00~(4回連続)

■関連番組
「連続ドラマW シャイロックの子供たち」
WOWOWプライム
10/9(日)スタート 毎週日曜 後10:00~
WOWOWオンデマンドで「池井戸原作特集」配信中


取材・文/橋本達典