亀梨和也さん主演ドラマ「連続ドラマW 正体」(WOWOWプライム)。同作の原作「正体」の著者である染井為人さんにこの度、独占取材が実現しました!
原作は、デビュー作にして、37回横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞した染井為人さんの同名小説。今回のドラマ化にあたり、小説も再び注目を集めています。
今回、原作者・染井さんへのインタビューでは、亀梨さんが演じる鏑木慶一像や、原作『正体』の執筆秘話を伺いました。
今の亀梨さんに、鏑木慶一を演じてもらえてよかった
――あらためて、染井さんの『正体』が連続ドラマ化されると聞いた時の気持ちをお聞かせください。
「『正体』を出してすぐの頃に、映像化のお話を複数いただき、その中の一社がWOWOWさんだったと記憶しています。ただ、映像化の企画は、実現することも少ないので、『してくれたら嬉しいな』くらいの気持ちで、あまり意識をしていませんでした。それから徐々に具体的な話になっていき、『本当にあるのかも…』と思い始め、最終的にWOWOWさんでドラマ化が決まりました。さらには主演が亀梨さんと聞き、心底驚きました」
――それは、鏑木を演じるのが亀梨さんという驚きでしょうか?
「そうですね。原作では21歳の設定だったので、亀梨さんが演じられることがとても意外でした。実は僕、KAT-TUNをデビュー当時から陰ながら応援していて…。多くは語りませんがKAT-TUNは過去に様々な出来事があり、正直な話、順風満帆にやってきたグループではないと思うのです。その中でも、亀梨さんはグループの顔であるがゆえ、局面局面で矢面に立つところを多く見てきました。そういった意味でも亀梨さんのことを応援、尊敬していたのです。基本的に彼はそうした弱い面を世間に見せないですよね。僕なら間違いなく『やってらんねえよ』と盛大に愚痴っている(笑)」
――以前から応援していたとなると、驚きや喜びも大きいですよね。
「そうですね。今回ご一緒させていただけたことで、『縁があるのかな?』と勝手に思っています」
――さて、ドラマは間もなく終盤ですが、既に映像はご覧になられましたか?
「いいえ、映像は皆さんと同じようにオンエアで見ています。台本に関しても、口出しをする気持ちは全くないので、1話はしっかり読みましたが、2話以降はざっと目を通した程度でした。ただ、原作をすごくリスペクトしてくださっていることはしっかり伝わってきました。『原作を読んでスタッフの皆さんと打ち合わせを重ねた』と亀梨さんもインタビューで仰っていたので、とてもありがたいですね」
――そんな亀梨さんが演じている鏑木慶一はいかがですか?
「それはもう、完璧です!! ここで下手なことを言おうものなら炎上しちゃう(笑)。いやいや、本当に亀梨さんに演じてもらえて嬉しいですし、なにより鏑木慶一が幸せだと思います。いろんなお仕事がある中で自ら金髪にしてくださるなど、積極的に演じてくださったようで、生みの親としてはこれほど嬉しいことはありません」
――昨年秋に、金髪になった亀梨さんの目撃情報が相次いだ後に、「連続ドラマW 正体」で脱獄した死刑囚を演じると発表され、さらに大きな話題となっていましたよね。
「放送前から話題でしたし、さらに、亀梨さんのファンの方が僕のSNSをフォローしてくださったり、中にはメッセージを送ってくださる方も…、本当に熱心なファンの方が多いですよね。実は、あるシーンの撮影にお邪魔した際に、このことを亀梨さんにお伝えしたら、『お邪魔してすみません、うちの(ファン)が…(笑)』のようなことを仰っていました(笑)」
――亀梨さん、ファンの方を含めて温かいですね! ちなみに、見学されたシーンというのは?
「終盤のシーンで、まさに感無量でした。気づいたら号泣していたので、マスクで必死に顔を隠して…(汗)。『原作者のヤツ、急に現場に来て泣いて帰ったぞ』とか言われたら恥ずかしいじゃないですか(笑)。最初は、『自分の作品で大勢の方が動いてくださっていることに、僕自身が感動しているのだな』と思っていたのですが、途中から自分が作ったなどは関係なく、純粋に役者さんたちの芝居に魅せられている僕がいました」
――その鏑木を演じる亀梨さんがインタビューで、「鏑木は人のことが好きな人間」と人物像について話されていました。
「僕もそう思います。逃走中の身なのだから、絶対に関わらない方がいいのに彼は弱っている人を放っておけない。彼はものすごく頭の回転が速く、切れ者ですが、取る行動に損得勘定がないんです。自分が多少の被害を被っても、人を助けてあげたい。それは現代の合理的かつ利己的な世の中において希少なものだと思います。だからこそ最終的に周囲の人が『こんなにいい子が?』と、思うわけですよね」
鏑木くんに惹かれたけど、理不尽なラストを避けては通れなかった
――仰るように、損得勘定がないから、なおさら鏑木の言動が心に響きます。さて、ここからは原作について伺いますが、そんな鏑木を、「イケメン」「好青年」「爽やか」と周囲から言われる容姿にしたのはなぜでしょうか?
「実際に起きたとある殺人事件で、容疑者の容姿がよかったことで、世の中の一部の人が犯人を擁護するという出来事が過去にありました。それ自体はすごく理不尽なものなのだけど、だからこそ強く印象に残りました。この物語は未成年の死刑囚が脱獄し、長い期間逃走を続けるわけですから、地頭の良さと容姿の良さ、その両方を兼ね備えた、ある種スーパーマン的な人物でないといけないと思ったのです。ちなみに『鏑木』という名前は、歌舞伎の『かぶく』というところから付けました。『かぶく』には、奇抜な身なりをするという意味があり、身なりや言動をその時々で変える鏑木くんの言動に当てはめています。実は、『鏑木』のように、原作で出てくるほかの名前にも意味があって…。気づいているファンの方も多く、『読者が増えるとこういうネタバレもあるんだな』って驚きました」
――結末は、染井さんが感じた“理不尽さ”に由来する部分もあるのでしょうか?
「聖人君子のような鏑木くんが、ああしたラストを迎えてしまう。すごく憤りがあって、理不尽の極みですよね。書いているうちに命が宿るというか、鏑木くんは、僕にとってもすごく思い入れのある人物になったので、『ああいう結末にしてしまっていいのかな?』と、とことん悩みました。でも、こうでなければいけないと考えて、鏑木くんに惹かれながらも、あの結末を選びました。ここでは詳しくは言えないので、文庫本のあとがきを読んでもらえるとありがたいです」
――確かに、“理不尽”な感情は簡単には消えず、心にあり続けると思います。だからこそ、ドラマだけでなく、原作も多くの方に読んでいただきたいと感じました。
「実を言うと、『先に原作を読んで欲しい』と、僕は声を大にして言いたい。SNSでも『原作を先に読んで』と言っているのは、売り上げを気にしているからではないんですよ(笑)! その方が、視聴者のみなさんが納得できると思っているからです。ドラマを見終わってから読もうと思っている方はぜひ、最終回を迎える前に原作を読んでください」
――ありがとうございました。さて、話は変わりますが、染井さんは社会人を経て小説家になったそうですが、転身のきっかけを教えていただけますか?
「芸能プロダクションでタレントのマネジャーと舞台ミュージカルのプロデューサーをしていたのですが、ちょっと疲れちゃったんですね。芸能界は良くも悪くもエネルギーに満ちているんです。その中で働くにはこちらもある程度のエネルギーを持っていなきゃいけない。ただ、それが30歳を過ぎたあたりから徐々に持てなくなってしまった。そこで極端な僕は、『何か一人きりで出来る仕事はないかな』と(笑)。で、小説家の道を選びました。これまでドラマや映画、舞台の台本を多く読んできたので、ちょっと頑張ればいけるだろうと。今考えたら、相当浅はかでやばいヤツです(笑)」
――そうなのですね。ちなみに、それまでに物を書かれた経験はあったのでしょうか?
「歌やダンスメインのイベントに、お芝居を取り入れた構成台本を20代の頃から書いていて、周りの人に褒めてもらうことがあったので、『おれ、才能あるのかも』なんてこっそり思っていました(笑)。そんな中、ファッションモデルになるためのバイブル本、いわゆる児童小説を作る機会に出会い、それが紆余曲折あり、僕が作家さんの代打を務めることになったんです。きちんと書籍化(※)されたので、実はそれが僕の書いた最初の本です。そこで『やっぱり本気を出したらいける!』と、勘違いしちゃいました」
※「うちらのオーディション物語」(学研プラス)
――でも、本気を出したら、デビュー作「悪い夏」(KADOKAWA/角川文庫)で、第37回横溝正史ミステリ大賞(現:横溝正史ミステリ&ホラー大賞)優秀賞を受賞されました!
「ありがとうございます。他の作家さんや編集者さんからも、すごいことだと言われますが、実はあっさりと受賞したわけではないのです。完璧に仕上げないと提出したくなかったので、書き始めてから2年間、出せませんでした。同じ作品を何度も何度も推敲した後に応募したんです。でもそのせいで、今、苦しんでいます(涙)。多くの小説家の方は、何十作とストックがある一方で、僕はそれが全くない、ゼロなので…(汗)」
――最新刊「海神」(写真)のインタビューでも、「力不足で完成が遅くなった」と謙遜されていましたね。
「『海神』は特殊なケースで、扱っているテーマが重過ぎて、うかつに手を出すべきではなかった、と途中で落ち込んでしまったんです。要するに、僕が東日本大震災を題材にするには、まだ早過ぎたんです。しかし、とある本に書かれていた記者の『取材をされる方はもちろん、する方もつらい。でも自分たちは書かなきゃいけない』という言葉で気を持ち直し、自分は小説家としてこの物語を書かなくてはならないんだと、覚悟を決めることができました。今回、『正体』を気に入ってくださった方は、『海神』も手に取ってみてください」
――先ほどのお話では、過去に台本を多く読まれていたとのことですが、読んだ作品に限らず、印象に残っているドラマはありますか?
「僕の人生の中では、『未成年』(TBS系、’95年)ですね。いしだ壱成さんが主演をしていた作品で、未成年の子が集まって世の中や世の大人に対して自分たちの主張をするという、青臭いといえば青臭い物語なのですが、大いに刺激を受けました。当時、子供だったこともあり、後にも先にもこんなに刺激的だと感じたドラマは『未成年』だけですね」
■Prolife
染井為人(そめい・ためひと)
1983年、千葉県出身。芸能プロダクションで、マネジャーや舞台などのプロデューサーを務めた後、小説家に転身。’17年に、デビュー作『悪い夏』で、横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞。『正義の申し子』『震える天秤』を経た4作目『正体』が、読書メーター注目本ランキング1位を獲得。最新著書に、昨年10月に発刊した『海神』がある。
※『正義の申し子』(KADOKAWA/角川文庫)、『震える天秤』(KADOKAWA)
「連続ドラマW 正体」放送情報
WOWOWプライム
3/12(土)スタート 毎週土曜 後10:00~
※第1回無料放送
※リピート、WOWOWオンデマンドで全話アーカイブ配信あり
取材協力/株式会社 光文社
撮影/尾崎篤史