「連続ドラマW 正体」。本作で死刑囚を演じる亀梨和也さんにインタビューした後編。
殺人事件の容疑者として逮捕され、死刑宣告を受けた鏑木慶一を演じる亀梨さん。死刑囚である上に、脱獄し、名前や容姿を変えながら潜伏を続け、あろうことか、行く先々で出会う人々を窮地から救っていくのです。その人格は、殺人犯と似ても似つかず、助けられた人々は「鏑木慶一は本当に殺人犯なのか?」と口を揃えますが、果たして真相は!?
そばにいてほしかった人が、そばにいなかった。だから鏑木は…
――前編でのお話にもありましたが、今回、映画「事故物件 恐い間取り」以来、2度目となる中田監督とのタッグです。打ち合わせでお互いにこだわった部分などありましたか?
「まず、はき違えないでいただきたいのが、今回の僕は、“七変化ではない”ということです。鏑木が名前を変えて4人の人物になりすますということであって、全く異なる4人の人物を演じ分けたということではありません。異なる人物を演じてしまうこともできたと思うんですよ、そういう話の持って行き方をすれば。ただ、監督、プロデューサーさんとは、リアリティーの追求という部分でお話しました。Aさん、Bさん、Cさん…と、異なる人間を演じるという器用な天才詐欺師の話ではないけど、主人公が違う人物になりすましている。この辺りのニュアンスが一番重要だと感じました」
――仰るように、異なる複数の人間になりすましているだけで、人物は鏑木1人ですよね。
「物語の本質を維持しながら、みなさんを納得させないといけないわけですから…。髪の毛の分け目を変えただけで、『違う人だと思ってください』という提示もできますが、今の時代、それで納得できないじゃないですか。例えば、変化の一つで、『左利きの役を作ろうかな』という考えもありました。鏑木にとっては、ある種のリアリティーですよね。だって、“鏑木慶一”だと周囲にバレてはいけないわけだから。こういった細かな部分も含めて、どの程度までなら自然に成立するか、などを考えながら演じていました」
――映像を拝見して、改めて人は、“目”の印象が強いんだなと感じました。
「仕草や表情といった細かいエッセンスは、できるだけ不器用に、器用になりすぎないように気を付けました。僕が、ちょっと器用にできてしまうところもあるので…(照)、その辺りは、鏑木という人間の不器用さを意識しましたね。だって、器用な人間だったら、事件が起きることだってなかったでしょうし…」
――“鏑木は不器用”とお話しされましたが、彼は、脱獄した死刑囚でありながら、潜伏先で人々を救っていくわけですよね。そんな鏑木の人間性をどのように捉えていますか?
「非常に難しいですよね。鏑木のバックボーンについて、絵としては描かれていないので。ただ、回を追うごとに、彼の境遇に触れるセリフが出てくるので、少し不遇な人生を歩んできたのかな、と思う部分もあります。こんなことを言ってはいけませんが、彼は、大きな話題を作るタイプの人間ではないと思うんですよね。どこか、流れに身をゆだねながら、生きることに対して何か模索している、そんな感じでしょうか。とは言っても、他人を卑下しないですし、人との向き合い方の部分ではすごく素敵な一面があります」
――それが良くも悪くも、彼の人生に大きな影響を与えてしまうという…。
「だからこそ、今回、殺人事件の犯人となり、引いては“死刑囚”となってしまったりするんです。これは、物語の見どころの一つでもありますが、平坦な人生を歩んでいた中で、突如、出来事が起きる…。一方では、見方を変えると、すごく強い人間なのかなと思います。人生を平坦にすることもできたと思いますが、何かを諦めねばならない状況の中でも鏑木は、大きく跳ねるわけでも凹むわけでもない。流されずに生きているというのが、鏑木という人間だと感じています」
――そんな彼が、遠藤雄一、那須隆士、久間道慧、桜井幸司と名前を変えて潜伏する。その先々で出会う人物を演じたキャストのみなさんが非常に豪華ですよね。まずは、鏑木が容疑者とされる事件の被害者夫婦の母、事件の唯一の目撃者・井尾由子役を黒木瞳さんが演じられています。
「僕が黒木さんのことをお話しするなんておこがましいですが、凄みを感じましたね。作品に対する姿勢もそうですし、撮影現場の空気をコントロールされるところは、本当に勉強させていただきました。ただ、物語の序盤は、鏑木と井尾という関係の中で難しい部分もあったため、黒木瞳さんと亀梨和也という関係値ではお話しをしないようにしていたのです。撮影が進むに連れてお話しもさせていただき、『すごいなぁ』と、とてもいい緊張感の中で演じさせてもらいました」
――貫地谷しほりさん演じる安藤沙耶香、上川隆也さん演じる弁護士の渡辺淳二は、それぞれ鏑木の鏡のような存在だと感じました。特に、上川さんは影のある役でしたが、共演されていかがでしたか?
「とにかく笑顔が素敵で優しい方でした。仰るように、僕はこの作品で主役として入らせてもらっていますが、それぞれの物語の流れの中で存在する、完全に受けの立場です。役柄的にも、鏑木はあまり主張をしない人間なので、同じように変な波が立たないように僕も存在していました。人とぶつからないようにというか、常に渋谷のスクランブル交差点を歩いているような、そんな感覚でしたね」
――確かに鏑木は、言葉は少ないです。ですが、その中で関係性を築いていきますよね。
「本当に、人のことが好きな人間だと思います。人のせいで、自分の人生があんなことになってしまうのですが、人が好きで、人といたい、そんな人間なんですよね。鏑木は、そばにいてほしかった人がそばにいなかった人間なので、こういった根幹にある思いはすごく大切にしました。そういう意味も含めて、今回のお芝居は全て受けだったと感じています。鏑木がこういう動きをしなければいけない、という部分がなかったので、皆さんにお任せしました。皆さんの思うように演じていただいて、僕は、鏑木としてそこに存在する、そんな気持ちでいました」
■Prolife
亀梨和也(かめなし・かずや)
1986年2月23日、東京都出身。’98年にジャニーズ事務所に入所し、翌年、「3年B組金八先生 第5シリーズ 」でドラマ初出演を果たす。’05年のドラマ「ごくせん」第2シリーズでの出演でさらに知名度を上げ、翌年の3月にKAT-TUNとしてCDデビュー。以降は、音楽活動、映画やドラマ、番組MCのほか、CMやラジオパーソナリティーなど多彩な才能を生かし、活躍の場を広げている。
「連続ドラマW 正体」放送情報
WOWOWプライム
3/12(土)スタート 毎週土曜 後10:00~
※第1回無料放送
※リピート、WOWOWオンデマンドで全話アーカイブ配信あり
Hair&Make/豊福浩一(Good) Styling/佐藤美保子