放送中のドラマ「正直不動産」も最終回ですが、泣くのはまだ早いです! 「うさPの正直アフタートーク④」でロスを吹き飛ばしましょう。
今回も、番組のプロデューサーである、うさPこと宇佐川隆史Pに、ネタバレありの“正直アフタートーク”を披露していただきます。最終回の制作&撮影秘話について、正直に語っていただきました。
永瀬(山下智久)と石田さん(山﨑努)の再会は、まさにドラマの集大成
―無事に(!?)、登坂と鵤の対決が、ひと段落つきました。
「今回は、登坂が鵤に一矢報いた形になりましたが、鵤自身はこれからも不動産業界で生きていきますし、いつか登坂を…と、まだまだ狙っていると思います。もっと言うと、登坂も、鵤からの仕掛けを受け止めているような感じがありますよね。鵤自身、そこまでダメージを受けていないのでは、とも思ったり…。だから、これからも登坂と鵤は、ライバル同士戦い続けるのだと思います。そして花澤(倉科カナ)も、鵤の手法を認めていないだけで彼に対して恩義は感じている。だからこそ、鵤の存在を認めながらも彼を変えていく、と告げています。正直不動産の登場人物は、一人一人が“生きている人間”だと思って描いてきました。『人の生きざまをドラマの駒扱いにしない』ということが、みなさんのドラマへの信頼や納得につながってもらえていたら嬉しいです」
――その証拠にマダムは、登坂と鵤、どちらも見捨てていないですね。
「どちらが正しいとかではなく、懸命に生きている2人にエールを送っているんじゃないでしょうか。好き嫌いを超えた家族のような関係性と言いますか…。ちなみに、登坂、鵤、マダムがバブル期だとしたら、3人の令和版が、永瀬、桐山、月下です。どことなく投影されていると感じませんか? どの時代にも、切磋琢磨し合える人間関係があると思っています」
――確かに! そういう目線で見たことがなかったので、また第1話から振り返ります。それにしても、演じている出演者の皆さんが生き生きしていますよね。
「今回、出演していただいた皆さんに共通するものがあるとすれば、それは“役を振り回してる”ということですね(笑)。役に振り回される、という言葉は耳にしますが、役を自分のものにして、かつ遊んでいる感じがするのです。大河部長役の長谷川(忍)さんは、カラオケの合いの手のように自在にアドリブを入れるので、試写では、大笑いを超えて感動すらしています。榎本美波役の泉(里香)さんの第8話の『へばっ』も見ていますよね? 撃ち抜かれるとはこのことなのだな、と(笑)。 台本の時点で想像していた“美波の一生懸命さや暴走モード”が、こんなにも魅力的に表現されるとは…と、毎話感謝していました。そして花澤ですよ。やっぱり倉科さんは『すごい』の一言。第4話で鮮烈に永瀬と対峙し、後半になるにつれて、徐々に花澤が持っている大切なものが分かってくる。ある種のクールさを保ちながらも、その中にふと見える優しさ、信念。と思いきや、第9話での酔った花澤は最高ですし…(笑)。視聴者の皆さんも、俳優部が楽しんでいることを感じていただけているのではと思います」
――出演者の皆さんが楽しんでいるのは、画面からしっかりと伝わってきていました! そして最終話には、サプライズがありました。山﨑努さんの再登場、嬉しかったです。
「これはもう、早く言いたくて仕方なかったです(笑)。山﨑さん演じる石田努が、永瀬に大きな影響を与えるという第1話の台本を読んだ時に、『だったら、成長した永瀬財地も石田さんにぜひ見てほしいな』と感じたのです。『成長した永瀬を見たら、石田さんはどう感じるかな? 何と言うのかな?』という思いで、自然と山﨑さんに出演していただきたいと思いました」
――まさに、永瀬の成長を喜んでいましたよね。「バカ正直な男だ、バカかもしれん」という石田さんのセリフも、石田さんと永瀬であり、山﨑さんと山下さんだと感じました。
「山下さんと山﨑さん、お二人の出会いが10年以上前にあって、今作で久しぶりに共演された。そして3カ月の撮影期間の中で、最後に再び共演する。これまでの関係性があったからこそのシーンになったのでは、と思います。最終話でのお二人の共演…セリフを書く脚本の根本(ノンジ)さんをはじめ、演出、スタッフ、全ての制作メンバーが、その重みをしっかりと感じながら、大切にセッティングしました。その結果が、最終話の石田さんと永瀬のたたずまいとなって表れているのでは、と思います」
――石田さんに写真を撮られるシーンも、本当に感慨深かったです。そして、嘘つけるようになった永瀬! 喜びのダンスは、山下さんのなせる業ですね?
「はい、廊下に出て喜ぶあのダンスも、山下さんの発案。撮影でカットがかかった後、スタッフから拍手と歓声が上がったという(笑)。『マイケルジャクソン(のダンス)、すごかったよね!』と、歴史の目撃者のようにスタッフが言っていました。『永瀬財地があんなに踊れるのか?』と聞かれても(わかりませんが)、山下さん演じる永瀬なら、それができるんです!」
―― 一方で、「嘘がつけて成績が上がっているのに、嬉しくない」とつぶやく永瀬。これは、まさに成長だと感じました。
「先に言うと、永瀬は『もう嘘をつきたくない』とは思っていないと思います。『嘘がつけるなら、場合によってはつきたいよ』とは、心の中では言っているのでは? こういう風に、人間くささも持ち合わせているのが永瀬であり、決して聖人君子ではないのです。だけど、いつの間にか、嘘をつくと後ろめたい気持ちになる自分がいた。“正直営業”で築き上げてきたものが、愛おしくなったんでしょうね。山下さんは、インタビューで『人は変われる、ということを伝えることができたら』と仰っていました。全10話が終わった今、確かに『人は変われる』ということを、永瀬を通じて実感することができたと思っています」
――本当に、永瀬のように生きるのは大変なことです。そんな彼が最終回では、「私は嘘がつけない人間なので」ではなく、「我々は嘘がつけない不動産屋なので」と話していました。自分さえよければいい永瀬は、卒業ですね。
「周囲のことも見ていて、他人のことも信じている。そんな永瀬の姿を見て私も、セリフを知っているのにもかかわらず、涙が出ました(涙)」
――彼がここまで成長できたのも、周囲との関わりがあったからこそ。特に、良きライバルである桐山(市原隼人)の存在がとても大切だったように感じます。永瀬の現状を“らせん階段”に例えた桐山の一言は、本当に素敵でした。
「(涙)。そう思っていただけたのなら、本当に嬉しいです。このセリフはどうしてもドラマに入れたい言葉でした。原作にもあるのですが、初めて読んだ時に、なんだか心が軽くなったというか、救われた気がしました。普段は自分なりに必死に仕事をしていても、なかなか上手くいかず、というより、上手くいく方が少なくて…。それでも、頑張ろうと思って続けていても、つらさを感じる自分もいるんですね。そんな時、『ぐるぐる回っているようでも、らせん階段のように、少しずつ上がっていることもある』という桐山の言葉に、今の私を静かに認めてもらえたというか…。小田さんが歌う主題歌の歌詞にも『たとえ選んだその道が間違ったとしても 無駄な時間が流れるわけじゃない』とあります。この言葉を、ドラマを通して伝えたいと心から思っていました」
――脚本家の根本さんも、その思いをくみ取ったのですね。
「『正直に頑張る永瀬に、いつかこの言葉をかけてあげたいんです』と、ずっと根本さんとは話していました。“正直に生きる”ことって、簡単でもなければ、率先してやりたいことでもないはず。だけど、永瀬は正直に生きざるを得なくなって、自分なりに頑張ってきた。その頑張りは間違いないはずなのだけど、桐山と比べた時に『自分はまだまだだな…』とつい思ってしまう。本当は、毎日積み重ねていくことだけでもすごいことですよね。だから、永瀬にはぜひこの言葉をかけてあげたかった。嘘がつけないからこそ、階段を一歩一歩着実に上がっていったんですよ、と(涙)」
――永瀬が一歩一歩進んでいたことは、桐山だから分かることですし、永瀬を見てきた証拠ですよね。お互いに、鏡のような存在です。
「その通りです。“らせん階段”のセリフを、他でもない桐山が発するからいいんですよね。最終回の最後にこのセリフ…、根本さんに感謝です。私はてっきり、『永瀬がピンチの時に言うのかな』と思っていたのですが、根本さんは、全てが解決した後の何気ない時にこの言葉を永瀬に贈っていましたね。『根本さん、さすがだな』と思いました。永瀬がピンチの時、きっと桐山は、見守っていたというか、永瀬を信じていたんでしょうね。『永瀬さんならきっと大丈夫』と。根本さん、最高です。これぞブロマンス!」
――本当に、ピンチの時に助けるだけが友じゃない、という永瀬と桐山の絆を感じた瞬間でした。そして永瀬は最後に、「家を通して多くの人々の人生に関わり続ける」と語っていましたが、宇佐川さんは、「ドラマを通して多くの人々の人生に関わり続ける」でしょうか?
「そうありたいと思っています。今作であらためて、『ドラマは、人の生活を楽しくすることができるのだな』と、気づきました。もちろん、当初から目指していましたが、思っていた以上の反応をみなさんからいただきまして…(涙)。『「火曜日のために頑張れる!」と言ってもらえるなんて、どんなに幸せなドラマなのだろう』と。『ドラマには、人々を元気にする力がまだまだ秘められている』と、あらためて感じました」
――まさに、永瀬もスタッフのみなさんも頑張っているなら…、と背中を押されました。
「単純に面白い、楽しい、と感じるドラマの中にも『一さじでも本気を入れておきたい』、という思いがあります。人々の生活に関わるからには、全力を出さないといけませんから。私自身、最初は報道番組に携わっていて、そこからドキュメンタリーに長く関わり、そしてドラマ制作に携わるようになりました。ドキュメンタリーと比べた時に、ドラマの方が難しいな、と感じるポイントがあります。ドキュメンタリーには、取材対象者がいますよね。人の数だけ、ものすごい人生が既に存在しています。しかしドラマは、自分達で“登場人物の人生”を作り上げなければいけない。たとえ原作があったとしても、実写ドラマでは生身の人間で表現されるため、手が抜けないと言いますか…。ドキュメンタリーで人々の人生に向き合ってきたように、同じだけの人生をドラマでも感じさせる必要があります。なので、ドラマ作りは、登場人物の人生を背負う、本当に怖いものなのです。でも、(ドラマだからと言って)登場人物の人生を、物語に合わせて安易に作り上げたくはない。今回は、原作者、脚本家、出演者、音楽家、そしてスタッフ、実に多くのメンバーが熱心に考え抜いた結果、永瀬財地をはじめとした“生きることに本気な正直不動産の面々”を生み出すことができました。それが、視聴者のみなさんの心をとらえ、元気にすることができたのかな、と思っていますし、今後もそんな作品を作り続けていきたいです」
――そして、すでに一部が解禁されている「正直不動産 感謝祭」について、言える範囲で大ヒントを教えてください!
「これ本当に! とんでもないことが起きましたね! …と、今でも他人事のように語ってしまうくらいにビックリしています(笑)。このドラマは本当に、初回から想像を遥かに超える反響があって、1週目から数百通のお手紙をいただき、NHKプラスで新記録樹立(朝ドラ、大河以外の歴代ドラマ最高視聴回数)、そして3度にわたる連続再放送…と、予想外の出来事が起きるたびに驚いてきました。そんな中、編成局との会議が終わった後にこのドラマの編成担当に呼び止められて、『全10話が終わったあとに、もう1週、特別番組を作らないか?』と言われた時は、あまりの予想外に『へっ?』となったことは、忘れもしません。人って驚きすぎると、感情が追い付かないんだなと(笑)。『感謝祭』では、 出演者のみなさんに撮影の裏側を語ってもらうほか、名珍場面を振り返るなど、素直な作りにできたらと見なで話し合っているところです。せっかくもう1週、楽しんでもらえる機会をもらえたので、出演者、そして制作者である私たちも参加して“視聴者の皆さんと、あと1回『正直不動産』で楽しむ”という、アットホームな作りにしたいです」
――ということは、まだ“楽しい火曜日”が続きますね?
「はい! そう言えるのが本当にうれしいです!」
――ありがとうございます。言葉通り、「正直不動産」は、まだ終わっていません! 「感謝祭」も一緒に楽しみましょう。うさPこと、宇佐川Pも、最後まで正直トークをありがとうございました。
■お話しを聞いたのは…
宇佐川隆史(うさがわ・たかし)プロデューサー
’02年、NHK入局。大河ドラマ「龍馬伝」(’10年)からドラマ部へ。演出として、連続テレビ小説「半分、青い。」(’18年)、「“くたばれ”坊ちゃん」(’16年)、「4号警備」(’17年)など。プロデューサーとしては「うつ病九段」(’20年)や「家出娘」(’22年)を担当。現在は、ドラマ10「正直不動産」のプロデューサーを務めている。山下さんと一緒に仕事をすることになり、「うさP」と呼ばれていることを必死に隠そうとしたが、無駄だったそう…。
「正直不動産」放送情報
NHK総合
毎週火曜 後10:00~