山下智久さん主演で絶賛放送中のドラマ「正直不動産」。いつでも“火曜日”を楽しめる連載「うさPの正直アフタートーク」の第3回です。
今作のプロデューサーを務める、うさPこと宇佐川隆史Pに、ネタバレありの“正直アフタートーク”を、今回も披露していただきました。まずは、第6~9回の裏側に迫った、その③。続くその④は、最終回放送直後、6/7(火)後11:00に公開予定です!
山下さんと永瀬が重なるから、嘘がなくて感動する
――風が吹いて本音が“出てしまう”時の永瀬は、パフォーマーとしての山下さんだと前回のアフタートークで教えていただきましたが、回を重ねるごとにパフォーマンス度が増しているような気がします!
「物語の後半では、山下さん自身が“永瀬”という存在を捉え、さらに自由自在に表現していたのだと思います。むしろ今は、永瀬が操られているぐらいかもしれません。個人的には、クライマックスで『高齢者用のマンションに変えた方がよいのでは?』と語っていた第4話あたりから、『山下さんが永瀬を掴んで楽しんでいる!』と感じていました」
――つまり、山下さんのアドリブも増えているのでしょうか?
「そうですね。しかもその度合いを“意図的に”少しずつ増やしている。つまり、永瀬の成長とともにアドリブが増えているのです。もちろん、役に馴染んできたということもあるでしょうが、ドラマの撮影は、全てが順番通りではありません。それなのに、絶妙に風を捉える永瀬と共に、アドリブも増えている。『アドリブ一つをとっても、永瀬の成長具合を鑑みながら演じている』と気づいた時、これまた鳥肌が立ちました」
――確かに、「今の永瀬なら、こういう言動になるよね!」と思いながら見ていたので、台本に書かれていたのかアドリブなのか、全く気がつきませんでした。
「本当に、山下さんが永瀬という役を楽しんでいらっしゃるからこそだと思いますね。そういった空気というのは私たち制作陣にも伝播するので、そんな山下さんを余すところなく伝えることが我々の仕事だと感じています。『楽しんで演じられている、この空気自体も伝えなきゃ!』と」
――そして第6回のヘルメット&泥をつけた永瀬では、そういう山下さんの真面目さを垣間見た気持ちにもなりました。
「視聴者の皆さまからも『素敵です!』という声を多くいただきました。“格好つけないところが格好いい”、これを体現しているのが山下さんだと思います。大変なことも、つらいこともしっかりと向き合う、愚直に進んでいく。永瀬の奥にいる山下さんが持つ部分が表現されたシーンになっていると思います。もっと言うと、ヘルメットに関しても、山下さんの頭のサイズと、合ってなかったと思います」
――おっしゃるように、浮いていましたね(汗)。
「それは、工事現場にあるヘルメットだから。もちろん、山下さんに合わせたヘルメットをこちらも用意して、より格好いいスタイルにすることも可能でしたが、山下さんはそういうことを全くしない。このように、永瀬と素の山下さんが重なっているからこそ、見ているものに嘘はなくて感動するのです。話が逸れてしまいますが、ふと思ったことがありまして…。『山下さんのファンの方は本当に幸せだろうな』と。『格好いい!』という憧れはもちろん、『自分もこんな風に頑張って生きよう』と、人としてそう思える存在がいる、しかもそれが山下さんって、幸せですよね?」
――その山下さんが演じる永瀬財地を、ファンのみなさんが“さいちん”と呼んでいますよね!
「第2話の冒頭、夢の中で永瀬が『さいち~ん』と、女性(石川瑠華さん)に呼ばれていましたよね。あの回から、皆さんの中での愛称として親しまれています。と言いつつ、私もつい「次の“さいちん”の動画、どうしようか?」などと呼んでしまうこともあります(照)」
――(永瀬と素の山下さんのように)役と重なる、と言いますと、月下を演じる福原遥さん、桐山を演じる市原隼人さんも、ハマり役だと感じました。
「福原さんの持っている素直な部分が月下にはまっていますし、“新入社員”という役柄の奥に潜む、お芝居の圧倒的な力にも感動しています。新入社員の役って、非常に難しいと思っていて。下手すると、初々しさなどが記号的になりやすいと言いますか…。俳優が本来持っている“素材感”だけでは、実は乗り越えられないくらいの役柄なのです。福原さんも、山下さんと同じように、役柄を深く捉えた上で表に出しているので、すごい役者さんだな、とあらためて思いました。なので、朝ドラ『舞いあがれ!』も、むちゃくちゃ楽しみにしています。そして、桐山は本当に…市原さん以外に考えられません! むしろ市原さんが、桐山を引っ張っているくらいに感じていますし、最近では原作漫画を読んでいても、桐山の姿を見ると、市原さんの顔が自然と浮かぶようになりました」
――そんな桐山と永瀬が助け合うシーンは…親心で見ていました(涙)。
「2人の中で、何かが通じ合った瞬間があったのでしょうね。そして離れていても、互いに切磋琢磨できる存在となった。ドラマで描かれていないところでも、互いの存在が頑張る糧になっている、そんな関係になったのではないでしょうか」
――第9回では、永瀬から「チーズケーキ」を奢る提案に対して、「モンブラン」がいいと答えた桐山に、笑ってしまいました(笑)。このシーンは、原作でもあったのでしょうか?
「こうした掛け合いのシーンは、脚本の根本(ノンジ)さんが、原作の内容に加えて、ドラマのために書いてくださったものです」
――ちなみに、第8回でも月下が「モンブラン」を食べたがっていました。モンブラン=アルプスの最高峰ということで、頂点を目指す意味合いが隠されていたりしますか?
「ははは、すばらしい推察です(笑)。そこは正直、月下と桐山に聞いてみないと分かりませんが、共鳴し合うことがあるのかもしれませんね。その説、採用させていただきます(笑)!」
――ありがとうございます、考え過ぎたかもしれません(汗)。そして今作では、風だけでなく、不動産についての説明などで、イラストやCGが効果的に使われていますが、どういう意図があるのでしょうか。
「実は、CGをどう入れるかに関しては、厳密に決めないままで編集作業に入りました。みなさんご存じのように、原作の大きな魅力の一つが、不動産に関する詳しい説明があることです。その魅力を損なわずに、ドラマとしても成立するポイントがどこにあるのか、初めのうちは、制作陣は誰も予測できませんでした。ということもあり、初回から、毎回相当の時間をかけて、ああでもないこうでもない、と皆で試行錯誤してきました。当初は、あそこまでセリフに合わせてイラストを乗せることで、『え? お勉強?』と思われるのではないか、という不安もありました。ですが、会話にイラストやCGを入れても、互いにぶつかり合わないことが分かったので、それ以降はCGやイラストを多用しています(笑)。理解してもらいたい度合いと加減を大切にしながら、3Dも含めたCGを積極的に取り入れてきました」
――確かに、勉強と思った時点で嫌になってしまいます(汗)。“度合いと加減”というのは、お勉強感を出さずして、相手の探求心をくすぐるように新しいことを伝える、そのバランスでしょうか?
「おっしゃる通りです、そのままを書いておいてもらえたら(笑)。不動産という分野自体、内容が難しいので、これまで手をつけられてこなかった。ですが原作は、その難しいところに斬り込んでいき、正面から向き合ってきたからこそ多くの支持を得たと思います。だから、根本さんと私たちも腹を決めて、不動産の難しい部分をエンターテインメントの形で出すことに尽力してきました。第2話の屋上で、桐山や永瀬が語るシーン(専属専任・専任・一般媒介契約のメリットとデメリットについて)が完成した際、『これは、ドラマの大きな魅力の一つになる!』と安心した次第です」
――真面目な話から飛んでしまいますが、第9回では、榎本さん(泉里香)が永瀬の自宅にお邪魔していました。これが“ダサかわ永瀬”ですね!
「私は、“神田川さいちん”と秘かに呼んでいます(笑)。この永瀬も、山下さんと扮装部、監督が考えたものです。さらに、ヘアピンはこういう具合がいい、などの最終的な調整は、山下さんが行っていると聞いています。あとは、部屋の段ボールの積み方や中身の出具合も、『今の永瀬の心情はこうかな?』と、細かな部分までこだわって美術さんも作ってくれているのです」
――段ボールの積み方まで…見逃しました(涙)! そんな第9回の最後には、鵤(高橋克典)が登坂不動産に乗り込んできました。登坂社長(草刈正雄)が首を縦に振ること(ミネルヴァの傘下に入ること)は、ないですよね?
「ないかどうかは…来週を見ていただければ(笑)。ラストはさすが、“草刈さんと高橋さん、ここにあり”、という感じでしたよね。私も初稿を読んだ時に、思わず息を吞みました。まさに、“根本マジック”です。最終回に向けて言えるとしたら、登坂もミネルヴァもどちらも全力ということでしょうか。登坂社長も鵤も、信念を全力で貫き通すと思います。まるで役者としても戦っているような、散っている火花が見えるような勢いでくると思いますよ…。それほど全力で向き合っているので、『ここまで仕事に対して頑張れるっていいな』と感じられるのではと思っています。まさに、ビジネス上での死闘を繰り広げますので、手に汗握る展開になると思いますよ!」
――ありがとうございます。永瀬と桐山のブロマンスに期待しながら、全面対決を楽しみにしています。そして、次回の「うさPの正直アフタートーク④」は、最終回放送直後、6/7(火)後11:00に公開予定です!
■お話しを聞いたのは…
宇佐川隆史(うさがわ・たかし)プロデューサー
’02年、NHK入局。大河ドラマ「龍馬伝」(’10年)からドラマ部へ。演出として、連続テレビ小説「半分、青い。」(’18年)、「“くたばれ”坊ちゃん」(’16年)、「4号警備」(’17年)など。プロデューサーとしては「うつ病九段」(’20年)や「家出娘」(’22年)を担当。現在は、ドラマ10「正直不動産」のプロデューサーを務めている。山下さんと一緒に仕事をすることになり、「うさP」と呼ばれていることを必死に隠そうとしたが、無駄だったそう…。
「正直不動産」放送情報
NHK総合
毎週火曜 後10:00~