「本当の恋とは違うけど、ちゃんと好きになる」尾野真千子、「グレースの履歴」撮影の日々を語る

2024/06/19 05:05

「週刊TVガイド」連動・向田邦子賞特集の第2弾は、第42回向田邦子賞を受賞した源孝志さんの「グレースの履歴」でヒロイン・蓮見美奈子を演じ、放送中の連続テレビ小説「虎に翼」では語りを担当する尾野真千子さんのスペシャルインタビューをお届けします。

源さんのこだわりが詰まった作品。セリフだったり、場所だったり、すべてにおいてセンスがいいんです

――「グレースの履歴」の台本の第一印象はいかがでしたか?

「おしゃれだな、と思いました。セリフだったり、場所だったり、シチュエーションだったり、すごくセンスがいいんですよね。おしゃれな監督だなと思いましたし、台本を読み進めても源さんのニュアンスのようなものがたくさん感じられて。こだわりの世界があるんですよね。ホンダS800もそうですし、ロケ地なんかも細かく全部決めていて、ロケハンも楽しかったんじゃないかなあ(笑)」。


――特に印象的だったロケ地などありますか?

「どこも良かったです。広島も良かったですし、愛媛のあの駅もすごく良かったなあ。それぞれどこもおしゃれなんですよ。こんなところどうやって見つけたんだろうというようなところばかりで。監督も、あそこがいいんだよ、夕日が沈んでさあとか言いながらね。食もお好きだから、おいしいお店とかもよくご存じで、一緒にご飯に行ったりもして。楽しかったですよ」


――美奈子の人物像についてはいかがでしたか?

「もちろんセリフとか行動とか、尾野真千子だったらこうしないだろうというのはありました。でも『グレースの履歴』は源さんの思いが描かれているようで、計算された上での脚本だったのでやりやすかったですね。迷いがなかったです」


――美奈子というのは、ちょっと幽霊的というか、すでに実体がなくなっている存在です。

「今回はまわりの女性たちから『見た』って言ってもらえることが多かったんです。いつもはそんなに言われないんですけど。女性の中に結構刺さっていたみたいです。自分で台本を読んだときは、女性だったらこんなこと言わないんじゃないか、なんて思ったりしましたが、出来上がったドラマがいろんな女性に刺さっているというのは…。うん、なんかきっと、読んだ時とは違うものになっているんだなって、不思議な感覚ではありましたね」


――尾野さんが演じることで、美奈子という存在がよりイメージとして伝わるものになったということだと思います。

「まあ私がというよりも、源さんの脚本がより肉付けされたということでしょうね。そこまで計算されて撮っていたというか…。でも私結構、希久夫役の滝藤賢一さんに動かされていたところがあったなあ」


――そうなんですか?

「はい、滝藤さんが本当にスゴくて。滝藤さんがあんな顔するから私も泣いちゃうとか、滝藤さんがこんなんだから私もこんなんなっちゃうんだよ、みたいなことが結構現場でありました。滝藤さんの顔を見て、セリフが出てこなくなるくらい泣いちゃったり、幽霊のはずなのにどんどん悲しくなっていっちゃったり。脚本より滝藤さんに動かされる場面が多かったような気もします。滝藤さんが素晴らしかったです(笑)」

グレースの履歴シーン写真1

旅をしながら滝藤賢一さん演じる希久夫をどんどん好きになる。彼のことが好きだ、という気持ちだけで現場にいました

――このドラマではやはりホンダS800の存在が大きいですけれども、実際に運転していかがでしたか? 源さんは「尾野さんは最初から上手かった」とおっしゃっていました。

「好きで普段から乗っているので。たまたまその時も左ハンドルに乗っていたのでS800に抵抗はなかったですね。免許もマニュアルで取っていたし、今住んでいる沖縄で軽トラックに乗ったりもしていたので。エスハチはやっぱり魅力的ですよね。機嫌が悪いときは悪いし、街中を走ったら面倒なんだろうなと思うけど、そういうところがまた可愛くてね。オープンカーは初めてだったので(ドラマの中のような)ああいうまっすぐな道を永遠に走っていくのは気持ち良かったです。源さんのこだわりはすごかったですけど。ここを触るときは何本指で、とか(笑)」


――冒頭、美奈子が旅に出るときの「希久ちゃんのなくしたもの、全部見つけてあげる」というセリフがありますよね。その時はなんて言っていたのか分からなくて、視聴者には最後に明かされる。

「あのセリフ、何て言ってるんですかって、源さんにずっと訊いていたんですけど、なかなか教えてくれなくて」


――原作にもないセリフですからね。

「決めかねていらしたのかもしれないですけどね。あの言葉って結構重要だったりするので、ずっと訊いていたんですけど、これにするって言われたのは中盤以降だったような。だから冒頭のシーンも結構あとの方に撮ってるんです」


――そういう気持ちで美奈子は旅をスタートさせるのですが、そこから旅を続けて、広末涼子さん演じる草織に会いに行くまでの間に、美奈子の気持ちに変化はあったんでしょうか?

「みなさんとしてはいろいろ気持ちの変化もあったのではと思われるかもしれませんが、私としては…本当にもうずっと希久ちゃんを好きでいるだけだったんですよ。この人と会ってこういうことをしたいとか、こういうことを言いたいとかじゃなくて、ただ好きだから私はいろんな人に会いに行っていたんですよね。だから気持ちの変化というよりは、さらにどんどん希久ちゃんのことを好きになっていったという感じはすごくあって…そのことだけで現場にいましたね」


――そうなんですね…。

「そういうときドラマでも本当にこう、ちゃんと相手を好きになるんですよね。本当の恋愛とはまた違うんだけど、それに近いものがあるんですよ。だから本当に彼を見て、笑ったり、泣いたり、怒ったりができる、本当の気持ちを彼に向けてちゃんと出せたような気がします。あの物語がその気持ちを高めていったというか、まあ旅が進むにつれてなんですけど、例えば彼のお母さんに会うときとか、広末さんと対峙するっていうときに、かえって思いが溢れるんですね。希久夫さん本人と面と向かうんじゃなくて、そういうところで彼への愛がとても感じられる作品になっている。そういうところが面白いなというか、スゴイなと思いましたね」

グレースの履歴シーン写真2

最近声のお仕事が好きになって。声優は無理でもナレーションならできるかな

――せっかくお時間いただいたので、ナレーションについてもお話をうかがいたいです。「グレースの履歴」でもモノローグが効果的でしたが、「虎に翼」の語りが話題です。

「最近、声のお仕事が好きになってきて。以前はそんなに好きじゃなかったんですけど、なにかだんだんと皆さんが求めてくださることが多くなって、そっちに力を入れてもいいのかなと。自分の声が好きになってきちゃって。『いすのまちのコッシー』というアニメがあって(Eテレ『みいつけた!』内)、“こまちひめ”というキャラクターを、そんなに毎回ではないんですけど年に数回やっていて、いつもどんな声だったか忘れるんです(笑)。そのへんはプロじゃないというか。最近声優という仕事にも興味が出てきたんですが、私には絶対無理だなと思うんです。毎回同じ声を出さなきゃいけないんですよ!」


――(笑)そうですよね。

「キャラクターだったらそうですよね。しかもずっと続いている作品とかもあるじゃないですか。それを毎回同じ声でできることのスゴさ。抑揚のつけ方とかも、私たちの抑揚とかと全く違うんです。本当にスゴイ仕事だなと思って。だから声優は無理だけど、ナレーションだったらできるかなと思ってがんばっています」


――でも「虎に翼」の語りは、普通のナレーションがあったり、寅子の声を代弁していたり、ドラマにツッコミをいれていたり、ちょっと面白いですよね。

「そうですね。監督さんが何人かいらっしゃって、みなさん面白がっていろいろ考えてくれるので。ただ読んでください、というのではなくて、なにか演じてくれと言われている感じがやっぱりあるので、こちらも楽しいです」


――本日は、長い間ありがとうございました。滝藤さんにもお話を聞きたくなりました。

「ぜひ聞いてください(笑)」


■プロフィール
尾野真千子(おの・まちこ)
1981年11月4日生まれ。奈良県出身。’97年、映画「萌の朱雀」でデビュー。以降、多くの映画やドラマに出演する。主な出演ドラマは「Mother」(’10年/日本テレビ系)、連続テレビ小説「カーネーション」(’11年/NHK総合)、「最高の離婚」(’13年/フジテレビ系)、「はじめまして、愛しています。」(’16年/テレビ朝日系)など。現在放送中の連続テレビ小説「虎に翼」(NHK総合ほか)で語り役を務める。’24年7月26日公開の映画「DitO」に出演。

グレースの履歴メインビジュアル

「グレースの履歴」情報

NHK BSプレミアム
2023年3月19日~5月7日放送
NHKオンデマンドで全話配信中

原作・脚本:源孝志
演出:源孝志、西山太郎
出演:滝藤賢一、尾野真千子、伊藤英明、柄本佑、林遣都、山崎紘菜、黒谷友香、宇崎竜童、広末涼子 ほか



取材・文/武内朗