源孝志&滝藤賢一、クランクインの夜の行動とは?ーー「グレースの履歴」向田邦子賞記念対談

2024/07/10 05:05

6月25日(火)、「グレースの履歴」脚本の源孝志さんを祝う、第42回向田邦子賞の贈賞式が行われました。TVガイドみんなドラマ編集部では、受賞を記念して、源さんと、贈賞式に出席された主人公・蓮見希久夫役の滝藤賢一さんとのスペシャル対談を、週刊TVガイドと共同取材で式の直前に実施! お二人ともが「自分にとっての代表作」と胸を張るドラマについて、和やかな雰囲気で語り合った様子をお届けします!

僕が「滝藤賢一さんで作りたい」とNHKに申し入れたんです(源)

――お二人は元々仲良しなんですか?

滝藤「いやいや(笑)」

「一緒に仕事をしたのは今回が初めてですよ。ただ、クランクインする前からよく会っていましたね。今作の重要なアイテムとしてホンダS800が登場しますが、その運転の練習もしてもらわなきゃいけなかったし、滝藤さんが真面目なタイプの役者さんなので、いろいろお話を聞きたいというのもあって……」

滝藤「そうですね。撮影に入る前に何度も一緒に飲ませていただきまして。インする頃には大分温まっていた感じでした」

「それで3カ月ばっちり撮影したしね」


――そもそも今回「グレースの履歴」で滝藤さんを主演にしようという話は、スタッフ皆さんで話し合って決められたんですか?

「いやいや、僕が滝藤賢一さんでやりたいですとNHKの方に申し入れて『では、そのように』と決まりました。最初原作小説を書いた時は全然違う役者を想定していたけど、それが十何年たってやっと映像化できることになって、ちょうど滝藤くんが希久夫のキャラクターにいい感じにハマってたんですよね」

舞台裏を語る源孝志さん


――なるほど。滝藤さん、オファーを受けた時はどんなお気持ちでしたか?

滝藤「『これ、読んでおいて』って原作本を渡されて、何役ですかと聞いたら、表紙の車に乗っている男の役だと。素晴らしい本でしたので震えましたよ。これをやらせてもらえるんだっていう喜びでいっぱいでした。ただ、こんなこと言っていいか分からないけど左ハンドルの車を運転したこともないし、マニュアル車も何十年も運転していなかったので、大丈夫かなって思いました。撮影で日本中を走るわけですから。原作をもらったのは1年以上前ですかね。その時はまだ脚本がなくて」

「クランクインしてからも、まだ(脚本を)書いていましたからね(笑)」

滝藤「監督をされて脚本も書かれるってすごいですよね」

「まあ、現場は大変だったと思います」

滝藤「いやいや、源さんが大変だったと思いますよ。倒れるんじゃないかと思って。撮影は3、4話から入りましたけど、あの回は西山(太郎)さんが監督をやってらっしゃったんですよね。でも源さんも現場にいらして」

「クランクインだから行かないわけにいかない。本当は家で脚本を書いていたかったんですけど、行きましたよ」

滝藤「源組はとてもゆとりのある組なので、夕方頃には撮影が終わるんです。源さん、今日は帰って本を書かれるのかなと思ったら、『滝藤くん、ご飯行かない?』って。僕は源さんと行きたいから、『はい、行きます』って、かなりの頻度で行っていましたけどね」

「そうですね。地方ロケに行くと、そういうことくらいしか楽しみがないですから。やっぱり役者さんはつらいわけですよ。毎朝早く起きて、ず~っと待たされて。でも滝藤くん、今回は主役だから『待ち時間、少ないな』と思ったでしょ?」

滝藤「はい。待ち時間が長いとは思わなかったです」

「主役は『はい次、はい次』って、どんどん撮っていくから」


――滝藤さん、車の運転の練習は大変でしたか?

滝藤「いや、楽しかったですよ。2回浜松まで行って走りましたが素晴らしい経験でした。今思い出しましたけど、初日に長野の諏訪湖に移動してナイター撮影をしようとしたら、ライトがつかなくなって。後日に撮ることになりました。そうしたら2日目にはエンジンが掛からなくて。その日はエンジンが掛からなくてもいいシーンだったけど、『やっぱりクラシックカーってこんなことがあるんだ』と思いましたね」

”グレース”に乗る希久夫


「でも1回直してもらったら、クランクアップまで絶好調でした。いや、ホンダの技術力や大したものだなと」

希久夫は悪気なく受け身の男。新しい自分を見出してもらった(滝藤)

――滝藤さんは、希久夫という人物をどう捉えてらっしゃいますか?

滝藤「”悪気なく受け身の男”じゃないですかね。だから皆さんのお芝居をひたすら受けてリアクションしていきました。僕はあんまりそういう役をやらせてもらってなかったので、とても新鮮でした」

「それまでアグレッシブなキャラクターが多かったからね」

滝藤「そうなんです。だから、新しい自分を見出してもらった感じがします」


――源さんは監督としてどういうふうに演出されましたか?

「いやそれはね、原作小説も脚本も書いている人間が監督するわけだから、『いや、そうじゃないんだよ』って言われたら役者は困りますよね(笑)。僕は前回のインタビューでも申し上げましたけど、キャラクターは演じる役者に寄せた方が魅力的になると思っているんですよ。その役者の中にないものを表現しても、取ってつけたような感じになるし。だから脚本を書く時、なるべく滝藤賢一に、あるいは尾野真千子に寄せて書いていました。そのために撮影前から滝藤くんと何回か会って話すということをやっていたんです。寄せて書いているんでね、すごく滝藤賢一っぽい希久夫になってますよね」

伊藤英明くんがこの役を演じてくれると知って、吠えましたよ(滝藤)

――今回はいろんな場所にロケ撮影に行かれていますが、行く先々での思い出やゲスト俳優さんとのエピソードがあれば教えてください。

滝藤「希久夫が最初に訪れる湘南藤沢の回で、伊藤英明さんが出てくれました。僕は彼が主演のドラマや映画に出させてもらうことがすごく多いんです。なので、またこうしてご一緒できることがとてもうれしかったし、英明くんがこの役をやってくれると知った時は吠えましたよ。僕は脚本を読んでいた時点で『これは英明くんだ』って勝手に想像して読んでいましたから。だからすごくうれしかったですね」

美奈子の元恋人を演じた伊藤英明

「僕は10年以上前に、伊藤英明さんの主演でNHKの連ドラを一度作ったことがあって、彼を知っているんですが、今回は、『一生懸命やらせていただきます』という感じで来てくれて。滝藤くんには自分の主演した作品にたくさん出てもらっているから、今回は誠心誠意やらせていただきますと。でも彼の場合、全然嫌味っぽくないの。2人で美奈子(尾野真千子)について話す長いシーンがあったけど、あれもヒデちゃんと滝藤くんだからああいう感じになったんでしょうね」

滝藤「あと宇崎竜童さんがものすごいセリフ量でしたね。4話はほぼ宇崎さんのセリフですからね。宇崎さんの存在感って唯一無二ですよね、めちゃくちゃカッコいいです!」

「現場ではギターとか弾いてたよね。あの方は元々ミュージシャンだし、根っからの役者ではない感じがすごく良いですよね」

滝藤「ああいう格好(作業着)をしていても、“衣裳に食われない”っていうか、様になる。惚れ惚れしました」

ホンダS800の元エンジニアを演じた宇崎竜童

――共演の皆さんとも一緒にご飯に行かれたんですか?

「宇崎さんは、撮影後にご自身のツアーのリハーサルがあったので、泊まらずに帰られることが多かったですね。それとちょうどコロナで厳しい時期だったので、そんなには行けませんでしたね」

冒頭のセリフを思いついた時は、書くのやめてビール飲んじゃった(源)

――以前、尾野真千子さんがインタビューで「現場では滝藤さんに動かされてお芝居をしていた」と仰っていましたが……。

滝藤「いや、僕の方こそ尾野さんの影響を受けまくっていました。尾野さんに突き動かされていたと思います。尾野さんとは映画『クライマーズ・ハイ』(‘08年)で初めて共演して、その後も何本かご一緒させてもらっています。僕は勝手にずっと一緒に戦ってきた戦友だと思っています。すごく信頼していますし、安心感もある。僕が何もせずとも彼女に委ねていれば、そしてきっちりリアクションを取っていけば成立するとも思っていました」

「尾野さんって、現場の空気や雰囲気をパッとキャッチするのが上手いんですよ。多分自分がイメージしたものと少し違う感覚を滝藤くんの芝居から感じ取って、それを受けて自分の芝居も変わったということだと思います。希久夫と美奈子の2人のシーンももちろん、それぞれ1人ずつのシーンも良いですよね。相手のことをすごく思っているというか。そこがちょっと高級な感じがするんです。やはり滝藤賢一と尾野真千子という組み合わせが良かったから、1人ずつのシーンでもすごく良い芝居になったんだと思います」

冒頭の希久夫と美奈子

――確かに、あれだけお互いを思い合える希久夫と美奈子はすごいと思いました。ラストに出てくる美奈子の「希久ちゃんの失くしたもの、全部見つけてあげる」っていうセリフも印象的でした。

「初回ではエンジン音にかき消されて聞こえなかったけど、最終回でちゃんと聞こえるという。あれは狙いです」

滝藤「あれ、原作にはないですよね。すごいセリフですね」

「いいでしょ。あれ思いついた時、ちょっと書くのを止めて、缶ビール飲んじゃったもん(笑)。やったー!  って」

滝藤「源さん、天才だと思った」

「最後に美奈子に何か一言言わせたかったんです。その前のシーンは、死んだ美奈子が現れて、希久夫のモノローグがあって、ちょっとウェットなシーンでした。それはそれでいいんだけど、もうちょっと抜け感が良くて、しかもちょっと心が動くようなセリフがないかなとずっと思ってたんです」

一番好きなシーンだから、こっそり見てずっと泣いていました(笑)

――そして最終回と言えば、やはり美奈子と草織(広末涼子)が対峙するシーンがあります。尾野さんは本番前から泣いてたそうですが……。

「いや、前日から泣いていましたよ。前日にホテルで台本を読んで泣いたらしくて、現場に入った時に目が腫れてたんです。『昨日セリフを見直してて、こんなになっちゃった。何とかしてください、メイクさん』みたいなね。だからもう途中でリハを止めました。二人とももうセリフは完璧に入ってたし。その日、滝藤くんは撮影がなくて、見学に来てたんだよね。やっぱりあのシーンを見たいと、陰からこっそり見ていて」


――滝藤さん、ご覧になっていていかがでした?

滝藤「いやもうだって、一番好きなシーンですから。ずっと泣いてましたもん。モニターの前で。2人と会わないようにと思ってたけど、裏でばったり会った気がするんだよな~(苦笑)」

しみじみと振り返る滝藤さん

「玄関じゃなくて勝手口から出入りしてたよね。バレないようにコソコソと」


――あれはすごいシーンでした。

「クランクイン前、衣装合わせの時に広末さんから言われたんです。『ドラマの中の役柄設定としては理解できますが、私自身は1ミリもこういうところがないので、これは理解できません。だから芝居をしていて何か違うなと思ったら仰ってください』って。あ、1ミリもないんだって(笑)」


――はっきり言われたんですね。

「いや、そういう人は多いですよ。でもそれだとあまりよくないなと思って、ちょっとト書きを直したり、いろんなことをしました。彼女に寄せるというかね。広末さんの中では違和感があって、自分の中にないものをやると嘘くさくなるのが怖いということだったと思います。でも実際にやってみると、やっぱり(相手役の)尾野さんがいますからね。『無理を承知でここに来てる』って、あんな顔で必死に言われると影響されるみたいで。『結局監督が台本に書かれた通りになりました』って広末さんは言ってました」


――その撮影があった日に、滝藤さんとお二人で飲みに行ったんですよね。

「尾野さんも広末さんも疲れてヘトヘトだったんですよ。ただ松山の最後の日だったから『美味いもん食いたいよね』って。そんな感じで、二人で行きました」


――そのときは、どんなお話しをされたんでしょう?

「あんまり撮影現場の話にはならなかったですね。滝藤くんの無名塾時代の昔話なんかを聞いたりして。そんな感じです」

これ以上の作品、役はなかなか無い(滝藤)最初に書いてから時間がたったけど、今、ベストなキャスティングで撮れたのが良かった

――改めて伺いたいのですが、お二人ご自身のキャリアの中で「グレースの履歴」はどういう位置づけの作品になると思いますか?

滝藤「代表作です! もうこれ以上の作品、役はなかなかないと思います。そんな作品に出会えたことが幸せです」

「また来ますよ」


――非常に思い入れが強いということですね。

滝藤「原作も脚本も何度読んでも素晴らしい。ここまで豊かな脚本だと我々は何もすることがないですよね。余計なことをせず、ただセリフを一つ一つきっちり相手に投げて、リアクションを丁寧に重ねていけば、もう何もせずとも成立する、見事な脚本だと思います。僕なんかが言うのもおこがましいですけど。こんな素晴らしい作品、役と出会うことって、なかなかないと思いますね」


――源さんも、この作品はやはり代表作になりますか?

「僕の信条として『代表作は何ですか?』と聞かれると『次回作です』っていつも言っていますが、『グレースの履歴』は自分の中では大きな作品だと思います。向田邦子賞もいただきましたし。最初から映像化するつもりで小説を書いて、それから随分時間が経ちましたが、今この時にベストなキャスティングで撮れたのは良かった。なかなかこういうこともないだろうなと思いながら撮影してましたね」

語り合う源さんと滝藤さん


――いろんなタイミングが重なって良い作品ができたということですね。

「そうですね。これがもし映画で成立してたら、ちょっと嫌だったなって今は思います。だって2時間くらいでまとめなきゃいけないでしょう。やっぱり49分×8本という連ドラでやれて良かったとすごく思いますね」

滝藤「あの、一つ聞きたいんですけど……僕は何本も源さんの作品を拝見していますが、向田邦子賞って、源さんでもなかなかいただけなかったくらい、すごく敷居の高い名誉ある賞じゃないですか。それが今回『グレースの履歴』で受賞できてどんなお気持ちなのか、それを聞きたいです」

「それは受賞した時、大石静さんら審査員の皆さんの前で言いましたよ。『私はもうずっとずっと待ってたんです。やっといただけるんですね』って。僕はこれまで脚本・監督でやってきましたが、割と”監督”として見られることが多かったんです。今まで監督や演出家としての賞はいただいたことがあるけど、脚本の方で誰か(自分に)気づいてくれないかなってずっと思っていました。しかも向田邦子さんはすごく尊敬する方なので、向田邦子賞は一番ほしかった憧れの賞でした。それをいただけて、めちゃくちゃうれしいですよ!」

滝藤「いや~こんな話、なかなか聞けないですよ。源さんから」


――ありがとうございました!

■プロフィール
源孝志(みなもと・たかし)
1961年6月5日生まれ。岡山県出身。’84年、ホリプロ入社。CM制作を経てテレビの世界へ。バラエティー、ドキュメンタリー、ドラマとシャン流を超えて制作。‘03に独立し株式会社オッティモを設立。これまで手掛けたドラマ作品は、「京都人の密かな楽しみ」(’15年)、「スローな武士にしてくれ~京都 撮影所ラプソディー~」(’19年/ここまでNHK BSプレミアム)、「ライジング若冲 天才 かく覚醒せり」(’21年/NHK総合)など。全てのテレビドラマ作品で演出も手がけるほか、映画「東京タワー Tokyo Tower」「大停電の夜に」(ともに’05年)などの監督も務めている。

滝藤賢一(たきとう・けんいち)
1976年11月2日生まれ。愛知県出身。1998年~2007年、仲代達矢主宰「無名塾」に所属し舞台を中心に活動。映画「クライマーズ・ハイ」(’08年)の新聞記者役で注目を浴び、その後多くのドラマや映画に出演。おもな出演ドラマは、「外事警察」(’09年/NHK総合)「半沢直樹」(’13年/TBS)、「俺のダンディズム」(’14年/テレビ東京)、「探偵が早すぎる」シリーズ(’18年、’19年、’22年/読売テレビ)など。現在、連続テレビ小説「虎に翼」に出演中のほか、2024年10月11日公開の映画「若き見知らぬ者たち」に出演。

グレースの履歴

「グレースの履歴」情報

NHK BSプレミアム
2023年3月19日~5月7日放送
NHKオンデマンドで全話配信中

原作・脚本:源孝志
演出:源孝志、西山太郎
出演:滝藤賢一、尾野真千子、伊藤英明、柄本佑、林遣都、山崎紘菜、黒谷友香、宇崎竜童、広末涼子 ほか



撮影/蓮尾美智子 取材・文/水野幸則