髙橋海人主演ドラマ「95(キュウゴー)」の世界観をテレビ東京・倉地雄大プロデューサーに取材した後編。今回も、劇中に登場する事象やこだわりなど、キーワードで制作エピソードを語ってもらいました。
髙橋海人主演・1995年の渋谷が舞台の青春群像劇
テレビ東京開局60周年連続ドラマ ドラマプレミア23「95(キュウゴー)」は、1995年の東京・渋谷が舞台。「地下鉄サリン事件」をきっかけに、髙橋海人演じる主人公・広重秋久(通称Q)が仲間たちと出会い、時には道を踏み外しながらも「カッコいい大人になるため」に「死ぬ気で今を生きる」青春群像劇です。
放送が始まると、単なる青春ドラマとは一線を画す世界観や、演者たちの熱のこもった芝居が話題となり、Xでは「#キュウゴー」がトレンド入りするなどハマる人続出の本作。「TVガイドみんなドラマ」では、前回に引き続き、劇中に登場する事象をピックアップし、テレビ東京・倉地雄大プロデューサーに制作エピソードを聞きました。
モテるための参考書!?「少女マンガ」
マルコ(細田佳央太)が秋久に「これを読んで勉強しろ」と渡してくるのが、少女マンガ。実はマルコもレオ(犬飼貴丈)から「モテたければ男が見たい男より、女が見たい男を学んだ方がよっぽど効果がある」と、少女マンガを読むように言われていた(2話)。チームのたまり場である‟小屋“の本棚には、「花より男子」(1992~2004※)や「天使なんかじゃない」(1991~1994)「イタズラなKiss」(1990~1999)などが並んでいて、秋久の自宅にも姉・淳子(桜井日奈子)のものと思われる「ママレード・ボーイ」(1992~1995)がダイニングテーブルに置いてあった。
倉地P「原作にも『BOYS BE…』(1991~1996)や『花より男子』は登場していて、城定(秀夫)監督も登場させるなら紙面も映したいということで、許可をもらいました。小屋の本棚には、当時の高校生が読んでいたであろう人気作品を集めました。マンガとはまた別ですが、5話でセイラ(松本穂香)と花火を見に行くときに秋久が読み込んでいた花火特集の『Tokyo Walker』も、和久井映見さんが表紙の当時の物をそのまま使っています」
(※)カッコ内は連載期間
高校生を中心に自撮りが大流行「レンズ付きフィルム」
フィルムを内蔵した状態で製造された簡易カメラ。現像の際にはカメラごと回収されるため「使い捨てカメラ」や「使い切りカメラ」「インスタントカメラ」とも呼ばれた。1980年代に登場し、1990年代には高校生を中心とした世代にレンズ付きフィルムでの自撮りが流行。広角レンズやパノラマ写真、セピア調のもの、防水タイプなどさまざまなバリエーションが登場した。劇中では、恵理子(工藤遥)がいつも持ち歩いている。
1995年は、デジタルカメラの先駆けである「QV-10」が発売されたが、一般の学生はフィルムカメラでの撮影が中心。「95(キュウゴー)」のメインビジュアルは、フィルム写真の特徴でもある「ブレ」「にじみ」「ハイコン」を表現するため、出演者6人の写真はすべ てフィルムカメラで撮影された。
倉地P「レンズ付きフィルムは元々、SNS用のオフショット撮影のために各キャストに配布していました。工藤さんが共演者を撮っていたのを見て、城定監督が『それ使ってもいいですか?』となって、劇中でも使うようになりました。SNSに既に一部出しているのですが、『#〇〇カメラ』として投稿しています。今後、オフショットだけじゃなく、撮影中の写真も使うかもしれないので是非チェックしてください。ちなみに出演者の方にはフィルムカメラを持っている方も何人かいて、ブームは回るんだなぁと感じています」
ドヨンが読むシュテファン・ツヴァイク「昨日の世界」
オーストリアのユダヤ系作家、ツヴァイクがナチスの迫害から逃れてアメリカに亡命した際に、記憶を頼りに記した幼少期からの回想録。ドヨン(関口メンディー)いわく「1つの時代と社会が崩壊していく話」で、秋久に感想を聞かれると「面白くはない。でも何度も読み直す価値はある」と答えた(7話)。のちに、秋久も手に取ることになる(8話)。
倉地P「メンディーさんが役作りで実際に読んでくれたんですけど『まったくわからない』と言っていました(笑)。ドヨンってボクシングをやりながらも、読書家だったり、一人で将棋を指していたりと、ふり幅があって面白い役なんです。ドヨンと秋久、ドヨンと翔のように、1対1で話すときに、彼の前ではちゃんと本音を打ち明ける。そんな風に仲間たちを支える役を、最年長のメンディーさんが唯一無二の存在感と個性で演じてくれました」
迫力満点の「アクションシーン」
街を疾走、援助交際オヤジを倒す、秋久を傷つけた宝来(鈴木仁)への報復、チーマーとの抗争など、躍動感あふれるアクションシーンが随所に登場。髙橋はクランクイン前からアクションの練習を重ねて撮影に挑んだ。
倉地P「それぞれの戦い方にも個性があって、秋久は中国拳法をやっているという設定なので、動きに特徴のある中国拳法の基礎をある程度まで入れたうえでアクションシーンを演じています。回し蹴りとか、一個一個の動きに反映されるようにアクションを組んでいただいています。翔(中川大志)は決まった型というよりは『翔っぽさ』が出るような。説明が難しいんですが、アクション指導の方が、『翔っぽさ』のある動きを付けてくれています。ドヨンはボクシング。マルコはちょっと軽やかで、一回転してから攻撃するというようなことにもチャレンジしていただいています。レオはケンカになるとテンションが上がるっていう、キレ味抜群の、一番怖いタイプ(笑)。大変だって言いながらも楽しんで演じてくれました」
主題歌「moooove!!」に乗せたオープニングとエンディング
ドラマを盛り上げる主題歌「moooove!!」は、第1話のオープニング放送と共に音源解禁された、King & Princeの15枚目のシングル。世の中のルールや 雑音に捉われず、自分の美学を貫き通して力強く前進していくエネルギーに溢れた HIP HOP ダンス曲で、King & Princeとして「ドラマ『95』の主題歌なので、90 年代にリスペクトを込めながらも現代感を取り入れた、新しい曲のカタチを目指しました。社会の言いなりにならずに生きる若者の衝動的な気持ちを描いていくドラマにもぴったりで、より物語を疾走させる曲になったと思います」とコメントを寄せている。永瀬廉主演のドラマ『東京タワー』(テレビ朝日系 毎週土曜 後11時)の主題歌「halfmoon」とのダブルAサイドで、2024年5月23日(木)にリリースされる。
倉地P「オープニングは林隆行さんという、ドラマ本編の城定監督とは別の撮影チームを立てて制作しています。ドラマの世界観を1分という限られた尺で効果的に、そしてカッコよく伝えられるように林さんに考えていただきました。スタジオに30台ほどのアナログテレビを配置してもらい、照明を決めてカッコよく秋久を撮影したり、劇中映像や資料映像に面白いエフェクトや加工を足していただいたりして、撮影しています。また、エンディングは、メイキング映像を使っています。内容的に重たい人間ドラマが多い反面、撮影現場での役者同士の仲良さや、チームワークを見ていたので、楽しそうなところも見てもらいたいなと思い、今のエンディング映像の形になりました」
劇中を彩る当時のヒット曲が1995年を表現
街を走るシーンでの「WOW WAR TONIGHT~時には起こせよムーヴメント~」(H Jungle with t)、「世界が終るまでは…」(WANDS)をカラオケで熱唱するシーンから当時の渋谷の街並みに切り替わったり、秋久とセイラの花火デートに「ポケベルが鳴らなくて」(国武万里)が添えられたりと、物語に挿入される当時のヒット曲も、「95(キュウゴー)」の世界観を表すのに一役買っている。また、1話の冒頭でセイラが口ずさみ、後半にも登場する小沢健二の「愛し愛されて生きるのさ」は、「歌詞を含め、セイラの思いや物語全体を象徴してくれるような親和性がある曲」と倉地プロデューサー。「現在の秋久を演じる安田顕さんの、8話で萌香という存在を受け止めるシーンのお芝居がすごく素敵なので注目してほしい」と語りました。
■profile
倉地雄大(くらち・ゆうた)
2014年テレビ東京入社。助監督やAPを経て「銀と金」(2017年)にてプロデューサーデビュー。主なプロデュース作品は、「夫を社会的に抹殺する5つの方法」(2023年、2024年)や「婚活探偵」(2022年)、「死役所」(2019年)、「電影少女」(2018年、2019年)など。
テレビ東京開局60周年連続ドラマ ドラマプレミア23「95(キュウゴー)」放送情報
テレ東系
毎週月曜 後11:06~
TVerでリアルタイム配信
各話放送終了後から、U-NEXT、Leminoにて第一話から最新話まで見放題配信
広告付き無料配信サービス「ネットもテレ東」(テレ東 HP、TVer)にて見逃し配信
取材・文/陰山ひとみ