「95(キュウゴー)」倉地Pに聞いた「’95年」を読み解くキーワード①

2024/04/30 17:05

今、「95(キュウゴー)」がアツい。その理由を探るため、テレビ東京・倉地雄大プロデューサーを取材。劇中に登場する1995年のキーワードをピックアップし、思い入れや制作エピソードを語ってもらいました。

1995年の渋谷を舞台に描く高校生たちの青春群像劇

テレビ東京開局60周年連続ドラマ ドラマプレミア23「95(キュウゴー)」は、1995年の東京・渋谷を舞台に、葛藤や悩みを抱える高校生たちが「かっこいい大人になるため」にがむしゃらに生き抜く様を描く青春群像劇。主人公・広重秋久(通称Q)を演じる髙橋海人を筆頭とした俳優陣の芝居はもちろん、背景となる1995年の世界観も注目を集めている。

劇中に登場する「1995年」をピックアップして解説

そこで「TVガイドみんなドラマ」では、劇中に登場する1995年を象徴する出来事、流行、カルチャーをピックアップし、テレビ東京・倉地雄大プロデューサーに制作エピソードを聞きました。

今だからこそきちんと伝えたい「地下鉄サリン事件」

1995年3月20日、午前8時ごろの通勤ラッシュ時に東京都内の地下鉄丸ノ内線、日比谷線、千代田線の地下鉄車内で神経ガス・サリンが散布された同時多発テロ事件。14人が死亡、6000人以上が重軽傷を負った。劇中では第1話、秋久の高校1年の終業式の日に発生する。

倉地P「この事件は秋久の人生が変わるきっかけになる事件なので、きちんと伝えたい、ちゃんと扱いたいという思いがありました。被害者の方もいて、現在進行形の事件をどう表現するのか。いろんなところと相談をして、最終的に皆さんのご理解とご協力をいただいて、実際のニュース映像を使わせてもらうことになりました。今、撮影している作品に、いきなり当時の映像が入るのはどうなんだろうという議論や、ドラマなのですべて再現して撮ればいいのではないかという考えもありました。けれど、出来上がったものを見て、事件から29年経った今のタイミングで、こうして改めて当時の映像を流すということに少しは意義があったかな、やっぱり新しく作らなくてよかったなと思えました」

みんな99年の7月に何かが起こると思っていた「ノストラダムスの大予言」

フランスの医師で占星術師のノストラダムスの「予言集」を、伝記や逸話を交えて解釈した五島勉の著書。その中で、1999年の7の月に人類が滅亡するという解釈が掲載されていた。第1話で秋久が読んでおり、翔(中川大志)が秋久に興味を持つきっかけの一つになっている。

倉地P「当時、僕は小学生でしたが、みんな、なんとなく99年の7月に世界が終わるって信じていたんですよね。当時はバブルがはじけた後でしたし、世の中全体がそういう空気感というか。もがいている秋久たちの世界観を表現してくれているものだなと思います。髙橋さんや中川(大志)さんは、周りのスタッフや大人たちが実際に『信じていた』と聞いて、衝撃を受けていました(笑)」

放課後に仲間と遊びに行くといったらここ「カラオケ」

元々は歌が入っていない音源を表す放送用語で「空のオーケストラ」の略。娯楽用として1970年代に飲食業店舗やホテルなどに設置され、1980年代にはカラオケボックスが普及した。1992年には通信カラオケが登場し、1990年代後半にかけて幅広い世代が利用する娯楽として一大ブームとなった。2話で秋久がアルバイトを始め、現在もカラオケ会社に勤めているという設定になっている。

倉地P「原作で秋久がアルバイトをするのはゲームセンターですが、当時はカラオケがすごく流行っていて、何かというと放課後はカラオケに集まっていたと聞いて、95年の世相風俗を表すのも含め、原作の早見先生に相談して、カラオケ店をアルバイト先に変更させていただきました。当時流行っていた曲を歌うシーンもたくさん出てきます」

携帯電話を持っていなかった若者たちの連絡ツール「ポケットベル(ポケベル)」

1990年代に若者を中心に一世を風靡した無線呼び出しサービス。当初は数字のみの表示で、語呂合わせで「0840(おはよう)」「4649(よろしく)」などメッセージをやり取りしたが、後にカナ表示対応の機種も登場。ポケベルには受信機能しかなく、送信は固定電話や公衆電話から行った。
秋久が持つことになるのはカナ表示タイプで、初めて打ったメッセージは「33211345319441(スカウトサレタ)」。

倉地P「メッセージを送信するときに、どんなふうに受話器を持っていたのか、置いていたのか。今の子からしたら、『打つだけなのに受話器を耳に当てるんですか?』とか、そういうところから疑問なんですね。そこで、実際にポケベルを使っていた40歳以上のスタッフが、『確かこうだった』とか、『こうした方が自然だ』とか。‟ポケベル監修″になって。制作スタッフの知恵と経験が活かされています(笑)。演者の皆さんがセリフだけじゃなく、そういう細かい所作をこだわって演じてくださっているので、多くの方に95年っぽいって言ってもらえるのかなって思います」

掲載されることが渋谷に集まる高校生のステータス「東京ストリートフリッパーズ」

90年代後半、一般の高校生が誌面に登場するファッション雑誌が人気を博した。劇中に登場する「ストフリ」はドラマオリジナルの架空雑誌。秋久は編集者・殿内弥生(新川優愛)にスカウトされ、新しい一歩を踏み出すことになる。

倉地P「今で言うと、インフルエンサーみたいないわゆる一般人の有名人を輩出している雑誌で、ファッションのブームを生み出したり、そこから芸能人になる人もいたそうです。2話で登場した『ストフリ』には、鈴木仁さん演じる宝来隼人の表紙に『次世代のキムタクは誰だ!!』という見出しにしていますが、95年を描くには、当時の木村拓哉さんという存在、立ち位置が不可欠なので、お名前をお借りする許可をいただいて登場させました」

現在の秋久が登場することで「95年がより青春に」

1995年当時の映像は、地下鉄サリン事件だけでなく随所で差し込まれ、そのザラッとした質感が作品の世界観に厚みを持たせている。「実際の映像を入れることは、良い挑戦だったなと思っています。ドラマに唐突に当時の映像が差し込まれるのが想像つかなかったのですが、(城定秀夫)監督から、『それがこの作品の特徴になると思いますよ』と力強いお言葉をいただいて。まさにその通りで」と倉地プロデューサー。さらに、現在の秋久を安田顕が演じ、ストーリーテラーを担うことで「95年がより一層、『青春』って感じになりました」と語りました。

当時を知る大人世代のみならず、知らない世代も引き込む「95(キュウゴー)」の世界。倉地プロデューサーに聞いた制作エピソードは後編に続きます。

■profile
倉地雄大(くらち・ゆうた)
2014年テレビ東京入社。助監督やAPを経て「銀と金」(2017年)にてプロデューサーデビュー。主なプロデュース作品は、「夫を社会的に抹殺する5つの方法」(2023年、2024年)や「婚活探偵」(2022年)、「死役所」(2019年)、「電影少女」(2018年、2019年)など。

テレビ東京開局60周年連続ドラマ ドラマプレミア23「95(キュウゴー)」放送情報

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取材・文/陰山ひとみ