源平合戦と鎌倉幕府誕生を背景に、権力の座をめぐる男女の駆け引きを描いた大河ドラマ「鎌倉殿の13人」。主人公、二代執権・北条義時を演じる小栗旬さんを直撃!
三谷幸喜作品ならではの奥深さ、大河ドラマの醍醐味について伺いました。
頼朝挙兵までは、ユーモアを交えた“北条家のホームドラマ”のよう
――まず今回は、三谷幸喜さんが脚本を務められているということで、初めて台本を読まれたときの印象を教えてください。
「ものすごく面白い着眼点と切り口で、鎌倉時代を描かれていくのだなと感じられる脚本でした。例えば、序盤の源頼朝が挙兵するまでの部分は、三谷さんならではのユーモアを交えた“北条家のホームドラマ”みたいになっていますね。それから、三谷さんならではといえば、セリフ。僕ら俳優は、大河ドラマをはじめとした時代劇に参加するときは、『絶対に“ちょっと”と言ってはいけない』と、肝に銘じて撮影現場に入るんです。ですが、三谷さんの脚本には、『ちょっと』という言葉がセリフに結構入っています。源頼朝を演じている大泉洋さんのセリフに、『ちょ、ちょ、ちょっといいかな』という部分があって、『まさかこんなセリフを大河で言うとは思わなかった』と大泉さんが仰っていました(笑)。でも、言ってはいけない言葉の封印が解かれたようで、こういう自由なところをうまく生かしながら、作品を面白くしていければ良いのでは、と今は思っています」
――大泉さんのお話が出ましたが、共演者の方々とのエピソードでこれまでに印象深かった出来事はありましたか?
「コロナ禍ということもあり、なかなか撮影現場以外でお会いすることが難しいんですよね。例えば、その日の撮影終わりに、ちょっと食事をするといったコミュニケーションを取ることができない状況なんです。ただ、そういう中でも、北条家の面々、小池栄子さん、宮澤エマさん、片岡愛之助さん、そして坂東彌十郎さんとは、どんどん家族としての結束が強くなっていっている感触があります。撮影が始まって日の浅い時に6月の父の日を迎えたのですが、北条家のみんなで彌十郎さんに何かプレゼントをしようという話になりまして。ワインをプレゼントしたのですが、ものすごく彌十郎さんが喜んでくれたんです。そのことがとても印象に残っています」
――先ほども話に出た大泉洋さんとの共演で、刺激を受けていることや印象に残っていることは?
「助けられているところがあります。先ほどの『ちょっと』のセリフのことにもつながるのですが、こういう言い方や演技で果たして面白くなるのか、自分では計りかねるシーンがありまして、そういうシーンは大抵、大泉さんに、『これで面白くなっていますか?』と、確認させてもらっています(笑)。大泉さんに『いやー、面白かったよ』と言われたら、『良かった。これで正しいんだ』と自信を得ています。ここまでの大泉さんとの共演シーンで印象深かったのは、第2回で一緒に温泉に入るシーンですかね。頼朝と義時の関係性を語る上でも、重要な場面になっています」
初めて出会うタイプの演出担当との信頼関係
――演出の吉田照幸さんに対してはどのような印象ですか?
「もう最高ですね。今まで出会ってきた演出の方とはまた違うというか…。それこそ『NHKのど自慢』やコント番組などを手掛けられていて、いわゆるドラマ一筋の方とは歩んでこられた道が少し違う。さまざまな番組でいろいろな経験をしてきて、そして、ここで初めて大河ドラマを手掛けられる。いろいろなことを経ての今回の大河ドラマですから、吉田さんの中に葛藤や苦悩、迷いがあっても不思議ではないですし、むしろあって当然だと思うんです。ただ、そういう不安を内心で抱いていても、ほとんどの方は表には出さない。でも、吉田さんは、『今、こういうことで悩んでいるんですけど、小栗さんどう思います?』という感じで、僕に相談してくれるんです。こんな感じで相談してくる演出の方に僕は出会ったことがないかもしれないですね。自分の気持ちを素直にこちらにぶつけてきてくれるのは、すごく信頼できる。話し合ったり、悩みを共有したりしながら見いだすものが、とても腑に落ちて良いものになるんですよね。だから、役者としてはすごくやりがいを感じるとともに、こちらの気持ちをワクワクさせてくれる方だなと感じています」
――小栗さんのお話を聞くと、三谷さんの脚本と吉田さんの演出、そこにこの豪華キャストの演技が加わった時、どのような化学反応が起きるのか、今から期待が高まります。
「三谷さんの脚本と吉田さんの演出は、それぞれの個性がぶつかり合って、良い形で良い方向に進んでいるんじゃないかな、という感触が撮影現場にはあります」
先を見据えず、その場で生まれた感情と空気を大切に
――大河ドラマは長丁場になりますが、吉田さんと作品全体について共有したことなどはありますか? 例えば、序盤はこんな感じ、後半はこうしていこう、といったような。
「その点に関して言うと、撮影がスタートする時点で吉田さんをはじめとする演出陣と僕もひっくるめて、『先を見越してやっていくことはやめましょう』ということで意見がまとまったんですよね。歴史上では、義時はこの時はこうで…となるわけですが、そのとき生きていた本人は、この先、自分の身に何が起こるかなんて分からないわけで。その都度、その場その場で取捨選択を繰り返して生きている。だから、撮影も演技もそれと同じで良いのではないか、と。変に計算しなくて良い、その場で生まれた感情や空気を大切にした方が良いんじゃないか、という話ですね。吉田さんが最初に仰っていたのは、『ジャズのセッションみたいに、その場で演じて突発的に生まれたものを大事に、今回は作ってみないか?』ということでした。だから、撮影が始まってしばらくたちますが、『次はこういうことになるから、それを踏まえてこうしよう』というふうには考えない。このシーンはこう、とプランを立てたり、ここの感情はこういう気持ち、などと突き詰めて考えたりするよりも、その場に立って、自分の中から湧き出てきたものを信じて演じています。義時はとにかく、いろいろなことに巻き込まれていくのですが、ほぼなすがままの状態といいますか…(笑)。本当にさまざまな出来事と、いろいろな人に振り回されっぱなし。その中で、振り回されることに対して何かを意識して臨むのではなく、起きたこと一つ一つに対して、しっかりとリアクションを取ることを心掛けています」
――ご自身の中での、「鎌倉殿の13人」という作品の楽しみや、期待はどういう部分にありますか?
「今の心境は、オンエアを迎えるのが非常に楽しみです。最初にも言いましたが、まず三谷さんの脚本がものすごくユニークな視点で描かれている。鎌倉時代のことをよくご存じの方もそうですが、あまりこの時代のことを知らない方々に加え、特に若い世代の方の目にどう映るのか。そして、この大河ドラマをどう受けとめてもらえるのかが気になります。“鎌倉時代”と聞いて、『鎌倉幕府ができて、源頼朝と北条政子の名前ぐらいしか知らないのでちょっと…』と敬遠するのではなくて、例えば、『義時の息子の北条泰時は、御成敗式目を制定した人なのか!』というように興味を持って、どこか接点を見つけてもらえたらうれしいです。歴史の知識がないと面白くないんじゃないか、なんて思わないで、ある意味フラットにひとつのドラマとして見たら、楽しんでいただけるんじゃないかと思っています。史実をひもといていくと、この鎌倉時代の戦いは、一筋縄ではいかないんですよね。陰謀が渦巻く世界の物語なので、『この先、どうなるんだ?』と、先の読めないドラマが展開していく様子を期待してください」
■Profile
小栗旬(おぐり・しゅん)
1982年12月26日、東京都出身。ドラマや映画、舞台など幅広く活躍。近年の主演作に、ドラマ「CRISIS 公安機動捜査隊特捜班」(’17年・フジテレビ系)、「日本沈没-希望のひと-」(’21年・TBS系)、映画「人間失格 太宰治と3人の女たち」(’19年)、「罪の声」(’20年)、舞台「髑髏城の七人season花」(’17年)。大河ドラマの出演は、「天地人」(’09年)、「八重の桜」(’13年)、「西郷どん」(’18年)に続く8作品目の出演となる。
大河ドラマ「鎌倉殿の13人」放送情報
NHK総合ほか
1/9(日)スタート 毎週日曜 後8:00~
※NHKプラスでも配信あり
文/水上賢治 ヘアメイク/渋谷謙太郎(SUNVALLEY)
スタイリスト/臼井崇(THYMON Inc.) 衣装協力/ジョルジオ・アルマーニ・ジャパン株式会社