妖しくも美しい世界観で見る者を虜にする「霊媒探偵・城塚翡翠」シリーズ。あの深紅に暮れる霊媒部屋の秘密を探ると、そこで我々が見たのは作品を支える匠の姿でした。
犯人が「視える」霊媒師・城塚翡翠(清原果耶)が、警察に協力し事件を解決に導いてきた推理作家・香月史郎(瀬戸康史)らとともに、次々に起こる難事件に「霊媒」の力を使って挑むこのドラマ。
11月13日(日)の放送で「霊媒探偵・城塚翡翠」が「最終話」を迎え、20日(日)からは「invert 城塚翡翠 倒叙集」がスタートするなど、衝撃の展開で視聴者を楽しませてくれています。なかでも、まず初回(10月16日放送)の香月が翡翠に初めて会いにいった場面で、赤く彩られた妖しくも美しい霊媒部屋に圧倒された方も多いはず!
同じく度肝を抜かれたみんなドラマ編集部は、この部屋の美しさの秘密を探るべく調査を開始。すると、多くのドラマに美術協力を行う株式会社カーテンココの窓装飾プランナーで、あの深紅のカーテンをコーディネートした、菅真実子さんに出会うことができました。
物語もいよいよ新シリーズ開幕を迎える今、霊媒部屋の深紅のカーテンの秘密、そして美術協力を行う思い、コーディネーターとしての矜持など、じっくりお話を伺いました!
カーテンが彩るドラマの名場面。圧倒的な美の世界を演出
――ドラマ第1回の冒頭で、推理作家・香月史郎役の瀬戸康史さんが、清原果耶さん演じる霊媒探偵・城塚翡翠のアトリエを訪問するシーンがありましたが、リビングの窓にかけられていた白とブルーのカーテンと、霊媒の部屋の赤いカーテンを提供されたと伺っています。とりわけ赤いカーテンはその場面の妖しさを際立たせ、透け感のあるカーテンの向こうに翡翠がいる、という映像は圧倒的な美しさでした。
「こちらが(実際のカーテン生地を提示していただきながら:下の写真を参照)霊媒の部屋の赤いカーテンです。ドラマでは照明の効果でよりドラマチックになっていましたが、実際はもう少し落ち着いたオレンジ系のレッドなんです。リビングのほうは、カーテン本体の上にギャザーの『うわ飾り』を付け、裾にはフリンジを付けて、オーソドックスなクラシックスタイルでお作りさせていただきました。白のレースは、照明が当たると全体に白っぽくなってしまうのですが、妥協せず、トルコ刺繍が入っているエンブロイダリー(刺繍)を入れています」
――トルコ刺繍はキレイですね。
「生地の全体に刺繡があったり、裾がスカラップ状(半円が並ぶデザイン)に刺繡になっているものはトルコの製品が多くて、産地として有名なんです。レースのカーテンは日よけのためにかけるイメージが多いと思いますが、部屋の中でもカーテンは存在感があるので、そこにちょっといいものをかける、気に入ったものを眺めていられるのは、生活の豊かさに通じるんじゃないかなと」
――今回、ドラマで使われたカーテンにはどのようなオファーがあったのですか?
「赤のほうはかなりガチっと決まっていて、『こういうセットで、カーテンはこういう感じに映ります』というお話がありました。ヨーロッパのどこかの洋服屋さんのようなイメージ写真を頂いたので、それに近い感じで素材を吟味して、頑張って探しました。色や透け感も、『これが良い』というようなピンポイントのオファーではあったのですが、デザイナーさんがおっしゃっていた雰囲気を、忠実に再現できたのではと思います。私も第1話を拝見して、ドラマチックな感じに仕上げていただいたことが嬉しくて、『あのカーテンがこんなに美しくなったんだ!』と、とても感動しました」
コーディネーターとして最善を尽くし要望に応える
――もともと美術協力をするようになったきっかけはどのようなものだったのでしょう?
「映像作品の制作スタッフの方から、ときどき相談が来ることがあったんです。『実は撮影で使うんですが、生地屋さんに行っても良いものがなくて、生地を買うことはできますか?』というお話があったので、ご要望をお聞きしますよ、とお返事したのが始まりですね。それでホームページに小さく『美術協力をやりました』というようなブログを上げていたら、それを見た方から電話を頂いて、2~3本立て続けに映画の撮影用に提供しました。その効果もあって、ドラマにも話が広がってきたという経緯ですね。『困ったらカーテンココに行けば何とかなる』というイメージをだんだんに持っていただいているように思います。そういう見られ方は嫌いじゃないので、ドラマ作りに役立ててもらえれば、という気持ちでやっております」
――相談されたら何とかする、という心強い存在ですね。
「私たちはカーテン自体をデザインするデザイナーではなくて、依頼された色や素材の生地を探し、制作を発注するコーディネーターなんです。皆さんの諸条件を上手くまとまった形にしたのがこれです! どうぞ! というのが私たちの仕事ですね」
――いろんな条件の中でベストを尽くす、と。
「そうですね。結局、私たちがドラマへの美術協力をしているのも、お店に来てくださるお客様が安心してくださるからなんです。『今度またドラマやるんですね、そういう打ち合わせもできるスタッフさんがいるお店なら安心かな』と思ってくださる。その『安心』のためにやっている部分は大きいですね。ドラマで使われたカーテンが短期間ですごく売れるようなことはほとんどありませんが、そういう瞬間的なことではなく、継続的に長く安心して任せられるお店なんだな、と思っていただければありがたいです」
『元彼の遺言状』『グランメゾン東京』…ドラマの現場は人生の勉強
――これまで関わってきた作品で、大変だったオファーはありましたか?
「いつも大変ですね(笑)。生地とデザインが決まっても私たちは縫うことはできないので、工場に、どれだけ工期を短縮してもらえるかを交渉するんですが、『3日後に欲しい』というようなオーダーも多くて(笑)。ドラマの制作事情に合わせて、とにかく間に合わせるのが第一条件なので、既製品を取り寄せて丈をつめたり、幅を継いだりして間に合わせたこともありましたし、カーテンを納めた後でセットの寸法が変わってしまって合わなくなったりなど、試行錯誤しながら成長させてもらっている感じですね。『元彼の遺言状』(フジテレビ、2022年4~6月放送)のときは、生田斗真さん演じる登場人物が住んでいた洋館のアーチ型の窓にかけるカーテンのご要望があったのですが、アーチ型に作るには加工に時間がかかるので、納期に間に合わせるためにデザイナーさんと折衷案を考えたりして、やれば何とかなるものだな~と(笑)。カーテンココとしては、映像作品を頑張って作っている皆さまに『良かった』と言っていただけるのが一番良いことなので。時間があろうがなかろうが、できることを精いっぱい、やるだけなんです」
――それが報われるのはどのような時ですか?
「いつも時間がないので、出来上がったカーテンは工場から直接納めるんですが、コロナ禍になる前は『ぜひスタジオに写真を撮りに来てください』と言っていただけることもあって。『グランメゾン東京』(TBS、2019年放送)のときは実際にカーテンをかけたセットを見せていただいて、本当に素敵だと思いました。と同時に現場で動いている、おそらく100人以上いるスタッフの方の仕事ぶりを拝見して、皆さん大変なんだな、と良い人生勉強になりました」
お客様の望みに寄り添うオーダーカーテンで生活に潤いを
――カーテンココさんでは、一般のお客様のオーダーにも、ドラマと同じように応えられているんですね。
「そうですね。お客様の好みを引き出して、喜んでいただくのが一番良いことなので、すべて『オーダーメイド』でご提供しています。ご予算もあるので、100%思い通りにはいかない場合もありますが、できるだけそこを目指したいし、お客様の想像を超える、『ああ、これが欲しかったんだ』と言っていただけるものを納めるのが目標です」
――そのためには、お客様の要望に寄り添えるオーダーメイドが一番良い、と。
「お客様のお困り事を解消できた上で、素敵だったら尚良し、という感じですね。例えば、猫ちゃんやワンちゃんを飼っていて、縦型ブラインドのヒモをかじられてしまうのが困る、というお客様が、それでも縦型のスタイルが好きだという場合はどうするか。じゃあシェードタイプにしましょう、ですとか、何とか工夫をして要望に応えるよう努めます。オーダーは値段が張るというイメージがあると思いますし、オーダーでも安いのに越したことはないというのは、私も庶民だからよく分かるんです。でもカーテンって、一度かけたらそう何度もかけ替えるものではないので、高くない生地でも、ちょっとだけでも心を配れるかどうかが、大事なポイントなんじゃないかなと思いますね。コロナ禍でお家に居る時間が長くなって、インテリアを気にされる方も増えてきているので、ご相談いただければ採寸にも伺います」
――そこから関わっていただけるのですね。
「実際ショールームにお越しいただくお客様は全体の半分くらいで、むしろ、カタログを担いで、お引っ越し先に採寸に伺うことの方が多いですね。ご自身で採寸されると、出来上がったカーテンが短かったり長かったりと、難しいんです。戸建ての場合は、まだ職人さんが作業しているところに行って、採寸して、打ち合わせをします。最初にお電話を頂いたときに、ある程度の費用感は出させていただきますが、カーテンってすごく価格帯の幅広い商品なんです。オーダーしないと作れないサイズでも、大型店と同じような価格帯の商品も扱っていますし、反対に高い生地では、ひと窓100万円くらいのものもあるので、お客様の思いを察して提案する形ですね」
――例えば、どんな展開がありますか?
「そうですね、例えばお客様の好みの色があって、でもお部屋全体のイメージには合わないと感じられた場合には、同じ系統でも少しずらした色やトーンをお薦めするとか、カーテンはお部屋に合う色にして、タッセル(カーテンを絞るための布や紐の房)に好きな色を入れるとか。カーテンを暖色にするなら、ベッドスプレッド(掛け布団の上に被せるカバー)でバランスがとれるように提案してみたり。部屋全体で調和がとれるようにご提案します」
――まさにコーディネーター!
「一例ですが、最近は、賃貸でも分譲でも、マンションの窓には99.9%フサカケ(タッセルを引っ掛けるためのフック)が付いていないので、タッセルを使いたいとか、カーテンを止めておきたい方のために、同じ生地のバンドを付けておくようにしています。1か所何百円と費用はかかりますが、カーテンの端に、これも同じ生地でくるみボタンをつけておいて、そこにひっかける方法もあるんです。ボタンが外れるのが嫌だという場合は、縫いつけてしまうか、マジックテープでくっつける方式にするか」
――バンドの止め方一つとっても、そんなにパターンがあるとは…
「今はマグネットが付いているタッセルもあるので、ドレープを寄せる感じで止めることもできます。あとは、輸入生地ですと大きなお花柄が素敵なものもありますが、一般的に欧米より窓の小さいことが多い日本のカーテンに対しては、柄が大きすぎますとか、そういうプロの意見もお伝えします。とはいえ決めるのはあくまでお客様なので、『相談して良かった』と言っていただけた時は最高にうれしいですよね。後からお葉書を送ってくださる方もたくさんいらして、本当にうれしいです」
入れ替えるだけで雰囲気が一変! プロが教える魔法のアイデア
――記事を読んでいる皆さんのお家でもできる、窓辺を素敵にするアイデアはありますか?
「今すぐカーテンを買うわけではないけれど、そのうちオーダーで買いたいと思っているような方には、今あるカーテンを生かす方法をご提案することもあります。カーテンって一般的には、レースのカーテンを厚地のカーテンより窓側にかけますが、コストを意識して厚地のほうを選んでみたら、あまり素敵じゃなかった、どうしよう、、という場合には、レースと厚地を入れ替えてみることをお薦めしたり」
――そんな技があるとは、想像したこともありませんでした!
「レースが内側って想像できないという方もいらっしゃいますが、やってみると軽ろやかに感じられたり、単純な白いレースでも、後ろの厚地の色によって表情が変わったりするんです(下の写真を参照:左から、赤の厚地、紺の厚地、レースのみ、と変化!)。厚地を季節によって変えれば季節感も出ますし、カーテンは変えなくても、温かい季節にレースを内側にかけ替えるだけでも、表情の変化を楽しめますので、費用をかけずに雰囲気を変えたい場合にご提案します」
――本当に、お客様の状況によって、いろんな寄り添い方があるんですね。
「さきほどお話ししたマグネットの付いたタッセルを使って、カーテンを真ん中で絞って上げるのもかわいいです。ペットが居たり、お子さんが小さかったりでカーテンを上げたいけど、シェードを付けると費用がかかるという場合にも、マグネットで真ん中から持ち上げることができます。カーテンと同じ生地でクッションを作ったり、クッションだけを作ったり、逆に布だけ購入してテーブルクロスにするとか。引っ越しでサイズが合わなくなったときなどはサイズを詰める作業もさせていただきます! 自分の知識をお客様に有効活用していただければ良いなと思っています」
――カーテンだったら、おおよそのことは叶えてもらえますね!
「そう言っていただけると嬉しいです(笑)。実は私、もともとカーテンが大好きでこの仕事に就いたわけではなくて、内装の仕事で入った会社がカーテンを始めることになったのが運命の出会いだったんです。そこでは、布の手配だけでなく、縫製の発注や、柄合わせ、レールの種類や寸法図から取り付けまで全部自分でやらなきゃいけなかったので、勉強するために縫製工場に勤め直したりして、だんだんオタクになってしまって(笑)。これが天職とか、私が一番プロだとか、そんなことは思っていないんですが、多分、この先もずっとカーテンの仕事をやっていくと思うので、まずはご相談いただければと思いますね。ぜひショールームにもいらしてください」
■お話を伺ったのは…
株式会社カーテンココ 窓装飾プランナー・菅真実子さん
洋品店を営む実家で工業用ミシンにいそしみ育つ。インテリア科のある学校を卒業後、家具の職人を目指すも、当時は男性社会だった現場のモノづくりに関われず、内装会社に転職。その会社が新たにカーテン業を立ち上げる際に担当したことでカーテンの仕事に出会う。結婚、子育てを経て、カーテンココ社で「目をつぶっていてもできる」ほど体に染み込んだ仕事であるカーテンの現場に復帰。現在は、同社のゼネラルマネージャーとして活躍中。ドラマや映画への美術協力を多く担当するだけでなく、一般のお客様からの引き合いも多い人気のコーディネーター。
株式会社カーテンココ
窓装飾プランナーがご自宅に出張して採寸・提案をする、オーダーメイドのおしゃれな専門店。人生の長い時間を過ごす「自宅」にとことんこだわりたい方のため、「自分だけのオーダーカーテン」を提案する。
中目黒ショールーム
東京都目黒区上目黒3-14-8 MFビル 501 TEL 0120-499-455
営業時間 10:30~18:00(毎週木曜日は休日、祝日を除く)
「invert 城塚翡翠 倒叙集」放送情報
日本テレビ
毎週日曜 後10:30~
取材・文/幸野敦子
撮影/尾崎篤志