北村匠海さん主演映画「明け方の若者たち」と、そのスピンオフで黒島結菜さん主演作品「ある夜、彼女は明け方を想う」。この2作に登場しているブランド「MOTHERHOUSE」を直撃!
<僕>と<彼女>を中心とする20代の“人生のマジックアワー”を描いた、カツセマサヒコさんの長編小説デビュー作(幻冬舎文庫/幻冬舎刊)を、北村匠海さん主演で実写化した映画「明け方の若者たち」(’21年)。そして、映画化を記念した黒島結菜さん主演スピンオフ「ある夜、彼女は明け方を想う」(Amazon Prime Videoで独占配信中)。
これら2作品、原作の全てに、“あてがき”として登場しているブランドがあります。今回は、そのファッションブランド「MOTHERHOUSE」を手掛ける株式会社マザーハウスの広報・小田靖之さんにお話を伺いました。
「MOTHERHOUSE」を伝える切り口、入り口を多様に―
――原作者のカツセさんが「MOTHERHOUSE」のファンということで、”あてがき”だったと伺いました。サイドストーリーでも、映画同様に「MOTHERHOUSE」の店舗でのシーンが登場しますよね?
「最初は、本作を企画プロデュースしたホリプロさんから『こういう映画の撮影協力をお願いできませんか?』というお問い合わせで、いわゆる他のドラマでの衣装協力と同じ導入でした。作品の台本を読ませてもらい、シーンや撮影状況、季節設定を教えていただいたり、スタイリストさんとお話ししたり…。本当に、最初はこのような形で話が進んでいきました」
――その後に壮大なプロジェクトに広がるわけですが、まずは、物語についてお伺いします。サイドストーリーでは特に、<彼女>と<夫>の関係性が気まずくなる要因として「MOTHERHOUSE」が描かれるシーンがありました。
「作品自体は、制作される多くの方の想いや表現方法で成り立っているので、あくまでも私たちは、そのシーンに対して自然に、かつ作品を盛り上げる一つの要素だと理解しています。もちろんそのシーンを見て、『マザーハウス』を知ってもらえればうれしいですが…(笑)」
――“作品をきっかけにしたファン層の拡大”という視点があるのかな、と思ったのですが、その部分はいかがですか?
「実は、そういう意識は、ほとんどありませんでした。映画もサイドストーリーも20代前半~中盤の話なので、ターゲットはその辺りかな、と思っていて…。ただ僕自身、作品を見た時に懐かしい感じがしたので、年齢関係なく、『こういう時代、私たちにもあったよね』と、幅広い世代の方が見られるのかな、と感じました。実際、映画の話にはなりますが、舞台挨拶の会場にいらしたファンの方の9割が、20代~60代の女性だったんです。確かに、『MOTHERHOUSE』のファン層が増えたらいいなというのはもちろんありますが、でもやはり、一握りだと思うんですよね。作品きっかけで店舗を訪れ、購入してもらえることは理想であって、まずは、お客様への伝え方、伝わり方はすごく意識してコミュニケーションやデザインをしました」
――なるほど…。伝え方の切り口や入り口の一つとして、映画とコラボレーションしたオリジナルグッズを開発されたのでしょうか?
「そうですね。銀座店(しゃしん)が舞台となった店舗での撮影シーンに立ち会わせていただく中で、プロダクト制作を思いつき、先のホリプロさん、本作の配給を担当しているマイシアターD.D.さんに企画書を送ったのが始まりでした。純粋に面白そうだな、という気持ちもありますが、僕の担っている仕事が、『MOTHERHOUSE』を知らない方に知ってもらうという一番外枠部分なんです。そういう観点から、撮影協力以外に違う角度から携われないか、と。『熱量に圧倒されました(苦笑)』とマイシアターD.D.の担当者の方から言われましたが(笑)、純粋に映画を盛り上げる一助になりたいと思いましたし、作品に懸ける作り手の思いを知るうちに、『一緒に仕事をしたら楽しいだろうな』という気持ちから湧きでた思いでもありますね」
――そのオリジナルグッズが、象嵌技術を用いた「あけわかくじらチャーム」と「あけわかブックカバー」ですね。<僕>と<彼女>にまつわるモチーフでもある、”くじら”がデザインされています。
「企画提案の段階から、映画のストーリーやカツセさんの“コトバ”と“モノ”が繋がるプロダクトを作りたいと思っていました。この企画を、カツセさんや原作の幻冬舎さん、マイシアターD.D.さん、弊社の代表兼デザイナーの山口と事前にミーティングし、お客様層のイメージや作品をしっかり理解した上で商品開発を行っていったのです。その中で、これまでマザーハウスでも使用したことのない『象嵌技法』という伝統技術を使ったプロダクトを山口が提案しました」
――このグッズも、バングラデシュ(※)で制作されたのですか?
「もちろん全て、バングラデシュです。ただ、この技術が現地にはないので、日本の職人さんと山口が、バングラデシュのサンプルマスターや現地の職人に伝えることからでした。我々にとって新しい技術ということもありますが、一つ一つのモチーフをはめ込んで隙間なく作っていくことは、かなりハードルが高かったようです(汗)。ですが、全員の努力もあり、映画の中でも象徴的なクジラと伝統技法の象嵌がマッチした、ユーモアのあるプロダクトが作れたと思っています。本来は映画館限定での販売を考えていたのですが、社内でも好評だったので、劇中にも登場したマザーハウス銀座店とオンラインストアでも限定数で販売することになりました」
※「MOTHERHOUSE」の製品は、バングラデシュで制作。
――ちなみに、銀座店での撮影時の裏話などあったら教えてください!
「撮影期間や時間は長くありませんでしたが、撮影が終了した日に、リリースしたばかりの『イロドリチョコレート』を、北村さんや黒島さん、制作スタッフの皆さんにお渡ししました。後日、サイドストーリーの撮影で黒島さんがいらっしゃった時に、チョコレートの感想をいただき、純粋に僕個人として、すごくうれしかったですね(笑)」
――最後に、撮影・衣装協力やオリジナルグッズ制作など、今回のプロジェクトの手応え、次なる挑戦のビジョンをお聞かせいただけますか?
「“ビジネスの成果”は一つではないと思うので、『MOTHERHOUSE』を認知する様々な経路を作ることができたのは、すごく大きなことだと感じています。マザーハウスのプロダクトを店舗やWEBを通して様々な人にお届けし、ファッションとして楽しんでもらうことは大事なことですが、今回のように、映画や映像を通して、違った切り口でマザーハウスを知ってもらえる機会を創出していくことは引き続き考えていきたいですね。このような取り組みを再度できるかと言ったら難しいと思いますが、想いを持って“ものづくり”をしている方々と業界の垣根を越えて、同じゴールに向かって“ものづくり”をしていきたい、と強く思いました。まだまだファッションの可能性、途上国にある素材や技術を世界のみなさんにお伝えしきれていないので、映画やドラマ、アニメなど日本を代表するようなクリエイターの方々と本気でモノづくりをして、世界に通用するファッションブランドになっていきたいと考えています」
■お話を聞いたのは
株式会社マザーハウス・小田靖之さん。
マーケティング・広報のほか、同社初のフードブランド「Little MOTHERHOUSE」の責任者を務める。
■取材協力
株式会社マザーハウス
「途上国から世界に通用するブランドをつくる」を理念とし、’06年にバングラデシュからスタート。創業16周年を迎えたそのモノづくりは、6つの生産国と4つの販売国に広がり、国内では40店舗を構える。