尾上松也インタビュー「振り切りが必要、全力投球で挑んだ」

2022/01/08 07:07

少年剣士漫画「赤胴鈴之助」 のその後を描いたドラマ「まったり!赤胴鈴之助」(テレビ大阪)が1月8日スタート。主演を務める尾上松也さんを直撃!

65年前のテレビドラマ版で赤胴鈴之助役を演じたのは、尾上松也さんの父である尾上松助さん。その思いを継ぐかの用に今作で松也さんは、コミカルな正義の味方・鈴之助役を熱演します。

時代は、江戸時代からタイムスリップした令和。悪の組織・鬼面党の面々をなぎ倒していくものの、江戸時代と違い現代の“悪”は思っていた以上の悪ではなく、平和だった。そんな平和な現代で、鈴之助がまったりと過ごす日常をコメディータッチで描く本作に懸ける思いを、松也さんに、時に熱~く、時にまったりと語っていただきました。

2021年は、僕にとって“鈴之助イヤー”だった

――いち早く第1話を拝見したのですが、クレジットに「企画・尾上松也」とあり驚きました。まずは本作に携わることになった簡単な経緯からお聞かせください。

「父が子どものころ演じた役を演じてみたいという気持ちと、父へのオマージュになる作品を創りたい、との思いがありました。歌舞伎という芸能は代々続く家柄があって、それぞれお家に伝統のお役ですとか作品があることが多いのですが、私の家にはありませんので、父から受け継ぐ作品を何かしらの形にしたい、遺したい――。父が亡くなって以降(2005年に逝去)その思いがより強くなり、10年以上前からこの『赤胴鈴之助』の企画を進めていました。そんな思いをくんだ事務所のスタッフが奔走してくれまして、企画が具体化したのは3~4年ほど前。2021年の夏には歌舞伎の自主公演(「挑むVol.10~完~」)でも『赤胴鈴之助』を上演できましたし、僕にとって“鈴之助イヤー”になりましたね」


――原作は、武内つなよし先生による子ども向けの活劇漫画。これを、少年剣士・鈴之助の“その後”を描いたコメディーでやろうと思われた理由は?

「歌舞伎は別として、ドラマで僕が少年剣士をやれる年齢ではないということがありました(笑)。ですが、これまで幾度となく映画化、ドラマ化、アニメ化されてきた『赤胴鈴之助』は、その都度、奇抜な設定や演出もあったんです。どんな振り幅にでも対応できる原作ですし、今回も原作者のご家族の方々が寛大に…と言いますか、“自由に面白くしてください”と任せてくださいましたので、このようなコメディーの形でやらせていただくことにしました」


――監督と脚本は、松也さんも信頼を置く守屋健太郎さん、村上大樹さん。

「僕を含めた3人で常に“何か面白いことをやろう!”と言っている、そんな間柄で、『さぼリーマン甘太朗』(2017年、テレビ東京系)以来3作目のお仕事になります。『甘太朗』は、本来はフードドラマですが、自分がこれまでに演じたことのない領域のお芝居や、いわゆる“顔芸”と呼ばれる顔を使った芝居にも挑戦させていただいた思い出の深い作品。そこでのやりがいや満足感が『課長バカ一代』(2020年、BS12 トゥエルビ)へとつながって、今回も同様に、あうんの呼吸で創作することができました。信頼の置ける仲間たちと三たび仕事ができたことは幸せでした」

コメディーは本当に難しい、“恥ずかしい”などと思っちゃダメだなと思う

――また本作では主題歌『RED』も歌われています。坂道シリーズや嵐などの楽曲で知られる音楽ユニット・youth caseさんが作詞・作曲を。THE YELLOW MONKEYを彷彿とさせる極上の“和ロック”となっていますね。

「まさにそのとおりで、詰め込んでいただいたのはそのテイストです。僕の声質を考えるとロック調の楽曲が合うこと。それを日本語で歌うなら、僕が一番、大好きなイエモンさんが理想だったこと。その2つをリクエストしたところ、大満足の楽曲を仕上げてくださいました」


――以前、レギュラー出演されているトーク番組・「居酒屋川柳なつみ」(テレビ朝日系)でも美声を聴かせていましたが、松也さんの声にびったりの楽曲でした。

「あの時は確か玉置浩二さんの歌でしたね(笑)。今の若い方が聴くと少し古く感じるかも知れないですが、熱唱できる昭和~平成の曲が好きなんです。『RED』、も、沢山の方々に熱く歌っていただきたいです」


――歌あり、ものまねあり。あの番組でもメーターを振り切っていましたが、『甘太郎』と『課長バカ一代』しかり今回の『鈴之助』しかり、コメディー作品でも松也さんの全力投球ぶりが気持ちいいです。

「もちろん、どんなお芝居でも全力で務めるのは当たり前のことなのですが、ことコメディーとなると本当に難しいですよね。“恥ずかしい”と思っちゃダメだなと。笑いを誘うお芝居で、1ミリでもそういうものが見えてしまうと見る方に伝わると思うんです」


――コメディーで演者の“照れ”が見えると客は笑えないし、真面目に全力でやるほど面白い。

「おっしゃるとおりです。ですので、涙を誘うお芝居よりも笑いを誘うお芝居の方が実はシビアで、ごまかしがきかない。笑いを取りたい場面こそ、真面目に一生懸命にやり切るというのは、今回のような映像作品でも舞台でも同じだと思います。今回の『鈴之助』は、そこをさらに振り切っていかないとやれない作品だなと思いましたので(笑)、いつも以上に全力投球で挑みました」


――守屋監督の演出は緩急がはっきりしていて、さらには独特の“間”があって。そこが笑いのスイッチになっていると思います。

「その“間”というところは、僕も意識しています。長い“間”をとった後、僕が何をするか、どんなお芝居をするのかも監督が理解してくださっているのでやりやすいです。最初のリハーサルでは監督が想定しているであろう芝居以上のことをやって、そこから本番でそぎ落としていくのですが、ちゃんとダメなところはダメと言ってくださる。そうでないと延々とやってしまうところがあるので(笑)、本当にありがたい存在です」


――「延々とやってしまう」ということは、アドリブもあるのですか?

「セリフ自体はわりと台本に忠実に演じているのですが、それをどう表現して伝えるかは、その場その場で考えています。その意味では、ほとんどアドリブに近いかもしれません。台本の文字だけでは状況がつかめないことも多々あり、監督とイメージを共有しながら、いい意味で遊びながら探っていく感じでした。撮影をしていくうちにどんどん芝居が変わってきてしまって、最後のテイクが一番いいから、その前に撮った芝居の部分を撮り直そうということもありましたね(笑)」

現代劇は歌舞伎とまったく違う。すべての仕事が訓練になり、歌舞伎に還元される

――丁々発止のやりとりをするのが、鈴之助とともにタイムスリップした先輩剣士・竜巻雷之進役の今野浩喜さん。今野さんはもともとお笑い芸人ですから、やりやすかったのでは?

「鈴之助がボケで、雷之進は完全なるツッコミという設定なので非常にやりやすかったですし、僕がアドリブでボケても、鋭くツッコんでくださいました。それで最終的には、雷之進というより普段の今野さんになっていましたね(笑)。武内先生の原作、映画、ドラマ、アニメ……歴代の雷之進の中でも一番ぶっ飛んだキャラクターになっているのではないでしょうか」


――原作では鈴之助との確執も描かれる凄腕の兄弟子です。

「それがよもやの坊主頭で、剣も扱えない(笑)。歴代の『赤胴鈴之助』を知る方には一番のサプライズになっていると思います。平和な現代にどっぷりと浸かる鈴之助の宿敵・鬼面党の面々も含めて、オンエアを楽しみにお待ちいただきたいです」


――松也さんが思うコメディーの魅力とは?

「『さぼリーマン甘太朗』、『課長バカ一代』、今回の『鈴之助』に限ると、毎回ワークショップをやっているような感覚なのでいつも新鮮に演じられるところ、毎回予想だにしない出来事が現場で起こるハラハラ感がたまらないです。コメディーに限らず現代劇は間合いの取り方や詰め方……そうしたものが歌舞伎とはまったく違いますので、すべてのお仕事が訓練にもなりますね。その訓練が回り回って歌舞伎に還元されていると思います」

――本業の歌舞伎に加えてドラマやミュージカルにも。ドラマのタイトルにかこつけるわけではないですが、多忙な中、まったりする時間はありますか?

「まったりするのは…やはり家でキャンドルを灯して、外の景色を眺めている時ですね。その日の気分によって使い分けていて、ほぼ毎日、使っています」


――自宅には100個以上コレクションがあるそうで。今では趣味が高じて「日本キャンドル協会」の理事も務められています。

「(2021年の)7月に就任させていただきました。僕の場合、香りというよりも炎の揺らめきを見ているのが好きで、いつの間にかキャンドルに心を奪われてしまいました。見ていると、1日の疲れが癒やされるのがいいですよね。癒やしでしかないです」


――最近は趣味のスニーカーに関する取材も増えていますが。

「スニーカーを愛でてまったりすることもありますが、最近は“スニーカー遅刻”が増えて困っていますね」


――ス、スニーカー遅刻…!?

「スニーカーヘッズあるあるなんですが、その日どんなスニーカーを履こうか悩むんですよね。で、何足も履き替えているうちに時間が経っちゃう…という(笑)。ですので、まったりするより、どちらかと言えばドタバタしています。1日1足、365足あれば迷わないで済むのですが(笑)」


――最後に、まだまだ寒い日が続きますが、おすすめのキャンドルをご紹介ください。

「(熟考)、CANDOLE JUNE(キャンドル ジュン)さんかな。僕が最初に、キャンドルに心を奪われた作家さんですし、火をどう美しく見せるかに特化したアーティストさんです。最近は、代々木上原にあるお店(「ELDNACS」)などでも買えますので、ぜひ1度火を灯していただいて。火の美しさと世界観を体験して、自分に合う1本を見つけていただけたら、理事としてもうれしく思います。そしてキャンドルで1日の疲れを癒やした後には『まったり!赤胴鈴之助』をご覧ください!(笑)」

■Profile
尾上松也(おのえ・まつや)

1985年1月30日生まれ。東京都出身。5歳で父・六代目尾上松助の襲名披露にて、二代目尾上松也として『伽羅先代萩』の鶴千代役で初舞台。10代は女方を中心に経験を積み、近年は立役として大役を務めて活躍。2009年から2021年まで歌舞伎自主公演『挑む』を主宰。歌舞伎以外にもミュージカルの舞台、テレビドラマなどにも挑戦し、「さぼリーマン甘太朗」(テレビ東京系、2017年)で連続ドラマ初主演を果たした。歌舞伎俳優の屋号は音羽屋。

「まったり!赤胴鈴之助」放送情報

テレビ大阪
1/8(土)スタート 毎週土曜 深0:00~
※1/8(土)は深1:51~

  
撮影/蓮尾美智子 取材・文/橋本達典