香取慎吾インタビュー「強い思いで、悪い未来を防げたら」

2021/12/08 16:04

新たに発見された極秘文書を基に、歴史の表舞台に出る前の山本五十六を描いた作品で、17年ぶりにNHKのドラマに出演する香取慎吾さんにインタビュー!

自身も初めて知ったという、歴史に埋もれた出来事と山本五十六の“闘い”を演じ、香取さんが感じたこととは?

皆さんに支えられて、最後の撮影まで、山本五十六を演じ切れた

――撮影を終えて、まずは率直な思いを教えてください。

「今回は髪を丸刈りにさせていただきました。撮影が終わり少し伸びたので、今日初めて、ちょっとジェルをつけてみました。少しずつ髪が伸びてきて、今、刈りたくて仕方がないですね。丸刈りは人生二度目ですが、今回、6ミリの短さにしたのがとても気持ちよくて。すごくこのスタイルが好きになりました。今後、髪を伸ばすと思うんですが、今後の人生で僕が伸ばす髪は、仕事のためです(笑)。本当だったらもう、一生このままでいいっていうくらいにスッキリしています」


――撮影はいかがでしたか?

「3週間くらい撮影をやらせていただきました。いろいろな先輩方、俳優さんが山本五十六を演じられた作品をこれまで見てきた中で、自分がその役を演じさせてもらう時が来たのかという大きさに、やっぱり最初は、緊張やプレッシャーもたくさんあったんですけど、本当にプロフェッショナルなキャストの皆さん、スタッフの皆さんに支えられて、最後のシーンを撮るその日まで、山本五十六を演じきることができたと思っています。『新選組!』という大河ドラマでNHKのドラマをやらせてもらったのが17年前みたいで。17年ぶりにNHKのドラマに出演させてもらって、びっくりしました。すべてのスタッフの皆さん、衣装もふくめ、セットやオープンセットも、ロケでいろんな場所をお借りして撮影するのも、すべてがほかでは経験できないような、なんていうか重厚な、その場に足を踏み入れるだけで、皆さんが僕をその役に連れて行ってくれるような現場でした」


――17年ぶりのNHKということで、久しぶりの発見などもあったのでは?

「そうですね、ロケのオープンセットの場所に行ったときに、昔と比べたらだいぶ変わったんですよって言われたんですけど、17年ぶりなんで、どこが変わったのかも分かりませんでした(笑)。スタッフの皆さんも、ほとんどの方が知らない方だったんですけど、髪を刈ってくれたメイクさんは、『新選組!』の時も自分のメイクをしてくれていた方でしたね。あとは、衣装がすごかったです。僕は洋服が好きなんで、衣装合わせで監督はじめ皆さんが、衣装を僕が着ている感じを見ているときに、僕はひとりで服のディテールに夢中でした。今の服とは違うんですよね。見たことがないような、その当時の形が再現されていて。映らないようなところまで細かく忠実に再現されているものが集まっていました。でも僕は17年ぶりなんで、すごい驚きがあるんですけど、NHKのスタッフの皆さんは普通にしているんです。いろんなところがすごい、とんでもない現場なのに、皆さんずっとここにいるから、そのことが分からないんですよね(笑)」

胸が締め付けられるシーンが多く、すごい時代だったことを感じた

――先輩の俳優さんたちと一緒に演じるシーンもありました。 

「僕の役は立場が結構上の人だったんですけど、急にもっと上の人たちに囲まれるシーンがありました。嶋田久作さんや、伊武雅刀さんとも久々にお会いして。皆さんに囲まれているシーンで、こういうふうに作られている場所だったんだな、と。こっちでは自分が一番上だけど、ひとつドアを入ったら、急に自分が上ではなくなる、っていう状況が、至るところにあって、そこを間違えたら大変なことになる。そういう世界って、僕はあんまり経験したことがなかったですね。でも共演した先輩方が知らない方ではなかったので、合間合間に少しお話しもさせていただいて、緊張もほぐれました。ただ、シーンの中では、なんていうんでしょう、『いいえ』がなくて『はい』しかない。『いやぁ』とか『それはどうですか』っていう素振りさえも見せない。本当にあるとしたら心の奥底だけ。微塵もそれを、表情にも出せない空気の中で、『イエスかノーか』と一応聞かれるんですけど、『イエス』と。お芝居とはいえ、なんだか胸が締め付けられるすごい時代だったんだな、というシーンがいっぱいありました」

――そういう緊張したシーンの中で、唯一、子どもといるシーンはほっこりして、人間らしさが出ていた印象です。

「いやあ、もっと人間味を、今おっしゃったように子どもとのシーンは、もっとここはほぐしても、と思うところもあったんだけど、個人としてその人その役がっていうよりは、僕に、その時代がのしかかってくる感じで。もっと愛情表現があってもいいんじゃないかって思っても、そこまでは違うんじゃないか、と自分が引き留めて、結局引き留めた部分の方が多いですね。ただ、撮影の合間に、僕の子ども役の子が意を決したように、話しかけてくれたんですよ。『実は僕、この間まで慶喜の子どもだったんです。草彅(剛)さんの子どもの後、すぐ香取さんの子どもで、すごく嬉しいんです』と。『おお、そうなのかぁ、ありがとう』なんていう会話をしまして、ちょっとほっこりした瞬間でした」

草彅さんと続けてNHKに出演できるのは感慨深い。稲垣さんには丸刈りをすすめました(笑)

――ではその、先に「青天を衝け」にご出演されていた草彅さんから、なにかアドバイスというか激励は?

「もらっていないです。でも、『青天を衝け』の撮影の最初のうちは、本当に『俺は乗馬の練習しかしていない』とばかり言っていましたけど、最後は、もう終わるのが寂しい感じにしていましたね」


――逆に草彅さんの姿を見て刺激を受けたりは?

「刺激というか、自分もそうだったなというのをすごく思い出しました。それこそ1年間ずっと、草彅さんには、『今はあれなの?』とか『撮影の様子はどう?』とか聞いていたんですけど、最初のうちは、撮影が大変だとか、難しいんだとかっていうことをよく言っていたのが、中盤から後半にかけては、面白くてしょうがないし、終わるのがさみしいしっていうのを言い始めている彼を見て、ああ自分もそうだったなあ、と。やっぱり大河ドラマってとても大きなもので、そこをクリアした人間にしか分からないものがあるんですね。それをこんなに身近な人間と話せているのが、すごく嬉しいなって思っている中で、今回の役を僕も頂けたから、これもまた嬉しかったですね。彼が活躍しているNHKで、『青天を衝け』が終わってしまっても、そのあと僕が登場することができるということで。なんだか感慨深いものがありました」


――では、稲垣吾郎さんからはエールなどはありましたでしょうか?

「稲垣さんとはもっと話していないですね(笑)。ちょっと話したのは、通りすがりに僕の髪を見て、「おっ、おおっ」って言いながら興味深そうにいっぱい見ていました。自分はすごく気持ちいいですし、いいよっておすすめしたんですけど、稲垣さんは髪の毛のことは、すごく気にされるほうだと思うので、すごい苦笑いで、その会話は終わりました(笑)」

作り込む役柄に挑戦したいと話していたら、この役を頂いた

――香取さんご自身は、丸刈りにすることへの抵抗感はなかったのですか? 

「全くなかったんです。それと、偶然の話なんですが、僕はこれまで、本当に丸刈りにするくらい、見た目も含めて一つの役に対して作りこむような経験は、あまりなかったんです。きっとそれは、今までだったら、自分のレギュラー番組を何本も抱えていたこととか、そういう影響もあったと思うんです。でも今は、そういうこともなくて、少し時間にゆとりもある中でお芝居をさせてもらうんだったら、そんな役がもしできたらなあって、話していたときに、今回のお話を頂いたんです。本当に偶然。そんな会話から、一か月たっていないくらい。だから、今自分がいちばん思い描いていた役が頂けた偶然にびっくりして、ぜひやらせてくださいと言ったんですけど、そのあとに、演じる人物、時代背景などいろんなもので、大変な役を引き受けてしまったなというのも、あとからやってきました」
  
  
――そうして演じてみて、山本五十六の印象はどうでしょう?

「僕が演じさせてもらったこの作品の山本五十六は、すごく真っ直ぐで、芯がぶれないぶん窮屈な、自分の中では苦しさのある人でしたね。そんな中でちょっと、ユーモアまで行かなくても、周りが少しほっとするようなところも、あるんだけど、それさえも先の先を考えて出す人なので、実際自分ではほっとする瞬間がほとんどないような人物だった感じはします」

堀悌吉とのシーンこそ、山本五十六の本当の部分だった気がする

――親友の堀悌吉を演じた片岡愛之助さんとは初めて共演されたと思うんですが、印象に残った場面があれば。

「愛之助さんとは、こうやってお芝居の現場でやらせていただくのは初めてでした。やっぱりセリフの内容など重い部分も大きいので、あまり合間に会話ができる瞬間もなかったんですが、堀とのシーンは、いちばんっていうくらい山本五十六が“素”な時間というか。ひょっとすると、子どもとか奥さんとか、家族といる時間よりも、愛之助さんの演じる堀と一緒にいる時間のほうが、いちばん素に近いというか、本当の部分だったような気がしますね。だから、会話の内容には緊張感があるんだけれど、どこかふと、ほどける瞬間がある。そんな瞬間を生んでくれる、親友というか、そういう仲だったんだなというのは感じました。撮影の中で、愛之助さんも僕も、お互い、今ここちょっと、ゆっくりできる時間かな? といったタイミングを見計らった愛之助さんが、自分の飼っているかわいい猫ちゃんの話をし始めたんです(笑)。その時に、“あっ、愛之助さんもやっぱり緊迫した空気から、今この瞬間なんだな”って、二人が一致した瞬間で。二人そろって猫の話でゆったりした時間をおくれた時が、一瞬ありました」

――演じられて、ご自身に照らして気づいたことがあれば教えてください。

「人を思うことって、僕自身も大事にしてきたんですけど、自分の中のそういうところは間違っていなかったんだなと感じました。自分の想いとか道をしっかりまっすぐ持っていることは、必要なことで大事なんだなっていうふうに思いました」

強い思いを持った人が増えれば、悪い未来に進むことを防げるはず

――では今回のドラマをご覧になった方に、どんなことを感じてほしいと思いますか?

「僕は今回の話を全然知らなかったので、知れるだけでもとても大きいことだと思います。軍縮会議というものが、いろんな国が参加して行われた。話し合いがあって、いろいろなことが自分たちの思うように進んだわけじゃなかった。いろんな話し合いがありながら、このドラマの時代から、数年度、何十年後と、時代が進んでいったんだ、ということ。もっと、話し合うことなしに争いごとが起きていたようなイメージを持っていたんですけれども、今回のドラマの中では、それぞれの、叶う、叶わないはあるんだけど、一つの国だけの思いではなくて、みんなで未来の話をしているんですよね。そんなシーンがあったんだなっていうことを見てほしいし、知ってほしいです。その中で、本当に、よりよい未来のために、ひとつの意見を強く通そうとした人もいた。でもその歯車が合わなかったことで、そのあとの歴史が刻まれてしまう、そういうこともあるんだなと。そうならないためには、強い思いを持っている人が増えれば、悪い未来に進むことを少しでも防げるんじゃないかって思います」

――ちなみに、丸刈りが2回目、とおっしゃいましたが、1回目は?

「『新選組!』のときなんです。これから始まるというときで、1年以上かつらをつけるならば、髪形はなんでも良いのかなと思い、頭の両サイドを剃りましてモヒカンにしたんです。そうしたら会社の人にめちゃくちゃ怒られまして(笑)。スイマセンって言って、真ん中の部分も全部刈って、丸刈りの状態で三谷幸喜さんと二人での最初の、新選組の法被を着た会見に出たんです。だから皆さん、その『新選組!』への強い思いで頭を刈ってきたと思っていたと思うんですけど、そうではなくて、めちゃくちゃ怒られてでした。ほんの1週間くらいの間だったので、インターネットで検索していただけると、モヒカンの写真がちょこっとだけ出てくると思います(笑)」
  
  
  

■Profile
香取慎吾(かとり・しんご)

1977年1月31日生まれ。神奈川県出身。2017年に新しい地図を立ち上げ。俳優、タレント、歌手、アーティストとして様々なフィールドで活躍している。「アノニマス~警視庁“指殺人”対策室~」(テレビ東京系)など数々の作品に出演。

太平洋戦争80年・特集ドラマ「倫敦(ロンドン)ノ山本五十六」放送情報

NHK総合
12/30(木)後10:00~

衣装提供/room.13(Sian PR)<シャツ>