いま見たい! 三谷幸喜脚本おすすめドラマ7選

2023/06/22 14:02

大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(NHK)で第41回向田邦子賞を受賞した脚本家・三谷幸喜さん。これを記念して、三谷ワールドを楽しめるドラマ7作を厳選して紹介!

三谷幸喜さんは、約70年にわたる日本のテレビドラマ史の中でも、非常に特異なポジションを占める作家です。小劇場出身のスター作家、演出家は数多くいますが、テレビドラマの世界でこれだけの実績を残した演劇人は、三谷さんをおいてほかにいません。ホームグラウンドたる舞台でも30年以上途切れることなく作・演出を続けていますし、1997年からは数年に1作のペースで劇場映画も発表。そしてテレビドラマでも数々のヒット作で旋風を巻き起こし、まさに平成以降の日本のエンターテインメントにおける中心人物として、八面六臂(ろっぴ)の活躍を続けています。

今回は、そんな三谷さんが手掛けたテレビドラマの中から7作品を厳選してご紹介します。

大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(小栗旬主演/22年)

まずは、この作品。鎌倉幕府が成立した直後に崩壊へと向かっていく過程を、北条義時(小栗旬)を軸に描いた三谷さん自身3作目の大河ドラマです。タイトルに算用数字が入った大河ドラマは史上初だということですが、おそらく三谷さんは狙っていたと思います。(映画「十二人の怒れる男」(57年)、「オーシャンと11人の仲間」(60年)、人形劇「ネコジャラ市の11人」(70年~73年、NHK)など、数字の入ったタイトルが好きだとも発言されています。)

ごくありふれた普通の人々が突然、歴史の表舞台に立たされる。そして、そのことによって仲の良かった仲間たちが、次第に敵対し合っていく。まさに、大河ドラマ「新選組!」(04年/NHK)と共通するプロットがあります。違いがあるとすれば、頼朝も政子も義時も、歴史上では勝者の側にいるということでしょうか。

三谷さんは制作発表会見で、物語を「サザエさん」に例えました。サザエが政子(小池栄子)だとすれば、頼朝(大泉洋)がマスオさん。義時(小栗)がカツオで、ワカメが実衣(宮澤エマ)。時政(坂東彌十郎)とりく(宮沢りえ)が波平とフネさんで、タラちゃんに当たるのが、頼家(金子大地)と実朝(柿澤勇人)です。すべてを見終わった今、いかに陰惨な話だったのかが、この例えでよく分かります。しかも、最初のころは本当に家族のシーンが楽しげに描かれていましたから…。歴史、神、運命の残酷さを感じずにはいられません。

ちなみに、先日の「第41回向田邦子賞」の受賞記者会見で、選考委員の一人である脚本家・坂元裕二さんは「ジャンルも作風も違うのに、こんなに向田邦子さんを感じた作品は初めてだ」とおっしゃっていました。笑いながら話していても腹の中では別のことを考えているというのが、向田作品の凄みの一つです。作品のトーンが明るいのに、怖い。まさに向田邦子賞にふさわしい脚本です。

「鎌倉殿の13人」作品情報

NHK(22年)
NHKオンデマンドで配信中

出演:小栗旬、新垣結衣、菅田将暉、小池栄子、片岡愛之助/坂東彌十郎、宮沢りえ、大泉洋、西田敏行ほか

「名探偵・勝呂武尊」シリーズ(野村萬斎主演/15年ほか)

アガサ・クリスティーの原作を三谷さんが手掛けたシリーズ。現在までに、「オリエント急行殺人事件」(15年)、「黒井戸殺し」(18年)、「死への約束」(21年)の3作品が放送されています(たぶんまだ続きます)。人形劇「新・三銃士」(09年/NHK)、「シャーロック・ホームズ」(14年/NHK)などの例はありますが、三谷さんが原作ものを手掛けるのは珍しい。3作とも舞台を昭和期の日本に移してはいるものの、比較的原作に忠実にドラマ化されています。

名探偵エルキュール・ポワロに当たる勝呂武尊(すぐろたける)役を演じるのは、野村萬斎さん。海外のポワロ俳優たちは比較的でっぷりとした体型の印象がありますが、三谷さんによると、小柄で細身な萬斎さんの方が原作のイメージに近いそうです。ヒゲの感じとか、キザなセリフ回しとか、まさにポワロそのもの。シリーズ化されたのもうなずけます。

特に最初の「オリエント急行殺人事件」では、2夜連続放送の第2夜で事件の経緯を犯人側から描くという、大胆な試みを仕掛けています。原作を知っている方ならこのアイデアの秀逸さがよく分かると思います。実際、「古畑任三郎」シリーズでも、犯人側の視点と古畑側の視点を両方描くのに1時間では足りない、90分枠にしてほしいと要望を出していたという三谷さんですからね。本作ではたっぷり描けてうれしかったに違いありません。

そして第2弾の「黒井戸殺し」では、映像化不可能な意外な犯人ものとしてミステリー史上に名高い名作「アクロイド殺し」に挑戦しています。「黒井戸殺し」というタイトルだけですでに一本取られた感じですが、原作では最終盤に登場するシークエンスを冒頭に持ってくる工夫が効果的でした。萬斎さん演じる勝呂のポワロっぽさも存分に味わえます。第3弾の「死への約束」も、前の2作とは違う正統派(?)の犯人探しが楽しめるほか、勝呂の淡い恋心が描かれるのも見どころです(この部分は三谷さんのオリジナル)。

ちなみに、三谷さんが初めて自分のお金で見に行った映画は、中学2年生の時で、「フロント・ページ」と「オリエント急行殺人事件」(ともに74年)の2本立て。「フロント・ページ」はジャック・レモン主演、ビリー・ワイルダー監督の傑作。「オリエント急行殺人事件」はシドニー・ルメット監督の作品で、その後も十数回見に行ったそうです。

「名探偵・勝呂武尊」シリーズ 作品情報

■第1弾
オリエント急行殺人事件
フジテレビ系(15年)

出演:野村萬斎、松嶋菜々子、二宮和也、杏、玉木宏、沢村一樹、富司純子、高橋克実、笹野高史、小林隆、草笛光子、西田敏行、佐藤浩市

■第2弾
黒井戸殺し
フジテレビ系(18年)

出演:野村萬斎、大泉洋、向井理、松岡茉優、秋元才加、和田正人、吉田羊、浅野和之、佐藤二朗、草刈民代、余貴美子、斉藤由貴、遠藤憲一

■第3弾
死との約束
フジテレビ系(21年)

出演:野村萬斎、松坂慶子、山本耕史、シルビア・グラブ、市原隼人、堀田真由、原菜乃華、比嘉愛未、坪倉由幸(我が家)、長野里美、阿南健治、鈴木京香ほか

大河ドラマ「真田丸」(堺雅人主演/16年)

「新選組!」以来、12年ぶり2度目となる大河ドラマ「真田丸」。今作の主人公である真田信繁(幸村)も「新選組!」同様、歴史上では負け組に属します。三谷さんの興味は、いつもそちら側にあるということでしょう。主人公・真田信繁には堺雅人さん。信繁の父・昌幸には、かつて「真田太平記」(85年/NHK)で真田幸村を演じた草刈正雄さん。信繁の兄・信之を大泉洋さんが演じています。

今回の舞台は戦国時代ということで、大河でおなじみのシーンも多数登場すると思いきや、初回で武田勝頼が退場し、織田信長も第4回で”ナレ死”。ちなみにこの、“ナレ死”というネット用語は、同作についてのツイートから生まれたそうです。常に視点を大事にする三谷さんは、信繁が実際に見ていない事件は描かない。関ヶ原の戦いもあっさりスルーしていました。もともと真田一族については、さほど記録が残っていないということもあり、三谷さん本領発揮の題材だったわけです。

ちなみに、物語の前半で西村雅彦(現・まさ彦、以下同)さん演じる室賀正武が発した「黙れ小童!」というセリフが人気になりましたが、これは大河ドラマ「風と雲と虹と」(76年/NHK)で露口茂さん演じる田原藤太のセリフが元になっているそうです。

「真田丸」作品情報

NHK(16年)

出演:堺雅人、大泉洋、長澤まさみ、木村佳乃、黒木華、髙嶋政伸、高畑淳子、近藤正臣、内野聖陽、草刈正雄ほか

大河ドラマ「新選組!」(香取慎吾主演/04年)

三谷さんが手掛けた初めての大河ドラマ。「鎌倉殿の13人」の時に、タイトルに算用数字が入ったのは史上初と話題になりましたが、タイトルに「!」が入ったのもこの「新選組!」が初めてでした。

大河ドラマとしては極めて斬新な作品で、以降の作品群に大きな影響を与えました。「新選組!」以降、まさに新鮮なアプローチによる話題作が続々登場。大河ドラマ60年の歴史の中で最大の転換点となった作品といえます。香取慎吾さん、山本耕史さん、オダギリジョーさんなど、それまでの隊士のイメージを覆したフレッシュな配役に、既存のスタイルをなぞらない大胆な歴史解釈。どれもが、これまでの大河ドラマの枠組みを超えた「シン・大河ドラマ」でした。笑いの要素もありましたが、芹沢鴨(佐藤浩市)、山南敬助(堺雅人)、河合耆三郎(大倉孝二)、武田観柳斎(八嶋智人)など、一人一人の運命を描く視線の冷徹さには心を射抜かれます。

ちなみに、大河ドラマの大ファンだった三谷さんは、「ついに憧れの大河ドラマを執筆できる!」と張り切って彼なりに”真面目なオーソドックスな大河”を目指したのに、当時は「ふざけている」「コメディー大河だ」といった的外れな批評も多く、喜劇作家という自分のレッテルを恨めしく思ったそうです。

「新選組!」情報

NHK(04年)

出演:香取慎吾、佐藤浩市、江口洋介、藤原竜也、山本耕史、オダギリジョー、中村勘太郎、石黒賢、沢口靖子、中村獅童、堺雅人、ささきいさお、野田秀樹ほか

■関連作品
NHK正月時代劇
新選組‼ 土方歳三 最期の一日
NHK(06年)

出演:山本耕史、片岡愛之助、小橋賢児、照英、熊面鯉、鳥羽潤、山崎樹範、池松壮亮、オダギリジョー、筒井道隆、南野陽子、吹越満、佐藤B作

「今夜、宇宙の片隅で」(西村雅彦、飯島直子、石橋貴明出演/98年)

初監督映画「ラヂオの時間」(93年)公開後初の連続ドラマ。自身初のラブストーリーとして話題になりました。舞台はなんとニューヨーク! 大々的にニューヨークロケが行われた今作では、一つのアパートを舞台に、男2人と女1人のおしゃれなハートウォーミングドラマが展開します。

三谷さんはこのドラマを「ジェットコースタードラマ」ならぬ「メリーゴーラウンドドラマ」と称していますが、まさに劇的な何かが起こるわけではない。西村雅彦さん、飯島直子さん、石橋貴明さん演じる3人の日常が繰り返される中で、恋と友情が育まれていくんですね。もちろんコメディータッチではあるのですが、全体を通じてどこかもの悲しい。三谷さんが敬愛するビリー・ワイルダー監督作品、特に映画「アパートの鍵貸します」(60年)の影響が、そんなところにも感じられます。

ちなみに、向田邦子賞を受賞した時のインタビューでも、最近久しぶりに「今夜、宇宙の片隅で」を見て、結構面白かったと言っていました。ご本人お気に入りの作品です。

「今夜、宇宙の片隅で」作品情報

フジテレビ(98年)
FODで配信中

出演:西村雅彦、飯島直子、石橋貴明、梅野泰靖、ミッシェル・ガゼピスほか

「王様のレストラン」(松本幸四郎主演/95年)

「警部補・古畑任三郎(第1シリーズ)」(94年/フジテレビ)の成功を受け、三谷さんが最も得意なジャンルの物語を、最も得意なスタイルでドラマ化した“三谷幸喜版人生賛歌”。傾きかけた小さなフレンチレストランを舞台に、伝説のギャルソンと若きオーナー、そしてレストランで働く“良き仲間”たちの小さな奇跡を描いた物語です。笑わせて、笑わせて、そして泣かせる。舞台は、ほぼレストラン内に限定されていますが、そこに溢れる人生模様の豊かさは類を見ません。

そして、俳優陣の素晴らしいこと。ギャルソン役の松本幸四郎(現・白鸚、以下同)さん、オーナー役の筒井道隆さんはじめ、山口智子さん、鈴木京香さん、西村雅彦さん、小野武彦さん、梶原善さん、白井晃さん、伊藤俊人さんなど、小劇場畑の人脈も駆使した適材適所の配役が光ります。忘れてならないのは、音楽を手掛けた服部隆之さんの存在でしょう。華麗で気高い音楽の数々に、どれだけ勇気をもらったことか。服部さんはこのあとの三谷作品に欠かせない存在になると同時に、「HERO」シリーズ(フジテレビ系)や「半沢直樹」シリーズ(TBS系)など、数々のドラマ音楽で強い印象を残します。

ちなみに、各回の最後にナレーションで語られる「それはまた、別の話(That’s Another Story)」というセリフは、ビリー・ワイルダー監督の映画「あなただけ今晩は」(63年)に出てくる名ゼリフの引用です。さらに、最終回の最後に登場するアイパッチの謎の紳士も、同じ映画に出てくる“ミスターX”の引用。扮していたのは、三谷さん本人でした。

「王様のレストラン」作品情報

フジテレビ(95年)
FODで配信中

出演:松本幸四郎、筒井道隆、山口智子、鈴木京香、西村雅彦、小野武彦、梶原善、白井晃、伊藤俊人、田口浩正ほか

「古畑任三郎」シリーズ(田村正和主演)

言わずと知れた三谷さんのテレビでの代表作。全編コメディータッチで貫かれていることに加え、本格ミステリー指向、ワンシチュエーション指向、引用好き、伏線好き、楽屋落ち好きなど、三谷さんの持ち味がこれでもかと注ぎ込まれた渾身の一作です。「刑事コロンボ」でおなじみの倒叙形式(犯人による犯行が冒頭で描かれ、それがどう暴かれていくかが見どころとなるミステリーの一形式)を、日本で一気に広めました。「ガリレオ」シリーズの劇場作「容疑者Xの献身」(08年)や、現在放送中の「風間公親 教場0」(23年/フジテレビ系)なども、倒叙にあたります。

主演は田村正和さん。それまでのキャリアの中で、すでに方向性の違う代表作を多数持っていた田村さんにとって異彩を放つ作品でしたが、今では「古畑」が彼の最もポピュラーなキャラクターと言えるでしょう。

倒叙形式の大きなメリットとして、犯人役に大物ゲストを起用できるということがあります。中森明菜さん、堺正章さん、菅原文太さん、明石家さんま(写真)さん、木村拓哉さん、鈴木保奈美さん、山口智子さん、緒形拳さん、福山雅治さん、江口洋介さん、松嶋菜々子さんと、まさに主演級がズラリ。SMAPとイチローは実名のまま犯人役に挑んでいるので、木村さんは唯一「古畑」で2度、犯人を演じた俳優ということになります。まあ、ラストで田村さんとがっぷり四つで芝居ができるという特典付きですからね。

ちなみに、先日行われた向田邦子賞記者会見の場が自宅の近所だということで、三谷さんは自転車で現れました(写真)。第1シリーズ「警部補・古畑任三郎」で、もともと第1回として用意されていた「笑える死体」(※)でも、古畑任三郎は自転車で現場に駆けつけます。最初のセリフは、「いやウチが近いもんでね、自転車で来ました」でしたね。

※「笑える死体」……放送では第3回、古手川祐子さんが精神科医に扮した回。

「古畑任三郎」シリーズ作品情報

フジテレビ(94年~08年)
FODで配信中

出演:田村正和、西村雅彦ほか

日本映画専門チャンネルにてシリーズを放送!

「警部補・古畑任三郎(第1シリーズ)<デジタルリマスター版> (全12話)」
6/1(木)後5:25~(第1回~第3回)
6/2(金)後5:00~(第4回~第7回)
6/7(水)後5:20~(第8回~第10回)
6/8(木)後5:30~(第11回、第12回)


「古畑任三郎(第2シリーズ)<デジタルリマスター版> (全10話)」
6/14(水)後6:40~(第1回~第3回 ※第4回除く)
6/15(木)後5:10~(第5回~第10回 ※第9回除く)


「古畑任三郎(第3シリーズ)<デジタルリマスター版> (全11話)」
6/21(水)後11:00~(第1回)
6/22(木)後5:35~(第2回~第6回 ※第5回除く)
6/23(金)後5:25~(第7回~第9回)
6/27(火)後10:45~(第10回、第11回)


「警部補・古畑任三郎スペシャル 笑うカンガルー<デジタルリマスター版>」
6/9(金)後5:30~

「巡査 今泉慎太郎<デジタルリマスター版>(全12話)」
6/21(水)後6:00~(第1回~第12回 ※第12回はHD放送)

「古畑任三郎スペシャル しばしのお別れ<デジタルリマスター版>」
6/21(水)後7:40~

「古畑任三郎スペシャル 黒岩博士の恐怖<デジタルリマスター版>」
6/21(水)後9:00~

「古畑任三郎スペシャル すべて閣下の仕業」
6/28(水)後7:45~

「古畑任三郎ファイナル 今、甦る死」
6/29(木)後5:30~

「古畑任三郎ファイナル ラスト・ダンス」
6/30(金)後5:45~
  
  

  
文/武内朗