小栗旬インタビュー後編「義時について考える日々」

2022/01/09 10:10

大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で、主人公・北条義時を演じる小栗旬さんにインタビュー。後編では、北条義時という人物像、姉・政子や妹・実衣について語っていただきました。

「鎌倉殿の13人」は、僕の生活の一部

――過去にも大河ドラマに出演されていますが、大河ドラマの撮影現場は、ほかのドラマと異なると感じる部分はありますか?

「撮影現場自体は、さほど変わりありません。ただ、やはり道のりが長く、山あり谷ありが必ずあるので、なかなか大変なところはありますよね。加えて、ほぼ毎日のペースで撮影をしていると、不思議な感覚になるというか…。いつもは、仕事に行く感覚があるんですよ。ただ大河ドラマの場合は、毎日のように撮影しても、まだまだゴールが見えない。そうなると、仕事に行く感覚が徐々に薄らいできて、本当に生活の一部のようになってくる。今は、『なるほど、これが、もしかしたらライフワークというものなのかな?』という感覚を味わっています。それぐらい、今の僕に欠かせないものになっているので、撮影現場の居心地は、めちゃくちゃ良いです」


――とはいえ、主役としての周囲への配慮など、撮影現場での役割も大きいのではないかと想像するのですが?

「今回に関しては、いわゆる主役らしいことを、全くといっていいほどしていないんですよ。というのも、出演者の顔ぶれを見てもらえれば分かると思いますが、皆さんそれぞれにしっかりとしたキャリアを築かれてきた方ばかりなので、僕が『先頭に立って引っ張っていくぞ!』という振る舞いをする必要が全くない。それをしなくても自然と士気の高まる撮影現場なので、僕はすごく楽で助かっています(笑)。もう僕も、撮影現場に居たいように居て、やりたいように芝居をさせていただいているので、本当に居心地が良くて、気分良く演じさせてもらっています」

義時の変貌ぶりに、演じながら胸が痛む瞬間がある

――ちなみに、ここまで演じられて、北条義時という人物をどのように捉えていらっしゃいますか?

「これがなかなか難しいんですよね。史実としてではなく、あくまでこの作品の中での義時ということで聞いていただきたいのですが、義時は自分の置かれている立場にさほど不満がなく、少年期や青年期を過ごしている。だから、権力や地位、戦にも興味がない。それこそ米蔵で米の勘定をしていることが楽しいみたいな青年なんですよ。ところが、平家に虐げられて、兄の宗時を筆頭に、源氏側となって対抗していかねばならない運命に巻き込まれていってしまう。そこで、ひたすら源頼朝の側にいて、政治の在り方みたいなものを見て、清濁併せのむことで、ものすごく計算高い人間へと変貌していく。がらりと印象が変わるところがあるので、歴史劇の人物としては非常に面白いと思っています。ただ、義時を演じている身としては、ちょっと複雑というか。あんなに真っすぐで正直な人間だった彼が、いろいろな状況に巻き込まれて、『一族を守るためにはこうせざるを得ない』と、徐々に良いとは思えないことにも手を染めていくようなところがあって…。どうにもならない悲しみを演じながら感じていて、胸が痛む瞬間がたびたびあります」

――今、お話に出ましたが、権力争いが物語の中心にあると思います。そういう意味では、ひとつの政治ドラマとして見られるところもあると感じますが、権力闘争について何か思うところはありますか?

「いつの時代にも必ずありますから、社会において、どうしても避けられないことのひとつなのかなとは思います。もちろん肯定はしませんが、そういう争いの歴史があった上に、僕たちが今ここにいるわけで、一概に醜いものだとは言い切れないなと。大河ドラマや時代劇は、こういう歴史の裏側で、人々がどんな苦しみや葛藤を抱えていたのかを伝えて、それを皆さんが知る機会になる側面もあると感じています。権力争いといっても、すべて同じ構図ではなくて、そこにはさまざまな事情があり、表面だけでは分からない人間ドラマがある。例えばですけど、今回僕が演じている義時は、決して権力が欲しい人間ではなかった。でも、生きていく中で自分が守らなければいけない人たちが増えてきてしまう。そんな彼らを守るために、決断をしなければいけない局面に立たされ、その果てに権力争いに参戦せざるを得なくなるんです。そういう権力闘争の渦中にいる人の本当の心根が見えてくると、争いごと自体が少し違って見えてくるところがある。必ずしも、権力の座につきたい人間だけが権力闘争に加わっているわけではないのではないか? そう考えると、やはり一概に“醜いもの”と一言では片付けられない。その世界で何かを成そうとした時に、どうしても避けられない道なのかな、というふうに思ってしまいますね」

僕が義時なのか、義時が僕なのか? それほど義時を考える日々

――これまで大河ドラマへの出演は多く、石田三成、坂本龍馬、吉田松陰といった名だたる人物を演じられてきています。過去に出演した大河ドラマでの思い出があれば、お話しいただけますか?

「ありがたいことに石田三成、坂本龍馬、吉田松陰、いずれもとても印象に残っていて、僕の記憶に刻まれている役です。それこそ松陰先生は、出演の回数としては少ないですが当時の演出の方に、『今回の吉田松陰は、「ONE PIECE(ワンピース)」のルフィーみたいな感じでやってほしい』と言われて(笑)。全身から元気を発して、『この人に付いていったら、どうにかなるんじゃないか』みたいな雰囲気を出してほしいと言われて、凧揚げしながらダッシュで走るところから始まったことが、鮮明に記憶に残っています。あと、石田三成は長く参加させていただいたので、長い時間をかけて彼の人生とじっくりと向き合ったことを今も思い起こします。今回の北条義時は、10代から始まって、11月の今は20代半ばぐらいのところを演じているんですけど、日々彼のことばかり考えているから、僕が義時なのか、義時が僕なのか、よく分からなくなってくるんですよね。こういう経験ができるのも、大河ドラマで主役を務めさせてもらっている醍醐味だなあ、と感謝しています」


――先ほど、10代の義時から演じていると仰いましたが、演じる上で意識したことはありますか?

「当然、僕の実年齢からはかなり離れています。ただ、変に若々しくしようという気持ちは、僕の中にも、演出陣の中にもなくて。10代には10代のはつらつとした雰囲気みたいなものがあると思うので、そういう年齢が持つ空気感、トーンは意識しました。変に見た目を若作りすることはなかったので、自然に無理なく芝居に臨めました。先ほども話しましたが、そこから始まって、11月の今は年齢的に25歳ぐらいを演じているんですが、この20歳から25歳ぐらいが、義時にとっては大きな変化を迎える時なんですよね。その辺りの機微をどうすれば出せるのか、今は日々頭を悩ませています」


――義時のほかにも、いろいろな人物が登場します。小栗さんの中で、気になっている人はいらっしゃいますか?

「出演者の皆さん、同じ意見かもしれないんですけど、『坂東彌十郎さん演じる北条時政は、良い役だな』と僕も思います。悲哀を帯びていながら、やはり格好良いんですよ。ほかにも、菅田(将暉)くんが演じる源義経もすてきでしたね。今回、三谷さんが去り際の美学ではないですけど、去っていく人に思いを寄せて、その人物の正義みたいなものを引き出して去る場面が、すごく格好良く描かれている。僕は最後まで去るわけにいかないじゃないですか(笑)。だから、去っていく人たちがちょっとうらやましいな、と思って見ています」

姉・政子、妹・実衣とのパワーバランスも面白さの一つ

――女性の登場人物ではどうですか? 小池栄子さん演じる北条政子との絡みも多いですよね?

「姉上とのシーンは面白いものになっているんじゃないかと思います。小池さんが、どっしりと構えて受け止めてくださるので、もう僕は、ぶつかって行くだけなんです。あと、小池さん演じる政子とのやり取りは、きょうだいの力関係も見えてくるというか。義時は、政子から結構きついことを言われても、いつも頭が上がらない。でも、妹の実衣には、強く当たるときがある。『お前、ここにしか強く出られないんだな』みたいな感じで(笑)、きょうだいのパワーバランスが垣間見えるので、その辺りも作品の面白さにつながっているのでは、と思っています」

――それでは最後に、小栗さんの中で“ここは見てほしい“という場面を教えてください。

「最初の挙兵ではまったく戦えない義時ですが、戦を重ね、石橋山の戦いで敗戦を味わい、徐々に徐々に戦いに身を置く人間となっていく。まずは、その彼の心の変化を見てもらえたら良いですね。シーンとしては、少し先の戦いになると思うのですが、馬上で、走りながら2回、弓を射るシーンがあるんです。このシーンに関しては、ずっと練習してきたものをそのまま出すことができたので、見てもらえたら、と思います」


■Profile
小栗旬(おぐり・しゅん)

1982年12月26日、東京都出身。ドラマや映画、舞台など幅広く活躍。近年の主演作に、ドラマ「CRISIS 公安機動捜査隊特捜班」(’17年・フジテレビ系)、「日本沈没-希望のひと-」(’21年・TBS系)、映画「人間失格 太宰治と3人の女たち」(’19年)、「罪の声」(’20年)、舞台「髑髏城の七人season花」(’17年)。大河ドラマの出演は、「天地人」(’09年)、「八重の桜」(’13年)、「西郷どん」(’18年)に続く8作品目の出演となる。

大河ドラマ「鎌倉殿の13人」放送情報

NHK総合ほか 
1/9(日)スタート 毎週日曜 後8:00~ 
※NHKプラスでも配信あり

  
文/水上賢治 ヘアメイク/渋谷謙太郎(SUNVALLEY)
スタイリスト/臼井崇(THYMON Inc.) 衣装協力/ジョルジオ・アルマーニ・ジャパン株式会社