清原果耶さん主演で、不器用だけど切なくて笑える恋と成長を描いた「ファイトソング」。アフタートークとして、同作のプロデューサー武田梓さん、岩崎愛奈さんにインタビュー。
木皿花枝を演じた清原果耶さん、芦田春樹を演じた間宮祥太朗さん、夏川慎吾を演じた菊池風磨さんにまつわる撮影秘話や、脚本を務めた岡田惠和さんのお話をお伝えします。読んだ後には、全話見返したくなること間違いなし!
描いたのは、血縁関係ではなく一緒に生きていく存在としての“家族”
――昨日、最終回を迎えた「ファイトソング」は、恋愛に加えて、“血の繋がりはないけど理想の家族像”が描かれていましたが、あらためてドラマのジャンルを問われたなら…?
武田「ヒューマンラブコメディーです。いわゆる、『結婚しなきゃ』とか『30歳の前に恋愛しなきゃ』と焦がれるのではなく、恋をしなくても人生を歩んでいけるような女の子が、敢えて恋をしてみたら面白いし、かっこいいな、と。だからこそ、恋愛以外の部分もしっかり描かないと伝わらないですし、恋愛ではないところに壁があるからこそ、軸に描く恋の部分も輝いて見えると思ったので、双方を取ったヒューマンラブコメディーですね」
――“家族像”について、描きたい絵があったのでしょうか?
武田「最初はありませんでしたが、脚本の岡田惠和さんと打ち合わせを重ねる中で、『主人公が児童養護施設で育った背景を入れたらどうか』と提案いただきました。そこから、血の繋がりではなく、一緒に生きていく存在としての家族を一つのポイントとして映したいな、と膨らんでいきました。恋愛感情なしで繋がった人々が共に歩む物語を描きたい、と」
岩崎「大きな意味での愛情というか、思い合う気持ちを描きたかったですね。登場人物たちの間にある感情を、形は様々だけど大きな意味での“愛”として描けたらいいな、と思っていました」
――仰るように、ラブストーリーでありながらヒューマンドラマ、さらに、その中の“音楽”が大きな意味を持っていたと思います。
武田「人生これからという20歳ぐらいの女の子が主役なので、彼女が何かを抱えている方が物語に深みが増すと思っていました。それが、耳が聞こえなくなる病という設定に固まった時に、恋愛ドラマとして相手役はどういう人がいいのか、と考えたのです。これは制作側の考えですが、『ミュージシャンがいいのでは?』と。というのも、1つ描きたかったことがあったのです。それは、1話の最後にあった弾き語りのシーン。芦田を演じた間宮(祥太朗)さんご自身はギターが得意なので、最初はギターでの弾き語りも考えましたが、ピアノを弾く時って女の子に背を向けることになりますよね。それがすごく素敵で、不器用な男性が、相手の顔を見ずに背中で語りかける絵を描きたくて…。あとは、音楽に背中を押された経験のある人は多いと思うので、音楽も外せない要素として題材にしました」
――ヒューマンドラマという部分では、花枝が抱える問題だけでなく、周囲との関係性も色濃く描かれていましたね。
武田「近年の作品では、自分自身と闘っている登場人物が多いですし、そういう作品にできればな、と思っていました。特に、今作では何か大きな事件が起きるわけでもなかったので、壁にぶつかった時の主人公たちの心理的な部分を丁寧に映したいな、と。その一つの壁として、恋愛も映していきました」
――恋愛というと、花枝(清原果耶)と芦田(間宮)だけでなく、慎吾(菊池風磨)と凛(藤原さくら)の胸キュンシーンも話題でしたね!!
岩崎「花枝と芦田に関しては、恋愛初心者同志ということで、ピュアさを大切にしました。不器用な2人が、初めて恋愛に遭遇することで相手を愛おしく思う気持ちや、心が動く様子、『キスしていいですか?』と問いかけながらも照れてしまうかわいさや、純粋さを大事にしていましたね」
武田「慎吾と凛もすごくかわいかったですよね。『この2人がくっついて欲しい!』という視聴者の皆さんの声が大きかったのは、嬉しい誤算でしたが(笑)。テント内で2人の寝相が同じというところもかわいかったですし、『一緒に育ってきたんだな』という瞬間が垣間見えました」
アドリブの“ムササビ”が、台本にト書きで登場!
――そんな花枝、芦田、慎吾を演じた清原さん、間宮さん、菊池さんをキャスティングされた背景も伺っていいですか?
武田「若い女性を主演にした恋愛ドラマを作りたい、という構想がありました。そこで、今までの同枠にあったテンプレート的な流れをいい意味で裏切ってもらえそうと思い、お芝居に定評のある清原さんにお願いしたのです。清原さんを主演に迎えることで、より物語に説得力が増すのではないか、と」
――間宮さんはいかがですか? 歌声も綺麗で、驚きの連続でした!
武田「芦田春樹は、普通に演じるとすごく難しいキャラクターで…。リアルな部分とエンターテインメントな部分、この両面を演じられる方ということで、間宮さんにオファーをしました。ただ、ギターが得意で、別のドラマでも歌われていたことは存じ上げていましたが、歌声がここまで綺麗だとは…知らなかったです。今回は、一発屋で今は売れていないミュージシャンの設定ということもあって『歌うシーンがなくてもいいかな』、という思いもありました。ですが、事前に収録していただいた歌声を聞いた時に、『これだ!』と思い、台本にもしっかり歌うシーンを入れてもらったのです」
岩崎「視聴者の方と同じく、私たちも間宮さんの綺麗な歌声に驚いて…。声質の良さに加えて、俳優さんならではの表現力が加わったので、すごく心を動かされました」
――そんな間宮さん演じる芦田の恋敵・慎吾を演じた菊池さんの起用理由も教えてください。
武田「慎吾というキャラクターが固まっていたので、純粋に慎吾がハマりそうな方、という印象で菊池さんにお願いしました。脚本を手掛けた岡田さんのイメージで、“オレンジ色の髪”と台本には既に書かれていましたし、何と言ってもいいヤツ。それでいて、主人公への思いを隠さずにどんどん言う設定でしたが、菊池さんが演じると『慎吾が台本から出てきた!』と思いましたね。撮影中も、監督のアイデアで、歌いながら掃除するシーンをアドリブで多く取り入れていました。それが慎吾のキャラクターをより定着させていたこともあり、途中から『●●の歌を慎吾が歌う』と台本に書かれていたんです(笑)。菊池さんが率先してアドリブを入れてくださったこともあって、すごく助けられました」
――ということは、岡田さんが作品を視聴しながら、先々の台本に取り入れた要素があったのでしょうか?
武田「結構ありました。まさに撮影中、制作中だったので、岡田さんがシーンの感想を寄せてくださることも多かったです。例えば、4話で芦田がムササビの真似をしましたよね。あれは、間宮さんが発案した動きだったのですが、私たちも気に入ってその動きを何度も使ったように、岡田さんも気に入ってくださったのか、後のキャンプ場のシーンでは、“ムササビの真似をする”と書かれた台本が上がってきました。4話の放送翌日くらいにいただいた台本に書かれていたので、もう一度やってほしいと思われたのかな、と思っています。ほかにも、4話の最後で花枝に曲を聞かせている芦田が寝ちゃうシーンや、慎吾のアドリブの歌など、『すごく面白いですね』と毎回、感想を送ってくださいました」
――アドリブで始まった“ムササビ”が、台本に登場…。ムササビをした時の間宮さんはどんな様子でしたか?
岩崎「照れていましたね(笑)。照れ屋さんなのかな、と思うのですが、岡田さんはじめ、スタッフも“ムササビ”をとても気に入っていたので…。そんな“ムササビ”を真似して、ちょっとスベッた感じで気まずそうにしている芦田も含めてかわいいですし(笑)、動きや表情含めて、そう思わせてくれるシーンに間宮さんが作ってくださったと感じています」
――演出もさることながら、岡田惠和さんの紡ぎ出すセリフがとても胸に響きました。
武田「清原さんも『すごく共感できる!』と仰っていました。4話の冒頭で芦田にキスをされそうになった花枝がパンチで撃退したり、1話の最後で芦田に告白された花枝が2話の最初で『台無しです』と言い返したシーンがありましたよね。ドラマだと女の子がキュンとして終わりがちですが、実際はドラマのようにキュンだけじゃないよ、とセリフにしてくださるのが、岡田さんの台本の素敵なところだと感じました。だからこそ、私たちも共感できますし…」
岩崎「セリフに優しさや愛情があふれているので、言葉の一つ一つに背景を感じましたね。だからこそ、花枝や芦田、慎吾はもちろん、彼らを見守る人物たちのセリフも優しくて泣けてきました」
武田「岡田さんが、キャラクターをすごく理解してくださっていたので本当にありがたかったです」
――ありがとうございます。最後に、’16年に新卒で入社された武田さんにとって、今作がチーフプロデューサーとしてのデビュー作ということも話題になっていました。武田さんが気になる、憧れのプロデューサーはいますか?
武田「学生のころ、『夜行観覧車』(’13年、TBS)や『Nのために』(’14年、TBS)が好きでよく見ていました。本作同様に、TBSスパークル(当時ドリマックス・テレビジョン)制作ということもあり、すごくありがたい縁だなと。今、お話ししたように、新井順子さんの作品はすごく見ていたので、同じ空間で働けている嬉しさを噛みしめています」
■Profile
武田梓(たけだ・あずさ)
’16年、TBSテレビに入社。手掛けた作品に、「日本沈没ー希望のひとー」(’21年、TBS)のParaviオリジナルストーリー「最愛のひと~The other side of 日本沈没~」。今作が、チーフプロデューサーデビュー作となる。
岩崎愛奈(いわさき・あいな)
’17年、ドリマックス・テレビジョン(現TBSスパークル)に入社。これまでプロデューサーとして手掛けた作品に、「私の家政夫ナギサさん」(’20年、TBS)、「#家族募集します」(’21年、TBS)など。
「ファイトソング」放送情報
TBS
毎週火曜 後10:00~