推しの作家さま #24  遊川和彦さん

2024/01/29 13:01

 毎回イチオシのドラマ脚本家を紹介する「推しの作家さま」。今回は、ABC制作・テレビ朝日系で日曜10時に放送中の「アイのない恋人たち」を手掛けている遊川和彦さんです。

2005年「女王の教室」(日本テレビ)では、第24回向田邦子賞を受賞

 遊川和彦さん。30年以上第一線で活躍する大ベテランですが、もう本当に唯一無二といっていいユニークなドラマ作家です。「ママハハ・ブギ」「予備校ブギ」「ADブギ」の“ブギ3部作”(89~91年、TBS)はじめ、「十年愛」(92年、TBS)、「真昼の月」(96年、TBS)、「GTO」(98年、カンテレ)、「魔女の条件」(99年、TBS)、「幸福の王子」(03年、日本テレビ)、「曲げられない女」(10年、日本テレビ)、「家政婦のミタ」(11年、日本テレビ)、「過保護のカホコ」(17年、日本テレビ)、「となりのチカラ」(22年、テレビ朝日)と代表作は数知れず。2005年の「女王の教室」(日本テレビ)では、第24回向田邦子賞を受賞しています。

 脚本家には珍しく撮影現場に立ち会うことも多く、近年では監督や演出にも進出しています。自作にかけるエネルギーがものすごくて、常に新たなアプローチでドラマに挑むことを自らに課している。とにかく今までとは違うドラマ、これまでにないドラマを作るんだという野心に満ち満ちたまま、30年以上書き続けているという稀有な作家です。

 すごいなあと思うのは、いわゆる自分の中のテーマを作品にたたきつけるという作風ではなく、しかも奇抜な設定や作られたシチュエーションで展開するドラマが多いにもかかわらず、描かれている世界観にあまり嘘が感じられないこと。技術でこなしている感じがしないんですね。もちろん遊川さん自身は、脚本家としてナンバーワンといっていいほどの技術の持ち主なんですが、それでも一つ一つのセリフに遊川さんの本音がちりばめられているような気がする。そう思わせる体重の乗せ方というか、そこまで含めた脚本家としての力量は他に類を見ないものです。

素直にストレートな恋愛群像ドラマを楽しませてくれるはずはない。それが遊川作品

そして現在第1話が放送されたばかりの「アイのない恋人たち」。男女7人の恋愛群像ドラマというのは、テレビドラマとしてはもはや伝統的なひとつのジャンルといっていいでしょう。7人の性格設定はそれぞれにリアリティーをたたえ、福士蒼汰さん、岡崎紗絵さん、本郷奏多さん、成海璃子さん、前田公輝さん、深川麻衣さん、佐々木希さんのキャストたちがまた全員素晴らしい。男性の3人それぞれが、愛が、自分(I)が、女性を見る目(eye)がない、という設定も理解できるし、女性陣の事情や佇まいもそれぞれに自然で、魅力的です。これから始まる彼らの恋模様に心が躍ります。

でも。それでも。遊川脚本作品がそんなに素直にストレートな恋愛群像ドラマを楽しませてくれるはずはない。そしてまた裏をかいたような顔をしてダークに展開させてよしとする、そんなやり方がすでにありふれているということも、遊川さんが知らないはずはないのです。

 どうやったら見る者の予想を、期待を裏切れるのか。そしてそのうえで、さらなる感動の高みに連れて行けるのか。そのことをずっと考えてきた遊川さんが、これだけオーソドックスな(しかも良質な)テイストで若者たちのリアルを描いてくれたことに、正直震えています。物語はこれから必ずひねくれて展開し、そして最終的に深い真実に到達するはずです。今後ドラマがどんな風に進んでいくのか。おっかなびっくりしながら、見守っていきたいと思います。

「アイのない恋人たち」放送情報

テレビ朝日系

毎週日曜 後10:00~

その他

文/武内朗