今回の「推しの作家さま」は、ついに野島伸司さんが登場! 地上波の連続ドラマが5年ぶりとなる野島さんが手掛けているのは、放送中のドラマ「何曜日に生まれたの」(テレビ朝日系)です。
ドラマの中に感じるリアルな日常。野島作品が支持される理由
70年におよぶテレビドラマ史の中で「一世を風靡した」と言われる作家はそう多くありませんが、野島さんは間違いなく「一世を風靡した」ドラマ脚本家の一人です。テレビドラマが一つのピークを迎えた90年代前半ごろに「愛しあってるかい!」(1989年/フジテレビ系)、「101回目のプロポーズ」(91年/フジテレビ系)、「愛という名のもとに」(92年/フジテレビ系)、「高校教師」(93年/TBS系)、「ひとつ屋根の下」(93年、97年/フジテレビ系)などの大ヒット作を連発。その後も、「未成年」(95年/TBS)、「聖者の行進」(98年/TBS系)、「世紀末の詩」(98年/日本テレビ系)、「ストロベリー・オンザ・ショートケーキ」(01年/TBS系)、「プライド」(04年/フジテレビ系)などの話題作、時に問題作を多数世に送り出し、ドラマ界に“野島伸司の時代”を作りました。
そんな野島作品のヒットは、その後のドラマに大きな影響を与えました。一つは、登場人物たちのセリフの躍動感。陣内孝則さん(「何曜日に生まれたの」にも出演)や小泉今日子さんが出演した「愛しあってるかい!」での登場人物たちの自由な生き方やライフスタイル、何よりそれまでのテレビドラマにはなかったセリフのテンポとリズム感に、当時の若者たちは憧れ、共感しました。ドラマのセリフが、当時のリアルな日常にアップデートされた感じでしょうか。「これは自分たちのドラマだ」と思えたのです。このような、ドラマの言葉を現実にアップデートさせていく作業は、その後も宮藤官九郎さんらによって引き継がれていくことになります。
二つ目は、ドラマに漂う、ある種の不吉さ。「高校教師」に顕著な、リリカルな清涼感と不穏な兆しが同居する独特のムードは、確実にその後のテレビドラマを変えました。90年代以降、家族や学園の日常を描くドラマにいびつな価値観が入り込む作品が増えたのは、震災や事件の影響だけではなく、野島作品の影も色濃く反映されています。
見る者それぞれの”あの頃”を思い出させる主題歌
そしてもう一つ、野島ドラマといえば主題歌です。どちらかといえば演出の領域にある主題歌が常に話題に上がるのも、野島作品ならでは。「高校教師」の森田童子さんや、「未成年」のカーペンターズ、「ストロベリー・オンザ・ショートケーキ」のABBA、「プライド」のQUEEN(クイーン)など、野島ドラマの主題歌になってリバイバルヒットを記録したアーティストは数え切れません。往年のヒット曲をドラマの主題歌にするという手法は、今では一つの定石になっていますが、そのきっかけが野島作品の成功にあったことは間違いありません。そして、「何曜日に生まれたの」にこれらの要素がすべて反映されていることにも驚かされます。The Hollies(ホリーズ)の「Bus Stop」のイントロが流れるたびに心が躍り、往年の野島作品を楽しみにしていたあの頃を思い出します。
でも今回最も強調したいのは、ある意味大きく明るすぎる90年代の名作群の存在が、今の野島作品を語る上での目くらましになっているということです。90年代から活躍している脚本家の中には、自らや視聴者層の年齢に合わせて作風を移してきている方も多いですが、野島さんは常にその時代の若者たちをターゲットにする書き方を変えていません。特に2010年代に入っての佐藤勝利さん主演「49」(13年/日本テレビ)や鈴木梨央さん&岸優太さん主演「お兄ちゃん、ガチャ」(15年/日本テレビ)の斬新さは、明らかに野島ドラマの新たなステージを告げていました。
そこからさらに、野島さんは主戦場をHuluやFODなどの動画配信サービスでのドラマへとシフトしていきます。「何曜日に生まれたの」の企画・プロデュースを務める清水一幸さんとは配信作品でタッグを組んできたので、今回満を持して、今の若者たちに向けたドラマを地上波で、という思いを共有されているのだろうと思います。
コミカルな主旋律×アフターコロナ、相反するものの共存
結論から言えば、「何曜日に生まれたの」は90年代の野島作品の延長線上というよりも、近年の「シン・野島ワールド」の流れの中にあります。特にアフターコロナというタイミングの妙が大きい。マスクの着用も個人の判断にゆだねられた今、コロナ禍をドラマで描く、というアプローチが登場し始めました。コロナ禍が特に若者にとって、どれだけ大きな出来事だったか、未来にどんな影響があるのかは、まだ誰にも分かりません。このドラマは、そんな若者たちの不透明な未来に向けてこそ作られているのかもしれません。
YU演じる雨宮純平の俺様全開セリフにミステリアスな表情
落ち目の漫画家・黒目丈治(陣内)が、編集長・久美(シシド・カフカ)の命令で、売れっ子ラノベ作家・公文(溝端淳平)と共にコモリビトの娘・すい(飯豊まりえ)をモデルにした新作に挑む、という主旋律のコミカルさは、さすがの野島スタイル。往年の野島世代にも親しめるキャスティングが光りますが、興味深いのはやはり、すいの同級生たち。特にサッカー部の元エースで、今や化粧品会社の常務である雨宮くん(YU)の妖しく謎めいた表情。このミステリアスさ加減は、かなりキテます。このまま俺様感全開で推移するのか、それともどんでん返しがあるのか? 二転三転して行くのかな?
第3回までが終わりましたが、この先どうなるのか、皆目見当がつきません。以前の野島作品を楽しんだ人もそうでない人も、先入観抜きで今の野島ワールドを楽しんでほしいです。だいたい皆に「ナンウマ?」と聞いて回っているのに、曜日占いが全然出てこない(笑)。相性が分かると面白いのにな…。ちなみに、筆者は火曜日生まれでした(調べました)。
「何曜日に生まれたの」放送情報
テレビ朝日系
毎週日曜 後10:00~10:54
※9/3(日)は放送時間変更の場合あり
TVer、ABEMA限定スピンオフドラマ「10年前の放課後」
「10年前の放課後~私のこと、どう思ってる?~」
配信中
「10年前の放課後~拳と拳の戦い」
9/3(日)後10:54~配信
「推しの作家さま」関連おすすめ記事
文/武内朗