名作ドラマの陰に、名曲あり――。
ドラマに欠かすことができないもの、その一つが音楽。
国民的大ヒットとなった主題歌や、名シーンの後ろで流れていた劇伴(げきばん=BGM)など、あの曲がドラマを観る側の気持ちをぐーっと高めてくれた……そんな経験は誰しもあるはず。
今回は、ミュージシャン/音楽プロデューサーのクニモンド瀧口さんが、現在放送中のホームコメディーの世界を包み込む名曲と劇伴について紹介してくれます。
今回ご紹介するドラマは、テレビ朝日系「木曜ドラマ」枠で現在放送中の、遊川和彦のオリジナル脚本によるドラマ『となりのチカラ』です。
東京のとある郊外に建つマンション。そこに中越チカラ(松本潤)と妻の灯(上戸彩)、そして娘の愛理(鎌田英怜奈)と息子の高太郎(大平洋介)という1組の家族が引っ越してきます。優柔不断で困っている人を放っておけない性格の夫と、テキパキしっかり者の妻、ちょっぴり大人びた姉と無邪気な弟。そんな一家がやってきたマンションには、とても個性豊かな住人たちが暮らしています。
さまざまな問題を抱える住人たちを心配し、思いやり、つい声をかけてしまうチカラ。失敗を繰り返しながら、やがてマンションの住民たちと少しずつ関係性を築き上げ、1つのコミュニティーとなっていく過程を描いた社会派ホームコメディーです。
チカラを演じる松本さんは、二枚目キャラや、クレバーな役回りは既に定着している俳優ですが、今回の役は不器用で、ぱっとしないキャラ。しかし一生懸命なチカラの姿を見ているうちに、いつしか感情移入してしまいます。
また、松嶋菜々子、風吹ジュン、ソニン、小澤征悦、映美くらら、清水尋也、長尾謙杜(なにわ男子)といったキャストが、同じマンションに住む、癖のある住人たちを演じています。
令和になり、隣人との関係が薄くなってしまった今、“ご近所付き合い”に焦点を当てたこのドラマの脚本、演出は遊川和彦。
過去に『GTO』(1998年、フジテレビ)や、『魔女の条件』(1999年、TBS)、『女王の教室』(2005年、日本テレビ)、『家政婦のミタ』(2011年、日本テレビ)などの話題作を多く手がけてきました。
今回の『となりのチカラ』は、基本的に1話完結でテンポのいいドラマなので、途中から見ても楽しむことができます。

▶イラスト:emi555
そんなドラマを包み込む主題曲は、ジャズピアニスト・上原ひろみが奏でる「上を向いて歩こう」。
この「上を向いて歩こう」は、作詞・永六輔、作曲・中村八大、坂本九の歌唱作品として、1961年に日本でリリースされ爆発的なヒットを記録。欧米にも広がって行き、1963年には「SUKIYAKI」の英題で全米1位を獲得、世界的なヒット曲となりました。その後も、何度もリバイバルヒットを記録し、世界中のさまざまな国でカバーされ、多くの人々に親しまれている楽曲です。
作曲の中村さんは日本のポピュラー音楽の礎を築いた、昭和を代表する作曲家。「上を向いて歩こう」のほか「明日があるさ」、「こんにちは赤ちゃん」、「遠くへ行きたい」といった、誰もが一度は聴いたことのある名曲を生み出しています。
一方、上原さんは16歳のとき、来日していたジャズ界の巨匠チック・コリアと出会い、たまたまチックの前で演奏することに。上原さんの演奏に驚いたチックが公演の最終日にステージに上げ、観客の前で演奏したというエピソードがある凄い方!
その後、米国のバークリー音楽学院を主席で卒業、現在は世界を舞台に幅広く活躍されているジャズピアニストです。
上原さんは今回なんと、ドラマのストーリーに合わせて各話ごとに異なるアレンジをし、「上を向いて歩こう」を演奏しているんだそうです。この新たな試みについて、あるインタビューで「いろいろな背景や物語を持った人たちの気持ちを、少しでも音楽で代弁したい」とコメントしていました。
実は私、上原さんファンでもあります(笑)。
上原さんの魅力は、なんと言っても全身で喜怒哀楽を表現するところ。表情もとても豊かで、音源だけでも感情が伝わってきます。
また劇伴は、作曲家でピアニストの平井真美子が担当。
『過保護のカホコ』(2017年、日本テレビ)や『同期のサクラ』(2019年、日本テレビ)、『35歳の少女』(2020年、日本テレビ)など、最近の遊川作品で度々劇伴を担当し、その世界観を描くのに欠かせない存在です。
平井さんによる「となりのチカラ」のBGMは、主題歌「上を向いて歩こう」を軸にして作曲されたような、どことなく中村八大を思わせるような作風。
ピアノソロ曲や、アレンジされたBGMは、ちょっと懐かしさも感じる、昭和のほっこりした雰囲気が漂っているのです。
このドラマの見どころは、隣人の力になろうと、一生懸命おせっかいをやくチカラの姿と、それを支える家族や、やがて溶け込むマンションの住人の姿です。彼らを通して、子どもの虐待や外国人、ヤングケアラーなど、社会的なテーマを描いています。
しかし流れる音楽も相まって、さまざまな登場人物に寄り添う、昭和のホームコメディーを見ているような気持ちにさせてくれる、温かいドラマだと思います。
【番組情報】
「となりのチカラ」
テレビ朝日系
毎週木曜 後9:00~
Profile

クニモンド瀧口(流線形)
2003年に、流線形として音楽活動を開始。
2020年、NHKドラマ「タリオ -復讐代行人の2人-」のサウンドトラック『Talio』を流線形/一十三十一の名義で発表のほか、3枚のアルバムをリリース。
音楽プロデュースの代表作として、一十三十一『CITY DIVE』、ナツ・サマー『葉山ナイツ』、古内東子「Enough is Enough」などがある。
2019年にはクリエイティブディレクター南貴之氏と、シティポップとファッションのイベント『FASCINATION』を開催するなど、今日のシティポップブームの立役者の一人。
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