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TVガイドみんなドラマ編集部
2021.12.18
🎤「私のドラマ道」vol.2  ドラマが描く街と文化を追求……速水健朗さん
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「ドラマ道」。
それはドラマファンが誰しも通ってきた、好きな作品や好きな俳優、ドラマを観始めたきっかけ、視聴方法……といった“ドラマへのこだわり”の道。
このコラムではドラマ好きの皆さんに、これまで歩んできたドラマファンとしての長い道のりについて熱く語っていただきます!

第2回は、テレビ番組のコメンテーターやラジオパーソナリティーとしても活躍する、ジャーナリストの速水健朗さん。
『東京β ―更新され続ける都市の物語』(筑摩書房)、『東京どこに住む? 住所格差と人生格差』(朝日新書)を書かれた速水さんに、“都市”と“現代カルチャー”の目線から、ドラマについて語っていただきました!

ドラマとの出合いで、大人の世界を垣間見た

 ドラマとの出合いは、子どものころに観た「がんばれ!レッドビッキーズ」(1978年)と記憶しています。野球が下手な子たちが工夫して試合に勝つみたいな話だけでなく、高校野球で女性がベンチに入れないことに怒りを覚えた林寛子演じるヒロインが、小学生チームの監督になるっていうジェンダー格差が元になっているのも見逃せないです。

 それから印象に残っているのは、ちょうど10歳のころ、NHK総合で放送された「安寿子の靴(やすこのくつ)」(1984年)というドラマですね。
 このドラマは、唐十郎さんのオリジナル作品で、息子の大鶴義丹さんが初主演。中学生の主人公・十子雄と小学生の家出した少女の二人の姿を、京都を舞台に描いています。ドラマ自体が、子どもの2人が、大人の世界をのぞきみするっていう話でした。中学生男子が不良の仲介で水商売のバイトをして、バイト料を口で受け取らせるみたいな場面が印象的です。子ども向けのテレビ番組しか見てなかった10歳にとっては、このドラマを見た事自体が、大人の世界を垣間見る初体験だった感じです。
 その後「火曜サスペンス劇場」など、大人向けのドラマをたまに観るようになりました。

“都市論”から見るドラマの魅力と、ドラマで描かれた舞台

 “都市論” 的にドラマを見たときに、まず印象的なのが「太陽にほえろ!」(1972年~1986年、日本テレビ)。
 警視庁七曲警察署は架空ですが、1972年の放送開始から西新宿の発展を描いています。当時はまだ、後の高層ビル群に京王プラザホテルしかない時代に、その京王プラザをドラマのオープニングで使っていました。
 その後、新宿住友ビル(通称:住友三角ビル)にが出てきたり、萩原健一さんが演じた“マカロニ”が殉職したのが超高層ビルの建設現場だったり。西新宿が変化するさまを描いていたので、資料としても貴重なドラマです。

 また、脚本家・鎌田敏夫さんの作品も面白い。
 鎌田さんの出世作である、「俺たちの朝」(1976年~1977年、日本テレビ)の舞台は鎌倉。勝野洋さんと小倉一郎さん、長谷直美さんの3人が鎌倉で同居生活をする、青春ドラマです。
 このドラマが始まってから、ドラマを観た若者たちがその舞台を聖地巡礼しにきたんです。江ノ島電鉄が出てくるんですが、江ノ電もドラマきっかけで利用者が増えた。
 ドラマロケ地を巡る聖地巡礼ツーリズムの歴史の中でも、実はこのドラマの舞台・鎌倉は大きな意味を持つ場所だったんだと気づきました。かつての修学旅行先としての鎌倉とパタゴニアやノースフェイスの路面があるいまどきの鎌倉のちょうどあいだに、「俺たちの朝」ブームがあるんです。

 それから10年ほど経って脚本家の鎌田さんがかかわられたのが、「男女7人夏物語」(1986年、TBS)です。
 人形町と清澄白河、その間の清洲橋など東京の東側を舞台にしたドラマで、こっちに行くと人形町(中央区)、こっちに行くと清澄白河の倉庫街と町工場が多かった清澄(江東区)といった場所を、橋をはさむことで描いている。
 主人公の明石家さんまさんは、日本橋側のマンション、大竹しのぶさんは清澄側のアパート。当時は、ちょうど隅田川沿いに公園や遊歩道をつくる工事が終わった直後で、その後の隅田川沿いの変化を考えると、非常にうまく都市の変化を捉えていた画期的な作品でした。
 さらに、鎌田さんが作った「金曜の妻たちへ」(1983年、TBS)は、たまプラーザなど東急沿線、東京郊外の新興住宅街が舞台でしたよね。

 このように、鎌田さんは都市論的に面白いエリアをドラマの舞台にしていて、団塊世代や戦後世代が郊外に住んで、団地・ニュータウン族になっていくことをドラマに織り込んでいる。
 それと「わが町」も、エド・マクベインの『87分署』シリーズを東京の月島に置き換えた翻案もので、『火曜サスペンス劇場』(1992〜1998年、日本テレビ)の名作です。よくBSで再放送されいてますね。

▶▶速水さんの著書『東京β ─更新され続ける都市の物語』(写真左)と『東京どこに住む? 住所格差と人生格差』

ドラマからみる、現代のヒーロー像の描き方

 最近のドラマ視聴は、ハマっている作品はリアルタイムで観て、ウェブサイトやSNSを眺めながら、みんながどう言ってるか、自分もつぶやきながら観るのが楽しいですね。画面を見逃すこともあり弊害もありますが、こういう解釈があるのかと、気付かされることも多いです。
 テレビドラマはリビングで観たりしますが、動画配信サービスの作品は完全に一人で、自分の好きなものを観るという感じです。
 家族と一緒に観ているのは、韓流ドラマとNHKの大河ドラマ。大河ドラマは、なんでも見るわけではないですが、『真田丸』『いだてん』はのめり込んで観ました。

 今年の大河ドラマ「青天を衝け」は、脚本も演出も、主演の吉沢亮さん(渋沢栄一役)も全て良くて、楽しみにして観ています。
 薩長側ではなく、徳川側か(の家臣)から見た幕末は、新説の解釈も多くて新鮮です。
 幕末は池田屋、寺田屋、焼き討ちなど、有名事件が目白押しですが、栄一の目を通してみるとぜんぜん違う。そもそも戊辰戦争(鳥羽伏見の戦い、新撰組の最後)などの瞬間は、主人公はパリにいるので伝聞でしか知らない。それで日本に帰ったら、自分が仕えている徳川慶喜が骨抜きになっている。
 このあたりの慶喜のからっぽぶりを草彅剛さんが演技をしているのか、していないのか。とにかく感情が無の状態で演じていて、すごいですよね。セリフが少なくなりながらも、ものすごく情報量が多い。近年のNHKが大河でよく登場させている慶喜の中でも、群を抜くインパクトですね。まあ『八重の桜』のときの小泉孝太郎さんの、気まぐれ変人”慶喜”も忘れられないですけど。

 主人公が見ていない歴史の場面は、のちにそこに居合わせた人物の回想を直接聞くことで反芻していくドラマスタイルが、すごくうまくはまっています。実際、慶喜がなぜ鳥羽伏見で逃げたのか、それは歴史的にも重要な箇所なんですが、物語の最終盤でそれをやっと解き明かしていくという展開になる。大成功した栄一の老後が物語の最終盤になるのって、ドラマとしては尻すぼみになりそうな気がしていたのですが、杞憂でした。
 最近、仏文学者の鹿島茂の『渋沢栄一』を読んだのですが、ドラマ以前に書かれたものですが、ここでの鹿島流の解釈がドラマのなかでいくつも採用されている気がします。特に鹿島は、栄一はフランスにいってヨーロッパ流の資本主義を身に着けたという解釈よりも、栄一の育った血洗島で、すでに彼は資本主義を学んでいます。藍玉のビジネスで父親は、強い教育意識や製品管理の意識を持っている。それがのちの日本の近代資本主義の発展の土壌になっていたと。このへんの話は、ドラマがきちんと描いている。

 一方、今はどのドラマもそうですが、ポスト半沢時代ですよね。ドラマのヒーロー像に大きな変化を与えた「半沢直樹」(2013年・2020年、TBS)の影響は避けられない。
 よく批判される”説明しすぎゼリフ”だろうが、”わかりやすいフラグ”だろうが、熱量と演じる役者の能力でゴリ押してしまうのが半沢。あと対立を明確に描き、状況ごとにどちらがポイントを獲得し、旗色が鮮明かを明白に演出する。
 「青天を衝け」でも、”半沢いじり”をしていた箇所がありました。イッセー尾形さん演じる三野村利左衛門(三井組番頭)が、これから始まる“本当の戦争”についてまくしたてた姿とか、岩崎弥太郎(中村芝翫さん)の三菱との経済戦争の箇所は、まさに“「半沢直樹」フラグ”を立てまくった演出でした。

 「半沢直樹」は、説明セリフは不自然だから辞めましょうという、シナリオスクールで習う基本を突破した作品でした。熱量と役者の説得力で、不自然さを逆手に取って処理してしまった。
 一方、アニメ「鬼滅の刃」も登場人物は動作ではなく、説明セリフで状況を言ってしまうアニメでした。これに違和感があるかどうかは、あまり話題にもならないというか、もはや疑問を持つ人もいない。半沢と鬼滅が同時代のドラマであることは重要かなと思います。
 観ている側、後からついてきた視聴者たちのために説明してくれる。新たな“現代のヒーローの描き方”の典型像が変わってきているんです。

来年の大河ドラマに期待!

 これからのドラマで期待しているのは、来年の大河ドラマです。「鎌倉殿の13人」の脚本を担当する、三谷幸喜さんが描く群像劇がとにかく好きなんで。キャラクターが多くて、キャストは小出しに発表されてきています。まだサプライズ出演者の発表もあるかな。
 北条義時という主役は、大河史上屈指の無名人物なのかと思います。ただ三谷群像劇の場合、主役は狂言回しになるのかなと。「真田丸」の主役の堺雅人さんは、主役というよりも、周囲の個性を引き出す感じの人物でした。小栗旬さんもそれができるタイプの役者だと思います。今季同様に、鎌倉幕府の沈没を防いでほしいです。

 このごろのドラマはすごい役者さんが多く出演されますが、主役クラスだけでなく、どんな面白いサブキャラが出てくるかというのは重要です。例えば梶原善さんが今回どう出てきた、みたいな楽しみ方とか。
 その意味で、来年の大河ドラマも大いに期待しています。

Profile

速水健朗
(はやみず・けんろう)

1973年、石川県生まれ。ライター、編集者。文学から映画、ラーメン、音楽、都市論、メディア論、ショッピングモール、団地、政治、経済など幅広く論じる。著書に『東京どこに住む?』『フード左翼とフード右翼』『タイアップの歌謡史』『1995年』などがある。

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